気付いたら邪教の教祖でした。辞めたい。   作:雷来でんぐり返し

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ああああああ!進まねぇぇぇ!教祖視点で書いてると無駄に長くなって一向に進みません。次回からちゃんと進ませるので、今回は箸休め程度に読んでください。続きませんけど。


俺の憂鬱

 「あ!ねぇねぇ、教祖様!私あのイモンドビーフバーガー?って言うのを食べたいわ!」

 

 イモンベルトの街の大通りを歩いていると、俺の横を進むブルーメルが大通りの一端にある飲食店を指して元気にそう言う。

 

 「ああ、あの店ですか。私はいいですよ。」

 

 俺は今、騎士団の根城。イモンベルト騎士団騎士館へと向かっていた。が、約束の時間はもう少し後。

 

 俺は腕時計を見て時間を確認する。現在は昼を少し過ぎた時間。折角なのでその時間まで街で食事を済ませようと俺が提案をしたのであった。

 

 その提案に対してカリンは何か苦いものを噛み締めるように許可を出してくれたのだが、その様子が迫真すぎて軽く白目を剥きかけた。

 

 後、俺が外出の準備のためお財布とかを取りに隣のベッドが置かれてる部屋に移動してると、帰ってきた頃には何故かアイナが居て、エーデルはこの世の全てを恨む憎悪の表情を変え、ニコニコと笑っていた。

 

 その豹変ぶりがちょっと、いや結構怖かったんだけど、結果として教会を出る最後までエーデルは機嫌が良かったので、きっとアイナが何か宥めてくれたんだろう。

 

 そんなこんな色々あって俺は現在ブルーメルとオングリュークと共に昼食を求めて街を彷徨っていた。

 

 ずっと暗い部屋の中にいたから陽光が心地良い。

 

 「オングリューク、貴方の希望はありますか?」

 

 ブルーメル希望のバーガーショップでも問題が無いか、ブルーメルと反対側の俺の横を歩くオングリュークに問い掛ける。

 

 「あー、俺は特に無ぇかなぁ。教祖サマが良いって言うならブルーメルの行きたいところでいいぜ。」

 

 オングリュークは頭を軽く掻きながらそう答える。

 

 オングリュークは目つきが怖いから、なんと無く怖い奴だと思ったけど、もしかしたら気遣いが出来るいい奴なのかもしれない。

 

 最近になって俺の中での株が急上昇のオングリュークであった。

 

 それから俺達はブルーメルの希望通りの店に三人で入る。

 

 「いらっしゃ…いらっしゃいませー。」

 

 店内に足を踏み入れると、扉についている鈴が振動により音を鳴らす。

 

 その音に気づいた店の従業員が両手にトレーを持った状態で此方に声をかける。

 

 が、従業員は俺達、と言うか俺を見て一瞬驚きを顔に出してから歓迎の言葉を放った。

 

 凹みそう。いや、何時もの事なんだけどさ。俺は四六時中このよく分からない仮面をつけているから、こう言った施設を利用すると大抵引かれる。

 

 更に外したいのにイスタちゃんが許可してくれない。ひどい。

 

 『もう、酷いなんて心外だわ。私は貴方の為に言ってるのよ。』

 

 そう言うけどさ、俺この仮面に助けられた事身に覚えが無いんだけど。

 

 『だって貴方、私の作った仮面が無いとまともに話せないじゃない。』

 

 ぐぬっ。痛い所を突いてきおる。

 

 この仮面は教祖として偉そうな話し方を研究していた時にイスタちゃんが作ってくれたのだ。

 

 これをつけると何故か俺は普段の喋り方とは違い多少威厳のある話し方ができるのだ。

 

 きっと俺は根っからの役者タイプで、この仮面をつけると別人になりきれるのだ。

 

 『あ、言ってなかったけど、その仮面に認識阻害の魔法かけといてあるから。』

 

 何それ俺全然知らなかったんだけど。

 

 「空いてる方の席へどうぞー。」

 

 それだけ言うと店員は忙しそうに厨房の方へと戻っていった。

 

 店内を軽く見渡すが、正午を少し過ぎたからか、あまり席が埋まっている様子は無かった。

 

 て言うかなんか一人だけやけに多く注文しているのか、食べ終わった皿が何枚も積み上がっている席があるな。

 

 あの従業員が忙しそうにしていたのはあの客からの注文が原因だろうか。

 

 そんな風に考えてその席を眺めていると隣のオングリュークから声をかけられる。

 

 「何を見てるんだ?教祖サマ…って、アレ俺達の教団のフードじゃねぇか。」

 

 え?そうなの?

 

 オングリュークの声に俺も再びその客席に目を向ける。

 

 今も忙しそうに両手にハンバーガーを握り、口に放ってるその人物は確かに教団の信徒たちがよく着けている紫のローブをつけていた。

 

 こんな人目につく中であんな怪しいローブを着ていられる屈強な精神の持ち主が居るとはな。

 

 『そうね。客観視って大切ね。』

 

 え、急にどうしたのイスタちゃん。悟りでも開いた?

 

 イスタちゃんが呆れるように俺にそう呟くと、見ていた一般教徒が手を挙げる。

 

 「追加注文…頼む。」

 

 そして振り返って見えたその顔はよく知る者であった。

 

 「あ!教祖様、あれってイゴじゃないかしら。」

 

 ブルーメルは手を挙げ店員に声を呼びかける少年、イゴに向かって指を指しそう言った。

 

 確かに振り返ったその姿は翡翠の色の眼の下の口元にパン屑ををつけているイゴであった。

 

 そしてその声に気付いたのかイゴ俺達の方を見て口を開く。

 

 「!教祖!…とブルーメルとオングリューク。」

 

 そう言って少し驚いた顔を浮かべるイゴ。驚きからか頭の上に付いてる耳をピコンと立ち上げ、その勢いによって被っていたローブが剥がれる。

 

 灰色の髪を整えず伸ばしているまだ幼さを残しているその少年は、間違い無く俺の数少ない癒しであるイゴであった。

 

 「こんにちは。イゴ、貴方も昼食ですか?」

 

 俺は手を挙げてイゴの座る席へと近づく。

 

 「うん。久しぶり…教祖の顔見るの、懐かしい。」

 

 イゴも俺と同じように手を振りながら、そう言った。

 

 俺の顔、仮面だけどね。

 

 イゴの言葉にそういえばと最近の生活を振り返る。よくよく思い出すとここ一週間はイゴの姿を見ていなかった気がする。

 

 どこか遠くに行っていたのだろうか。

 

 「席、座ってもいいでしょうか?」

 

 俺はイゴの向かいの椅子を指してそう言う。するとイゴは首を縦に振って了承を示す。

 

 俺とブルーメルがイゴの向かいの席に、オングリュークがイゴの隣に座る形でテーブルを囲った。

 

 改めてテーブルの上を見ると何本もの串が置いてあり、イゴの胃袋に突入したハンバーガー達の残骸が確認できた。

 

 「へぇ、イゴ、もう帰ってたのかよ。早く教会に行って報告してやりゃいいのになぁ。」

 

 オングリュークが隣で二つのハンバーガーを両手で喰らうイゴに向かってそう言う。リスみたいだな。

 

 頬に詰めれたハンバーガーを一息に飲み込むと、イゴは話した。

 

 「んっ…むぐ、さっき帰ってきた所…腹が減ったから、この店に寄った。」

 

 そう言って更に口元にパン屑をつけたイゴにブルーメルが言葉を返す。

 

 「それにしても今回の遠征は随分時間がかかったのね。何かあったのかしら?」

 

 へぇー、遠征でここ数日居なかったんだ。俺、教祖だけど知らなかったわ。

 

 『あら、一週間前に渡された紙にその子の遠征について書いてあったじゃない。』

 

 え、そうだったの?俺は基本全部流し読みしてるだけでカリンに全ての判断を任せているんだけど…。

 

 もしかして俺はイスタちゃんに勝る要素は体の主導権を握っている事だけなのでは。

 

 『その主導権も握ろうと思えば出来るけれどね。』

 

 …深く考えるのはやめよう。今はこのエーデルやカリンがいなくて、イゴとブルーメルがいると言う天国空間を堪能しよう。

 

 俺は脳みそを殺して会話に混じる。

 

 「そうですかそれはお疲れ様でしたね。」

 

 イゴに向かって労いの言葉をかけると、イゴはこちらを見て嬉しそうに耳をピコピコ揺らす。

 

 「…むー、私も頑張って教祖様から褒められたいわ!」

 

 「おー、そうか。じゃ、これからの迎えでその仕事っぷりを発揮してくれよなぁ。」

 

 その様子を見ていたブルーメルの羨ましがる声にオングリュークがそう告げる。

 

 「まぁ、オングリュークったら他人事みたく言って。貴方だって教祖様から褒められたいんでしょう?」

 

 え、そうなの?オングリュークみたいな冷徹仕事人は俺からの褒め言葉なんかを原動力にはしてないと思うけど。

 

 そう思ってオングリュークの方を見ると机に肘を立て、その手のひらに顎を乗せてそっぽを向く姿があった。

 

 「…そんなんじゃあねーよ。」

 

 違ったらしい。やっぱりオングリュークは俺に対して優しい訳では無い様だが、一体どうしてこの間の会議では味方をしてくれたのだろうか。

 

 無能な上司が居た方が仕事がしやすいのだろうか。

 

 「まぁ、正直じゃないわね。」

 

 ブルーメルが顔を背けるオングリュークにそう言うが、恐らくブルーメルの考えは外れているのだろう。

 

 「迎え?…何かあるのか?」

 

 そこまで話すと会話の中で‘迎え’と言う単語に違和感を覚えたイゴが口を挟む。

 

 「ああ、イゴには伝えていませんでしたね…っとその前に。」

 

 今日の騎士団INイスタニア教会の話をする前に、イゴが頼んでいた追加のバーガーが到着する。

 

 俺は従業員にお礼を言ってから、俺含めた後から来た人数分のバーガーを注文する。

 

 あ、今この人「あ、こいつやべー見た目してる割にちゃんと会話できるんだな。」って目をしたな。

 

 俺は見た目以外はまともな一般男性なんだよ。

 

 『あら、自覚あったのね。』

 

 この格好、コーディネートしたのイスタちゃん、君だよね。

 

 『…まぁ、顧客の希望に答えるのが出来る職人というものですから。』

 

 俺はかっこいい偉そうな教祖コーデって頼んだんだけど。あ、念話切れた。逃げたな、これは。

 

 「それで、話を戻しますが、本日は前に話した視察が行われるのですが、少しでもこちらの気持ちを伝える為にこちらから出向く事になっているのです。」

 

 そう、せめて投獄だけは勘弁してもらう為に今日はこちら側から媚を売りに行くのです。

 

 「なるほど…つまり、騎士団の所に行く…のか?」

 

 イゴは渋い表情を浮かべてそう言った。

 

 「そうなの。本当、嫌になっちゃうわ…。」

 

 ブルーメルは眉尻を下げてそう言った。

 

 「…オレも行く。」

 

 これからの予定を確認したイゴはそう言った。

 

 やはりイゴとブルーメルは現状の俺の危機的状況を理解してくれているようで、送り出す時ニコニコなエーデルとは違って悲しんでくれるんだな。

 

 そんな二人の良心に感激しながらも、俺はイゴに返事をする。

 

 「気持ちは嬉しいですが、あくまでただの迎えです。貴方の手を煩わせる程ではないですよ。」

 

 本当に嬉しいけど、イゴには今から俺が全力で騎士団に媚を売りに行く姿を見て欲しくは無かった。

 

 多分俺、必要なら土下座とかでも余裕でするしね。

 

 俺の言葉にイゴは渋々と言った表情で頷く。

 

 「…分かった…オレは一度帰る…けど、何かあったら直ぐに教えてくれ。」

 

 いや、別に俺が無罪である事を主張しに行くだけだし、まさか剣を突きつけられるとか、そんな現場にはならないだろう…

 

 そう思いつつも、イゴのその言葉に頷くと、厨房の方からトレーに乗った三人分のバーガーが届く。

 

 俺はそれを受け取ってから言った。

 

 「まぁ、何が起きるにしても今は腹ごしらえを優先させましょう。」

 

 またの名を現実逃避とも言います。

 

 俺はブルーメルとオングリュークにバーガーを手渡す。

 

 途中、物欲しそうに俺の手を眺めるイゴが見えたが、君、さっき頼んだバーガーは…もう既に無くなっていた。

 

 早え。俺がそう思ってると同じ事に気付いたのかオングリュークがその事を指摘する。

 

 「あ?もう食ったのか、イゴ。今日はやけに食ってるけど、何かあったのかぁ?」

 

 俺が渡したバーガーを手で掴んで食べるオングリュークはそう言った。

 

 「ん…行った先で戦闘が多かった。だから、腹が空いてる。」

 

 イゴは普段からよく食べる方であるが、確かに今日は食べた量が多い気がする。

 

 「戦闘?何かあったの?」

 

 先程から渡されたはいいが、食べ方が分からないのかフォークとナイフを手に持ち苦戦してるブルーメルが話す。

 

 普通に手で持って食べれば良いのに。ブルーメルはハンバーガーを食べたことが無いのだろうか。

 

 「向かった港で魔物が大量に発生していた…移動中、邪魔だったから消した…その時、能力使って、腹へった。」

 

 どうやらイゴの遠征は楽な仕事では無かったらしい。少なくとも俺の七十倍は大変な内容だったようだ。

 

 「そうですか。それは大変でしたね。」

 

 俺は自分の仕事を棚上げして、上からイゴの仕事内容を労う。

 

 いつかイゴが成長して俺の無能っぷりに気付かれたら俺はイゴに消されるかもしれない。道端の魔物みたいに。

 

 そんな遠い未来を憂い、少なくともそれまでに教団を抜ける決意を胸に抱き、俺は自分のハンバーガーを食べる。

 

 『あ、仮面は取っちゃ駄目よ。』

 

 おっと忘れるところだった。俺は食事の為に仮面を外そうとしていた自分の手を止める。

 

 イスタちゃん曰く、俺がこの仮面を取ったらそれが最後、教団のみんなからはその覇気の無さに失望され、俺の血液で出来たトマト祭が開催されるらしい。

 

 口元だけならギリセーフらしいから、俺は仮面を少しずらしてハンバーガーを口に運ぶ。

 

 仮面がズレているから手元も見えないが、味覚だけが俺の舌を通じて情報を伝えてくれる。

 

 バンズ挟まれたケチャップの酸味と肉の旨みが俺の舌の上で混ざり合う。

 

 うん、本当に久しぶりに食べたハンバーガーだけど、中々に美味いではないか。

 

 そのまま何口か食べて、ハンバーガーが半分になった頃、そろそろ水が欲しくなった為仮面をつけて視界をクリアにする。

 

 そして俺の目に映ったのは俺の方向をガン見してくる三人の姿であった。

 

 「んぶふぁ!」

 

 突然の凝視に俺は口の中の挽肉を吹き出しそうになるのを堪える。

 

 そして驚いたその拍子に俺の肘が何かに当たる。

 

 「教祖様!?大丈夫!?」

 

 慌てて声をかけて心配してくれるブルーメル。いや、君達が見てくるせいで吹いちゃったんだけどね。

 

 俯いて咳をする俺の背中をブルーメルがトントンと叩いてなんとか助けようとしてくれるんだけど、その力加減が強すぎて逆に咳が悪化する。

 

 それから少しの間を置いて、俺の息が整ってから顔を上げる。

 

 そこには同じく心配そうにこちらを見るオングリュークとイゴが居た。

 

 「教祖…大丈夫か?」

 

 不安そうな目でこちらを見るイゴがそう言う。

 

 「んっん、だ、大丈夫です。皆さんが此方を見るものですから少し驚いただけです。」

 

 俺がそういうと、隣のブルーメルがほっと胸を撫で下ろす。

 

 「あー、その、悪かったな。教祖サマはどうやって食べるのかが気になってなぁ…。」

 

 オングリュークはバツが悪そうにそう言って頭を掻いた。

 

 「別に気にしてませんよ。」

 

 俺はそう言ってから再び深呼吸をして落ち着く。

 

 『そういえば、貴方何かに肘をぶつけて無かったかしら。』

 

 イスタちゃんのその声に俺は思い出す。確かに咳き込む時、机の上の物に肘がぶつかった様な気がする。

 

 そう思って机の上を眺めるが、何か転倒してる物は無かった。

 

 『机の下に落ちたんじゃない?』

 

 俺は机の下も覗いた。すると、コップが床の上に置かれていた。

 

 どこか割れてる様子は無いが、念の為手に取って確認する。

 

 しかし、手に持ってみても、コップの中に注がれた水が、その水面を揺らすだけで破損してるわけでは無かった。

 

 …ん?水の入ったコップ?

 

 ふと、違和感を感じてもう一度手の中に握られているコップを注視する。

 

 一口も飲んでいないその水は、一滴も零れる事なくそこにあった。

 

 普通、床に落ちた時この様に綺麗に落下するのだろうか。

 

 俺は不思議に思ってコップの落ちた床を見るが、そこには光を受けてできた俺の影があるだけだった。

 

 「まぁ、教祖様が無事で良かったわ…。それに、ほら!」

 

 ブルーメルの声に、俺は水の不思議を頭から振り払いそちらに意識を向ける。

 

 視線を向けると、何がすごいのか、やけに自信ありげな表情でハンバーガーを持つブルーメルが居た。

 

 「教祖様を見て気付いたのだけど、これは手に持って食べるのが正しい作法みたいだわ!」

 

 よくよく見るとそのハンバーガーは切り取られた形跡があり、どうやらブルーメルはナイフとフォークでハンバーガーを器用に切り分け食べていた様だ。

 

 別にハンバーガー食べるのに作法も礼儀も無い気がするけど。

 

 そんな俺の視線には気付くことなく、ブルーメルは嬉しそうにハンバーガーへと口を近づけた。

 

 それから何度か咀嚼し、喉を通して飲み込むと、笑顔でこう言った。

 

 「うん、あまり美味しくないわ!」

 

 いや、美味しく無いんかい。

 

 「いや、美味しくねぇのかよ。」

 

 オングリュークの声と、俺の心の声が一致した瞬間であった。

 

_____________

 

 

 なんてハンバーガー食ってた頃は幸せだったなぁ。

 

 受付の人に話を通してもらい、来賓室とやらに移動する最中、俺は心の中でそう思った。

 

 帰りたい

 

 ああ帰りたい

 

 お家どこ     俺

 

 俺、心の一句。

 

 あああああああああ、帰りてぇぇぇぇ!周りめちゃくちゃこっち見てるがな!俺全然気にしてないふりしてるけど、すれ違う人全員俺の顔見ては「うわっ」みたいな顔してるの、滅茶苦茶気にしてるから。

 

 受付の人もすごい驚いた感じで俺の顔見てたしね。

 

 誰だよ、こんな仮面と赤黒いローブとか言う目立つ衣装考えた奴!

 

 『私です。』

 

 イスタちゃんだったわ…。そうだったわ…。

 

 俺は道行く人達、推定この騎士館の騎士団員達からの視線に耐えながら廊下を進む。

 

 「うわっ、アレ、例のイスタニア教の…」

 

 「なんだあの…あの禍々しい仮面は…」

 

 「…噂じゃ、あの仮面の下は人じゃ無いらしい…」

 

 はい、全部聞こえてます。こっそり話してるかもしれないけど、周りがそこそこ静かだから全部俺の耳に入ります。

 

 俺がこの廊下歩くまでは和気藹々とした雰囲気だったじゃん…。なんで?

 

 俺は既に砕け散りそうなガラスのハートをなんとか保って歩を進める。

 

 「うわぁっ、キモっ…」

 

 保てなそう。

 

 その声は女性の声であった。そうか、今期の騎士団は男女関係なく就任できる素晴らしい組織になってるらしい。泣きそう。

 

 この悲しみを共有してなんとか精神的余裕を取り返そうとするけど、オングリュークはさっきから黙ってずっと道行く人睨んでるし。

 

 怖い。お前、いい奴じゃなかったのか?頼むから喧嘩だけはやめてくれよ。巻き込まれた俺がボコボコにされるから。

 

 もう精神が保たん。そう思って反対側のブルーメルと話して心を癒そうと図るが。

 

 「……潰そうかしら…。」

 

 無理です。とても話せそうな雰囲気して無いです。こっちも見るもの全てを射殺さんとしてます。怖い。

 

 いや、流石にブルーメルみたいな可愛らしい少女が道行く騎士全員に殺意を抱いてる訳は無いけど。けど怖い。

 

 最早俺には前を見て、涙を流しながらも進むしか無いのだ。良かった、仮面つけてて。いや、仮面の所為で泣く事になってるんだけどね。

 

 この廊下を歩いて右側、この廊下を歩いて右側、この廊下を歩いて右側。

 

 「あちらの廊下を歩いて右側に来賓室が、そこで既に副団長が待って…」

 

 受付の人に言われた道のりを頭の中で反芻してひたすら前進を続ける。

 

 来賓室、来賓室はまだか!?俺の心の崩壊が先か、来賓室の札が掛けられた扉が現れるのが先か。今地獄のレースが始まった。

 

 ちなみに俺のライフはとっくにゼロ振り切れてマイナス。最早死体が歩いているまである。

 

 しかし、そんな俺にも一筋の光が現れる。廊下を進んで右側、漸く来賓室の三文字が書かれた部屋が見つかる。

 

 やっと…やっと誰も居ない空間が手に入るのね。

 

 『正確には一人では無いけどね。』

 

 もうなんだっていいや。とにかく他人の視線が存在しない空間が愛おしかった。

 

 そう思えばあの場所(教会)は俺にとって天国だったのかもしれない。あそこの信徒、全員俺と似た感じのヘンテコローブで全身覆っているし。

 

 『ヘンテコでは無く芸術的と言ってちょうだい。』

 

 うるさぁぁい!俺はとにかくこの部屋に逃避をするぞぉ!

 

 俺は入口のドアノブに手を掛けると、手を回しその扉を開く。

 

 ウェルカム!誰も居ない空間!

 

 「っ!…ノックをしてから入ったらどうだ。」

 

 そんな俺の空間を裏切るように、その部屋に居た先客が俺に話しかけた。

 

 いたわ、人。

 

 「…すみませんね、まさか先客が居るとは思わず。」

 

 嘘です。受付の人にちゃんと居るって教えてもらいました。

 

 俺が謝ると、さっきまで歩いていた騎士団員達と同じよう、軽装な防具をつけた女性が口を開く。

 

 「いや、別に…構わない。」

 

 女性はそれだけ言うとこちらを見ることを止め、また正面を見てソファに座る体制に戻った。

 

 良かった、そこまで怒っていないっぽい。

 

 俺は内心安堵しつつ、女性が座るソファの方へと近づく。

 

 …そしてそのまま静寂が訪れる。誰も口を開かない、視線だけが交差する謎空間が生まれる。

 

 なぜ俺が喋らないか、答えは勿論相手を怒らせないかビクビクして、結果的に口が動かないのだ。

 

 受付の人の話によると、女性はこの騎士団の副団長という役職に就いているらしい。

 

 それ即ち、この広い館で上から二番目に強くて偉いと言う事だ。

 

 きっと俺の普段の仕事の無能っぷりは、カリンを通じて伝わっているに違いない。

 

 だとしたら俺が下手な事を言ってこの人を怒らせたら、俺はこの場で職務怠慢罪によって首を跳ね飛ばされる。

 

 そう思うと途端に言葉が出ない。率直に言って怖い。俺が失態を晒さないか怖い。

 

 具体的に言うと、この人の対面にあるソファに腰掛けた途端「あ?お前なに罪人候補のくせして座ってんの?死刑。」

 

 みたいな展開になるのが怖い。

 

 その結果俺はこの人の座る隣で立ち尽くすと言う意味不明な行動に出てる訳だけど。

 

 『むしろ立ってる方が頭が高いと見做されるんじゃなくて?』

 

 !その発想があったか…!?

 

 え、じゃあ俺この時点で首弾け飛ぶ可能性大?

 

 「…なんの真似だ…何故そこに立っている。」

 

 ひぇぇぇぇ!すみません!許してください!今すぐ去りますから!

 

 「…いえ、なんでもありません。ここ、座ってもよろしいでしょうか?」

 

 俺は声の震えを何とか抑えながらソファに座ってもいいかの確認をとる。

 

 「…かまわん。」

 

 短い返事でそう返す女性。俺はその返事を受けてそそくさと対面のソファに座る。

 

 それに続いてオングリュークとブルーメルも俺の横に座る。

 

 て言うか、この二人この部屋入ってから一言も話さないんだけど。何で?

 

 そんな黙りこくる俺達の姿を無言で睨んでくる副団長の女性。さっきからやたら高圧的に話してくるし、間違いなく俺の評価は地の底から始まってる訳だけど。

 

 ほら、二人共もっと愛想良くして!笑顔!君達の笑顔に俺の今後の獄中生活が懸かってるんだよ!

 

 俺はそう思って二人に全力でアイコンタクトを送るが、オングリュークは足を開いて首をだらりと曲げて凄い姿勢が悪いし。

 

 ブルーメルは姿勢はいいけど、普段の笑顔を一切見せないで、無言でずっと睨んでるし。

 

 なに?君達喧嘩売りに来たの?俺の首が飛ぶんだよ?

 

 結局俺は怯えるだけで何もできず、張り詰めた空気だけが場を支配した。

 

 て言うかこの時間は何なの?何故目の前の人は一向に会話を開始する気配も、今日の視察についても話そうとしないの?

 

 ここに来る前幾つも考えてた言い訳が一向に披露されないんだけど。これなんの我慢大会だよ。

 

 『ほら、紫髪の眼鏡の娘言ってたじゃない。今日は騎士団長と副団長二人が来るって。』

 

 確かに。って事は今は騎士団長待ちである訳だが、確かその騎士団長って…。

 

 俺がそう考えてると、先程俺達が潜ってきた扉が開き始めた。

 

 その扉からやって来たのは、俺にとっては懐かしい親戚のような少女(・・・・・・・・・・・・)

 

 それから成長して、背丈も顔立ちも大人らしくなった、黄金の髪が美しく靡く女性。

 

 コマリ・イルダートベルンの登場であった。

 

 

 




おまけ

とある教祖室での出来事1

 「少し準備がありますので、隣の部屋に行ってきます。」

 そう言って教祖はその席を立つと隣のベッドの置かれた寝室へと移動した。

 「私も準備をしなくちゃ!後、オングリュークにも伝えてこなくちゃいけないわ!」

 そう言って部屋の扉を開き、一礼してから廊下へと姿を消したブルーメル。

 その結果部屋に残されたのは二人であった。一人はレンズの潰れた眼鏡を眺めて薄ら笑いを浮かべているカリン。

 「ふ、ふふふ。何が選ばれるのは確実よ…ふふふ。」

 もう一人は割れたティーカップを座ったまま眺めている、死んだ目のエーデル。

 「…ああ、私は貴女を愛しているわ、ブルーメル。でもね、でも何故…私はこうなるのかしら?」

 負のオーラを纏う二人。互いに死んだ目で小さな言葉を呟くだけであった。

 その姿を一言でまとめると、負け組。

 清々しいまでの負けっぷりであった。エーデルはいつものこの惨状にまた目を虚にしてもういない妹へと声をかける。

 哀愁漂う部屋であった。入れば呪われそうである。

 そんな足を踏み入れる事さえ躊躇させるその部屋に、再びノックの音が響いた。

 支度を終えたブルーメルが帰ってきたのだろうか。カリンは割れた眼鏡を机の上に置いて声をかける。

 「どうぞ。」

 その声を聞いてやって来た相手とは__

 とある教祖室での出来事2に続く。

イスタニア教団幹部の中で見たい過去話は?

  • エーデル&ブルーメル
  • イゴ
  • アイナ
  • そんな事より話進めろや
  • 続きません
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