五条兄妹   作:鈴夢

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赤い瞳に黎明を見る。








劇場版"0"
Greatest Strength


 

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何が起こったのか誰も知りません。

出口はない 全然見えません。

 

あなたにとって正しいことは何ですか?

 

さあ、始めましょう。

さあ、深呼吸して。

 

あなたは前進しています。

振り返らないと決めています。

 

あなたの弱点はあなたの最大の強みです。

あなたは最後までやり遂げる。

 

分かるでしょう?あなたは一人ではないことが。

 

そこが正しい場所だとわかるでしょう。

落ちることを恐れないで。

 

世界があなたを連れて行く。

 

心から信頼できること

あなたは何でもできることがわかるでしょう。

 

あなたは当然のことを行う。

彼らはあなたの準備を整えてくれるから。

 

あなたならできる、あなたこそが―――

 

 

 

 

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『五条兄妹』――― "0"編

 

 

 

 

 

 

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記録――2016年 11月 東京

 

同級生による執拗な嫌がらせが誘因となり

首謀者含む4名の男子生徒が重傷を負う

 

 

 

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2017年 2月―――

――呪術高専東京校

 

 

 

 

 

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「((―――特級被呪者 "乙骨憂太"、特級過呪怨霊 "祈本里香"。))」

 

 

夕闇の焼けるような橙色に包まれる職員室の一角。椅子に腰をかけ、とある書類を捲る一人の男。

よくあるスーツ姿でパッと見サラリーマンのような風貌。いつもは独特な形の眼鏡を掛けているが今は外されており、切れ長の目元が険しい顔つきで書類を睨んでいた。

 

 

 

辺りの音をすべて持ち去られたように静かな空間に乾いた紙の音だけが響く―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"七海"〜〜っ!お疲れサマンサ〜!」

「……お疲れ様です。」

 

 

そしてその静寂を打ち破る呑気な声。その主は"五条悟"。それに対し、いつも通りの呆れ顔を浮かべる"七海建人"。

 

嬉しそうにステップを踏みながら陽気な様子で七海の元へと近づく悟。"書類"を手にどこか不服そうに表情を歪ませる七海に気づき、ニンマリと笑みをこぼし、その表情の理由を問い質す。

 

「ん?何その顔。どーかし…」

「"コレ"、本気ですか?」

「"コレ"って?何が?」

「誤魔化さないでください。"彼ら"を高専に受け入れると記載が。しかも総監部の了承も―――」

 

七海は悟に持っていた書類を手渡す。

何の気なしにそれを受け取る悟の表情は目元が覆われている為か全く感情が読み取れない。

 

 

 

 

 

―――"彼ら"とは。

一人の"青年"とその"呪い"の事だった。

文面を見る限りかなりのイレギュラーだと言うことは明白。総監部とも一悶着あった様子。正直、かなりの面倒事だと七海は理解していた。

 

 

 

 

「あぁ〜"コレ"ね!マジマジ!大マジ!」

「…………」

「そんな心配することないよ。しかも受け持ちは"僕"だからね?余裕でしょ?少なくとも七海には迷惑をかけないよ。」

「……はぁ…………」

「何で七海がそんなに気に病むわけ?……そりゃ体術指導とかで関わることはあるかもだけど―――」

 

 

 

あくまでも七海は高専のOBの一級術師。

高専に転入するであろう"乙骨憂太"とはそこまで接する機会はないと思われるが何かしら問題が起こらないことを密かに願っていた。

 

 

―――そんな事を考えるのは理由があった。

 

 

 

 

「そんな事をしている場合ですか?」

 

 

呑気な悟に対し、変わらず七海の表情は険しいものだった。"そんなことをしている場合じゃない"と鋭い瞳が語っていた。

 

 

「ん〜?」

「…………」

「何?七海。えらい食いつくね?」

「"貴方の妹"の事ですよ。」

 

 

五条悟の妹"五条洸"。

正確にいうと異母兄妹というものだ。

 

約10年前に姿を消した洸。

そして七海にとって、決して片時も忘れたことの無い人物。

 

 

同期、戦友、親友―――そして"かつての"想い人。

 

どうやら七海の口振りから鑑みるに五条洸について何かあったらしい。

勿論それは兄の悟も把握していたことなのだが。

 

 

 

「…ここふた月の間で目撃情報が多数寄せられています。しかも単独……意図してかは不明。ただ確実に彼女は何かを起すつもりです。」

 

「だとしても放っときなよ。何かあればその時に対処すればいい。」

「ですが約10年間も姿を表さなかった彼女が……何かが起こる前に対処すべきかと。」

「うーーーん……」

「"史上最悪の呪詛師"と組んでいるんですよ?」

 

 

呪霊操術を扱う特級術師―――又の名を"史上最悪の呪詛師"、夏油傑。

洸は確実に夏油と組んでいるのだ。

 

 

 

「ま!大した相手じゃないよ?それに僕も何も考えてないわけじゃない……」

「…………」

「とにかく今は"彼ら"を助けたいんだ。」

 

 

 

 

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優しい感触。

暖かい抱擁。

 

 

 

『洸』

 

 

 

穏やかな声。

太陽のような、しあわせな声。

 

 

 

 

『……泣かないで、洸。』

 

 

 

幼い"彼"が優しく頬を撫でた。

何も無い空間で、ただただ涙を流しながら座り込む私を優しく抱きしめながら……あやす様に、柔い陶器を扱うかのように、やさしく、やさしく―――

 

 

「……"雄"……。」

 

 

彼の胸元にそっと顔を埋めた。

ふわっと鼻をくすぐる彼の甘い匂いが心地良い。

 

彼は私を包む。

彼は私の頭部に唇を落とした。

 

 

 

『洸―――』

 

 

 

ああ、しあわせだ。

しあわせすぎて涙が止まらなかった。

永遠に続いて欲しい。彼の胸の中で呼吸し続けたい。

 

 

「……雄……」

 

 

彼女はゆっくりと目を閉じる。

ゆっくり……ゆっくりと―――

 

 

 

 

 

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「………………」

 

 

ゆっくりと瞼を持ち上げる。

するとそこにはいつもと変わらない景色が飛び込んできた。代わり映えしない古びた天井。畳の香り。無音の空間。

 

 

「……私…いつの間に――」

 

 

布団に入った記憶はない。しかし何故か自分は布団の中で暖かくして眠っていたのだ。

 

 

「((……お風呂に入って着替えて……炬燵に入って本を読んでて……そのまま寝ちゃった……はず。))」

 

 

ムクリと体を起こすと働かない寝起きの頭を必死に働かせた。感覚的に今は真夜中だろうか?スマートフォンも居間の炬燵に置きっぱなしで……古い時計は既に止まっているし…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……"洸"。」

「ッ!?」

 

 

刹那、居間へと続く障子が開く。

自分の名を呼ぶ男の声が同時に響き、大きな影が目の前に現れた。

 

思わずその反動で大きく体を揺らす。

 

 

「…"夏油"。」

「お早う。」

「……いつから此処に居たの?」

「4時間前くらいかな?」

 

居間から漏れる電灯の灯りに目を細め、眠気を誤魔化すように右手で目元を擦った。

さすがに疲れが溜まっていたようだ。微かに頭痛さえも感じる。

 

 

「…………で?何しに帰ってきたの?」

 

 

擦る手を止め、目の前に立つ男を見上げた。肌寒い室内、できれば布団から出たくない。なんならこのまま朝まで寝てしまいたい。だがある程度、なぜ夏油がここに帰ってきたのかを聞いておきたかった。

 

 

 

「そんなの決まってるじゃないか。洸にたまらなく会いたくなってね?だから今夜は(こっち)に。」

「……教団の方が"皆"もいるし、このアパートより住み心地は良いんじゃない?」

「洸が居ない空間の方が私にとっては辛いんだよ。」

「…………」

「例え、築10年以上のボロ屋アパートでも……洸が居ればそれでいい。」

 

 

ニコニコと笑みを浮かべながら夏油は部屋に入ってきた。居間へと続く障子は閉められ、自室は闇に包まれる。

 

こちらに近づく重い足音。伸びる大きな手に厳つい腕。着古したスウェットの感触―――

 

 

気がつくと夏油の腕の中にすっぽりと収められると、久しぶりに嗅ぐ彼特有の香り。

 

 

 

「にしても、久しぶりだね?洸に会うのは2週間ぶりくらいかな?」

「ん。そうだね。」

「……はぁ……。会いたかった……」

「どこで何してたの?」

「少し海外に行っていたんだ。……"また家族が増えた"。」

 

 

―――"家族"、通称"夏油一派"

夏油と洸がこの数年で集めた呪詛師達。

 

現在の非術師が中心の世界に大きな不満を持つ特級呪詛師、夏油傑。そして共に歩いてきた五条洸。

そんな2人を慕う呪詛師達で構成されており、その最終目的は非術師を皆殺しにし、呪術師だけの楽園を築く事―――

 

 

夏油と洸に救われた事で2人を慕う者、夏油の思想に賛同する者、夏油を王にする事を望む者など、構成員達の協力理由や目的はそれぞれ微妙に異なっているが、皆が夏油に心酔して彼の理想に賛同している為に、彼を中心に固く結束している。そしてその中に"美々子と菜々子"も含まれていた。

 

 

同志である自分達を"家族"と称し、実際に夏油からは家族同然に大切に思われており、これも彼等の結束力を高める要因だった。

 

 

 

 

 

「新しい家族。どんな人なの。」

「ケニア出身の術師なんだ。珍しいだろう?」

「確かに、海外出身の呪術師なんて初めて聞いたかも。」

「そう。因みに名前は"ミゲル"。変わった呪具を使う術師でね―――」

 

 

強く抱き締められたまま。夏油は新しい家族について語り始めた。

 

ケニア出身の術師"ミゲル"。

 

黒縄(こくじょう)という名前の通り黒い縄のような呪具を扱う術師。恐らく、過去に直哉が使用した呪具と同じだろう。"異国の術師が―――"なんて話をしていたことを不意に思い出した。無下限呪術を貫通する特急呪具相当の物で洸も悪戦苦闘したものだった。

 

まさか……そんな呪具を扱う術師まで呼び込むなんて。夏油の計画はまだ把握していないが間違いなく"五条悟"を相手にする事を想定しての人選に違いない。

 

 

そんな新しい家族について一通り話を聞いた洸。

 

"そんな事より"、洸が心の底から按じている事があったのだった。美しく成長した双子の姉妹―――

 

 

 

「ねえ…美々と菜々は?連絡は取れるけど。ここ3日間くらい帰ってこなくて。」

「2人なら教団施設にいるよ。"洸姉には絶対に余計なこと言わないで"って聞かなくてね。」

「…もー、私には学校に行ってるから大丈夫だって。友達の家に泊まってるとか、泊まってる先も教えてくれなかったから怪しんでたけど。」

「2人は心配かけたくないんだよ。大好きな洸に。」

「そういう問題じゃないよ。学校の課題も見てあげないと。菜々なんてこの前の数学のテスト赤点だったし……」

 

 

勢いよく夏油から身を離し、不機嫌そうに眉を引き寄せ相手を見上げる洸。夏油は困ったように眉を引っ提げクスクスと笑みを零す。

 

……愛おしい彼女。

大きな手が洸の額を撫で上げ、サラリと髪の毛へと流れる。ふわりと漂う洸の香りは夏油の心を不思議と和ませる。

 

 

「菜々子と美々子の事も、最近の洸の事ももっと話したいんだけど。―――あと300程呪霊を集めたくてね?明日から使えそうな猿をもっと集めて欲しいんだけど……どうかな?」

 

洸を抱き留めたままその場に座る夏油。彼に跨る体勢で向き合うと洸は困ったように苦笑いを浮かべた。

 

 

「別に構わないよ。」

「それと前みたいに教団の財務管理も任せたいんだ。」

「それなら"真奈美"さんが居れば上手く回るでしょ?私がやってきたことをあの人が今は担ってくれてるし、呪いは前よりももっと集まってるみたいだし。」

「……嫉妬?」

「なわけない。何で真奈美さんに私が嫉妬するの?寧ろ仕事が減ってラッキーだよ。」

 

 

2人が脳裏に浮べる人物―――"菅田真奈美"

夏油一派の幹部の1人でもあり、今現在は秘書の役割のようなものを担っており、実際のところ洸よりも夏油のそばに居る人物。

詳しい年齢は不明だが明らかに夏油や洸より年上で色気漂う艶のある女性だ。

 

彼女が洸のポジションを"奪った"と言っても間違いはないだろう。ここ数年は夏油にベッタリだ。対し洸はそれに関して何も思うことは無く、単独行動を任されることが多い。

 

"ラッキー"だなんて呑気に話す洸。

しかし夏油は正直のところ気に入らなかった。

 

 

「…私は君がそばに居なくて寂しいんだ。」

「嘘でしょ。」

「本当だよ。」

「意味分かんない。」

「言ってるだろう?私は君が好きで堪らないと。」

「はいはい。」

「…うーん……信じてくれないのは悲しいよ。」

「信じてないわけじゃない。…ていうか、なんだか今日は様子が変だね?」

 

 

なんていうか、いつも以上にベタベタと甘えてくる感じだ。久しぶりの再開ということもあるからかもしれないが、それとは違う違和感。何となく理由があるはずだ。

 

 

 

 

"夏油が異常に洸に執着するような時"―――

 

 

 

「何かあるんでしょ?」

「さすが。勘がいいね。」

「わざわざ帰ってきて私に会いに来るなんて。……真意を話してよ?」

 

 

洸の右手が夏油の左頬に触れる。

するとその時、ニヤリと怪しげに口角を持ち上げると更に強く腰を引き寄せられ、抱擁の力が強まった。

 

 

 

「―――私たちが離反して10年。そろそろ動こうと思っていてね?家族たちも揃った。」

「…………」

「洸。君の出番だよ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"五条悟を君の手で殺すんだ"。」

 

 

 

耳元で囁かれる強い台詞―――

 

 

 

「君にしかできない大役。この為に君を愛でてきた。」

 

 

 

彼の目的―――

 

 

 

「"最強で最恐の兄を無効化できるのは私だけ"、"兄を倒したいなら、私を手懐けることが条件"。」

 

 

その台詞はかつて自分が夏油に放った台詞―――

 

 

 

「10年前の君の言葉。私は忘れていないからね。」

「……」

「片時もね。」

 

 

洸もその言葉について片時も忘れていなかった。夏油の創り上げたい世界に"五条悟"という邪魔物が付き纏うのは避けて通れない道。現代最強の術師でもある彼を相手にできるのは今のところ"五条洸"のみ。それよりも強い呪いが現れた場合は分からないが―――ほぼ確定だろう。

 

ここ数年で呪術界で囁かれている噂は夏油と洸にも勿論流れていた。

 

 

"五条兄妹が本気で殺り合えば日本は滅びる"

 

呪いと呪いのぶつかり合い。

寧ろ五条洸に関しては謎しか無いのだ。だからこそ、何が起こるか想定できない―――

 

 

 

 

 

 

 

「……それに伴って、早速洸に頼みたい仕事があるんだ。」

「内容は?」

「呪術高専東京校に行って欲しい。」

「高専に?何でわざわざ?」

 

「理由はふたつ。まずひとつは"在籍している高専関係者、OB、御三家関係者のリスト"を盗ってきて欲しいんだ。」

 

 

即ち"夏油一派"の敵となる術師達の戦力を把握する為―――

 

 

 

「そしてふたつめ。特級呪具"游雲"…アレが欲しい。」

「………」

 

 

呪力の込められた三節棍。値段は5億円(直哉曰く)、術式効果がないため、使用者の力がダイレクトに反映される特殊なものだ。

 

かつて洸が任務のために持ち出した際に傷を入れ、直哉に文句を言われた"アレ"だ。

 

 

 

 

「何に使うつもり?」

「それは秘密だよ。ま、とりあえず"私の武器庫"に格納しておきたくてね?他にも目星をつけた特級呪具を取ってきて欲しいんだ。」

「…………」

「洸なら高専結界内に侵入しても気づかれない。武器庫の鍵も開けられるはずだ。」

「……ま、私にしか出来ないことだね。」

 

 

夏油の目的はあくまでも"2つ"。

 

しかし洸は"3つ"ある事を直ぐに理解した。決してそれを夏油が口にする事は無いだろう。だが分かっていた。

 

 

 

「…分かった。だけど高専関係者に遭遇はしたくない。決行日と時間は私に決めさせて。」

「それは勿論。全てのタイミングは君に任せるよ。」

 

 

夏油の真意は分かっていた。

"自分を高専にあえて潜入させ、試す。"

 

 

 

 

「……万一、悟や七海に遭遇したとして。そうなったら洸はどうする?」

「どうするって?」

「聞き方かを変えようか?……"どうするべき"、かな?」

 

 

刹那、腰を掴んでいた夏油の手が洸の両頬へと移動した。鼻と鼻が当たりそうなほどの近い距離。そして温厚な声は鋭く低いものへと変化していた。

 

……わかりやすい男だ。

ここで自分の出方を見るつもりなのだろう。

 

目的があるにせよ、それはあくまでも建前みたいなものだ。本心はリストでも呪具でもなく、ついでだ。

 

"洸がどこまで本気で行動できるか"

それが知りたいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い瞳は揺らぐことなく真っ直ぐと男を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"邪魔者は容赦なく殺す"。それでいいんでしょ?」

「うんうん。分かってるね。」

「……リストと呪具。了解。」

 

 

洸の応えに満足気に笑みを浮かべる夏油。

 

再び彼女を抱き締めると、男の体の奥底が興奮で満ち溢れる。

 

 

 

 

 

 

 

「((……嗚呼……嬉しい。))」

 

 

 

美しい"彼の妹"。

 

 

「((君は染まった――))」

 

 

 

ずっと、ずっと……ずっと

欲しかった。彼女の存在全てが欲しかった。

 

 

彼女の感情も、心も、体も。

自分を映すその瞳も―――

 

 

 

 

 

 

 

込み上げる多幸感。

かつて持っていた嫉妬心など既にどこにも無かった。

 

―――手に入った……

 

 

五条洸という人間を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「洸。」

「…………」

「……洸。」

 

 

そのまま倒れる洸の体。

あっという間に組み敷かれる姿に興奮を覚える夏油。

 

床に広がる美しい白銀の髪の毛は妖しく艶を光らせた。

 

 

 

 

 

「愛してる、洸。」

「……もう何千回も聞いてるよ。その言葉(ワード)

「嫌かい?」

「別に。」

 

 

夏油の顔が嬉しさで徐々に歪んでいく。

 

そっと首筋に手を伸ばせば数年前に贈った"首輪"の冷たい感触があった。

 

そして洸の手が夏油の背中に回る―――

 

 

 

「((……君は堕ちた。私の手で犯され、汚れ、陶酔して―――))」

 

 

恐ろしい程に喜色に塗れた歪んだ嗤いが満面に浮かぶ。何年もかけて洸を溺愛し、心身ともに壊す事を悦んでいた。

 

 

「"私は、洸の弱いところを誰よりも分かっているよ。"」

「…………誰よりも?」

「そう。誰よりも―――」

 

 

 

 

 

黒い髪が彼女の頬に落ちる。

 

熱くなる体の一部を彼女の下半身に押し当てる。

 

抵抗する事も無くなった彼女の体を好きなだけ貪る。

 

 

彼女の熱が唯一の特効薬のように心を落ち着かせ、本来の自分でいられる気がした―――

 

 

 

 

 

「((……この瞬間が……"全てをどうでもよくさせる"。この世界が滅びようが、猿どもに弄ばれようが―――))」

 

 

 

 

 

 

「((……今までにない"多幸感"―――))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分を見つめる赤色。それに見つめられる度に奇妙な気持ちに駆られる。

 

 

……暗い夜の向こう側。人間の目のとどかない、遠くの空に、寂しく、冷ややかに明けてゆく―――不滅な、黎明が見えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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