五条兄妹   作:鈴夢

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だって、僕の妹だよ?

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呪術高専東京校――

 

生徒たちを除き、教員や関係者が高専内の会議室へと集まる。

 

その空気は非常に重圧のあるものだった。

各々が険しい顔を浮かべ、物々しい雰囲気漂う空間――その前ではことの一端を丁寧に落ち着いた口調で説明する補助監督"伊地知"の姿があった。

 

 

 

 

「……夏油傑。呪霊操術を扱う特級呪詛師です。」

 

 

夏油一派の宣戦布告。

其の内容は直ぐに呪術界に伝達された。

 

 

「主従制約のない自然発生した呪霊などを取り込み操ります。設立した宗教団体を呼び水に信者から呪いを集めていたようです。……元々所持していた呪いもあるはずですし、数2000というのはハッタリではないかもしれません。」

 

 

夏油傑の術式。呪霊を集め、取り込むまでのプロセス。そして宣戦布告時に口にしていた"各地に1000の呪いを放つ"という言葉。初めは誰しもが冗談だろう、なんて考えていたが今の夏油ならばやりかねない。

 

 

「だとしても統計的にそのほとんどが2級以下の雑魚。術師だってどんなに多く見積っても50そこらだろう。」

 

「……いや。そこが逆に怖いところですよね。アイツが素直に負け戦を仕掛けるとは到底思えない。――あー、伊地知。遮って悪い。続けて?」

 

 

夜蛾の言葉を半ば否定する悟。

それは夏油のかつての戦友……親友だったからこそ分かることなのかもしれない。

"アイツは馬鹿じゃない、はなから負ける戦を仕掛ける訳が無い"と初めから理解していた。そもそも数ヶ月前に特級呪具は奪われ、高専関係者のリストも奪われている。ある程度、向こうもそれなりに策を練っているはずなのだ。

 

 

 

「は……はい。……では続けます……」

 

悟の言葉に小さく頷き、咳払いをする伊地知。そして手に持っていた書類を1枚捲り上げると今度は"あの女性"

の情報を読み上げる。

 

 

「五条洸。約10年前、夏油傑と共に姿を消した術師です。術式の内容は未だ不明。離反当時の階級は"1級"。ですが実際は"特級"に値する力を持っていると思われます。」

 

「まっ!この前僕の体ぶち抜いたし?間違いなく特級でしょ?これがまた厄介な奴なんだよね〜。なんせ"僕の妹"だしさ〜……」

 

呑気な悟の台詞にため息混じりの困惑顔を浮かべる一同。そんな中、ニヤッと口元に笑みを浮かべ怠そうに壁に寄りかかる悟に夜蛾は眉を顰め、鋭い視線を向けた。

 

 

「悟。事は深刻だ。洸が居ることによってお前が機能しないのは事実だ。恐らく洸はお前を潰しに来る。」

 

「でしょうね?」

 

最強の兄の無下限呪術を突き破る、謎多き妹の無下限呪術。呪具を通しても洸の呪力は察知できず、完全に透明人間にもなれる……もはや"チート"なのだ。

 

もし、五条悟が敗れた場合。最悪の結果も免れない。それこそ夏油傑の理想郷が出来上がってしまう。

 

 

 

「……前みたいに手を抜くなよ。悟。」

「分かってますよ。本当にアイツが堕ちたなら……僕は容赦なく妹を祓う。いつもそう言ってるでしょ?」

「…………」

「本気でアイツと殺り合った場合、周辺の人的被害は想像がつかない。多分、ていうか確実に新宿の街も京都の街も吹き飛ぶ。…その時は援護頼みますよ?」

 

 

以前、たった数分の兄妹喧嘩だけで高専の建物が大破した事実。しかも互いにそこまで本気を出しあっていない中での戦闘だった。

となれば"互いに本気を出し合えば"どうなるか――だいたい想像はつくだろう。

 

悟の言葉にゴクリと息を飲む呪術師たち。七海も心做しか人一倍険しい顔つきをしている気がした。

 

 

 

特級呪詛師"夏油傑"

奇奇怪怪、最強の妹"五条洸"

 

何が起こるか分からない"百鬼夜行"――呪術師達は皆、不安な気持ちにかられていく。

 

しかし、それを一刀両断するのは学長の夜蛾正道だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ガッデム!!!――OB、OG、それから御三家……アイヌの呪術連にも協力を要請しろ!!」

 

 

喉の石が飛礫(つぶて)となって口から飛び出したような大声。気迫や覚悟、様々な強い感情が夜蛾から溢れ出ていた。

 

 

「総力戦だ!!今度こそ夏油という呪いを……五条洸という呪いを完全に祓う!!――」

 

 

男の脳裏に"過去の2人の姿が浮かび上がる。"

制服を纏った2人組。かつての愛おしい生徒たち。

 

ニコニコと微笑み"先生"と慕う彼らの姿。

 

 

 

 

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――五条洸が高専に入学して約2ヶ月

 

 

「夜蛾先生!」

「戻りました。」

 

 

職員室にひょっこりと現れたのは夏油傑と五条洸。

コンビとしての相性の良好さから"この2人組"での任務な増え続けた今日この頃。

ニコニコと笑みを浮かべ、2人は夜蛾の元へと駆け寄った。

 

「報告書も作成済みです。渡しておきますね。」

 

"余裕でした"と言わんばかりの夏油の表情。その手には丁寧に作成された報告書。傍らでは背丈の高い夏油を誇らしげに見上げる洸。その眼差しは尊敬に溢れていた。

 

 

「……さすが。早いな。」

「当たり前のことをした迄です。」

「2人とも怪我はしてないな?」

「はい。彼女の無駄のない立ち回りのお陰です。悟に似て…………いや、悟以上に頭の回転も早いですし、私が必要ない程でしたよ?」

 

自分を見上げる洸に視線を落とす夏油。

ニッコリと穏やかな笑みを向けると彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め上げた。

 

「そっ、そんな事ないです!そもそも夏油先輩の援護があったからこそ――」

 

皺ひとつない制服を纏った2人。

仲睦まじい先輩後輩。互いに尊敬の意を向け合う"傑と洸"。

 

 

 

「((……これからの、未来の――次世代の呪術界を担うであろう2人――))」

 

 

 

 

――"本当にいいコンビだった"

 

 

 

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「((……傑、洸。))」

 

 

 

サングラスの下に隠された夜蛾の瞳。

それは決して誰にも見せない"慈しむような、哀しい眼差し"をしていたのだった。

 

 

 

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――同日 深夜

 

 

 

 

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居間の時計の針は真夜中の1時を指していた。

付けっぱなしのテレビからはパッとしない深夜番組が流れており、夏油はぼんやりとそれを見据えていた。

 

その隣では文庫本に視線を落とす光の姿。

炬燵机の上には4つの湯呑み。どうやらあの姉妹もこの場に居たらしい。だが先に眠っているようだ。

 

 

テレビの音だけが響く室内。

電気ストーブのオレンジ色の熱線。

互いの吐息が聞こえるほどの静寂――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――"総力戦だ!今度こそ夏油……五条洸という呪いを祓ーう!"」

「ッ!?」

 

刹那、夏油のワクワクとしたような声が跳ね上がった。突然のその声に肩を揺らす洸。半ば迷惑そうに洸は夏油を睨みつけると手に持っていた本を閉じ、そっと机へと置く。

 

 

 

 

「――とか息巻いてんだろうな。あの"脳筋学長"。」

「いきなり声上げないでよ。めちゃくちゃビックリした……ていうか美々と菜々起きちゃうんだけど。」

「ハハッ、ごめんごめん――」

 

 

何なんだ一体……。ニコニコ呑気に笑ってばかり。

子供みたいな言動に洸は今まで何度も戸惑っていた。

相変わらず何年経っても"こういう所は"変わらない。

 

 

 

「いよいよ今日だね、百鬼夜行。」

「うん。そうだね。」

「終わったら勝利の宴と共に洸の誕生日会もやろうね?」

「いいよ誕生日会なんて……そんな歳でもないし。もう27だよ?」

「年齢なんて関係ないさ。」

 

 

年相応に見えないとはよく言われるがそんな洸も27になるのだ。歳を重ねたところで何かある訳では無いがただただ月日の流れるスピードには驚くばかり。

 

いよいよ今日"百鬼夜行"が行われる。

呪術界の要である呪術高専を堕とす為、ありとあらゆる作戦を練ってきたのだが――

 

 

 

 

 

「頼んだよ?洸。」

「……あなたは乙骨憂太。私は五条悟(あの人)。」

「ん。その通り。」

 

微笑みを崩すことなく、こくりと頷く。

そして特に意味もなく洸の手に手を伸ばすと一本一本の指を撫でるように触れ始めた。

 

 

「この戦い。お互い本気で殺り合ったらこっちの勝率は3割ってとこだし、呪術連まで出てきたら2割にも満たないだろうね?……洸が取ってきてくれた"リスト"を見る限りかなり厳しいのは事実。――だけど、その勝率を9割9分まで引き上げる手段がひとつだけ。」

 

「……乙骨憂太を殺して特級過呪怨霊"祈本里香"を手に入れる。」

 

これから始まる戦。その作戦内容を改めて再確認していくように会話を進める2人。

キーマンは呪術師になって日の浅いあの青年とその怨霊。呪霊操術を扱う夏油にとって祈本里香は最強の手札になることは確実だった。祈本里香から溢れ出る呪力の可能性は無限大。国を落とすことも容易いだろう。

 

 

 

 

「私の呪霊操術。学生時代の嘘をまだ信じているなんて

、本当にめでたい連中だよね?」

「私も最近知ったことだけど。」

「隠すつもりはなかったんだ。……主従制約があろうと無かろうと首を私とすげ替えてしまえば呪いなんていくらでも取り込めるんだよ?」

 

夏油の"呪霊操術"。その名の通り調伏させた呪霊を球状にしてから体内に取り込み、自在に使役する術式。 階級換算で自分より2級下の呪霊であれば、調伏無しで強制的に取り込む事が可能。

 

圧倒的な手数の多さが最大の強みで、数の暴力で押し切るだけでなく、術者との連携攻撃を仕掛ける事も可能。

 

更には呪霊を介する形で本来なら1人が1種類しか持てない術式を複数使用する事もできる。

 

洸も夏油の術式について全てを理解している訳ではなかった。

 

 

「それに、勝率の高い戦で高専が乙骨というカードをきることはない。下手を打てば敵も味方も全滅だからね?」

 

高専側は"絶対に"乙骨憂太を最前線には立たせないと夏油は予想していた。新宿にも京都にも現れない、となれば高専に待機させるのが妥当だろう。

 

 

「……今回の百鬼夜行の真の目的は"乙骨を孤立無援に追い込む"こと。」

 

「うん。乙骨憂太を追い込むまでの時間稼ぎは洸を筆頭に家族に任せるよ。多分、勘のいい悟なら私が現れないことに直ぐに疑念を抱く。早めに手を打っておけば面倒事にはならない。」

 

夏油の言う通り、あの男なら直ぐにその目的に勘づくのは時間の問題だろう。今の今まで乙骨憂太を追っていた残穢にはとっくに気づいているだろうし、この前派手に高専に乗り込んだ癖に宣戦布告した本人が現れないのはあまりにも違和感がありすぎる。

 

 

 

 

 

「そして……京都には特級呪霊を多めに放つ。高専(あちら)は新宿に力を纏めるだろうしね?だったらせめて、京都の勢力を一気に削ぐ。」

「……京都はほぼ相手にしないんじゃなかったの?」

「そんな訳ないだろう?戦力は揃えるさ。あくまでも今回の目的は乙骨憂太と折本里香……だが高専側の勢力を削ぐことも勿論忘れていないよ。」

 

京都で主に応戦するのは京都校の呪術師達だろう。歌姫や楽巌寺はほぼ確実。

――そして高専関係者の"禪院家"。だが、彼らは性格が悪い。洸が嫌ほど理解しているほどに"クズ"。

 

多分、あくまでも予想に過ぎないが彼らは現れないだろう。高専と禪院はそれなりの関係性はもちろん保っているが良好では無い。現に次期当主の直哉も京都校を中退しているし、共に共闘する理由が大してないのだ。

 

後は"五条洸"が関わっているということを理由にあえて手を出してこない可能性もある。……まあこれも勘に過ぎないが洸と禪院の関係は希薄では有りながらも続いている。あの直哉が手を出してくるとも考えにくい。

 

もう一度言うが"アイツらはクズ"なのだから。

 

 

 

 

 

 

「いいかい?……"私たちの未来の弊害になる邪魔者は皆殺し"。洸も理解しているよね?」

「…………」

 

まるで念押しするように夏油の声が鼓膜に飛び込む。トントンと不規則に背中を叩かれるも洸は反応を見せない。

 

 

「皆きっと君を警戒しているだろうね。なんせ、五条悟の無下限呪術を破れるのは君だけ……それに以前、かなりの痛手を負ってるし当の本人も構えてるだろう。」

 

「…………」

 

 

洸は変わらず無表情だった。

声もあげず、ただただ夏油の言葉を聞き入れるのみ。

 

"何を考えているのか分からない"

それは夏油が今まで何度も目にしてきた姿。

 

全ての感情の名残を片づけかねているかのような曖昧な表情。形容できないその顔、呼吸、瞬き。

 

多分、恐らく、きっと――

五条悟(あの男)なら、この娘の兄なら……分かるのだろうか?

 

 

 

「((……また、そんな表情(かお)をするんだから。君は……))」

 

 

洸の手に触れる大きな手がピタリと動きを止める。そしてゆっくりと洸の首元へと移動する。

 

 

 

 

 

 

 

「――え」

 

ヒヤリとした温度が首元を擽った。それと同時に呑気な声を上げた洸は傍らの夏油に慌てた様子で視線を向けるのだった。

 

 

「……万が一、落としたら嫌だろう?」

 

 

外されるネックレス。

何年もの間、洸の首元で輝いていたもの。

急に首から重みが無くなったような感覚に動揺を隠せなかった。

 

 

 

「……ね?洸。」

「……」

「君のこと、本当に愛してるんだ。」

 

 

観察と好奇心と、信じる気持ちと、疑ってみる精密さの入りまじった夏油の表情――

 

 

「……夏油……?」

 

初めてかもしれない。

彼の感情が、考えが、何も読み取れないのは。

高専時代に夏油が堕ちていく様に気づいたのは間違いなく洸だった。それ程に彼を理解出来ていたし、考えも胸の内に秘めている暗い感情も手に取るように分かっていた。……あの時は――

 

 

 

 

 

 

「君は明日、その手で五条悟を殺すんだよ。」

「…………」

「待ちわびてきたじゃあないか。未来を……私たちの楽園のため……"何にも縛られず"強いものが生きる世界を――」

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

"首輪のつもり?"

――"勿論"

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

光り輝くうつくしい"首輪"を付けられたその時の事がほんの一瞬だけ蘇った。

あの時の彼の歪んだ感情、渦巻く本音、洸に抱いていた何もかもの感情が手に取るように分かっていたはずなのに。

 

――何で……貴方もそんな表情(かお)をするの?

 

 

兄をこの手で殺めるかもしれない妹の心情を悟ってか?

 

ただ単に、歪んだ愛情を向けられているのか?

それとも真っ直ぐとした、親心のような愛情?

独占欲?もしくは飽きた?……それとも罠?

 

"五条洸"の胸の最奥で靄がかった感情を探っている?

それともまだ本人が気づいていない本物の感情が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………洸。」

「……私、結局貴方のこと……何も―――」

 

 

刹那、洸の言葉を遮るような抱擁。

大きな腕が優しく洸を覆った。

 

 

 

「今夜は一緒に眠ろう。」

 

 

ふわりと漂う甘い匂い。彼の匂い。

 

いつもは忍従と知性の結晶が徐々に崩壊していくときの嘆息のような香りがしていたが今は違う。

 

 

 

――それは高専時代を思い出させるような、優しくて暖かい……"夏油先輩"がそこに居た。

 

 

「……ッ……夏油……せんぱ――」

 

 

 

 

 

 

彼は優しい。

私の生い立ちを共に憎み、共に泣いてくれるような人。

 

だからこそ、私はこっち側へ誘われた。

単純に夏油傑という人が好きだった。勿論恋愛感情というものは皆無だが、彼の人間性が好きだった――

 

 

 

「((――御免なさい。夏油……))」

 

 

洸は彼の首元に顔を埋め、ゆっくりと瞼を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

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「――それで?なぜ私は京都に?」

 

 

深夜の高専内。悟の教員室。

室内に響く男の低い声。大きな影と傍らの椅子に腰掛けるもうひとつの影――

 

 

 

 

「えー?だって歌姫弱いし、楽巌寺学長(おじいちゃん)も心配だし?さすがに東京だけに戦力固めるのもヤバいでしょ?」

 

「…………」

 

「そんな顔すんなって。七海がいれば百人力!」

「…………((違う。きっとこの人は――))」

 

 

"洸とバッティングさせない為"

 

――どこまでも変に気を遣う人だと七海はため息を漏らした。

 

 

 

 

「しかも、禪院家は今回の件に一切手は出さないって。本来だったら京都側を任せられる戦力がいーーっぱい居たんだけどさ?……ホラ!名前だけの"特別一級術師"さん達……」

「五条さん。悪口は程々に。」

「それくらいムカついてんだよ僕は。」

 

京都と新宿に放たれる呪霊達。

呪術師空いてだけならばまだしも今回は非術師をも巻き込みかねない大きな戦だ。

まさか御三家の術師がそれに一切関わらず、ただただ指を咥えて観戦するだけなんて有り得ない。腹が立って当たり前の事だった。

 

 

「……それは洸さん絡みだからでしょうか?」

「んーどうだろうねー?そもそもアイツらクズ一家だし?"次期当主様"は相変わらず僕の妹にお熱みたいだし?」

 

 

理由を聞き出そうとも、現に禪院家の当主様は酒に酔っ払い会話さえも出来ず。どいつもこいつも話が通じずストレスしか溜まらなかったと悟は盛大なため息と共にだらりと体を脱力させ、長い手足を椅子から伸ばす。

 

天井に向けられた視線。――刹那、白い包帯を外すと美しい碧眼が露になる。

 

 

「あいつらの真意は分からない。てか洸が何考えてんのかも意味不明だし。」

「………同感です。」

 

 

碧眼で見据えた洸の姿。

何年たっても変わらない妹の容姿、そして何を考えているのか分からない無機質な様子。

 

 

 

「……ね?七海。」

「はい?」

 

 

碧眼は傍らの七海に向けられる。

 

 

 

「僕。マジで殺すかもしれないよ?」

「……はい?」

「洸の事。」

「…………」

「いーの?」

 

 

意地の悪い質問だ。残酷で……まるで喉元に刃を当てられている気分だった。

 

悟の性格がめちゃくちゃに悪いのは100も承知の事。嘲笑うかのように、試すかのように、いたずらっ子の青年のように持ち上がった口角は相変わらずだった。

 

 

 

「……五条さん。結局、私を京都に送る本当の理由は何なんです?」

 

 

 

しかし七海はそれでも眉ひとつ動かさず碧眼を見下ろす。

 

 

 

 

 

 

「……ははっ…………」

 

抜けるような呑気な嘲笑。

かすかな冷笑に似た奇妙な笑みが悟の唇の端に浮かぶ。

 

 

 

「そんなの決まってるでしょ?"賭け"だよ?」

「賭け?」

「そう!"賭ーーけ!」

 

人差し指をピンと立たせ椅子から腰を持ち上げる悟。グイグイと七海の側へと立ち、顔を間近へ寄せ満面笑みを零した、

 

 

 

「なんせ洸は僕の妹!……ってことはめちゃくちゃ性格悪いし。」

「それは重々承知しています。」

「はははっ!即答?酷いねー七海……」

 

 

 

悟の言う賭けとやらが本当に当たれば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"僕は洸を信じてる。アイツは馬鹿じゃない。僕より賢い。"――」

 

 

「……ッ……」

 

 

 

"その台詞"はあの時の家入のもの。

埃被った妹の部屋を片付けていたあの時、あの場所で言い放った家入の台詞。

 

 

 

「僕さー?この前の兄妹喧嘩で分かっちゃったんだよね〜、アイツの歪んだ感情とか?色々?テレパシー的な?」

「何を訳の分からないことを言ってるんです……感覚で適当なことを言うのはやめてください。」

 

 

未だに悟が何を言っているのか七海には到底理解できなかった。

そもそも五条兄妹がぶっ飛んでるのは昔から変わらない。理解できるはずがない。

 

 

 

 

「――僕の妹。世界一狂ってるからね?」

 

 

 

悟の人差し指先が七海の胸元に向けられる。

 

 

 

 

(アイツ)じゃ扱いきれないよ。絶対――」

 

 

 

壁掛け時計が0時を指す。

日付は12月24日と成ったのだった。

 

 

 

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