五条兄妹   作:鈴夢

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希望の灯火はまだ消えていない。








希望

 

 

 

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渋谷事変―希望―

 

 

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――21:27

渋谷 サンクスビル屋上――

 

 

 

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屋上に一人の青年の影が現れた。

 

 

 

 

「ナ、ナ、ミーーーーーーン!!」

 

 

 

渋谷中に轟く大きな声。

 

 

「ナナミンいるーー!??」

 

 

 

 

 

「五条先生があっ、封印されたんだけどーーー!」

 

 

 

 

「んで!ヒカルンもーー!どこにいるかわっかんねぇのーーー!!」

 

 

 

術師の耳に飛び込む事実。

しかしそれは信じ難いものだった――

 

 

 

 

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――同時刻

 

 

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「「「!?」」」

 

青年の声にいち早く反応した七海班。明らかに聞き覚えのある声と独特なネーミング、間違いなく"アイツ"だと伏黒は直ぐに察した。

 

「この声……虎杖?」

「ん?」

 

ピタリと足を止める三人。

中でも七海は一際険しそうな表情を浮かべ、直ぐに作戦を変更すべきだと頭をフル回転させた。

 

 

「……予定変更です。直ぐに虎杖君と合流します。もし五条さんの封印が本当なら……洸さんも同じく動けないとなれば――」

 

 

踵を返し、再び歩き出すと伏黒と猪野の間を通り抜ける。二人は七海の変化に敏感に反応するとその背中を追うように同じく踵を返した。

 

 

「――終わりです。この国の人間全て。」

 

 

その声の底には、まるで鬼をも()しぐべき力が籠っていたのだった。

 

 

 

 

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――21:28

東京メトロ渋谷駅 B5階

副都心線ホーム――

 

 

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五条悟封印後のホームにて。

その場所には漏瑚をはじめ呪霊達が集っていた。

 

そして再び現れる袈裟の男――

 

 

「や。皆どうするか決めたかな?」

 

片手を呑気に上げ、にこやかに微笑みながら姿を現す。対し漏瑚は不機嫌そうに睨みつけた。

 

「…遅いぞ夏油。どこで何をしていたのだ。」

「五条洸の足止めさ。暫く彼女は動けない。今のうちに君たちは君たちで行動を起こせばいい。」

 

"どうぞお好きに"と言わんばかりの様子。呪霊達が自由に動きやすい時間を作ったというのにその場の雰囲気は全く余裕があるという様子では無さそうだ。

 

「いやー、しかしバレちゃったね?こっちの状況。」

 

真人はホームに落ちた"イヤホン型メカ丸"の残骸に視線を落とした。つい先程、遠隔でこちらの様子を見られていた事に気づき破壊したものの遅かった。五条悟の封印、そして諸々の会話は全て聞かれていたに違いない。

 

 

「術師が総力を上げて私たちを潰しに来る。」

「だろうね。だけど俺たちはやることはやらせてもらうよ?」

 

「…虎杖悠仁と釘崎野薔薇を殺す。その後高専に保管されている他の弟たちを回収する。」

 

漏瑚、真人、脹相。彼らの次の標的は虎杖悠仁をはじめ呪術師。

 

「釘崎とやらは知らんが虎杖は駄目だ。"宿儺にする"。」

「関係ない。」

「あ゛ん?なんだと?脹相…」

 

「漏瑚、落ち着いて。」

 

漏瑚の目的は宿儺の復活。脹相は以前弟たちを釘崎と虎杖に祓われ、その仇をとると決めていた。器である虎杖が死ねば宿儺も死ぬ。脹相と漏瑚の目的の乖離に偽夏油はその場を落ち着かせるように穏やかな声を響かせた。

 

しかしそれが届くはずもなく、寧ろ今度は脹相に同意見だと真人も目的を口にした。

 

「…やっぱ俺も虎杖殺したいかな。」

「真人!貴様も何を!」

「五条悟の実物を見た感じさあ、五条を封印した今 術師と呪霊はイーブン。宿儺が復活すれば超優勢。ほぼ勝ちって事でしょ?」

 

呪術界の最強が居なくなった。

それはすなわち"こちら側の"時代がやってきたと言っていいだろう。呪いが優勢なのは事実だと真人は話す。

 

「まあ確かにそうだね?だけど代わりに五条洸が居るよ?」

「あの女は大丈夫だよ。俺は頭数にもいれてない。」

「…………」

「五条悟を越えるわけがないさ。大丈夫。遭遇したところで問題なく排除するよ。」

「…随分と自信があるみたいだね?」

「強いのは確かに認めるよ。だけど所詮あの女はあの女でしかない。力を手に入れたとしても人間そのもの、人間の魂自体は変わってないんだからさ?」

 

真人は初めて彼女にあった時のこと、そして先日のトンネルでの件を思い出した。

七海と虎杖の元に現れたあの時、確かに彼女は強者であると自覚した。しあし灰原の偽物を創り出し、それを洸に放った時の彼女の顔。冷酷さを兼ね揃えているとはいえ彼女は悪に染まりきれない。真人は洸の事をそのように読んでいた。

 

「へへっ……虎杖殺しちゃお。大丈夫…宿儺なんていなくたって俺たちなら勝てるさ。」

 

真人の顔が気味の悪い笑みに変化していく。

そしてそれを横目に単眼を光らせる漏瑚。

 

「……本気か?」

「本気と書いて大マジさ。」

「…………」

 

 

 

漏瑚の思惑――

 

"100年後の荒野で笑うのは儂である必要は無い。呪いが人として立っていればそれでいい。"

 

――と。

 

 

「宿儺は味方では無い。復活したところで儂らが負うリスクの方が大きいかもしれん。だが宿儺が復活すれば確実に呪いの時代が来る。儂らは人間共とは違うのだ。死すら恐れず目的の為に裏表ない道を歩む。それが偽物共にない呪いの真髄だ。」

 

「違うっしょ?」

 

漏瑚の言葉に容赦なく否定を放つ真人。気味の悪い笑みは漏瑚に向けられ、真面目さも兼ね揃えた口調で言葉を続けた。

 

「…軸がブレようとも一貫性がなかろうと、偽りなく欲求の赴くままに行動する。それが俺たち呪いだ。」

「……」

「あー……"違う"って言ったのは呪いの在り方で復活自体はアリだと思ってるよ?…それにさ、漏瑚と争う気も無い。だからゲームしようよ?」

 

真人の提案。"ゲーム"。

呪霊たちの視線が真人へと向けられる。

 

「俺が先に虎杖と遭遇したら奴を殺す。漏瑚が先なら指を差し出して宿儺に力を戻せばいい。」

 

「……俺が先なら俺が殺る。いいな?」

「おっ!脹相も参加する?勿論いいよ!」

 

ゲームの賛同に弾んだ声を漏らす。まるで子供の遊びごとのように呑気なその様は正に呪いそのものだった。

 

 

「で、夏油はどちらかと言えば漏瑚派だろ?どうする?」

「私は獄門疆を守らなければならない。それに五条洸も居るからね?遠慮させてもらうよ。」

「…………"へぇ"。」

 

 

挑みかからんばかりの疑惑の眼差しを真人は男に向ける。"何となく"、偽夏油の薄情な笑みに違和感を感じるも何もそれ以上話すことは無い。

 

「好きにするといい。私にとって宿儺は獄門疆が失敗したときの代案に過ぎない。」

 

偽夏油は微塵も虎杖に興味を持っている様子は無い。既に五条悟の封印という目的を果たした男にとってどうでも良いのだろうか。

 

「バカバカしい!術師共は虎杖も含め五条悟を助けに何れやってくる。ならばここで待てばいい。ゲームになら……」

「よーーい!ドン!!」

 

「なっ!!!真人!!待たんかァ!」

 

真人の陽気な声がホームに響くと同時にエスカレーターを駆け上がり消えていく呪霊達。

残された偽夏油は彼らの背後を静かに見送ると微かに笑みを浮かべていた。

 

「…………」

 

 

そして今度は反対方向へと視線を翻す。五条悟の無量空処を受けた非術師たちは未だにその場に立ち尽くしていた。

その群れの中に潜む二つの呪力。それに気づいた男は呆れを含んだ声を漏らした。

 

 

「――呪霊の方が"君たち"より利口だな。」

 

 

非術師の群れの隙間から光る眼差し。

制服姿の双子の姿が現れる。

 

 

「"返せ"」

「…"返せ"」

 

同じ声、似た容姿。

 

 

「私たちはお前に協力し非術師共(さるども)を落とし続けた。」

「洸姉様とも連絡を断ち お前に協力し続けた。」

 

 

「約束通り夏油様の肉体(からだ)を返せ。」

「約束通り洸姉様に手を出すな。」

 

 

「夏油様を」

「洸姉様を」

 

 

「「"弄ぶな"。」」

 

夏油と洸が愛した姉妹。美々子と菜々子。

 

彼女たちは怒りを含んだ低音を響かせる。

 

「ハハッ……この肉体を返すわけが無いだろう?それに五条洸は高専側の人間だ。今更君たちを助けるはずもない。」

「「……」」

 

「……君たちの頭まで空っぽにした覚えはないんだがね。次術師と約束する時は"縛り"であることを明確にするんだな。」

「「…………」」

 

「君たちの"お姉様"とやらは教えてくれなかったのかい?」

 

挑発とも取れる発言。

やはりこの男は夏油ではない――姉妹は改めてその現実に胸を痛ませる。

 

「"お姉様"は…君たちには随分ちゃんとした教育を行ってきただろうに。それを守らなかった君たちの責任だよ。」

「お前!何言っ」

「菜々子!ダメ!」

 

菜々子はスマートフォンで写真を撮るかのように男に向けてレンズを向ける。しかしそれを隣の美々子が必死に阻止した。

 

"茶番"だと胸中で呟く偽夏油。

穏やかな笑みを放っていた表情は少しずつ変化していき、姉妹を鋭く睨みつけた。

 

「…消えろ。それともこの肉体(からだ)に殺されたいか?」

 

声も姿も――大好きな夏油なのに。

中身は全くの別人という事実。姉妹は感じる懐かしい呪力を悔やむかのようにそっと姿を消していく。

 

 

「行こう、菜々子。」

「…うん。」

 

踵を返したその時。

最後に菜々子は男に向けて言葉を吐きつけた。

 

「"後悔するぞ"。」

 

 

遠ざかる姉妹の呪力。

今後あの二人が何をしようとも興味はなかった。逃げようが、死のうがどうでもいい。

 

 

「――後悔か。」

 

 

手のひらに転がる獄門疆を静かに見下ろす。

 

 

「……さて、どんな味だったかな。」

 

 

 

 

 

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――同時刻

東京メトロ渋谷駅

B3F 渋谷ヒカリエ2 改札前――

 

 

 

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『……"リョウ域テンカイ"』

 

 

琴を奏でるような美しい声とともに展開される領域。同時に桜吹雪がより一層荒れ狂う。

 

 

『"乱桜花艶摎瘠(ランオウハナイロクジャク)"』

 

 

洸は完全に領域内に堕ちてしまった。

 

豪華で美しい着物を纏う女性。その背後には大きな桜の木が佇む。太い枝の随所には気味の悪い骸骨が吊るされており、美しさと不気味さのコントラストが明白だった。

 

そして洸の足元には無数の人骨。桜の花弁が降り掛かった人骨はやけに美しさをも感じてしまう。

 

 

「((……呪力が吸い取られていく感覚。何となく体の力も抜けていく感じもするかな。))」

 

洸はふと自身の手元に視線を落とした。例えようのない違和感。感じたことの無い感覚。茈眼の効果で"呪力"が目に見える分、この領域内で起こっている事がハッキリと理解出来た。

 

「((このまま突っ立って居たら…恐らく私はあの桜の木と呪霊の養分になる。"呪力と生命力"を奪う呪いの大木ってところかな。))」

 

 

領域展開において決して避けられない"必中効果"。そして"ステータス上昇"。最大のメリットである必中効果に関しては悟や洸が持つ無下限呪術でさえも領域内では意味を持たない。必ず相手の攻撃を食らうのがお決まりだ。

 

「人語も喋れるみたいだし、貴女の等級はほぼ特級みたいだね。」

『…嗚呼…美しイ……漲るチカラ…』

「私の生命力を奪って貴女は更に美しく咲き誇る。…まずいなあ。」

 

その場で両腕を組み、大袈裟に考え込むような素振りを見せる洸。真っ向から刃を下ろしたとしても無意味だろう。この領域はよく出来ている。相手が強者であればあるほど呪力の質も違う。よって取り込む呪力も相当美味いものだろう。逆にここで自分が下手に動き、力を失えば本末転倒だ。

 

 

…となれば"領域展開への対処法"。

呪術によって対抗するか、外へ逃げるか。その二択だ。

 

しかし洸以外侵入が出来ない帳の中でコトは起こってしまっている事実。外からの助けは先ず期待できない。ここから一人で対処するしか方法は無い。

 

もしくは最も現実的な手段。"自身も領域を展開する"。

 

領域同士が衝突した場合、より洗練された術がその場を制することになる。呪者同士の頂点の戦いでは領域展開が必ず使用されるのがセオリー。云わば領域展開のレベルを上げることが術者としての頂点に立つことに繋がる。

 

「今の私のこの状態で一体何が起こるか予想できないけど、このまま呪いの養分にされるのは御免だね。」

『サせン、コノまま貴様ハ私のモノ』

「短命故に本当の死は恐ろしい?美しさを失うのが恐ろしい?」

 

"木花咲耶姫"

美人薄命で有名な女性。しかし本当に嫌な呪霊を召喚したものだ。

 

裡は夏油では無いと分かっているがまるで本物の夏油が選んだとしか思えない。

 

「お姫様。貴女も随分苦労したでしょうに。」

『愛しィ…欲しィ』

「貴女に纏わる本を読んだことがあるの。貴女がすごい人だって言うことは分かってる。」

 

――努力が美しさではなく、生まれ持った美しさは様々な試練がのしかかる。一見華やかな人生も、本人にしか知りえない苦労があるのである。

 

"美人薄命"と言う言葉はこの様なことから言い伝えられたのかもしれない。

 

「……私も…貴女と似ているのかも。」

『ンン?』

「美人も大変よね。…そう、美人薄命――」

 

洸は真っ直ぐと呪霊を見つめ優しく微笑んだ。

 

吸い取られていく力は徐々に強く加速していく。かろうじてしっかりと両脚を地面に付け、呼吸が少し乱れるもののゆっくりと"左手"を顔の前へと翳す。

 

 

「いくよ"お兄ちゃん"。」

 

 

茈が奥深くに闇を光らせながらも炯々と輝く。六眼の青とは違う光。それは鋭く呪いを睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"領域展開"」

 

 

 

 

 

 

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「ナ・ナ・ミン!ナ・ナ・ミン!」

 

「……おい」

 

未だに大声を轟かせる虎杖の背後に呆れ顔の伏黒が現れた。彼に声を掛けるもどうやら届いていない。

 

 

「ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ミン!」

 

「おいって!」

 

漸く虎杖の肩を叩くと彼は驚いたように肩を揺らし間抜けな声を上げるのだった。

 

「うおっ!?…伏黒!ナナミン!猪野さん!?」

 

相変わらず呑気な虎杖。その様子に後から現れた七海と猪野もどこか呆れた表情を浮かべていたのだった。

 

 

「……お前……ナナミンが七海さんってのは知ってっけどヒカルンってマジで洸さんの事だったんだな……」

 

猪野と虎杖は初対面では無いが頻繁に会っている仲でもない。あの七海サンの事を"ナナミン"とあだ名を付けていたことは分かっていたが、まさかあの"洸サン"までも……色んな意味でとんでもない青年だと改めて考えていた。

 

 

「それより虎杖。五条先生と洸先生の事マジなのか?」

「マジ。」

 

虎杖は自身の耳にイヤホンのように取り付けられている"ミニメカ丸"を指さした。

 

「"コレ"。京都校のメカ丸なんだけど、正確に言うと死んでるんだけど……かくかくしかじか――」

 

 

 

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「――"夏油さん"が?」

 

『あァ。正確に言うと夏油傑の(うら)にいる何者かダ。今渋谷駅構内は正に伏魔殿。』

 

ここまでの状況をメカ丸は三人に簡潔に説明した。そして七海はまさかの人物の名前に僅かに眉を顰ませた。

 

 

『特級とソイツらが連れてきた呪霊。夏油の息がかかった呪詛師。そして改造人間と一般人。』

 

「確かにそれなら地下鉄の隣駅から攻めた方が速い。…だがその為にはまず"帳"を解かなければ。」

 

「そうですね。あと五条先生の封印が本当だったとしても洸先生が居る。なるべく早く洸先生の安否確認と合流が良さそうですね。」

「洸さんの呪力の話もマジなら尚更ッスね。」

「おっしゃ!!ンなら早くヒカルンと合流して"ゲトウ"って奴を倒せば――」

 

着々と進んでいく作戦。

上手くいけばこの状況を簡単に打破できるかもしれない。しかし七海はもう一つの"コト"について困惑の様子を見せる。

 

 

「((……洸さんと五条さんの因果、縛り……。渋谷の混乱、呪詛師の存在……先が全く予想出来ない。相手方もここまでの事を興して馬鹿では無いはず――))」

 

悟が封印された。しかしその緊急事態を覆すことができる存在である洸が居る。

しかし奇妙だった。洸が悟に成る。そして今現在、恐らくは帳に閉じ込められている。相手もそれを見越して動いているはずだと。

 

ましてや暗躍しているのが夏油のナリをしている裡の人物。…ないとは思うが洸が何か関わっていたとしたら?様々な憶測が七海の脳裏を巡っていたのだった。

 

『兎にも角にも緊急事態ダ。マルチタスクで頼ム。』

 

 

念押しするかのようにメカ丸は再び呼びかける。どうやらここで考えていても時間の無駄かもしれない。

 

 

「((……四の五の言っている場合ではないか。))」

 

 

七海の視線の先に映る三人。決して彼らも弱い訳では無いがこの状況下で別行動をとる事に否定的な気持ちもあった。

 

しかし今は彼らを信じるしかない。

 

 

「一級でしか通らない要請が幾つかある。外に出て伊地知君とそれらを全て済ませてきます。」

「っつー事はナナミンとは別行動?」

「はい。虎杖君、伏黒君、猪野君。三人にはその間に"術師を入れない帳"を解いて欲しい。」

 

微かに三人の目付きが変わる。

 

とくに七海を誰よりも慕っている猪野はおどけた表情を払拭し、あやしいほど真率な表情が漲る。

 

「…猪野君。日下部さんや禪院特別一級術師もこの"帳"内にいるハズです。合流出来た場合、現状を伝えて協力を仰いでください。」

「了解!」

「あとは伏黒君の言う通り、洸さんとなるべく早く合流しましょう。――

 

それから"二人を頼みます"。」

 

真剣な、期待の籠った眼差し。

そして七海らしい強い声色。

 

猪野は決死の覚悟を決めたかのように七海をじっと見つめハッキリとした声で応じる。

 

「…はい!!」

 

 

改めての作戦変更。

別行動の中で更に難易度も上がる。

 

「うっし!五条先生奪還!ヒカルン合流!」

「洸先生が居ればある程度無理も効く。怪我しても何とかなるからな。」

「洸サンの反転術式があれば骨が折れようが血が止まらなかろうが関係ねぇ!」

 

「…あまり洸さんを困らせないように。頼みますよ。」

 

真剣な眼差しがほんの一瞬柔らかなものへと変わる。四人は士気を高め、行動を起こす。

 

 

「それではよろしくお願いいたします。」

 

屋上から立ち去る七海。

残された三人は暫く沈黙したのだった。

 

 

 

「「……」」

 

 

静まり返る渋谷の街。

ふと虎杖と伏黒は互いに顔を見合わせると視線の先の猪野に呼びかけた。

 

「…猪野さん?」

 

放心状態と言っても過言では無い猪野の様子。立ち去った七海の跡をじっと見据えるようにその場に立ちつくす。

 

 

「((……七海サンに…っ…頼られちゃった。しかも洸サンも任されちまったし……やるしかねぇ!!))」

 

 

刹那、猪野は勢いよく背後の二人へと振り向くと両腕を組み大きな声を轟かせた。

 

 

「オマエらぁ!!!」

「「!?」」

「任務の前に事の重大さを教えてやる!――題して"五条兄妹が居なくなって困ること二つのこと"!」

 

右手人差し指と中指を立て、二人に対し意気揚々と声を上げる猪野。向かいの二人は呆気に取られたように立ち尽くすと"二つのコト"を聞き入れる。

 

 

「一つ!"五条家の失墜!"――五条家は五条兄妹のツーマンチーム!前当主はほぼ隠居状態で噂によればかなり弱ってるらしいし、洸サンは元離反者で上からの圧力はあるものの能力を買われている事実!五条サンに関しては説明不要!兎にも角にもあの兄妹が効かせていた融通で救われた術師たちが数多くいる!それは一部の呪詛師も含めてだ!」

 

禪院家に売られる手前に救われた伏黒、秘匿死刑を言い渡されていた乙骨、そして同じく洸も悟に救われていた。

そして一年前の百鬼夜行にて、洸は夏油一派の呪詛師をも救い、事実 兄妹の融通(ワガママ)が突き通されていたのだった。

 

「虎杖!お前もその一人なんじゃないのか?」

「ッスね!」

「軽いな。」

 

虎杖も言うまでもなく兄妹によって救われている。その願いを申し出たのも伏黒だった。

 

 

「そういう連中がみーーんな困ったサンになってしまい"最悪消される"!そしてその二!"パワーバランスの崩壊!"。――五条兄妹がいるからという理由で大人しくしていた呪詛師、呪霊達が一斉に動き出す!」

 

「…やっぱあの二人ってすげぇんだな。」

「当たり前だろ。実際、洸先生が高専側に戻ってからは更に呪霊も呪詛師も大人しくなったとか。」

「マジか…」

 

虎杖は伏黒の耳元でボソリと呟く。そして伏黒はその問いかけに"当たり前だろう"とブレることなく応じた。

 

「で!その一で内輪がごたついてる時。その二のヤツらとプチ戦争なんて起こってみろ、負けるぜ!俺と七海サンはそう読んでる。」

 

兄妹どちらかが欠けたその時、明らかに何らかの影響があると七海も猪野も予測していた。

 

「だーけーど!まだ希望がある!それが洸サンだ!しっかしお兄サンでもあり理解者である唯一の存在が居なくなったことで上層部も洸サンを良いようにも悪いようにも嗾ける可能性が高い。」

 

「確かにヒカルン言ってたな。私は上のおじいちゃん達にはめちゃくちゃ嫌われてるとかなんとか。」

「一度離反した立場だからな。未だに洸先生を疑う目もあるのは仕方ないだろ。」

 

伏黒の真剣な眼差しと声色。

改めて猪野へと向き直ると伏黒は洸について続けて口を開く。

 

「……"五条先生に成った"。それがどこまで事実で信憑性があるか分かりませんが少なくとも兄妹共に倒れたわけじゃない。」

「その通り!でも洸サンがこのまま安否不明で動けず、万が一プチ戦争が起こって負けたらどうなる?」

「少なくとも日本では人間の時代が終わるかもしれないですね。」

「分かってんじゃねぇか。」

 

まだ希望はある。

まだ兄妹共に倒れた訳では無い。

最強の兄の妹である洸が動けるのであれば勝機は十分にある。そして洸の力も含め、悟を救い出せばこの事態は収束に向かうだろう。

 

 

 

「うーーっし!行くぜ後輩ちゃんズ!七海サンが戻るまでに"帳"をブッ壊す!」

「応!」

「はい。」

 

 

猪野は拳と拳をぶつけ気合を入れる仕草を見せると屋上から渋谷を見下ろし声高らかに叫びを上げた。

 

 

「"五条兄妹を助けるぞ!!!"」

 

 

 

 

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