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死滅回游開幕後――
――2018年 11月上旬
"東京第3結界"
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東京駅丸の内 駅前広場
半壊したビル群、変わり果てた都内。
そこには"懐かしい3人組"の姿があった。
歳を重ねたふたりと、
それが叶わなかった"ひとりの青年"
青年を前に洸は動揺していた。
瞳に映る全ての情報、それは間違いなく――
「洸さん!」
「……ッ……"ゆ"」
「惑わされてはいけません!」
「でも……ッ……でも!!」
"青年は穏やかに笑う"
あの時、あの姿のまま。
無邪気で天真爛漫だった青年そのものだった。
「"七海"!"洸"!」
あの時と変わらない本物の呪力
本物の気配 全てが本物なのだ。
「建人……あれは―――」
緊迫した洸は自らを止める七海を見上げる。
六眼の如く美しい茈の瞳が交互に2人を見つめた。
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渋谷事変―閉門―壱
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「……悠仁。」
「ヒカルンはナナミン達を頼む。」
絶望の淵に立たされた洸。
その淵に佇むは実兄の生徒――"虎杖悠仁"
宿儺の気配は無い。間違いなく目の前に立つ人物は虎杖だった。
「
重みを感じる彼の真剣な声。
背中から伝わる空気に洸は息を飲んだ。
「ヒカルンのスピードがあれば家入さんのところに皆を直ぐに連れて行ける。俺はヒカルンみたいに上手く立ち回ることも出来ない。…それなら…今俺がやるべき事は分かってる。」
「…………」
既に命の危険に晒されている菜々子。
身動きの取れない美々子、そして重症を負っている七海。
洸にとって真人は雑魚でしかない。それは誰もがわかっている。しかし何故か真人は洸に妙な執着を見せる。何度か2人が鉢合わせたこともある程度は虎杖も聞いたことがあった話だ。
洸の弱みを真人は理解した上で握っている。
実兄の封印――
最強の力が突然注ぎ込まれた洸――
倒れていく仲間たち――
かつての仲間であった呪詛師に忌み嫌われ――
命の危機に晒される家族達――
恋人でさえも下手をすれば死んでいた――
絶望的な全ての重鎮が洸に伸し掛る。
真人の呪いの言葉が今の洸を大きく揺るがし狂わせる。
虎杖は直ぐに理解した。
誰よりも強いはずの。実兄をも圧倒する五条洸。
しかし今はまさに諸刃の剣――
"今は引かせるべき"だと。
「へえ。キミも冷静に物事を考えられるようになったんだね?虎杖悠仁。」
笑みを含んだ呑気な真人の声。
ゆらりゆらりと体を揺らし、虎杖へと迫る。
「五条悟の封印。宿儺の暴走。……たくさんの人間が死んで街は壊滅状態。」
「……ヒカルン、直ぐに離れろ。」
虎杖は洸を庇う。
「五条家の汚点。呪術界を裏切った危険分子!五条悟の力を持っても軟弱でカワイソーな女!!過去に縛られ、永遠に忌み嫌われる呪いそのものなんだよ!!」
「ヒカルン!」
虎杖の叫びが駅構内に響き渡る。
「そしてこれからも……"彼女は厄災となり仲間を苦しめる"。」
「ッ……!」
洸の茈の瞳が僅かに揺れた。
胸の奥を鋭い槍で射抜かれるような感覚。
同時にフラッシュバックするように過去の出来事が脳裏を駆け巡った。
「五条洸!オマエの存在自体が呪いなんだよ!!」
吐き気のように全ての嫌な映像が込み上げてくる。背筋に黒く冷たい水が広がっていく感覚は洸を更に混乱に陥らせた。
「ぁ……あ……っ……」
"私は所詮 五条家の忌み嫌われる存在"
「ッ……洸さん!!」
「うぅ……姉様!!!ねぇさま!!」
"兄の力を同等に手に入れても……敵わない"
「……ぅ……洸……ね、ぇ」
"私は弱い。皆死ぬ。私のせいで……皆――"
「……壊れちゃえ♡」
にょろりと真人の首が虎杖を通り過ぎ洸の耳元まで伸びる。囁かれたゾッとする低音に洸は大きく肩を揺らした。
「…オマエは――
なんなんだ!!真人おおおおおおおぉぉぉ!!」
「デケェ声出さなくても聞こえてるよ!虎杖悠仁!!」
洸への呪いの言葉を皮切りに虎杖と真人が交戦する。次々と破壊される駅構内、衝撃音を前に洸は膝を着いたまま動くことが出来なかった。
「くっ……洸さん!」
「……ッ……」
「とにかく今はここを離れましょう!……ッ……」
洸のそばに駆け寄る七海。
「菜々子!!菜々子ォ!!」
「貴女もこちらへ!離脱しますよ!」
「でも!菜々子が!!まだ息してる!!」
「ッ……!」
「置いていけない!私ももう脚が動かないしッ……どうしたらっ……!」
魂が抜けたように動けない洸
重傷を負った七海が必死にどうと動こうとも3人を抱えることは困難だった。
「((直ぐにここを離れなければ……だがどうする!?戦力を失くした少女ふたりをここに置いていく訳にもいかない!))」
七海は歯を食いしばり必死に考える。
重傷を負い、何も出来ない自分に腹立たしさを浮かばせると更に混乱に陥り――
「"洸ちゃん!"」
刹那、大きな影が洸の前に現れた。
その影は洸の両肩をがっしりと掴み何度も何度も強くゆさぶった。
「洸ちゃん!?洸ちゃん!!」
「っ……はぁ……ッ……はぁ……」
「しゃんとなさい!!!!」
「ラ……ラルゥ……ッ……」
洸と瞳に映る家族。
何年も共に行動をしていたラルゥの姿。
「なんで……ここに!?」
「説明は後!今はとにかくここを離れるわよ!……美々子と菜々子は任せて!アナタは洸ちゃんと一緒に!」
地面や壁が大きく揺れる中、それぞれがようやく動き出した。ラルゥは重傷を負った菜々子を優しく抱き上げ、片方の肩を美々子に貸すように差し出す。
「洸さん。行きましょう。」
「でも悠仁はッ」
「ここは虎杖くんに任せるのが得策でしょう。私たちはここから離脱すべきです。」
「でもっ!このままじゃ悠仁…っ…」
腕を引いても抗う洸。
弱々しい彼女の姿に七海はついに堪忍袋の緒が切れたのように声を荒あげた。
「いい加減…ッ言うことを聞いてください!!」
「…!!」
がっしりと両肩を掴み、視線を合わせ鋭い視線を洸へと向けた。
「五条さんが居ない今!頼れるのは貴女だけなんです!!」
「……ちが」
「あなたが倒れる訳にはいかない!」
「でも私は!"お兄ちゃん"のようには成れな――」
"兄のようにはなれない"
お兄ちゃんと口にした時の洸の姿。それは過去、青い春の時。弱々しい彼女の姿が見えた気がした。
そんな洸を遮るように七海の手が洸の頬を弾いた。
「う……ッ……」
解かれた無限。それがまるで彼女の答えのようにも感じた。
「……洸さん……お願いですから……今は私の言うことを聞いてください……っ!」
「あ……建人」
「何がなんでも貴女を死なせない。」
「ッ……建」
「死なせる訳にはいかないんです!!!」
頬を弾かれた痛みなど遠に消えた。
七海の真剣な眼差しと叫びにも近い必死な声。
ハッと大きく目を見開く洸は漸く目を覚ましたかのようにゆっくりと立ち上がった。
七海も同じく立ち上がり、互いに支え合いながら外へと向かう――
「ハハハハッ!!行かせるわけないでしょー!?」
七海と洸の背後に迫る真人の攻撃。
洸は咄嗟に無限を発動させる。
……しかし、どうやらその必要は無い様子だ。
「"バァーーカ!こっちにもいんだよ!ツギハギ野郎!"」
呪力を纏った五寸釘が3本。
洸と七海の真横を通り過ぎ真人の変形した胴体に突き刺さる。
その呪力は間違いなく、兄の生徒のひとりのもの。
「"野薔薇!"」「"釘崎さん!"」
「洸先生!七海さん!こっちは任せて!!」
2人を庇うように釘崎が立ち塞がる。
五寸釘と呪具を片手に凛々しく立つその後ろ姿は心強いものだった。
「洸先生がいなくなったら……マジで困るから。」
「……ッ……」
「洸先生だけに背負わせない。大丈夫。私達もついてる。」
守ってきた仲間たち。家族。
次々と一筋の光となって現れる。
「次から次へと……面倒だなー……」
真人は吐き捨てるように零す。
新たな呪術師が現れる度に自分の計画が削がれていくようで気分が悪かった。
「でも獲物は多いほど面白いね?俺のストックにもなるし?」
「……釘崎、油断すんなよ。」
「アンタこそ!」
二方向に離れたままの虎杖と釘崎。
その中央に佇む真人。
「"多重魂……撥体!"」
刹那、真人の呪力が炸裂。
2つ以上の複数の魂を融合させ、魂の質量を爆発的に高め2人に向け放たれる。
なんとか避ける2人。
地下の形状は既に大きく変わっておりいつ崩れてもおかしくない状況だった。
「……ばぁっ!」
「!?」
虎杖の前に現れた大きな呪いの塊。その中から真人が現れると顔面を強打され体が吹き飛ぶ。
「悠仁!!」
七海の体を支え、離れようとしたその時。
虎杖の姿が目に付くとピタリと足を止めてしまう洸。
「チッ……虎杖!!
…七海さん!とにかく洸先生を連れて離れて!」
「洸さん!行きますよ!」
「ッ!」
七海は自身の傷を庇うことなく洸を抱き抱え直ぐにその場から離れる。ラルゥも同じく美々子と菜々子を抱えると七海に続くように駆け出した。
「虎杖、無事?」
「……イッてぇ……けど大丈夫だ。」
虎杖の顔に大きな打撃傷。
ダラダラと鮮血が流れるも大きく問題は無さそうだ。
「もっと踏ん張りがきけば顔面を貫けたかな?」
鉄骨のような硬い物質に覆われた真人の左拳。虎杖の血液がべっとりと張り付いたと思えばそれはパラパラと崩れ剥がれ落ちていく。
薄気味悪い笑み。
躊躇することなく人間の心を、命を弄ぶ真人に対し虎杖は酷く嫌悪感を抱く。
「どうしてお前は何度も!何人も!人の命を!心を!魂を!弄ぶことができるんだ!!」
「くはははっ!指折り数えて困り顔で殺せば……相手の心とやらを汲み取れば満足か?次からそうするね♡」
正に呪いそのものだ。
「…ペラッペラのお前にはペラッペラの
真人の人差し指が虎杖を指す。
「"オマエは俺だ"」
「あ゛?」
挑発とも取れる発言。
虎杖の傍らに立つ釘崎は眉を顰める。
「虎杖。こんなやつの言うことなんて真面目に聞き入れんなよ。」
「外野は黙っててくれる?今俺は虎杖悠仁と話してるんだ。」
真人の強い眼光は虎杖のみに向けられ続ける。
「虎杖悠仁。お前がそれを認めない限り……お前は俺には勝てないよ。」
「ペラペラとよく喋るな?遺言か?」
虎杖は再び体制を整え攻撃の姿勢に。
釘崎も五寸釘を構え、真人へと意識を集中させた。
「ははっ!それじゃ!ラウンド2といこうか!」
真人は走る。
同時に分身が現れると一体は虎杖へ。
もう一体は釘崎の横を通り過ぎ煽るように騒ぎ立てた。
「なに?分身!?」
「何だ!?」
『さぁ!』
『どっちが本体か分かるかな〜!?』
『『アッハハハハハハ!!』』
一体が逃げていく。
もしあれが本体であれば……逃がす訳にはいかない。
「虎杖!あっちは私が殺る!!」
「釘崎!真人はっ」
「触れられなければいいんでしょ?あんな雑魚、余裕よ!」
"グッ"と親指を立て真人を追う釘崎。
虎杖は心配の色を見せるも彼女を信じ分身を目の前に打撃を繰り出した。
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――23:15
首都高速3号渋谷線
渋谷料金所――
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「――とりあえずここまでが限界。あとは彼女の生命力に賭けるしかない。」
「……はい。ありがとうございます。硝子先輩。」
洸達の姿は夜蛾と家入が待機する料金所へ。
仮設された担架に体を預けるのは意識を失ったままの菜々子の姿。傍にはかつての家族、ミゲルを除いた"夏油一派"が居た。
「菜々子……ッ」
洸は菜々子の手を握り小さく声を漏らした。幸いにも息はある。失血が酷く命の危険は続いていた。
そしてその隣、片割れの美々子は涙を流し制服の袖で何度も目元を拭う。
「うっ……うぅ……」
「美々子、あなたも怪我をしてるんだから。」
「そうよ美々子。ほら、こっちになさい。」
菅とラルゥは美々子の身を按じる。そして3人は気晴らしに夜風に当たろうと外へと出たのだった。
他の担架には伏黒。そして真希の姿もあった。
真希は意識はハッキリしているが体が酷く火傷を被ったままで反転術式では治りきらなかった事が把握出来る。伏黒はつい先程と変わらず意識を失ったまま。しばらく目覚めそうにはない。
重面に襲われた伊地知。
何者かと対峙し、同じく意識をなくしている猪野も……
そして七海をはじめ他にも負傷者の姿があった。
「棘。」
「……ツナ……」
苦しそうに眉を顰め壁にもたれかかって体を休める狗巻の姿。左腕は欠損、呪符のようなものが巻かれており完全に修復不可能ということが分かる。
「自力でここまで来たのよ。腕を欠損キッカケは不明。理由を聞いても黙ったまま……」
「…………」
腕を欠損した理由を口にしない狗巻。しかし洸には"視えていた"。微かに左腕に残る残穢。それは宿儺……ひいては虎杖のものだろう。恐らく先刻起こった宿儺の暴走。摩虎羅を相手取った時の領域展開に巻き込まれた可能性が高い。
となれば狗巻が頑なに口にしないのも理解出来る。
「ごめん……棘。」
「こん、ぶ……」
心配するなと狗巻は放った。
洸にとって彼は自身が受け持つ生徒のひとり。真希も大きな怪我を負ってしまった。自分の不甲斐なさに唇を強く噛み締めた。
「建人。」
「……行くのですか。」
「うん。」
「危険です。」
「分かってる。だけどこのままじゃ向こうの思う壷。」
洸は棘の傍から立ち上がると妖刀を再び腰に差す。家入の反転術式の処置を受ける七海に視線を向けると彼は苦しそうに洸を見つめた。
「私は偽夏油を探す。悟兄の封印……悠仁と野薔薇……日下部さんにパンダ、生存してる補助監督たちともできる限り合流しないと。」
「それなら私も行く。お前一人で…ッ……背負わせ」
「真希。大丈夫だから。」
「大丈夫って!洸!お前だってボロボ――」
真希が声を荒あげたその時。
全員がピクリと肩を揺らした。
「"あーらあら。やっぱり東京校は大したことないのね?"」
「"真依、この状況下であまり挑発をするな。"」
「"でも真依ちゃんの言う通りだよ?"」
「"…………"」
仮設されたテントの外から聞こえる声と気配。
4つの呪力――そして遠く離れた場所でもう2人の京都校の人物の呪力を感じた。
「………漸く合流出来たか。」
夜蛾はそう口にすると少し安堵の様子を見せた。
そしてテント内へ入ってくる人物たち。
「真希、アンタボロボロじゃない?無様ね。」
「っせぇ!何しに来たんだよ!」
ふふふっ、といつものように鼻で小馬鹿にするように嗤う禪院真依。
「何って呼び出されたのはこっちなんだけどー?」
「夜蛾学長。遅くなって申し訳ありません。」
箒を片手にムッと口をとがらせる西宮桃。
その傍らで丁寧に頭を下げるのは加茂憲紀。
「…………」
そして3人の背後で静かに佇むのは三輪霞だった。
「夜蛾先生、京都校にも要請していたんですか?」
「ああ。」
「……ということは、歌姫先輩も…東堂君の気配も…」
夜蛾の返答に洸は他の呪力を追った。
どうやら東堂の他にも庵も近くにいるらしい。
混乱を僅かに見せる洸。
その光景を京都校の4人が見ると同時に"妙な呪力"をハッキリと感じていた。
「((って……この呪力。既視感があると思ったら……))」
「((五条悟そのものじゃない……どういうカラクリ?))」
「((………
「((五条洸は……五条悟に成ったってこと……?))」
真依、西宮、加茂、三輪。
それぞれがゴクリと息を飲んだ。
"五条悟"と同様の呪力を持っている。
五条悟の封印後、覚醒したともとれる実の妹の変化。
動揺して当たり前のことだろう。
「――っ!?」
一瞬の静かな間がその場を覆った時、
渋谷の中心から再び大きな呪力を感じた。
「――!!悠仁!」
洸は大きな呪力の揺れを感じ、それが虎杖のものと真人のものだと察知した。
どうやら事はかなり進んでいるようだ。ここで止まっている場合ではなさそうだ。
「さて、私たちも行くわよ。」
「うん。そうだね。」
「ここまでの話を道中で聞かせてもらおう。」
「…五条洸さん。お願いします!」
京都校の生徒たちの視線が一斉に洸へと向けられた。
洸はそれに応えるように頷く。
「よろしくお願いします。皆さん。」
洸は足を踏み出し真っ直ぐと強い眼光を向けた。
薄闇に光る茈の瞳が月明かりに反射し、より一層強い閃光を輝かせたのだった。
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