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闇に覆われた地上
破壊されたビルとビルの間に一人の少女が腰を下ろし俯く。
「……お兄ちゃん」
遠くに感じる歪で強大な呪力。
そこに集まる複数の呪力。
洸は隠れるように必死に呪力を抑えていた。
手元は妙に震える。妖刀の柄の部分を掴む右手がカタカタと震えていた。
これは恐怖なのか……自分でもその正体は分からなかった。
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――過去
秋の陽がからんと、明るく映している――
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「"またあなたは洸さんの所に行ったのね"」
艶やかな声。
しかし同時に恐ろしさも帯びた女の声。
「……」
「悟。聞いているの?」
縁側でくつろいでいた時。嫌な母親の声が背中を刺す。悟は気だるげに寝転んだまま 外の景色をぼうっと眺めていた。
「…るせー。」
「はい?」
「うるせえよ。洸の所へ行って何が悪い。」
青い瞳が母親の姿を射抜いた。
鋭い青、しかし母親は怯むことなく静かに息子である悟を見下ろす。
「近づくなと言っているはずです。」
「洸は俺の妹だ。」
「それとこれは関係ありません。」
「関係大アリだっての。血の繋がった妹に会いに行って何が悪ィんだっての。」
"あ〜メンド"なんて呟くと悟はついに視線を外しゆっくりと立ち上がる。自分と体格も何もかもが違う華奢な母親は更に小さく見えた。
「アレは厄災よ。あなたとは相反するもの。呪いでしかない。」
母親の目つきはさらに強くなる。凛とした綺麗な着物をまとい 黒髪は乱れなくまとめられている隙のない姿。
余裕のある"そんな姿"が余計に腹が立つ。悟は殺しにかかる勢いで母親に詰寄る。
「口の利き方には気をつけろよクソババア。」
「あなたこそ、実の母親に向かってその態度は如何なものかと。」
一切怯まず折れない。少しは恐怖で怯えればいいものの――やはりこの母親とは馬が合わない。血の繋がりなどクソ喰らえだ。
「よく聞けクソババア。」
「………」
「この家で俺が俺でいられる理由は"
「………」
「アイツを蔑ろにするのは構わねえよ。でも俺は違う。俺は洸の兄貴だ。」
"腹違いの妹の存在"
"青と相反する赤い瞳を持つ妹"
悟の母親の脳裏には洸の母親の姿が映った。自分とは全てが違う容姿。話し方も佇まいも何もかもが違う。
どこか不思議な雰囲気を漂わせたあの女。一見天然そうに見えるが"まるで全てを分かっている"と言わんばかりの目が大嫌いだった。
赤い瞳の忌み子を産んだあの女。
自分は六眼と無下限呪術の抱き合わせの息子を産んだ。
全てにおいて自分が優位だと思っていたのに。あの娘の母親は死んだというのに――例えようのない苛立ちは消えることはなかった。
愛しい六眼を持つ我が子があの娘を守る度に腹立たしかった。
「あいつは今日も"あの日の当たらない部屋"で独りで過ごしてる。…今日も明日も明明後日も、ずっとな。」
美しい秋の景色。
山は色を変え、紅葉が光る。
その中に光の当たらない場所があった。洸が暮らす離れの住居。悟はそれに目を向け言葉を続ける。
「五条家の厄災、禁忌、緋眼――」
全てを忌み嫌われ否定し、まるでその者が存在してはならないかのような扱い。悟は許せなかった。
あの無垢で美しい妹を、蔑ろにするこの家が。
「洸の母親を憎むのは別に構わない。だけど洸を憎むのは違う。そうだろ?」
「………」
「忌み子を産んだ五条家の穢れ。その存在が消えて清々したかと思えば…今度はその娘を憎んでる。しょーもな。」
"オッエー"とわざとらしく吐くような仕草を見せ 悟は踵を返す。
「絶対、何がなんでも禪院にも渡さねえ。あいつが不幸になることは…絶対に俺が阻止してやる。」
その足はそのまま 洸が居る離れへと向かう。
┈┈
山の陰に隠れた離れ。
重厚な扉を開き"妹"が居るであろう書斎を目掛けて軽快に足を動かす。
「――おーい。洸。」
立て付けが良いとは決して言えない引き戸。
それを雑に悟は引くと大きな音が鳴った。
「……」
部屋の真ん中で姿勢よく坐す妹の姿が目に入る。目の前には剣山に美しく生けられた生花。
それは美しい青い花だった。
「んだよ。無視すんなっての。」
「……」
「おーーーーーい!!聞こえてますかぁーーー?」
「うるさい。やめて。聞こえてる。」
「なら素直に返事しろよ。」
"ドカッ"とわざとらしく洸の隣に座る悟。じっと顔を覗き込むようにこちらを見つめる兄の姿に妹は深くため息を漏らすとようやく視線を合わせた。
「また来たの?怒られるんじゃない?」
「別に関係ねえよ。……うっげー、花なんか刺して何が面白いワケ?」
「ちょっと!返してよ!」
ひょいと大きな青い花を兄は引っこ抜いた。せっかくバランスよく美しく創っていたというのに、やはりこの男はデリカシーというものがない。以前は春の花に毛虫を乗せられたこともあった。例えようのない何かがこの兄は欠落している?
「その
「リンドウね〜…」
自分の瞳と重なる青い花。悟は目を細めじっくりと眺める。
「"悲しんでいるあなたを愛する"」
「え?」
「"寂しい愛情"」
「……」
兄の口から出た言葉。それは間違いなくリンドウの花言葉。
この親子はつくづく滑稽だ。
孤独に苛まれた悲しい親子。
死した母が育てたリンドウ、それを生ける娘。
花の1本1本、独立して咲く姿はまるで 孤高さや悲しみに寄り添う印象を与える。
「驚いた。少しはそういう学もあるんだね。」
「………」
「ねえ返してよ。ねえったら。」
洸は悟の腕に手を伸ばし優しく揺さぶる。悟はそんな妹に視線を移すと真剣な眼差しで口を開いた。
「お前は孤独じゃない。」
「は?」
「俺がいる。」
悟は決して洸を忌み嫌うことは無かった。
相手の不幸を喜ぶような歪んだ愛情ではなく、悲しみに寄り添い、包み込むような優しい気持ちをいつも表す。
悲しげに真っ直ぐ咲く リンドウのように。
「ん。コレやる。」
「えっ」
「綺麗だろ?交換な?」
「……ただの葉っぱ。」
「かーーーっ!分かってないなお前!紅葉だよ!紅葉!
「それくらい見たら分かるよ。」
何を言っても聞かない兄。きっともう花は返して貰えないと悟ると兄が差し出す紅葉の葉っぱに手を伸ばした。
「脆くて破れそうだよ。」
「本に挟んどけよ。」
「はいはい。」
少し表面に傷がついた紅葉。
お世辞にも花のような可憐さはない。華やかさも皆無。
「お前の目の色と同じだ。」
「………」
悟はリンドウの花を自身の顔の横に翳す。そして洸も紅葉の葉を目の真横に翳す。
互いにコントラストのように色付く花と葉。
部屋の窓から優しい秋の風が流れると不思議な空気が巡った。
「なにがあっても。俺はお前の味方だ。」
悟の優しい声。
「俺たちは"きょうだい"なんだから。」
青と赤
それは美しく光輝く
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渋谷事変―閉門―参
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「"極ノ番"というものを知っているかい?領域を除いたそれぞれの術式の奥義のようなものだ。」
夏油のガワを持つ男。
「呪霊操術 極ノ番"うずまき"。取り込んだ呪霊をひとつにまとめ超高密度の呪力を相手にぶつける。」
男の手に収まる黒い塊。
艶やかな光を放ち 深い闇を感じるそれ。
「うずまきは強力だが呪霊操術の強みである手数の多さを捨てることになる。だから初めはそそられなかったんだ。ただの低級呪霊の再利用だと思っていたからね。」
語り続ける男を静かに見据える虎杖。
「((……今は待つ。))」
この先何が起こるかは分からない。しかし今は一人で突っ走る訳には行かない。
あの五条悟を封印し、五条洸をも惑わせた"ヤバい奴"なのは100も承知。
そして真人をも手中に収め 今や彼ほどに不気味で厄介な存在は居ないのだから。
「でも違った。その真価は準1級以上の呪霊を"うずまき"に使用した時に起こる――」
男は口元に呪力の塊を運ぶ
「術式の抽出だ。」
――ゴクッ
男の喉がボコりと膨らむ。
そしてそれは男の体内へと押し込まれる。
闇が広がる空を見上げたままの男。
すると微かに笑みを浮かべ迫り来る呪力の数々に喜びを見せるかのように声を出す。
「……馬鹿だな。君が感じた気配に私が気づかないとでも思ったのかい?」
男の視線の先、闇空に人影。
"少女は箒に跨り 仲間に合図を出していた"
――刹那 複数の術師たちが動き出す
「((合図!標的は……西宮の真下!))」
空を舞う西宮。
その合図に反応する加茂。
勢いよく矢を放つと男を目掛けて轟音を上げながら攻撃を仕掛ける。
「…甘いね。」
そして反対側からは真依の狙撃。
しかしそれは当たることなく男は面白そうに嗤う。
「チッ!」
「狙撃銃か!いいね!私も術師相手であれば通常兵器は積極的に取り入れるべきだと思うよ。」
奇襲も諸刃の剣に過ぎない。
この一瞬で京都校の術師たちの気配は完全にバレてしまった。
「つまらないね。他に芸はないのかい?」
西宮、加茂、真依
それぞれが悔しそうに眉を顰める。
だがまだ策はあった。
3人はもう1人の仲間に期待を寄せる。
――"シン・陰流"
男の背後に至近距離で現れる少女
「((霞ちゃん…!))」
「((三輪、頼む…))」
「((頼むわよ、霞!))」
居合の構え
鋭い視線が男の背に突き刺さる
「((――とった!!))」
抜刀する手前、完全に男の背後をとったことを確信する三輪。
「((…っ…絶対…許さない…!))」
微かに震える手元。
脳裏に浮かぶは"仲間の姿"
「((メカ丸――))」
この事態を引き起こしたであろう男
最愛の仲間を陥れた元凶
「((のせる。今までの全てと これからの未来を!…もう二度と刀が振るえなくなっても!))」
三輪は一撃に力を込める。
全ての憎しみを この男にぶつけてやると――
「抜刀!!!」
「"うずまき"」
「…っ!!」
刹那、膨大な呪力と不気味な物体が三輪の目の前に現れる。
それは容赦なく三輪に襲いかかる。
「「「ッ!!!」」」
京都校の3人は声にならない悲鳴をあげる。
相手のスピード、それぞれの距離。
もう間に合わない。
「やめろぉぉぉっ!!待て!!」
虎杖も必死に声を上げた。
その時既に 三輪の体に呪霊が襲いかかる手前――
「ッ!!!!!!」
地割れと砂煙。
凄まじい轟音と同時に三輪の姿は消えて無くなった。
「…はは。…シン陰か、よかったよ。」
目の前に現れる大穴。
「少しは
三輪は地の底に突き落とされた。
きっとそれは原型をも留めていないと
――誰しもがそう思った。
「……"っぶねー"」
男の声とともに、
砂煙が漂う傍に人影が4つ。
三輪を囲むようにその場に佇むは――
「日下部さん!」
背後の3人の前に刀を構えたまま立つのは日下部。
「もう!先生が前でてきちゃ意味無いでしょ!」
「仕方ねーでしょ!」
箒を乗り捨て 仲間のために飛び込んだ西宮。そして彼らの担任である京都校の教師兼呪術師 庵歌姫。
「おい!虎杖!…でいいんだよな?」
「パンダ先輩!と京都の!」
「怪我をしているが 無事だな?」
そして負傷して動けなかった虎杖にも救いの手が現れる。パンダと加茂だった。
お互いが身を按じる。
そして再び全員の視線はあの男へ。
「五条洸から凡そは聞いたが あの男が五条悟を、
「らしいぜ?あんな公害持ち歩いて何が楽しいんだか。」
加茂含め 先程まで洸と行動していた京都校の生徒たち。大凡の内容は把握済みだ。
「何者だ。」
「ガワは夏油傑。中身はしらねぇよ。」
加茂とパンダは決して視線を外すことなく情報を共有し合う。兎にも角にも目の前のあの男が元凶なのだ。
「一先ず あの男の足止め――」
行動を起こそうと加茂が声を出した刹那、暗闇から別の呪力が現れると全員の視線がそちらへと移動した。
ゆらりゆらりと現れる影。
それは高専の関係者ではない。
「ッ!」
唯一虎杖だけが反応を見せる。
そして彼が声を上げる前に口を開いたのは夏油のガワをした男だった。
「……やあ"脹相"。」
男は小さく口元に笑みを浮かべた。
現れた男は"脹相"。夏油達と行動を共にしていたひとりだ。
つい数刻前、虎杖と激しい戦闘を繰り広げた。"高専関係者から見れば脹相という男は完全なる敵"――
外見は茫洋とした態度。無気力で浮世離れした雰囲気を醸している端正な顔立ちをしてた。
二つ結びのパンクとすら言えるような独特な髪型と鼻の横一線の刺青のような模様が特徴的。
見慣れない黒と白の法衣。足元はブーツを履いていた。
脹相はその場に立ち尽くし 困惑と苦しみを帯びた表情のまま男を睨みつけた。
「アイツは……っ」
喉の奥から絞り出すような声。
同時に脹相の脳内に過去を再現する映像が浮かんだ。
┈┈┈
――"俺には3人の親がいる"
"母"
"母を孕ませた呪霊"
そしてその間に血を混ぜた…
"母を弄んだ"憎むべき 男の存在――
┈┈┈
「"気づいたようだね"」
頭に縫い目のある別の男と夏油のガワを持つ男が重なる。
「"
脹相は目を大きく見開き声を轟かせた。
酷く目の奥が痙攣し、それは憎しみを帯びる。
「何!?どういうこと?」
「加茂家の汚点…!史上最悪の術師!本当なら夏油の中身は150歳を超えてることになるわよ!」
西宮の問に歌姫が明らかな動揺を見せながら声を荒あげた。
その反面、表情や態度には出さずとも絶望的なため息を漏らし 刀を構え直す日下部。
「((馬鹿げた結界術、馬鹿げた呪具の所持…肉体を乗り換える術式を持つ黒幕の人選としては――))」
夢物語のような有り得ない事態を容易に起こすような超イレギュラーな人物
「――妥当っちゃ妥当だな」
呪術師総出で出向いたとて歯が立たないような男。
「加茂憲紀も数ある名のひとつに過ぎない。好きに呼びなよ。」
脹相は男を睨みつけ"加茂憲紀"を重ねる。
憎き人物。全ての呪いの根源。ふつふつと込み上げる熱が体を沸騰させる。
「よくも……よくも!!よくも俺に!!虎杖を!!弟を!!殺させようとしたな!!」
轟く叫び。そして脹相の台詞に"?"を浮かべる呪術師。
虎杖、弟――そのワードに引っかかるはずはない。
しかし脹相の脳内には虎杖が弟であるという記憶が映っていた。虎杖や今は亡き他の兄弟たちと楽しく食卓を囲む夢のような記憶を見たのだ。
「貴様は決して許さない!!!!」
怒りに身を任せ 脹相は駆け抜ける。
しかしそれは定まる事なく第三者の攻撃により阻まれてしまうのだった。
「ッ!?」
袈裟を着た中性的な体格、後頭部に赤が混ざった白髪のおかっぱ頭が特徴の人物。脹相に怯むことなく立ち塞がる。
名は"裏梅"――偽夏油とともに行動を共にしている呪詛師。1000年前から宿儺に仕える呪術師でもあった。
「引っ込め三下。これ以上私を待たせるな。」
「どけ!俺はお兄ちゃんだぞ!」
刹那、脹相は合掌し裏梅に向け攻撃を放つ。真っ赤な血液が鋭い刃のように相手を射る。
「赤血操術!?」
思いがけない相手の攻撃に裏梅は思わず後退した。そしてその先にはあの男が不気味に笑みを浮かべ脹相を迎え撃った。
「無理するなよ。疲れてるだろう?」
「だから何だ。それが弟の前で命を張らない理由になるか!?」
激しい2人の戦闘が始まる。地形が大きく歪み、崩れるほどに乱闘を繰り広げていた。
しかし攻撃を仕掛けても男には一切届かない。圧倒的力の差に脹相は体力を奪われ続けるのみだった。
「くっ……!!」
「ハッハハハハハハ。」
折れない相手に苦戦する脹相。相も変わらず余裕そうにたち打つ男。
そもそも脹相は敵なのか味方なのか。つい数時間前に虎杖は脹相に1度殺されているのだ。
待機する呪術師たちはただ混乱するのみ。
「なあ悠仁。一応聞くけど他人だよな?」
「他人どころか1度殺されかけてるよ。」
「……東堂ともいいヤバいフェロモンでも出てんじゃねえのか?」
パンダは不思議でたまらなかった。東堂も虎杖のことを"ブラザー"と呼び、得体の知れないあの男も"弟"と口にしている。どう考えても虎杖から何かしら危険なフェロモンが出ているとしか考えられなかった。
「だがお陰で場が乱れた。この機に乗じるぞ。」
「ッスね!」
「まだ2機残ってる俺が前に出る。全員でかかれば隙くらいできるだろ。」
加茂、虎杖、パンダ。
3人は体制を整え呪力を込める。
どう動くべきかは今の状況から鑑みて計画を練ることは出来ない。だが加茂の言う通り乱れた今こそ勝機があるかめしれない。
「…………」
その時、ふと虎杖は洸を脳裏に思い浮かべた。
「ところでヒカルンは?」
「"寄るところがある"と」
「え?この状況で?マジで?」
「私に言われても困る」
洸と合流した京都校の生徒たち。どうやら洸はそう言い残して消えたらしい。
「……ヒカルン」
「まあそう不安がるな。洸の事だ、何か策があるんだろ。」
「…………」
さすが"あの五条先生の妹"
自由だと言うべきか、策があっての行動なのか……
「兎にも角にも……何としても獄門疆を奪い取るぞ!」
パンダは声を挙げ一気に呪力を両手拳に纏う。
そして2人の陽動となるために真っ先に行動した。
「
しかしそれは届かない
「"
裏梅が再び立ち塞がる。
「"霜凪"」
四方八方に広がる氷の術式。
とんでもない氷の波と吹雪がその場にいる呪術師に襲いかかった。
「((氷の術式!?しかも何てハイレベルな!))」
「((下手に動けば体が割れる!))」
完全に体の動きを封じ込められる加茂とパンダ。
どうやら無理して動けば体ごと崩れてしまうような危険な状況らしい。
呆気なく動きを封じ込められた面々たちを前に偽夏油は小首を傾げながらつまらなそうに息を吐いた。
「うーん…」
虎杖は獄門疆を手にする男を前に動けず苛立ちを見せる。目の前に元凶がいるのに、目の前に五条悟が封印された獄門疆があるのに――圧倒的力に為す術なく動くことが出来ない。
「ッ……くそ……!」
この人数でかかっても誰一人として動けない。自分の力の弱さに虎杖は苦しそうに顔を歪めた。
「裏梅、殺すなよ?
「全員生かす理由になるか?」
横に並ぶ偽夏油と裏梅。
"さっさと殺せばいいもの"とイライラと額に筋をうかべる裏梅。先程の戦闘で脹相に傷つけられた左手に呪力を込めると傷は全て塞がり何事も無かったように振る舞う。
「((反転術式!呪術のスケールが段違いだ。帰りてえ〜…))」
日下部はそれを前にガクッと首を落とす。
もうどう足掻いてもこの2人に楯突くことは不可能だ。とんでもない術式に反転術式も使うことが出来る。完全なるチート的存在にやる気さえも削がれる。
「この程度の氷!
「どの程度だ?」
「……!」
脹相が再び術式を展開する。しかし何も起こらない。僅かに氷に熱が走るのみ――
「うぉぉぉぉおぉおおおおおおお!!!」
「!?」
裏梅が脹相に意識を向けていたその時、氷を突き破った虎杖が裏梅に襲いかかる。
「貴様!!誰の肉体だと!?」
「((俺だけ氷結が甘かった。宿儺関連だな。))」
傷だらけの虎杖の体。しかし裏梅にとっては宿儺の体でもある。だからこそ虎杖にだけ氷結が甘かったらしい。
「おいお前!味方でいいんだな!?」
「違う!」
「あっ?」
「俺はお兄ちゃんだ」
先程の術式で氷から抜け出した脹相。そして虎杖が肩を並べる。
「真面目にやってくんねえかな!?」
「とりあえず 1回呼んでみてくれないか?お兄ちゃんと。」
「ふざけんなよ!」
シリアスな場面にほんの一瞬コメディな空気が流れる。しかし至って脹相は本気だ。それを前に虎杖は子供に叱りつけるような口調で声を上げたのだった。
そして次に、2人の上空に風が通り抜けた。
「
箒から放たれる強い力。氷につかまることなく密かに上空で待機していた西宮だった。
隙を着いた一撃。
しかしそれも軽々と男に払われる。
「クソっ!素手で払うとかヘコむんだけど!」
西宮は地上に降り 虎杖の元へと向かう。
「虎杖君!今動けるのは私たちだけ!」
西宮、虎杖、脹相。
他全員は氷に足止めされたままだ。
「五条洸が来るまで時間を稼ぐよ!」
「応!」
「…………」
次から次へと邪魔が入る。
なかなか折れない呪術師たちを前についに裏梅の怒りが頂点へと達する。
「…
手元から溢れる氷の呪力
「虎杖悠仁1人で事足りるでしょ!」
大きく鋭い恨みが籠った声が轟いた。
とんでもない覇気を前に虎杖達は一瞬怯む。
「氷凝呪法 "直瀑"!!」
膨大な呪力だった。
それは恐怖さえもおぼえるほど、強力で恐ろしく、身を竦むほどの力。
「くっ!」
再び強い冷気が現れる。
それは氷となり、雹となり、身をさくような刃と変化し――
「殺られ――」
「……ッ……?」
冷気に覆われた空間。
それはまるで屋外とは思えないほど。
……生きている?氷の刃に襲われたはずなのに――
「あっ……」
強い冷風を前に2つの影が現れた。
虎杖はその背中を前に大きく目を見開くと同時に例えられない安堵感に包まれる。
「"洸" なかなかいい動きをするね。」
「"九十九さん"こそ。」
凛とした女性の声がふたつ。
そして砂埃と冷気が風で飛ばされた時、全員の視界に2人の姿がハッキリと映った。
「"久しぶりだね 夏油くん。――どんな女が
特級呪術師――九十九由基
「"どうも 大根役者さん"」
東京都立呪術高等専門学校 2年担任
一級呪術師――五条洸
全員の士気が一気に高まった。
その存在感に身が震え、希望の光となる。
「九十九由基!五条洸!」
男は興奮に、声高らかに彼女らの名を呼んだのだった。
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