五条兄妹   作:鈴夢

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目には青葉、光る紅

 

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―――2017年12月24日 日没後

京都府 中心街 "烏丸通"―――

 

 

 

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「……もう……無理だ……」

「ぁあっ……あぁあああああ!!!」

「助けてぇぇぇぇええええ!」

 

 

 

術師達の悲鳴が轟く。

あまりの呪霊の多さに戦意喪失する者や、気が動転して狂ったように逃げ惑う者。

 

京都中心部は正に地獄絵図と化していた。

 

予め"この日"に備えていた呪術高専の術師達でも圧倒的な呪霊の力に圧倒されていたのだった。

 

 

「……ッ!」

 

 

そしてその時、怯える仲間たちの目の前に"一級術師"の姿が現れる。その人物の登場により、まわりの術師達は安堵の表情を浮かべるのだった。

 

 

「なっ……七海さん!」

 

 

呪術高専東京校かつOBの呪術師。"七海建人"。

 

サラリーマンのようなスーツに、独特な形の眼鏡、金髪の七三分けがトレードマーク。

 

 

 

 

「貴方たちは後方に下がってください。私が相手をします――」

 

 

迫り来る大量の高等呪霊達。しかし怯む様子もなく仲間たちを退避させ小さくため息を漏らすほどに余裕を持っていた。

男はその場でジャケットを脱ぎ捨てると背中に隠していた武器を手に取る。それは呪符を刀身に巻き付けた鉈のような珍しい武器。

 

 

「((大したことは無い。……一気に叩く。))」

 

 

術式"十劃呪法"の使い手。そして肉弾戦を主体の戦法をとる完全なパワー型。いとも簡単に呪霊達を倒していく姿は圧倒的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ものの数分。

辺りを囲んでいた呪霊を一掃したその時――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"貴方"はてっきり向こう(東京)かと思いましたが――」

 

武器を手にしたまま独り言のように呟く七海。

 

 

「五条さんの相手ができるのは貴方だけ。…"あなた方も"馬鹿じゃないはずです。何故こっち(京都)へ?」

 

「――自己判断だよ。"建人"。」

 

 

七海の背後に佇む低層ビルから女性の声が響き渡る。久しぶりに聞いた彼女の声……学生時代よりも若干大人びた声質に七海は珍しく眉を顰めた。

 

 

 

 

 

 

「ねえ"建人"、今日何の日か覚えてる?」

「…………」

「建人だけだよ、毎年律儀にメールくれてたのは。……今年はまだ来てないけどね?」

 

 

女性はビルの端に腰を下ろし、握っていたスマートフォンを懐へと収め、ぶらぶらと脚を揺らす。こちらに背を向けたままの七海を見下ろし、女性は微かに笑みを浮かべていた。

 

 

闇夜に光る緋眼。風に揺れる白銀の髪。黒い服を纏った――

 

 

「――ごめんね。」

 

 

 

 

 

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――2006年5月12日金曜日

午後12時15分――

 

"呪術高専東京校"

 

 

 

 

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「………………」

 

 

校舎の3階からじっと外を見下ろす洸。その片手には最近ハマっているコンビニの焼きそばパンが握られており、口に含んではモグモグとリズム良く噛み砕いては飲み込む。

 

「"洸"、まだそこで待ってるつもり?」

「…はい。」

「まだ帰ってこないんじゃない?」

「でも予定だと今日の朝には戻ってきている予定なんです。」

「時間通りに終わる任務なんて滅多にないよ?実際、五条も夏油も丸1日帰ってきてないし。半日予定の任務なのに。」

「……"硝子先輩"、多分それはサボってます、というか確実に。…あの2人なので――」

 

"確かに〜"と洸の横で煙草を片手に呑気に笑みを浮かべるのは2年の家入硝子。同じ背丈、同じ髪型、唯一髪色だけが違うオセロのようなコンビの女子生徒2人組。

 

洸が高専に入学して約1ヶ月。

家入とは名前で呼びあえるほどの仲に進展し、家入自身もやっと同性の"まともなやつ"が居てくれると心底喜んでいるとか。

 

 

「ゴールデンウィーク明けだしさ?呪霊も本領発揮してる訳だろうし、"私たち"も大忙しで本当に大迷惑。」

「……任務も呪霊の数も、普段の倍以上の多さに驚きです。」

「皆休み明けはストレス溜まるんだね。典型的。分かりやすくて笑っちゃうわ。」

「ですねー……」

 

のどかな午後、昼下がり。

2人はそれぞれの嗜好品を片手にぼんやりと空を見上げる。穏やかな風の音、鳥の鳴き声、葉と葉が擦れる音……静かな環境音しか聞こえない高専周辺。

 

このまま意識を手放してしまいそうな程に朗らかな陽気――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ん?」

「どうかしました?硝子せん――」

 

なにかの気配を感じ取った2人は互いに視線を向け合う。

 

そして"野郎共"の声が微かに鼓膜を叩くと洸は目を輝かせながら窓枠に身を乗り出した。

 

 

「あ!帰ってきた!」

「落ちるよ、ここ3階。」

「万が一落ちたら治してください、先輩。」

「全く。……ハイハイ。」

 

身を乗り出す洸の制服の裾を掴み呆れ顔の家入。しかし嬉しそうに天真爛漫な笑顔を零す可愛い後輩を目の前に不思議と自分も頬が綻んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「"建人〜!雄〜!"」

 

ブンブンと大きく手を振るう洸、そして名前を呼ぶ声が高専中に響き渡っていた。

 

その声に気づいた同級生2人組。

七海と灰原も応えるように3階の窓に視線を向けると反応を見せる。

 

 

「洸!!ただいま〜!」

「……戻りました。」

 

両手で大きく、体全身を使って喜びを表すかのように声を上げる灰原。それとは対称で軽く頭を下げ、微かに口元に笑みを零す七海。

 

 

ようやく待ちわびていた同級生2人が戻ってきた事に喜びを溢れさせたその時。七海と灰原を追いかけるようにドタバタと現れた2年の"クズども"も目に入る。

 

 

 

「おーい!俺達も帰還したんだけどーー!?俺の可愛い妹のファンサが欲しいな〜〜」

「硝子も洸ちゃんみたいに手を振ってくれると嬉しいんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れクズども。」

「絶対嫌。夏油先輩ならイイけど。」

 

いつも通り、冷酷な台詞と共に中指を立てる家入。そして塩対応の洸。

 

2年の3人にとってはそれが普通なのか任務帰りの野郎ふたりはゲラゲラと楽しそうに笑っているだけだった。

 

 

 

 

「よーし……アイツら怪我しまくってるし、私たちの出番だね。」

「はい。向かいましょう!」

 

2人は足並みを揃え、4人が待機しているであろう救護室へと駆け付けるのであった。

 

 

 

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「うわー……痛そう。」

「なんて事ないよ!!洸が治してくれるって分かってたし、大した事ない!」

「そういう問題じゃないよ……」

 

灰原の左脚に触れ、盛大なため息を漏らす洸。酷く腫れた状態から考えてかなりの痛みを感じているはずなのだが……

 

「ねえ洸。今日の夜さ、洸の部屋でマリパしない?七海がやった事ないらしくて。絶対楽しいのに!」

「雄、ちょっと集中させて――」

 

相変わらず呑気な灰原。だが何事もなく普段通りの彼の姿に洸はホッと安堵しているようにも見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おいオマエら。なんで七海と灰原と同時に帰ってきた?」

「え〜、そりゃたまたまだっての!」

「嘘つくな。怪我してる後輩を連れ回して遊び回ってたな?」

「……あー、私は止めたんだが。悟がどうしてもって……」

「あぁん!?傑!裏切ったな!?」

「裏切ったも何も……私は何も――」

 

 

"怪我をした後輩を連れ回して何やってるんだクソども。"――という言葉を吐く前に家入の拳が2人の頭上に振り落とされた。

 

そんな先輩3人組を横目に、1年の3人は呆れ笑いを浮かべる。

 

五条、夏油、家入――有能すぎる"大"先輩なのだが実際のところやってる事はヤバい。

喫煙に飲酒に(主に家入だが)、授業はサボるし、距離感バグりすぎ3人組。

 

だが後輩3人組はそんな先輩の姿に憧れを抱くこともしばしば……。いつかあの3人のように、自分たちも大先輩として呪術高専を引っ張ることが出来れば――

 

 

 

 

 

 

「はい、次は建人。」

「お願いします。」

「…右腕折れてるし……」

「大したことありません。骨折なんて日常茶飯事ですから。」

「でも痛いでしょ?……サクッと治すね。」

「………………」

 

 

漂渺とした、彼女の真面目な表情。七海は右隣に腰を下ろす洸の真剣な様子に何故か目を奪われる。

 

"五条家の長女"が自分と同期生なんて――正直なところどんな人物かも想像がつかなければ、おそらくどこか"歪んでいる"という先入観さえも持っていた。

 

自分とは違う世界を生きてきた人物。

初めて会った時は"予想通り、取っ付き難い"なんて心の奥底で思ったものだが。

 

 

 

「………どんな呪霊だったの?今回の。」

「低級でしたがやけに数が多かった――」

「…低級……」

 

"え?本気?"なんて今にでも聞こえてきそうな表情。

微かな冷笑に似た奇妙な笑みわ唇の端に浮かばせる洸のその顔はどことなく"五条悟"にも似ている。

 

七海はそれを目の前に、自身も眉を顰ませると気に食わないと言わんばかりの見下したような苦い顔を向けた。

 

 

「何ですか?"低級相手に骨折なんて馬鹿らしい"とでも?」

「私そんなこと言ってないでしょ?」

表情(かお)で分かります。明らかに今のは悪意があります。」

「ちっ、違うもん!」

「違わないです。」

 

「まあまあ!落ち着きなよ2人とも〜」

 

1ヶ月前からは想像できないほどの"関係性"。あの五条悟の妹がたった1ヶ月で周りと打ち解けている。

 

兄の悟もそうであったが意外と協調性もあり、夏油が以前話していた"普通の女の子"そのものだったのだ。

 

 

 

「あ!そうだ!僕と七海から洸にお土産があるんだ〜」

「……このタイミングで渡すのですか?」

「えー?別に良いでしょ?早く見せたいし!」

 

 

ガサガサと傍らに置かれていた紙袋を漁る灰原。中から取り出されたのは観光地の名称と和を感じさせる真っ赤な包装紙に包まれた箱。そして古風柄が入った小さな巾着。

 

包装紙には過激なフォントで記された商品名が記されていた。

 

 

 

「ジャーーン!!"激激激激激激辛!特製餡入り饅頭"!……と同じ味の羊羹!」

 

 

自信ありげに堂々と物を見せつける灰原にいち早く反応を見せたのは五条だった。

 

 

 

「オッエエエエエ〜…ナニソレ?"世界で洸しか食わなそうな"饅頭と羊羹。聞いただけで吐きそー、」

「うるさい、万年甘党お子様糖分オバケ。」

「んだと?お前こそ味覚がイカレてんだよ。こっち(高専)に来て変なもんばっか食ってるから余計にな。」

 

甘党男子、五条悟

辛党女子、五条洸

 

家柄の関係か、昔からジャンクで刺激的なものを口にしてこなかった兄妹は見事にこっち(高専)に来てから更に味覚が狂っていたのだった。

 

とくに異常なのが洸。

つい先日、七海と灰原を連れ都内の火鍋専門の飲食店に向かったのだが……

元々激辛の鍋に更に追い激辛の素を追加し、後に2人は寝込んだとか――

 

 

 

 

 

 

「それにしも地方任務の時。洸さんのお土産選びに時間が一番かかります。今回も新幹線を2本も見送りましたからね。」

「そうそう!なんせ甘いものは嫌いだし。辛いものってなるとあんまりいい物がなくて。せっかくだったら少しでも可愛いものとかがいいと思うし。」

 

 

「――なんかゴメン、2人とも。ていうか"それ"もあって遅くなったんだね……」

 

 

2人の台詞に弱りきった顔を浮かべ、ガクッと肩を落とす洸。"やれやれ"と露骨な表情でそれを見るも、心做しか彼女の様子に口元に弧を描く七海。"謝る事ないだろ!?"なんて彼女の肩を何度も叩く灰原。

 

3人の間に芽生え始めた絆。

 

そんな後輩たちの様子を先輩3人組は静かに見守る。

 

 

 

 

 

 

 

「――洸。変わったよねー…。」

「ああ、その通り。見ているこっちも微笑ましいよ。…ね?悟。」

 

 

 

 

 

「――ああ。……そうだな。」

 

 

家入と夏油の言葉に五条の表情が明るい期待に彩られていく。

 

"あんな洸の顔なんて見た事がない"――五条の青い瞳がサングラス越しに微かに光っていた。

 

 

 

 

脳裏に浮かぶのは屋敷で孤独だった時の妹の姿。誰にでも従順で(兄に従順だった事は無いが)泣くことも笑うことも躊躇し、感情を押し殺していたような"あの時"。

 

 

――今は違う。

 

 

 

 

 

「――じゃあ、今日は私の部屋で激辛ラーメン食べ比べね?」

「"じゃあ"って何なんですか?話の辻褄が合わな…」

「うん!そうしよう!!だから七海!すぐに報告書作成に取り掛かろう!」

「人の話を…」

「それで夜な夜なマリパして、明日は休みだし3人でそのまま買い物行かない?」

「賛成!!」

「……はぁ……」

 

 

暴走する2人。こつなったら止めることは不可能。

七海は片手で前髪を鷲掴みにするようにして頭を抱えるとため息を漏らす。怪我の痛みなどとっくに消えており、今は嵐のように喋る2人をどのようにして黙らせようかと思い悩んでいた。

 

 

 

 

 

「((――これが本当のお前なのか、…洸。))」

 

 

光り輝く青春の時。

轟く笑い声に満面の喜色。

 

輝く赤い瞳に…どうか幸せな時が映り続けることを願う。

 

 

 

 

 

 

 

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――同日 深夜3時過ぎ

学生寮 洸の部屋にて――

 

 

 

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さすがに朝までオール……は出来るわけなく。疲れ果てていた3人は洸の部屋で雑魚寝をしていた。

食べかけの菓子や"激辛ラーメン食べ比べ"の痕跡。

 

学生寮あるあるの光景はある意味青春を思わせる。

 

 

 

 

「…………?」

 

 

ふと、七海は気配に気づくと瞼を持ち上げた。左隣で間抜け面を見せつけながら眠る灰原が視界に入る。そして右隣の気配。それはゆっくりと離れていくと扉の開閉音と共に室内から消えたのだった。

 

 

「((……洸さん?))」

 

 

消えた気配を不審に思い、ゆっくりと体を起こす七海。右隣に居たはずの彼女はやはり出ていったようだ。投げ出されたタオルケットはまだ若干温かい。そして微かに水分を含んでいるかのような感触。

 

 

 

"――私、たまに寝付けなくて。酷い汗かいて起きたりするんだよね。なにかリラックスできるような快眠グッズとかあるかな?"

 

 

そんな台詞を口にしていた彼女。

微かに湿ったタオルケットは汗に違いない。……しかし室温は暑くもなければ寒くもなく適温。快適だ。

 

 

「…………」

 

 

灰原を起こさないようにそっと立ち上がる七海。そして近くに置いていた長袖のパーカーを手に取り、纏うと彼女を追うように七海も部屋から姿を消したのだった。

 

 

 

 

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高専内に1ヶ所だけ存在する自動販売機が立並ぶエリア。真っ暗闇の中に自動販売機の明るい照明が照らされると光に誘われた虫たちがほんの少しだけ飛び交っていた。

 

傍らに置かれている青いベンチ。かなりの年数が経っているのか色はくすんでおり、どこか懐かしささえ感じられる雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり。ここに居ましたね。」

「!?」

 

 

静かな低音の品位のある声。

その持ち主が闇夜から現れると少女は驚いたように肩を揺らし、反射的に顔を持ち上げた。

 

 

 

「……建人。」

「その腑抜けた顔は何です?」

「…………別に」

 

 

"明らかに何かある顔"

いつもの天真爛漫な無邪気な姿はそこにはなく、入学初日に感じていた陰を纏っているように見えた。まるで別の"五条洸"だった。

 

 

 

 

 

「洸さん。コーラ飲みます?」

 

七海はポケットから小銭を取り出すと自動販売機の前へと立つ。500円玉を1枚、投入口へと滑り入れるとまずは1本。受け取り口に缶が落下する音が周辺に響くと七海はそれを手に取った。

 

 

「え……?」

「要らないなら私だけ飲みます。」

「いる、飲む。」

「…………」

 

 

そしてもう1本。再び受け取り口に缶が落下し手を伸ばす。釣り銭を忘れることなく取り除くと赤い缶を2つ持ち洸の左隣へと腰を下ろした。

 

 

「ッ……冷た!」

「少しは目が冴えました?」

「…………あの人(五条)と同じようなことしないでよ……」

「五条さんと一緒にしないでください。」

「……ふふっ……」

「笑い事じゃありません。」

「ごめんごめん、建人。」

 

 

左頬に目が覚めるほどの冷たい感覚。以前の兄と同じ行動に目を細めるも間髪入れずに発された七海の言葉に思わず小さな笑みを零してしまった。

 

しかし赤い瞳は受け取った赤い缶に落とされたまま、七海に視線を向けることは無い。

洸は知られたくなかった、自分の暗い部分を、陰の部分を七海に見られたくなかったのだった。

 

心配されたくもないし、"やっぱり御三家のワケアリのお嬢さん"と思われたくもなかった。

 

とくに……初めてできた友達。七海と灰原には。

 

 

 

「そういえば明日、急遽五条さん達も来るみたいですよ?」

「……え?どういうこと……」

「"買い物"とやら。2年の3人も暇だからと、せっかく皆休みなら6人で遊びに――と。」

「え〜……悟兄も居るってこと……」

「何か不都合が?」

 

あの先輩たちと遊ぶのは別に嫌では無いのだが……色んな意味で悪目立ちするのだ。

五条はあのナリのせいですぐ逆ナンされるし、夏油はイカつい見た目から悪目立ちするし、家入に関しては……喫煙者だし……

 

 

他にも言いきれないがまだまだ理由はある。

 

 

 

「……そりゃ勿論!6人で遊ぶのも楽しいと思うんだけど……」

「?」

 

 

赤い瞳がこの時初めて七海へと向けられる。

 

闇の中で光るそれは不気味にも見えるはずなのだが洸を知る七海からすると"ただただ綺麗"だった。

 

 

 

「――私、七海と灰原の3人だけで過ごすのも好きなんだ。」

「……意外です。」

 

まさか彼女からそんな台詞が飛び出すなんて。今だけなのかは分からないが素直に物事を口にしたことに内心驚く。

 

 

「同い年の友達ができて…本当はめちゃくちゃ嬉しいの。今日みたいに夜な夜な皆でゲームしたり。雑魚寝して川の字になって眠って……休みの日はだらだら起きて、3人で出掛けて……」

「出かけるのはともかく、オールでゲームをするのは御免ですが。」

「ゴメンって!その代わり明日何か奢るから!」

「約束ですよ。その言葉忘れませんからね。」

 

 

唇の端の浮んだ笑みが、嘲るような陰りを浮かべる。灰原のようにヤンチャな笑顔を見せることはあまり無い七海。だけど、今はその静かな距離感に救われていた。

 

 

 

「建人。ありがとう。」

「何がです?」

「ありがと。」

「……はい。」

 

 

七海の優しい距離感が心地良い。

彼はどんな時でもある程度の距離を保ったまま深入りをしてくることは無い。たとえ"何か嫌なことがあった"んだろうと察していたとしてもそれに触れてくることは決して無い。

 

大きな深い傷に優しく手を添えるだけ。無理やり治そうともせず、ただただ柔く抱擁するだけ。

 

 

きっとそれが――彼なりの優しさなのだ。それが七海という人なのだ。

 

 

 

「――もうこんな時間です。それを飲んで少し散歩でもしたら私たちも寝ましょう。」

「うん。そうだね。」

 

 

缶の蓋を開け、ごくごくと飲み込む。

 

口の中に広がる甘さと、弾ける炭酸。何だか今だけ擽ったかった。

 

 

 

 

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――翌日 午前10時47分

渋谷 ハチ公前広場――

 

 

 

 

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「――ねぇ、場所指定してきたのは向こう(先輩達)なのに30分以上も現れなければ連絡もないってどういうこと。」

 

「そもそも待ち合わせ場所がここ(渋谷)という時点で怪しいとは思ってました。6人で出かけるなら高専から一緒に行けばいいものの……」

 

 

「多分あれだね!先輩達も夜な夜なゲームしててまだ寝てるとか!!」

 

 

「「…………」」

 

 

あの3人組は時間をすぎても現れなければ連絡ひとつ寄越さない。まあ予想はしていたが本当にその通りになるとは……

 

 

 

 

 

 

 

――更に20分後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんごめーーん。俺ら3人ともまさかの携帯充電し忘れてて、慌てて出てきたんだけど〜〜」

「遅れて悪かったね。」

「ねえ、後で良いから喫煙所行ってきていい?」

 

 

 

呑気に渋谷駅の改札口から現れた3人組。慌てた様子もなく、不思議と腹立たしさが湧き上がらない……これが慣れなのか?

 

 

「お疲れ様です!!先輩方!!」

 

「「…………」」

 

 

――いや、やっぱりムカつく。

七海と洸の表情は"無"だった。

 

 

 

 

「洸〜拗ねんなって?な?お詫びに兄ちゃんがなんでも好きなもん買ってやるから。」

「…………」

「ほら、お前さ!アレ欲しいって言ってただろ?セリーヌのハンドバッグ。」

「あとお財布も。夏服も欲しい。」

「分かった分かった。兄ちゃんに任せとけっての〜。」

 

 

白髪の兄妹が肩を並べて前を歩く。スクランブル交差点の信号待ち、五条兄妹他4人はどこか冷めた目付きで前を見据えた。

 

 

 

 

「「「この兄妹が色んな意味で一番狂ってる(わ)」」」

 

 

 

夏油、家入、灰原

……そしてその隣の七海。

 

コロコロと表情豊かに変わっていく洸の姿を静かな眼差しで見守るのだった。

 

 

 

 

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