超次々元ゲイム ネプテューヌRe;TRANSFORMATION 作:投稿参謀
ゲイムギョウ界は北方に位置する国、ルウィー。
その南西にある自然豊かなハイラノレ高原の上空を、一機のヘリコプターが六枚のメインローターを回転させて飛んでいた。
しかし一般に思い描かれるそれよりも非常に大きく、武骨だ。
それもそのはず、これはリーンボックスで運用されている世界最大の軍用輸送ヘリなのだ。
真っ黒な機体の先端には燃料給油のための針のようなパイプが伸びており、機体の後部には『4500X』という機体番号がペイントされている。
スタブウイングの下に燃料タンクをぶら下げて飛行する姿は、まるで空の怪物だ。
その怪物が目指す先には、ルウィーの軍事基地があった。
国境にも近いハイラノレ高原に位置するこの基地は、隣国プラネテューヌへの警戒と牽制のために古い城塞を利用して建てられたものだ。
もっとも兵士たちの主な仕事は隣国へと向かう、あるいはこちらに戻ってきた輸送業や旅行者の護衛だった。山野にモンスターが息づくゲイムギョウ界では、これも立派な兵士の役割である。
高い石壁に囲まれた敷地に、ルウィー軍で使用されるマストをプロペラに付け替えた木造の帆船のような飛空艇が何隻も着陸している。
基地の司令室は砦の天守閣をそのまま利用しており、奇妙な賓客を迎えていた所だった。
それは年端もいかない、ただし非常に魅力的な少女だ。
小柄な体躯に明るい茶色の髪を肩まで伸ばし、深い青色の目。胸元の空いたワンピースの上からファーの付いたコートを着て、大きな丸い帽子を被っている。
非常に整った容姿と沁み一つない白い肌もあって、どこか人形めいてすらいる。
その姿は筋肉質で背の高い軍人たちに囲まれていると、酷く場違いに見えた。
だが軍人たちは親と娘どころか下手すれば祖父と孫ほども年齢が離れているように見える彼女に対し、礼を尽くした態度を取っていた。
「……それで、あれ以降プラネテューヌの様子は?」
「代わりありません。相変わらず砲台はこちらを向き、戦闘機はいつでもスクランブルをかけられる状態のようです」
コンピューターに向かい合った兵士たちが雑然と仕事をする様子を眺めながらの少女の問いに、この基地の責任者である初老の司令官が恭しく答えた。
少女……視察に訪れたルウィーの女神、ブランは軽く息を吐く。
友好条約の式典で見せた姿と異なっているのは、女神は普段、人間の姿で生活しているためだ。
(厄介なことになったわね……)
数日前、式典の場に謎のロボットが落ちて着て、友好条約締結はお流れとなった。
真っ先に疑われたのはいずれかの国による騙し討ちだが、どの国も関係性を否定している。
次に疑われたのは条約に反対する勢力によるテロ行為で、現在各国がその線で捜査を始め、ロボット自体はプラネテューヌが解析している。
あのロボットの正体が何であれ、各国の間で緊張感が高まっていた。友好条約反対派も勢いづき、開戦の気運すら高まりつつある。
長年いがみ合っていたのだ。条約を快く思わない者はどこの国にもいる。ブラン自身、条約に懐疑的な部分を捨て切れていなかった。
「……兵士たちに何か変わったことは?」
「何分、じきに国に帰れると思っていた所にこれですので、どうしても士気は落ちています」
「そう……大変だと思うけど、気を抜かないでちょうだい」
「はい」
無感情ともとれる言葉に司令は慇懃に頷いた。
「それとホワイトハート様、一つ気になることが」
「なにかしら……」
「兵士たちの間で噂が広がっています。……シカピョンを見たと」
「シカピョンって……ああ、ウェンディゴのことね」
ウェンディゴとは、姿を見せずに人の後を追いかけまわしたり、囁いてきたりするストーカーのような伝説上の怪物のことだ。それが鹿のような姿をしているらしい……姿が見えないのに、何故分かるのか……ので『シカピョン』なる、ゆるキャラみたいな名前で呼ばれるようになったのだ。
司令に曰く、基地の周辺でのそれを見たという兵士がいるのだという。
『俺は怖い。何かが俺たちを見ている。人間ではない、モンスターでもない。俺たちは全員殺される……!』
『奴を見た……何かでカモフラージュしていた。目だけが光っていた! ライトのような……!』
『全ては嘘である。全ては隠蔽されている。全ては……シカピョンなのだ。備えよう……』
恐慌状態に陥った兵士の発言記録を見ながら、ブランは首を傾げていた。
「おそらくはモンスターの類でしょうが、何分こんな状況です。何かあっては事かと調査しておりますが、一向に正体を掴めず……」
「……そうね、念のため調査を続けてちょうだい」
話半分に聞きながらも、ブランは指示を出す。
彼女自身としては、シカピョンの存在などまったく信じていなかった。見た目こそあどけないが、ベッドの下の怪物を信じるような歳ではないのだ……それが実害のあるモンスターでない限りは。
「……司令、よろしいでしょうか?」
その時、オペレーターの一人が緊張した面持ちで声をかけてきた。
司令官にチラリと目配せされて、ブランは気にしないでと軽く頷いた。
「なんだ?」
「未確認機が接近。北東の方角、16㎞先です」
報告を受けた司令は女神が視察に来ている時に問題が起きた己の不運を呪いつつも、事務的に仕事に移った。
「未確認機に告ぐ。ここはルウィーの領空である。確認信号を発信し退去せよ」
通信機のマイクの前に立ち警告を発しっても、眼前のレーダーに映る機影は進路を変える様子はない。
ブランは自国の軍人たちのキビキビとした動きを概ね満足そうに見ていたが、この事態に苛立ちも感じていた。
司令はすぐにオペレーターに次の指示を出した。
「すぐに飛空艇を発進させ、未確認機をインターセプトさせろ」
やがて日も暮れるころ、件のヘリが飛空艇に先導されて基地上空に飛来した。
指揮所で仁王立ちするブランは、それを見上げて目つきを鋭くする。
(リーンボックスのヘリ……ベールの奴、何を考えてやがる?)
かの国の女神を思い出し顔をしかめていると、服の内側にしまっていたスマートフォンが振動した。
こんな時に、と思いつつも取り出して画面を見れば、相手は自身の妹たちだった。
「……ロム、ラム?」
通話ボタンを押すと、画面にブランによく似た容貌だが、幼い少女が二人現れた。一人は髪を腰まで伸ばし、もう一人は肩で切りそろえている。
髪の長い方が双子の妹のラムで、短い方が姉のロムだ。
彼女たちはいつか次代の女神となる、女神候補生である。
『お姉ちゃん、やっとでたー!』
「ラム、今は仕事中よ……」
『だってー、お姉ちゃんばっかりお出かけしてズルいんだもん! わたしもお出かけしたーい!!』
『お出かけ、したい(コクコク)』
活発なラムが騒がしく文句を言えば、大人しいロムもそれに同調する。
女神候補生の中でも特に幼いこの双子は、精神年齢も見た目相応だった。
『せっかく、ネプギアちゃんたちと遊べると思ったのに……(ウルウル)』
『ほんと、あのロボットのせいなんだから!』
どうやら妹たちは、プラネテューヌの女神候補生と遊べなくて不満が溜まっているようだ。何かと張り合っている女神たちに対し、女神候補生たちはいつの間にやら友人同士になっていた。
「……帰ったら、わたしが遊んであげるわ。だから、今は大人しくしていて」
『ホント?』
「ええ、本当よ。約束するわ……」
『約束だか…ね? あれ……?』
ようやく双子を説得できそうだった時、不意に画面にノイズが走り、聞こえてくる声が不明瞭になった。
『お姉…ゃん? な…か、変…』
「ロム、ラム……?」
「ホワイトハート様、お話し中に失礼します」
司令の声に振り向くと、彼は窓の外を視線で指した。
例のヘリがゆっくりと着陸するところだった。
「どうやら、未確認機から妨害電波が発せられているようです」
「…………」
妹たちとの会話を邪魔されて、ただでさえ良くなかった機嫌がさらに悪くなる。
ルウィー特有の古風な武装で身を包んだ兵士に囲まれるヘリを睨み、ブランは司令が差し出したマイクを半ばひったくるようにして受け取り、声を上げた。
『未確認機のパイロット! すぐにエンジンを切って降りてきやがれ!』
これまでとは違う、ドスの効いた声に乱暴な口調。これもまた女神ブランの一面である。
だが女神直々の警告を受けても、操縦席のパイロットは席を離れる様子がない。その姿に再生に失敗した映像のようにノイズが走ったが、一瞬のことだったので誰も気づかなかった。
「そうかよ、そっちがその気なら……!」
ブランは司令室のバルコニーに出ると、体に力を籠める。
するとその身体が薄青色の光に包まれ、それが晴れた時、彼女の姿は大きく変わっていた。
薄茶の髪は氷を思わせる短い水色の髪になり、その身を包むのは白いレオタードのような独特の衣装。そして背中には四角系の光の翼……プロセッサユニットがある。
アイスブルーから真紅へと色を変えた瞳には、円と直線を組み合わせた所謂電源マークのような紋章が浮かび上がっている。
これがブランの女神ホワイトハートとしての姿だ。
普段の彼女の印象が静かに振る粉雪だとすれば、今の彼女には荒れ狂う吹雪のような激しい印象があった。
顕現した女神の美しさに兵士たちは息を飲む。こんな時でなければ拝み倒していただろう。
変身を終えたブランが手を翳すと、電子的な発光の共に彼女の身の丈ほどもある片刃の戦斧が出現した。刃に当たる部分がエネルギーで発光しており、見るからに物々しい。
「ルウィーの守護女神ホワイトハートの名において、もう一度命じる! すぐに降りてきやがれ! さもなけりゃ攻撃するぞ!!」
戦斧をヘリに向け、ブランは高らかに命じる。
いかに他所の国の人間と言えど……あるいはモンスターや他の何かと言えど……ある程度以上の知能を持つ者ならば、変身した女神の威光は効果があるはずだった。
だが、このヘリは……ヘリの姿をした何かはその限りではなかった。
パイロットの姿が消え、機体からギゴガゴという奇妙な音がした。
続いてローターが昆虫の羽根のように畳まれたのを皮切りに、機体全体が細かく寸断され、パーツが移動し組み変わっていく。
「撃て!」
兵士たちが上官の号令のもと銃撃を始めるが、ヘリはものともせずに変形を終え、二本の脚で立ち上がった。
「なんだよ、こりゃあ……」
ブランはその光景に圧倒されていた。
ゲイムギョウ界に奇妙奇天烈な存在は多々いれど、こんな物は見たことがない!
現れたのは畳まれたメインローターを背負った概ね人型のロボットだった。
だが下半身に比べ上半身が肥大したように大きく、何処か髭面の壮年男性を思わせる厳めしい顔のある頭部も半ば胴体に埋もれており、人型ではあっても人間型とは言い難い。
そのロボットの左腕にある砲から何か光弾のような物が飛び出したかと思うと、次いで放射状に強烈なエネルギーの波が広がった。
「ッ! うわあああッ!!」
咄嗟にブランは自身の正面に円形の障壁を張り、エネルギー波を防ごうとする。だがその強烈な威力に、障壁はアッサリと限界を迎えて掻き消え女神の身体が弾き飛ばされる。
「……やりやがったな!」
空中で体勢を立て直したブランは、頭を振って意識をはっきりさせるが、視界の隅に先ほどの攻撃に巻き込まれた兵士たちが映った。
ゲイムギョウ界人類特有の頑丈さ故に死にこそ至っていないが、それでも立つこともままならず地に伏している。
迷わず、ホワイトハートは彼等のもとに舞い降りた。
「お前ら、大丈夫か!」
「ほ、ホワイトハート様……も、申し訳……」
「いいから、喋るんじゃねえ! 衛生兵!」
一方で怪ロボットは自分の攻撃で大したダメージを受けていないブランに少し驚いたようだが、すぐに次の攻撃に移った。さきほどのエネルギー波攻撃が連続してブランと周囲に襲い掛る。
一撃ごとに飛行艇が粉砕され、基地が破壊されていく。ルウィー軍の兵士たちが……ブランの守るべき民が、傷ついていく。
「ホワイトハート様を御守りしろ!! ぐわあああ!!」
「お前たちは下がってろ! 下がれ!! よくも……!」
ブランは怒りに任せて怪ロボットに斬りかかろうとするが、一方のロボットは鬱陶し気に腕を上げる。すると、どこからか無数の影が現れた。
赤く光るモノアイを備えた空飛ぶ球体のビット型に、六枚の翼を持った下向きの漏斗型の浮遊マシン型。横倒しのドラム缶に単眼と手足を取り付けたような小屋ほどもある体躯のガーダー型、それと同じほどの大きさでより人型に近く機銃を手に持ったソルジャー型など、いずれもゲイムギョウ界でよく見られるマシン系と呼ばれるモンスターたちだ。
無数のモンスターたちは怪ロボットを守るかのようにブランの前に立ちふさがる。
「モンスター……あいつが操ってやがるのか!!」
モノアイからビームを撃って攻撃するモンスターたちだが、白い女神はそれを物ともしない。その幼い姿からは想像もできない膂力で戦斧が振るわれるたび、モンスターが叩き斬られ、細かい六角形の光を残して消滅していく。
魔法の国ルウィーの女神ブランは、ゴッリゴリのインファイターであった。
「くそ、数が多い!!」
だが怪ロボットとしてもモンスターたちは端から捨て駒であるらしく、彼らがブランの相手をしている間に、ヘリロボットは基地の屋根を引っぺがして屋内へと手を突っ込むと、そこに置かれていた基地のメインコンピューターのサーバーを掴んだ。
この時、基地にいた兵士の目には、各ディスプレイに乱雑にファイルが浮かんでは消えていくのが映った。
データを読み取られているのだ。
『○○月〇日、ホワイトハート様と他女神との戦いは、パープルハートの敗北に……』
『友好条約の式典に落下してきた未確認機の情報は、プラネテューヌからの連絡があり次第……』
『航路を外れた定期船は、国際NPO団体『七賢人』が救助……』
そこで、兵士の一人がサーバーの電源を落とした。ケーブルを斧で斬ることで、回線を物理的に切断したのだ。
怪ロボットはその顔を不機嫌そうに歪めると、メインコンピューターから手を離して振り返り、金属音のような声を上げた。
(こいつ、喋りやがった……?)
ブランはモンスターを叩き潰しながらも、それを聞いた。
言葉は分からないがモンスターたちが離れていくのを見るに、それは『引き上げ』を意味していたようだ。
「逃げる気か! そうはさせ……!!」
ゾクリと殺気にも似た嫌な感覚がブランの背筋を走った。
ハッと視線を走らせると、怪ロボットは左腕にある大砲がこれまでになく強く発光している。
同時に怪ロボットの背中の一部……ヘリのローターを回すためのエンジンの一つが勢いよく分離すると、ギゴガゴと音を立てて変形しながら地面に落ちる。
一瞬だけ巨大な虫のような姿が見えたが、詳しい姿を確認する間もなくそいつは地面の下に潜っていった。
相手が何をする気か悟ったブランは大声で叫ぶ。
「ッ!! 全員、わたしの後ろに……!!」
いやそれでは間に合わない!
一か八か、ブランは自分のすぐ後ろに障壁を発生させ、それを蹴ることで勢いを付けて怪ロボットに向け、まるで光の矢のような速さで突っ込む。
だがそれでもなお、相手の方が早い。
怪ロボットがニヤリと顔を歪めた……その時だ。
一瞬、赤い影が横切ったかと思うと怪ロボットの体制が崩れ金属の顔が驚愕に染まった。
「テンツェリン……トランペ!!」
渾身の一撃が怪ロボットに届くのと、怪ロボットがエネルギー波を発射したのは、ほぼ同時だった。
二つのエネルギーがぶつかり合って眩い光が辺りを包み、一拍置いてから爆音が轟いた。
女神ホワイトハートの身体が光に包まれながら宙を舞い、人間の姿に戻って地面に落ちる。
ダメージの余り変身が解けてしまったブランだが、体中を走る激痛を堪えながらも立ち上がろうとする。
「はあ……はあ……どうだ、ざまあ見やがれ!」
爆炎の向こうでは、あちらもダメージを負ったらしい怪ロボットが、傷ついた左腕を庇いながら立ち上がった。
「まだ動けんのか……」
「おのれ、下等な肉ケラが……よくもやってくれた!!」
「ッ!」
怪ロボットは赤い目をギラギラと光らせ、ブランに向かって咆哮を上げた。それは顔同様に壮年の男性を思わせる野太い声だった。
「この傷の借りは、いずれ返すぞ……! 貴様にもだ、臆病者のオートボットめ!! どこぞに隠れてコソコソとこちらを見ているのだろう!!」
捨て台詞と共に逆再生するようにヘリに変形するや、怪ロボットはローターを回転させて飛び立っていった。
「ホワイトハート様、ご無事ですか!!」
膝を突きながらも飛び去るヘリを見上げるブランに、司令官や兵士たちが駆け寄ってきた。
「わたしなら大丈夫……それより、すぐに教会に救援、を……」
ブランは立ち上がろうとしながらも、目の前が暗くなっていくのを感じていた。傾いていく視界に、破壊され燃え盛る基地と、傷ついた兵士たちが映った。
意識を失い、地面に倒れる寸前に頭に浮かんだのは、あのロボットと裏で糸を引いている相手に、必ずこの報いを受けさせるということ。
そして、あのロボットが体勢を崩した時に一瞬見えた影だった。
(あれはウェンディゴ……シカピョン? いえ、あれは……)
女神ゆえの動体視力だからこそ見えたその姿は、真紅に染め上げられた曲線的な体のロボットだった。
青い目のそれは、一瞬だけ何処からともなく現れヘリロボットを両腕の刃で斬りつけると、空気に融けるようにして姿を消したのだった。
あたかも、
この小説では、ミラージュはマイケル・ベイ版の真っ赤な彼となります。
以降は書き溜めした物が尽きるまで、一日一話更新を予定しています。