超次々元ゲイム ネプテューヌRe;TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第2話 リーンボックスの異変(ハッキング)

 青い空を、プラネテューヌに向け一機の旅客機が行く。

 このゲイムギョウ界において主な空の移動手段は飛空艇であるが、これはジャンボジェット機だった。

 それもただのジャンボジェットではない。ゲイムギョウ界は南の海に浮かぶ国、リーンボックスの女神専用機である。

 

 その機内には豪華な座席やラウンジがあり、乗客が快適に過ごすことができるようになっていた。

 中でも一番豪華な個室は、もちろんリーンボックスの女神であるグリーンハートのための物だ。

 輝くようなハニーブロンドの髪を腰まで伸ばし、大きな胸と細い腰というメリハリの利いた体を緑と白を基調としたドレスで包む。誰もが見惚れるような、その美貌。

 だが眼前に置かれた通信端末を見つめる青い瞳は憂いを帯びていた。

 

「ルウィーの軍事基地が襲撃された、と言うのは確かなんですの?」

『はい、お姉さま。詳しい状況はまだ不明ですが、我がリーンボックスが誇る特命課が掴んだ情報です。間違いありません』

 

 端末に映っているのは、グリーンハートことベールによく似た意匠の黒い服を着込んだ薄緑の髪の女性だった。

 青白い肌と赤い目が、いかにも病弱そうに見えるが、その表情は意志の強さを感じさせた。

 

「いったい誰がそのような……」

『分かりません。ルウィーも混乱しているようで……』

「チカ、引き続き情報を集めてくださいまし。……他の国の動きにも注意を」

『はい、お姉さま! アタクシにお任せください!』

 

 自らを姉と慕う教祖、箱崎チカとの通信を終えたベールは、息を吐いて紅茶を一口含む。

 香り豊かな紅茶も、今のベールの憂鬱な気持ちを癒してはくれなかった。

 

 せっかく友好条約を結ぶところまでこぎつけたと言うのに、この先どうなってしまうのか。

 こんな調子では、大好きなゲームをすることもできない。友好条約締結の暁には、プラネテューヌで行われる年に二度の祭典にも大手を振るって行けると思っていたのに。

 

「……あら?」

 

 ふと端末の画面を見ると、チカから通信が入っていた。さっき話したばかりだと言うのに、何かあったのだろうか。

 

「チカ、どうしましたの?」

『サプラ~イズ!』

 

 だが端末から聞こえてきた声は、やや低めの男性の声だった。明らかに教祖ではない相手が通信してきたことにベールは困惑する。

 画面には姿は映らず『SOUNDONLY』とだけ表示されていた。

 

「あなたはどなたですの? なぜこの回線に……」

『ちょっとした手品さ。それより初めまして、お美しい女神様。俺は……そうだな、宇宙の彼方からやってきた、輝く(スター)ってとこだ』

 

 お道化た調子の上に何処かキザな口調に、ベールは顔をしかめる。

 画面に目をやれば、通信相手を示す番号が文字化けしたようになっていた。

 

「まあ、それはそれはようこそゲイムギョウ界へ。いきなり回線をハッキングだなんて、悪戯にしては度が過ぎていますわね。あなたの星には礼儀作法はないのかしら?」

『はっはっは、こいつは手厳しい……おっと、逆探知しようだなんて思うなよ。無駄に終わるぜ』

 

 端末に仕込まれた逆探知ツールを起動させようとしたベールは、ピタリと手を止めた。この端末にハッキングしてきたことといい、油断ならない相手のようだ。

 

「それで、どんな御用でしょうか? わたくし、これでも忙しい身でしてよ」

『君と二人きりで話したくてね。女神様の素敵な声を聞けただけでも、悪戯の甲斐があった』

 

 口説くかのような甘い言葉と口調。

 

『まずは挨拶替わりにちょっとした占いをば。あと10秒で番号を借りた君の部下から通信が入る』

「あらまあ、それは素敵な占いで……」

 

 言い終わるより早く、今度もまたチカから通信が入った。相手の言葉が終わってから、きっかり10秒だ。

 

『さあ、出てみてくれ』

「………チカ、どうかしましたの?」

『失礼します、お姉さま!! 緊急事態です!!』

 

 回線を開いてみれば血相を変えたチカが映った。

 

『教会のメインコンピューターがハッキングを受けています! ウイルスの転送と同時に凄まじいスピードで情報が抜き取られていますわ!! とても対応しきれません!!』

「な!?」

 

 ヒュウと口笛を吹くような音がSOUNDONLYのウィンドウから聞こえた。

 

「……これは、あなたの仕業ですの?」

『お、お姉さま? 何を言って……』

『いやいや、違う。俺なんかよりもっと質の悪い奴らの仕業さ……さて女神様、全回線の切断をお勧めするぜ。このままだと全てのデータが盗まれる』

『あ、あなた誰なの!?』

 

 男の声に驚愕するチカだが、ベールはと言うと少しだけ考えてから決断を下した。

 

「チカ……今は彼の言う通りに、全サーバーの回線を切りなさい」

『お、お姉さま!?』

「お急ぎなさい」

『……分かりました。……全サーバーの回線を切断!!』

 

 短く、しかし断固とした口調で言われ、チカは画面の向こうで部下に指示を飛ばす。

 

『さて、これで一安心……ってワケじゃないのは分かってるだろう? 教祖のお嬢さん。女神様にさらなる報告をどうぞ。きっと驚くぜ』

『ちょっと! なんであなたが指図を……』

「チカ、報告を」

 

 ベールは短く先を促す。

 チカは状況が飲み込めずにいたが、敬愛する女神に言われて先を続けた。

 

『な、なんとかハッキングされている場所を特定しましたが、その場所が……』

「どこですの?」

()()()()!! お姉さまの乗られている、女神専用機の中からハッキングされているんです!!』

 

  *  *  *

 

 それはずっと息を潜めていた。

 愚かな人間どもを欺くのは、容易いことだ。

 

 今どき少し古臭いラジカセの姿に身をやつし、人間どもの隙を突いて移動する。

 やがて、機内のサーバーに接触した彼は、ギゴガゴと音を立てて立ち上がると、USBハブに自分の爪を突き刺した。

 国の中枢部のメインコンピューターにアクセスするとセキュリティを難なく突破し、ウイルスを流しつつ、情報を読み取っていく。

 ほとんどはゲームやら何やらの無駄な情報ばかりだが、中には重要な情報もあった。中でも彼の興味を引いたのは、あるNPO団体についてだった。

 

『七賢人』

 

 各地に残る遺跡や歴史的遺物の発掘と保護を目的としたこの団体、リーンボックスの先代教祖も関わっているらしいが、しかし探るとどうにも臭い。

 この団体に目的の物の手がかりがあるのではと思い、さらに情報を得ようとして……突然回線が切断され、データの受信が途切れた。

 

 怒りの余り甲高い声を上げるが、そこで飛行機の高度が下がっていること気が付いた。どうやら最寄りの空港……プラネテューヌのハネダシティ空港に着陸するつもりのようだ。

 機体が完全に停止すると、この部屋に入ってくる気配に気が付き、すぐさま体を変形させて隠れる。

 

 上階からのエレベーターから降りてきたのは、緑の衣装の金髪女……メガミだ。肉ケラの癖に支配者を気取る愚かな奴ら。

 だがその戦闘能力は侮れない。ここはやり過ごそう……。

 

 

 

 

 フロアに足を踏み入れたベールは、手に槍を召喚して油断なく辺りを見回す。

 

「……ここにハッカーが? 姿が見えませんが」

『いや、いるぜ……確実にな』

 

 服に忍ばせた携帯端末に接続された骨伝導マイクで自称『スター』の声が伝わる。

 

「心の目でも見ろと?」

『そんな曖昧な話じゃない。ただ、違和感を追えばいい』

「違和感?」

『この場にあって不自然な物を見つけるんだ。どんな些細なことでも見逃すな……』

 

 今までのふざけた調子が消えた彼の声は、ゾクリとするほどに冷たく鋭かった。

 その言葉を受けて辺りを見回すと、ふと目に留まったのは、サーバーの下に置かれたラジカセだった。こんな所にあるのもそうだが、今どきラジカセとは時代錯誤だ。

 

「…………」

 

 槍の穂先を、ゆっくりとラジカセに近づけていく。

 先端が、スイッチに触れようとした時、突然スピーカーから音楽が流れだした。

 リーンボックスが誇る歌姫、5pb.ちゃんのデビューシングルである。

 

『危ない!!』

 

 一瞬、呆気に取られたベールだったが、次の瞬間には携帯端末からの声で正気に戻り、障壁を張って弾丸を防いだ。

 ラジカセの一部に亀裂ができ、そこから銃口が顔を出している。

 

 ギゴガゴと音を立てて、ラジカセはどんどんと姿を変えていく。

 蛇のような長い首を伸ばし、赤い目をギョロリと見開き、赤い羽根とジャイロのある翼を大きく広げる。

 

 その姿を一言で表すなら、機械仕掛けの鳥だ。

 

「これは……いったい!?」

『レーザービーク……やっぱりお前か!』

 

 機械鳥は甲高い鳴き声を上げると、翼の付け根にある二丁の銃口をこちらに向ける。

 咄嗟に再び障壁を発生させると、銃弾の雨が降り注いだが、それも牽制に過ぎないらしく機械鳥は翼を羽ばたかせて部屋の奥へ飛び去った。

 

「待ちなさい!」

 

 機械鳥はフロアの窓に向けて銃弾を撃ち込む。

 頑丈なはずなのにアッサリと砕け散った窓から、外に飛び出してそのまま飛び去っていく。

 この小さな窓ではベールが通り抜けることが出来ないだろうという咄嗟の判断のようだが、そのベールの判断も早かった。

 

 その身体が光に包まれ、彼女の姿が変わる。

 身体を包むのは白いビキニのような衣装。

 髪は明るい緑色のポニーテール、明るい紫の瞳には円と線を重ねた紋章が浮かぶ。

 そして背中には菱形に輝く六枚の光の翼。

 

「女神グリーンハート、変身完了」

 

 凛とした美貌のこの姿こそ、ベールの女神としての姿だ。

 手に長槍を召喚した彼女がそれを数度振るうと、ジェット機の壁が紙のように切れて大穴が開く。

 

「さあ、行きますわよ!!」

 

 そしてそのまま、勢いを付けて穴から飛び出すと機械鳥の後を追った。

 雲を突き抜け、そのまますでに小さな点のようになっている敵影を捕える。このままいけば追いつけそうだ。

 

『なあ、一つ疑問なんだが』

「なんですの? 申し訳ありませんが、話なら後で……」

『何故、さっき飛行機を着陸させたんだ? あの場合、飛んだままなら敵の逃げ場がなかったはず……実際には敵は飛べたが、分かってたワケじゃないだろう』

「あの場でわたくしが戦えば、飛行機が墜落してしまいますわ」

『君なら飛んで逃げられる』

「……本気で言っていますの?」

 

 思わず、声に侮蔑が混じる。

 

「あの機に、どれだけの人間が乗っていたと? それに街にでも墜ちたら、どれだけの被害が出るか……」

『……くく、はは!』

 

 そこで、通信越しの声が笑った。

 愉快でたまらないと言う声だ。

 

「なにか、おかしなことがありまして?」

『いやいや済まない! 試したつもりだったが、こうも真っすぐに裏表のない言葉を返されると……ああ、()を思い出す!』

 

 この口調からするに、さっきの疑問云々はこちらの人格を測るためのブラフか。しかし、そんなに笑われるようなことを言っただろうか。

 

「その()とやらは、あなたの恋人か何かでして?」

『似て非なる、かな? 恋慕ではないが敬愛と忠節を捧げた相手さ』

 

 冗談めかした言葉に、冗談で返された。いや、その口振りには酷く重い感情が込められているのが感じ取れて、こんな時だがベールはちょっとワクワクする。

 

 彼女は、BLを嗜んでいた。

 

『それより……! 三時の方向、砲撃だ!!』

「ッ!」

 

 飛来した砲弾をよけると、さらにミサイルが飛んでくる。

 

「どこから……?」

 

 ミサイルが爆発し、巻き起こる爆炎の中で、しかしそれでもベールは地上に目をやるが、敵の姿は見えず機械鳥の姿も見失ってしまった。

 

『今の砲撃は、ブロウルの野郎か……!!』

「それっていったい……!」

 

 声に聞くよりも早く、次弾が飛んできた。無暗に撃っているのではなく、正確にこちらを狙っている。

 

「レイニーラトナピュラ!!」

 

 オーラを纏った連続突きでミサイルを撃ち落すも、このままではジリ貧だ。

 

「やっかいな!」

『……女神様、ここは俺が何とかする。君は戻れ』

「何を言っていますの?」

『その代わりといっちゃなんだが、俺と一つ取引してくれ』

「……!」

 

 どうやら、この状況にいよいよ彼も本題に入るつもりのようだ。

 危機に陥った相手を助け、取り入る。機械鳥や砲撃手とグルとまではいかないが、この状況を利用しようと言うのだろう。

 

「内容次第、としておきましょうか」

 

 だがそうはいかない。女神としての誇りと責任が、それを許さない。

 

『それなら……もし直接顔を合わせることがあれば、その時は俺と一曲踊ってほしい』

「は……?」

 

 こんな状況なのに、思わず呆気に取られた。

 

「そ、それが取引内容ですの? こんな状況で言うのが?」

『俺だってさっきまではまた別のことをお願いしようと思ってたんだけどな。こっちの方がいいって思ったのさ。……で、返答はいかに?』

「それは……」

 

 狙いの正確さは、さらに増していく。

 砲弾がすぐ脇をかすめ、危うく直撃するところだった。

 

「わかりましたわ。もし、次に出合うことがあれば! その時には、一切合切を説明してくださいまし!!」

『確かに約束したぜ、レディ』

 

 

 

 

 

 女神ベールが砲撃を受けている地点から、かなりの距離がある丘の上。そこに一台の戦車が陣取っていた。

 緑を基調とした迷彩柄の、リーンボックスの主力戦車である。だが砲塔の上には二門の機関砲からなる副砲塔と、四連装のミサイルランチャーが二門。さらに車体フロントには地雷除去用の(プラウ)と、全体をゴテゴテと武装していた。

 

 その戦車は、遥か空の彼方の小さな目標……ベールに向けて砲撃を続けていた。

 砲が火を噴き、爆音が轟くが、それを聞く者はいない……否。

 

 緑の丘を、猛スピードで昇ってくる影がある。

 

 それは銀色の自動車だった。

 

 2ドア2シートのロードスターで、車体には角という物が全く無く、故に車体後部のリアウィングが目立つ。

 ソルスティスと呼ばれる、高級な車種だ。

 

 そのロードスターはまったくスピードを落とさずに砲撃を続ける戦車に突っ込む。あわや衝突、ということろでソルスティスはギゴガゴと音を立てながら姿を変える。

 

「ディセプティコンの野郎め!!」

 

 ソルスティスから変形したロボットは戦車の砲身に飛び付くと、車体の上に乗る。

 スマートな銀色の身体に、胸にはラジエーターグリルやヘッドライト、背中にはリアウィングとテールランプ、肩と足首にはタイヤ。よくよく見れば、腕の先にもヘッドライトの一部が光っている。

 頭部には猫耳を思わせる突起があり、目はバイザーに覆われていた。

 

 そのまま砲身をへし折ろうとするロボットだが、戦車もまたギゴガゴと音を立てながら立ち上がった。

 ズングリとした体つきに、四角い頭部。右腕に四連装の機関砲、左腕には二枚刃の爪状ブレードとガトリング、両肩のミサイル砲、さらに背中には副砲。そして腰だめに主砲と、戦車の姿の時以上に全身が武器だらけだ。

 戦車ロボットは自らにしがみ付いたソルスティス・ロボの身体を掴んで放り投げるも、銀色のロボットは危うげなく受け身を取ってすぐさま立ち上がり、銃と一体化した丸盾を構えた。

 

「ジャズ、ジャズ、ジャァァズ!」

 

 甲高い鳴き声と共に機械鳥が舞い降り、戦車ロボの肩に止まった。

 

「この出来損ないのイカレサウンドがよぉ! 性懲りもなく俺らの邪魔しようってのか? 俺たちの行く先に、残骸を晒さねえと気が済まねえのか?」

 

 開いた嘴から漏れたのは、ネットリとした男の声だった。

 ジャズと呼ばれた銀色のロボットは、露出した口元にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「生憎と美女とダンスの約束をしたばかりなんでね。スクラップは御免被る」

 

 彼のセンサーは、すでに女神ベールが離れていくのを確認していた。当面の目的は果たした。後は生き残るのみ。

 

「ほざけよ! やっちまえ、ブロウル!!」

「応よ!!」

 

 機械鳥の声に合わせ、戦車ロボットの武装が一斉に火を噴く。

 弾丸が、砲弾が、ミサイルが、銀色のロボットに襲い掛かる。

 

 爆炎の中、銀色のロボットはニヤリと笑うと、戦車ロボットに向かっていった。

 




この作品のベールさんとジャズは、それなりに『黒い』こともできる大人な人たち、ということになっています。
それでも人の良さや正義感を捨てられないのが、女神でありオートボットである所以。
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