超次々元ゲイム ネプテューヌRe;TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第3話 ラステイションの歯の妖精(アイアンハイド)

 ある夜のこと。 

 ゲイムギョウ界は東に位置する国、ラステイション。

 勤勉な国民性で知られるこの国も、深夜ともなれば寝静まり街の灯りも消える。

 

 それは戦艦の艦橋を彷彿とさせる外観のこの建物、国の中枢たる教会も例外ではない。

 だが夜空に一つの流れ星が走ると、大気圏で燃え尽きることなく隕石となって教会の敷地内にある池に落下した。

 轟音と共に地面が揺れ、隕石の持っていた熱で池の水が沸騰して水蒸気が立ち昇る。

 

 教会の一室で眠っていた一人の幼い少女がパチリと目を開けるとベッドから身を起こし、窓を開けてそれを見た。

 首を傾げて黒い髪を揺らした少女は、寝間着姿のまま部屋を出て教会の建物を抜け出した。騒いでいる教会の職員たちも、この少女が使う秘密の抜け道のことは把握していなかった。

 

 お気に入りの耳長バンディクーのぬいぐるみを抱えて池の傍までやってくると、池はまだ湯気を上げていた。まるで火にかけられた鍋だ。

 

 少女が見つめる先で水面が割れて見上げるほどに大きい影が現れた。金属製の人型、その上半身だ。

 人型は少女を見て首を傾げた。青い色の目が訝し気に光っている。

 

 少女……この国の女神候補生であるノワールは、幼い目を輝かせていた。

 

「歯が抜けると現れる妖精さん?」

 

 ……女神は普通、ある程度成長した姿で誕生する。だが稀に幼い姿で生まれ、普通の人間と同じように成長し、ある程度の年齢に達すると外観が固定される者がいる。

 ノワールもそうした女神であり、この時はまだ成長が止まる段階を迎えていなかった。

 

 友好条約の式典からずいぶんと昔の、ある一夜の出来事である。

 

  *  *  *

 

 そして現在。

 ラステイション教会の女神の執務室では、十代後半の姿にまで成長したノワール……この国を治める女神ブラックハートが人間の姿で高価な執務机にかけて眉間に皺を寄せていた。

 艶やかな烏の濡れ羽色の髪を青いリボンでツインテールにして、ゴシックロリータ風の衣装に身を包むこの少女は、キツメな印象こそあれど万人が振り向くような美少女だ。

 赤い瞳の浮かぶ目を吊り上げ、難しい顔をしている。

 

「まったく、やっと条約が纏まったっていうのに、いきなり幸先が悪いわね……」

 

 執務机に置かれたパソコンのディスプレイには、あちこちで起きている騒ぎの映像や、それが政治経済に与えている影響を纏めた資料が映っている。

 あのロボットが落ちて来て以降、世界中が混乱していた。

 はたして、あのロボットは何者なのか……いや。

 

 ノワールにはすでに、その見当がついていた。

 

「お姉ちゃん」

 

 思案にくれていると、執務室に直通のエレベーターから一人の少女が降りてきた。

 黒髪に赤い瞳とノワールによく似た容姿だが、こちらは髪の毛を黒いリボンでツーサイドアップにし、幾分か年下に見える。

 

「ユニ、どうしたの?」

「お仕事、終わったよ」

 

 ユニと呼ばれたこの少女はノワールの妹、つまりこの国の女神候補生だ。

 彼女から書類の束を受け取ったノワールは、それに目を通す。

 姉がパラパラと書類をめくる間も、ユニは緊張と期待で体を強張らせていた。

 

「こ、今度の仕事は結構早くできたと思うんだけど……」

「そうね。でももう少し丁寧に。この辺りとか、急いでまとめたんでしょう? 文章が読みにくくなっちゃってるわ」

「は、はい……」

 

 淡々と、しかし容赦なく駄目だしされてユニはしょんぼりとする。

 もちろん、これはユニに期待していればこそである。

 他人に厳しく、身内に厳しく、自分にはより厳しい。ノワールとは、そういう女神だった。

 

『失礼、ノワール。頼まれていた件だが今いいかな?』

 

 パソコンの画面に女神姉妹とは別の少女の姿が映し出された。

 華奢な体を黒いスーツで包んだベリーショートの銀色の髪に青い瞳の、一見すると少年にも見える容姿の少女の名は、神宮司ケイ。

 このラステイション教会の一切を取り仕切る教祖である。

 

「ええ、構わないわ。それでその後、プラネテューヌの様子は?」

『相変わらずだね。こちらと同じように混乱している。他の国も似たような物だ。ルウィーは国境付近の部隊を臨戦態勢にしているし、リーンボックスの艦隊にも動きが見られる』

 

 容姿の通り少年めいた口調でのケイから報告にノワールは我知らず息を吐く。その目元には、うっすらと隈ができていた。

 

『随分と疲れているようだけれど、少し休んだらどうだい?』

「大丈夫よ。この状況で休んでなんかいられないわ」

「で、でもお姉ちゃん、最近あんまり寝てないし、ちょっとくらい……」

「心配はいらないわ。私のことは、私が一番分かっているもの」

 

 教祖と妹の諫言を、ノワールは跳ねのけた。

 

『そうかい……まあ、あまり無理はしないでくれ。ああ、それと一応報告しておくけど、街でもちょっとした事件があった』

 

 心配そうなユニに対し、ケイはビジネスライクに切り替えた。

 

『昨日の晩、奇妙な盗難事件が起こった。盗まれたのは特殊な機械の部品だ』

「特殊って……」

 

 姉の肩越しにディスプレイを見たユニは、そこに映った複雑な形状の機械を見て首を傾げる。何に使うのか、まったく分からない。

 

「……分かった。私が行くわ」

「お姉ちゃん!?」

 

 姉の言葉にユニは目を丸くした。

 

「こういう事件なら、警備兵でも十分じゃあ……」

「こんな時だもの。私が動いて国民を安心させないと」

 

 単なる強盗なら、普段なら警備兵……別の世界で言うところの警察……に任せておくところだが、ここは一つ、自分が動くことで女神の威厳を示すべきだろうとノワールは考えた。

 

「だ、だったらアタシも……」

「ユニは教会に残っていなさい。自分の仕事がまだ残ってるでしょう」

 

 ついてこようとする妹に厳しく言い放ち、黒の女神は席を立つのだった。

 

  *  *  *

 

 かくして事件解決に乗り出したノワールが訪れたのは、下町に無数にある町工場の一つ、スプーンからミサイルまで作れるという売り文句のパッセという名の会社である。

 町工場らしくそれほど大きくはない古びた建物だが、使い込まれた雰囲気には独特の暖かみがあり、こういう場所はノワールも好きだ。

 

 だが事件現場は思っていた以上に酷かった。

 

 倉庫にしている部屋の窓が蹴破られ、保管されていた部品が丸ごと盗まれたのだ。

 

「本当に困ってるんだ。あれはプラネテューヌからの依頼された物でさ」

 

 工房の責任者であるシアンという若い女性は、困り果てた様子だった。

 女神に対するにしては砕けた態度だが、ノワールはいちいち気にしない。

 

「プラネテューヌから?」

「ああ。うちが特許を持ってる技術でしか作れない物なんだ。……いや、もちろん例の条約が纏まってからの話さ」

「別に構わないわよ。それくらい」

 

 若干慌てた様子で訂正するシアンに対し、ノワールは安心させるように微笑んだ。

 これからは各国の貿易が盛んになり、ラステイションが誇る製品を輸出する機会も増えていくだろう。

 反対意見もある友好条約だが、こういうメリットも大きいのだ。

 

 その後、目撃情報を求めて周辺の住民に聞き込みしたものの、残念ながら有力な情報を得ることはできなかった。

 

「……ただ、気になる情報もあったわ。近所の酔っぱらいが、大きな猫を見たと証言してる」

『猫?』

 

 昼を回った頃、教会への帰り道でノワールはスマホでケイと連絡を取っていた。

 

「ただし、機械仕掛けで目が一つしかない猫よ。そいつが屋根の上を飛び移りながら逃げていったって」

『なるほどね』

 

 怪盗気取りにしては随分と過激だ。

 

『式典に落ちてきたロボットに、今回の機械猫。果たしてこれは偶然かな?』

「誰かの陰謀だって言うの?」

『そこまでは言ってないさ。ただこの状況、助言者に意見を求めるべきではないかな?』

 

 ピクリと、ノワールの眉が動いた。

 ノワールが頼りにしている『助言者』の存在は、教会でも一部の人間しかしらない。その一部にしても、詳細を把握しているのはノワールを除けば教祖ケイと、女神候補生のユニだけだ。

 

『調印式に落ちてきたロボット、おそらく正体は……』

「分かってるわ。私から彼に話を聞きにいく」

 

 ケイの言葉を封じ、ノワールは通話を切った。

 

  *  *  *

 

 教会の敷地内には、古びた赤レンガ倉庫がある。

 何を置いているのやら立ち入り禁止となっているそこの扉の前で、ノワールはしばし悩んだ末に声をかけた。

 

「ねえ、いる?」

 

 返事はなく、意を決して扉を開けた。

 倉庫の中は広々としているが、壁には物々しい銃器や大型の刃物が飾られており、隅にはテレビが置かれ、あちこちに用途不明の機材や空のドラム缶が転がっていた。

 

「また掃除をサボったわね……」

 

 ちょっとだけ呆れた調子のノワールの視線の先、倉庫の真ん中には、一台のピックアップトラックが鎮座していた。

 ノワールを象徴する色である黒色で、縦にも横にも大きく4ドア4シート。煙突マフラーがまるで角のように見える、武骨なピックアップトラックだ。

 

「なんだ、いるじゃない。……ちょっと話したいことがあるんだけど、今いい?」

「……ああ、来ると思ってたぜ」

 

 何処からか、男の声がした。

 少しだけホッとした様子のノワールは、ピックアップトラックの荷台に昇ると、車体に背を預けて座り込んだ。

 膝を抱えている姿は不安げで、仕事をしている時の自信に満ち自らに厳しい女神の面影はなかった。

 

「式典の件、知ってる?」

「おう、ニュースくらいは見てるからな」

「なら、単刀直入に聞くけど……()()はあなたの同類、もっと言ってしまえば仲間なのかしら?」

「そうだ、間違いない。あれはオプティマス・プライム……俺たちオートボットのリーダーだ」

「そっか」

 

 声の口調には懐かしさがあり、件のオプティマス・プライムが近しい相手であることが察せられた。

 

「そんな心配そうな声出すなよ」

「心配なんかしてないわ」

「お前さんがそう言う時は、大概心配してるんだ」

 

 今のノワールの声には、外見相応の幼さがあった。

 妹や教祖には、けして見せない弱さのある姿だ。

 

 ノワールが迷った時、不安になった時は彼に意見を求める。

 友好条約を結ぶことを決めたのも、彼の後押しがあったからだ。

 もちろんノワールだって教祖や教会職員のことを信頼しているし、彼ら彼女らの意見を聞きもする。

 だが助言者は、そういった政治的、権威的な部分とは別口の……女神ではない個人としてのノワールが悩みを打ち明けられる相手であり、女神として自他を厳しく律し、完璧であろうと志す彼女が弱みを見せられる、数少ない相手だった。

 

 あの、隕石が落ちてきた夜以来、ずっと。

 

 今ほど厳しい価値観を持っていなかったノワールは突然現れた金属の人型に大いに懐つき、教会の敷地内にある赤レンガ倉庫に住まわせることにした。

 彼の方も、見知らぬ世界に放り出され仲間と連絡を取れず、行く当てもないため、この話に乗り、こうして奇妙な共同生活が始まった。

 

 頑固でつっけんどんだが面倒見の良い彼は何かとノワールの世話を焼き、その関係は彼女が成長して女神候補生から女神になっても続いた。

 やれ素直になれだの、やれ肌を露出し過ぎだのと口煩く言っていたものだから、ノワールが反発するようにもなったが、それでもお互いに強い信頼を築いていた。

 

 だが式典に振ってきたのが、彼の同類であるならば、それは彼が去る時が来たと言うことを意味していた……。

 

 そのことに思い至った時、ノワールの胸に去来したのは言い知れぬ不安だった。

 いつかは彼がいなくなると覚悟していたはずなのに、いざその時が来ると動揺している自分に気付いた。

 

「大丈夫、俺がいなくなっても、お前ならやってけるさ」

「そうかしら?」

「保証するぜ」

 

 静かに、ただ静かに、二人は語り合う。

 

 ……あるいは、他人から見ればその関係は親娘のように見えたかもしれない。

 

 だがそんな空気は突然のコール音に破られた。

 染み付いた習慣からスマホを見れば、教祖からの直通通信だった。

 

「……なによ、ケイ」

『失礼、ノワール。申し訳ないが緊急事態だ。……ルウィーの軍事基地が何者かに襲撃された』

「ッ! 詳しく話して!」

 

 荷台の上で立ち上がったノワールは、すでに一人の少女から国を背負って立つ女神の顔に戻っていた。

 

『情報が錯綜しているが、巨大ロボットに襲われたらしい』

「それって……!」

『マシン系のモンスターじゃない。おそらく式典に落ちてきた物、そして今回目撃された物と同類だ』

 

 ケイからの報告に、ノワールは目つきを鋭くする。

 彼女は知っていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを。ならば、そのロボットは……。

 

「分かったわ。私はこのままプラネテューヌに向かう」

『プラネテューヌ? ルウィーではなくてかい?』

「どうも、落ちてきた方のロボットと一度話をしなきゃいけないみたい。ケイ、留守を頼んだわよ」

『やれやれ、分かったよ』

 

 通信を切ったノワールは荷台から飛び降りたノワールはピックアップトラックの正面に回る。

 

「どうやら、しんみりしたお別れは、まだ先になりそうだ」

 

 何処からか聞こえる男の声も、緊迫感を孕んだ厳しい物になっていた。

 

「そのようね……力を、貸してくれる?」

「は、俺を誰だと思ってやがる! 奴らを血祭りに上げてやるぜ!!」

 

 女神の短い問いに、声が短く答えた。

 ノワールは、顔に力強い笑みを浮かべると、体に力を籠める。

 

「アクセス!」

 

 声を上げると共にノワールの体が光に包まれ、その姿が変わる。

 十代後半と言った年齢だった外見が、二十歳ほどの姿になっている。

 黒かった髪はリボンが解け純白になって腰まで届き、その身を包むのは黒いレオタードのような衣装だ。

 背中には光り輝く六枚の青い翼があり、赤から緑へと色を変えた瞳には円と直線を組み合わせた紋章が浮かび上がっている。

 

「頼りにしてるわよ……アイアンハイド」

「へっ……そう言われちゃあ仕方ねえ」

 

 変身を終えたノワールことブラックハートの見ている前で、黒いピックアップトラックがギゴガゴと異音を立てながら立ち上がる。

 ドッシリとした筋骨たくましい男性を思わせる姿で、フロント部が真ん中から二つに割れて肩から胸を覆い、まるでパンプアップした筋肉のように見える。

 厳めしい面構えだが、何よりも目立つのは両腕に備えられた大型のキャノン砲だった。

 

「さあて、久々に一暴れといくか!」

 

 砲を回し、オートボットの戦士アイアンハイドは不敵に笑むのだった。

 




リメイク前に、アイアンハイドの持ちネタである『歯の妖精さん』をやらなかったのが心残りだったんで、こうなりました。

ノワールとハイドは、リメイク前からして書きやすい一組。

……なおどこぞのオカマハッカーに死亡フラグが立った模様。
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