超次々元ゲイム ネプテューヌRe;TRANSFORMATION 作:投稿参謀
ゲイムギョウ界は西に位置する国、プラネテューヌ。
友好条約の式典であれだけの騒ぎがあったにも関わらず、この国の首都は平常通りだった。
未来的な高層建築群の間を空中通路が連絡し、地上には自動車が行き交う。
この日、プラネテューヌの教会に所属する諜報員の少女、アイエフは久々の休日を楽しんでいた。
こんな時分ではあるが、たまに取れた休みである。親友で看護師のコンパ、そしてこの国の女神候補生であるネプギアと共に街に繰り出した……。
「なんだけど……」
アイエフは自慢の茶色い髪を揺らして小さく嘆息する。
彼女は小柄だが健康的で、黒いインナーの上からサイズの大きい青いコートを羽織っていた。吊り目と意志の強そうな顔立ちが、生真面目そうな印象がある。
彼女の視線の先では、親友のネプギアが古い車を前に目を輝かせていた。
「わあ、この車カワイイ♡」
彼女の顔立ちは姉によく似ているが、姉と同色の長く髪を伸ばしていることや清楚な雰囲気が相まって大人びて見える。姉よりも背が高く、セーラー服風のワンピースが良く似合っていた。
「お、嬢ちゃんお目が高いねえ、その車はセミクラシックだよ、セミクラシック!」
やたら陽気そうな色黒の男がネプギアと車を褒めちぎる。
ここはプラネテューヌ首都でも寂れた区画にある中古車店。男は店主である。
「ぎあちゃんは機械が大好きですね~」
一方、アイエフの一番の親友であるコンパはそんなネプギアをニコニコと眺めていた。
コンパはフワフワの髪を後ろで纏めており、白いノースリーブのニットを着た穏やかそうな少女だ。その印象の通りにノンビリした気質である。
(さて、どうしてこうなったんだったかしら?)
アイエフは自問する。
確か、途中までは三人で買い物を楽しんでいたはずだ。
しかし、突然ネプギアが引き寄せられるようにしてフラフラとこの店に入ってしまい、慌てて追いかけて今に至る。
「いやあ、お嬢ちゃん綺麗だし、今日は特別価格で……」
「う~ん、この車も良いなあ」
何とか車を買わせようとおべっかを使いまくる店主と、店主を完全に無視して車を物色する親友に、アイエフは再度溜め息を吐く。
ネプギアは、グータラ、趣味人、駄女神の名をほしいままにする姉と違って、真面目な娘だ。
しかし、そんな彼女にも変わった趣味があり、それが無類の
本人曰くカワイイ(あくまで本人基準)機械を目の前にすると目の色が変わるのだが、今日はいつも以上だ。
「そう言えば最近、車の免許取ったんだっけね」
「はいです。ぎあちゃんも、マイカーが欲しいって言ってました!」
「だからってなにも中古車じゃなくても……」
「ああいう何かに夢中になると周りが見えなくなる所は、ねぷねぷによく似てるですね」
アイエフはもちろん、コンパもさすがに苦笑する。ネプテューヌもまた仕事そっちのけでゲームに熱中してはイストワールに叱られているのだから、やはり姉妹なのだった。
「ネプ子と言えば、今日は例のロボットを見に行ってるのよね」
「はいです。いーすんさんと一緒です」
「珍しいこともあるわよね。こんな時とはいえ、あのネプ子が真面目に仕事するなんて……」
こんな風に言われるくらい、ネプテューヌと言う女神は仕事嫌いだった。それでも二人にとっては大切な親友である。
「友好条約はどうなるかわからないし、最近は変な泥棒も多いし……」
思わず嘆息してしまう。
ここのところ先端科学を扱う研究所や工場から、機材やら物資やらが盗まれる事件が頻発しているのだ。
犯人の姿は目撃されておらず、デッカイ鳥やら猫やらを見たという証言もあるが……。
と、ネプギアの視線が止まったのが見えた。その視線を追うと、そこには一台の車が止まっていた。
2ドア4シートのスポーツカーで、黄色い車体には黒いストライプが入っており、この店でも特にオンボロに見える。確か、カマロとかいう車種の随分と昔のバージョンだ。
ネプギアはまるで吸い寄せられるように、その車に近づいていった。
「あの、この車はおいくらですか?」
「え? お嬢ちゃん……買うの? この車」
店主の態度が目に見えて変わった。笑顔は消え、目の輝きが失せる。
「……いいよ、この車なら、タダで」
「え!? 本当ですか?」
店主とは反対に、ネプギアの顔には喜色が満ちる。
「ちょっと待ちなさい! なんでタダなわけ!? なにか理由があるんでしょう!」
アイエフは慌てて止める。タダより高い物はないと言うし、いくらなんでも怪しい。
問い詰められて、店主は少し困った顔になった。そしてアイエフの睨みが効いたのか、根は人が良かったのか正直に話し出す。
「……これ、うちのじゃないんだよ。いつの間にかおいてあったんだ。で、どうしようか困ってたってワケさ」
「な!? そんな怪しいものを売りつけようとするなんて!」
「酷いですぅ!」
「売りつけるんじゃない。そっちのお嬢ちゃんが欲しいっていうから持ってってもらうのさ」
アイエフとコンパが店主を非難する間も、ネプギアは黄色い車をあちこち触っている。その手つきは優しく、そしてどこか艶やかだ。
やがて、思い立ったかのようにボンネットを開けると驚いた顔になる。
「……あの、これ本当に貰っちゃっていいんですか?」
困り顔で振り向き、ボンネットの中を指差す。
どうしたのかと、アイエフたちと店主が覗き込むと……。
「えっと……なに、これ?」
「何だあこりゃあ!?」
そこには新品同様のピカピカのエンジンが詰まっていた。
アイエフとコンパはその意味を理解しかねたが、店主の驚きは凄まじかった。
「こいつは最新式……いや、それよりはるか先を行く代物だ! どうしたってこんなボロ車に?」
ボロ車、の言葉が出た瞬間、黄色い車のクラクションが勝手に音を立てる。
アイエフはなんだか気味が悪くなってきた。
「ねえ、ネプギア。やっぱりやめときなさいな」
「この車、変ですよー!」
しかしネプギアはすっかりこの車に魅せられてしまったらしい。
「あの、やっぱりお金を払います。この車、売ってくれませんか?」
「……いや、金はいいよ」
「いいんですか!?」
「ああ、男に二言はない。それに……」
店主の顔が神妙な物になる。
「こんな言葉がある。人が車を選ぶんじゃあない。車が人を選ぶんだ……ってな。ひょっとしたらお嬢ちゃんは、その車に選ばれたのかもな。大切にしてやんな」
* * *
「~♪ ~♪」
カーステレオから流れる古い曲のリズムを口ずさみながら、ネプギアは気分よくカマロを運転していた
あの後、さっそくアイエフたちを乗せてドライブと洒落込んだのだ。乗り心地はとてもいい。
「はあ、まったくもう……ネプギアったら、こんな胡散臭い車、押し付けられて……」
「いいじゃないですか。ぎあちゃん、ここのところ大変そうでしたから」
後部座席に座ったアイエフは思わず嘆息するが、隣に座るコンパに言われて確かに、とも思う。
友好条約締結が延期となり、姉に比べ繊細で思いつめやすいネプギアも沈みがちだった。なればこその気分転換だったワケで、それは成功したと言えるだろう。
良い気分だったが、アイエフのコートのポケットに入れたスマートフォンが振動した。取り出して画面を見ると、直属の上司である教祖イストワールからとある。
「はい、こちらアイエフ……え? なんです? 良く聞こえませんが……」
ネプギアとコンパに謝ってから電話で出るが、向こうが騒がしくて声がほとんど聞こえない。辛うじて「ルウィーの基地」「ロボット」「襲撃」「ネプテューヌ」という単語が聞こえた。
「アイエフさん、どうし……え?」
ハンドルを握りながらも訝し気にするネプギアだったが、不意にラジオのチャンネルが切り替わった。
『こち…オプティ…ス・プラ…ム。……トボット、応答…よ。繰…返す、オート…ット、応…せよ』
聞こえてきたのはノイズ塗れだが、深く渋い男性の声だ。
すると、急にクラクションが鳴り、車が加速を始めた。
「ちょ! ネプギア、スピード出し過ぎ!」
「わ、私じゃありません! 車が勝手に!」
突然のことにネプギアが混乱しつつもブレーキを踏むが、車のスピードは落ちない。
さらに勝手に曲がったり、他の車を追い越したりしている。
「こ、この車どこに向かってるですか!?」
「分からない、分からないけど……やばいかも」
コンパとアイエフが後ろを見ると、けたたましいサイレンの音と共に一台のパトカーがこちらを追いかけてきていた。
2ドア4シートのスポーツカーをベースとしたタイプで、赤と青の回転灯を光らせドアに白地に黒でPOLICEと印字されている。
ネプギアたちからは見えないが、その車体後部には黒地に白抜きでこう書かれていた。
『
「『憎いあんちくしょう!』『逃げるんだよー!』『あばよ、とっつあ~ん!』」
ラジオから漏れた声は、色々な番組の台詞を継ぎ接ぎしているようだった。
カマロはパトカーを振り切ろうとするかのように、さらに加速する。途中でいくつもの信号を無視し、ついでに対向車線にも侵入する。
だがパトカーもしっかりと食いついてきていた。
「スピード違反に信号無視に……免許とったばっかりなのに!」
「今はどうにか止まることだけ考えなさい!」
泣き出しそうなネプギアだが、カマロはそうしているうちにもプラネテューヌ首都北側の郊外にある廃工場まできていた。
だが目の前に高い壁が現れた。行き止まりに追い込まれてしまったようだ。
するとカマロは急ブレーキをかけて車体を停止させた。
「いたた……コンパ、ネプギア! 大丈夫!?」
「は、はい。なんとか……」
「わたしもですぅ」
「よかった、なら二人とも、すぐに降りて!」
友人たちの無事を確認したアイエフは、すぐさまシートベルトを外して共に車を降りる。
その瞬間、異変が起きた。
ギゴガゴと異音を立てながら形を変えて、カマロが立ち上がったのだ。
ほぼ完全な人型だが全体的に何処か丸みを帯びた造形で、胸にはヘッドライト、肩の後ろと肘にタイヤ。背中にはドアがまるで羽根のように配置されている。
顔は何故か愛嬌があり、青く光る眼はまん丸だ。
「ロボット……!」
「まさか、式典に落ちてきた奴の仲間なの……!?」
「ですぅ?」
唖然とするネプギアたちに背を向け、ロボットは格闘技のような構えを取る。
その視線の先には、あのパトカーがいた。
「ちょうどよかった! ねえ、ちょっと説明が難しいんだけど、私たちは教会の者で……」
「『待って!』『危険が危ない!!』」
パトカーに声をかけるアイエフだが、カマロロボットからラジオ音声を継ぎ接ぎの台詞が聞こえると、パトカーもまた変形して立ち上がった。
「おいおい、オートボットの蜂公。ペットを連れてお散歩かい? お前をお仲間に合流させるワケにはいかないんでな」
何処かシニカルな声を出したそいつは、手足に対し胴体が短いアンバランスな人型だ。
二の腕の部分が車のドアの部分になっており白地に黒のPOLICEの文字が皮肉っぽく存在感を示していた。上に張り出した肩と手の甲にタイヤがあるのが分かる。
「……ん? その面、どこかで見たな。確か……メガミコウホセイ、だったか」
面長な顔に四つもある真っ赤な眼が、ポカンとしているネプギアを睨んだ。
「まあどうでもいい。国の要人だろうがなんだろうが、オートボットの仲間に訪れる結末は一つだけ……死、だ」
「あんたたちが何だか知らないけど、この子たちに手だしはさせない!」
アイエフは友人二人を庇うように前に出て、両手にカタールを召喚する。モンスターを容易く切り裂く逸品だが、メタルの怪物に対しては頼りなく見えた。
「勇敢なことだ。勇者は死んでこそ勇者ってワケか」
皮肉っぽく笑んだパトカーロボットが左手のタイヤを外すと、それは無数の刃を持った円盤型の武器に変形した。
「叩き潰してやろう、オートボット!」
「『こいよ、ベネット!!』」
「ベネットって誰だよ!!」
パトカー型が円盤をヨーヨーのように振り回し、カマロが拳を振るう。
両者が激突し、たちまち金属の轟音と火花が散る。
「二人とも、今のうちに逃げるわよ!」
「は、はいです!」
「え、でも……」
「いいから!」
アイエフは金属の巨人たちが戦っているうちに、二人を連れてこの場を離れることにした。ネプギアは何か戸惑っているようだが、その手を引いていく。
だがその試みは、電磁ヨーヨー擬きに弾き飛ばされてきた黄色いロボットに阻まれた。ロボットは大きなタンクにぶつかって火花を散らす。
『きゃあ!』
「どこへ行くんだお嬢ちゃんたち。パーティは始まったばかりだぜ?」
パトカーロボットの右手が変形した銃口らしき物がこちらを向いていた。
「『よそ見すんな!』『お前の相手は俺だ!』」
「ぬ、お!?」
しかし復帰した黄色いロボットが回し蹴りをパトカーロボの腹に喰らわせ、そのまま腕を掴んで投げ飛ばす。
大きなタンクにぶつけられて痛みに呻くパトカーロボだが、すぐに立ち上がる。
「……あれは!」
アイエフの目に、ロボットがぶつかった衝撃でタンクにできた裂け目から、オイルが漏れているのが見えた。どうやら工場が閉鎖されたあと、中身が入ったまま放置されていたようだ。
頭に浮かんだのは危険な賭けだが、少なくとも脅威のうち一つを排除できるはず!
「二人とも、伏せて! 魔界粧・轟炎!!」
アイエフのカタールが炎に包まれ、その炎を滴るオイルに向かって放つ。
「な……!?」
炎が着弾するや、たちまち爆炎が巻き起こり、パトカーロボットを飲み込んだ。
黄色いロボットが咄嗟に庇ってくれたおかげで、ネプギアたちは爆風から身を守ることができた。
「ぐっ……! おのれ……この勝負、預けたぞ!」
爆炎が晴れた時、パトカーロボットの姿はなかった。モンスター同様に消滅したのか、倒し切れなかったのかは、分からなかった。
どちらにせよ、残る脅威はこの黄色いロボットのみだ。
「『待った!』『話し合おう!』」
「ネプギア、隙を見て攻撃するわよ! ……ネプギア?」
油断なくカタールを構えるアイエフだが、どうも女神候補生の様子がおかしい。
身振り手振りでこちらを巨大ロボットを前にして目をキラキラと輝かせている。
「……かわいい」
『……へっ?』
そして口からボソッと出た一言はロボットを含めた一同を驚愕させるには十分だった。
「かわいい! このロボット、すごくかわいいですよ!! ね、アイエフさん!」
「え~っと、そ、そうかしら?」
「まあ、よくよく見れば……」
アイエフとコンパはロボットを見上げる。
どこか丸っこい造形と青く円らな目、背中のドアが翼のようにパタパタと動いている。
オロオロとする姿はどこか子供っぽく、かわいいと言えなくもない。
しかしさっきまでの熾烈なロボットファイトを見て出た感想がそれと言うのは違うんじゃなかろうか。
「うん! このロボットはきっと悪いロボットじゃありませんよ! だって、こんなにかわいいんですもん!!」
満面の笑みを浮かべ、断言するネプギア。その様子にアイエフとコンパは呆気にとられる。
一方のロボットはと言うと、やれやれ、これで取りあえず話ができそうだと軽く排気していた。
「『それじゃあ』『ベイビーたち』『改めまして……』『初めまして』『オイラの名前は』バ…ン…ブ…ル…ビー」
たどたどしく、ノイズまじりの声だったが、なんとか伝わった。
「バンブルビー……、それがあなたの名前なんだ」
ネプギアはすっかり、この不思議なロボットに魅せられている様子で足元に近づき、顔を見上げる。
コンパも警戒を解き、興味津々といった様子で黄色いロボットを見上げ、アイエフはまだ警戒しているものの毒気を抜かれてしまった。
だが誰もこの時、ネプギアの目に危険な光が宿っていることに気付かなかった。
「ねえお願いバンブルビー! あなたのこと、解体させて!!」
「…………は、い?」
目の前の少女が何を言っているか理解できずに首を傾げるバンブルビーだが、ネプギアは何時の間にやら電動ドライバーとレンチを握り、ジリジリと黄色いロボットに迫っていく。
「ね、ネプギア?」
「ぎあちゃん、落ち着くですぅ!」
「放してください! こんなに可愛いロボットなんですよ!!」
制止しようとするアイエフとコンパを振り払い、ネプギアは恐怖に震えるバンブルビーに向かっていく。
彼女は好きなメカは解体調査したがるタイプのメカフェチであった。
「『ちょ、おま!』『や、ヤメロー!』『死にたくない、死にたくなあい!!』」
「お願い、頭だけ! 頭だけでいいから!! もう我慢でけん!!」
「『やめて……近づかないで……!』『いやーッ!!』」
……この後、目をビカビカと光らせるネプギアをアイエフが必死で止め、コンパが泣くバンブルビーの頭を撫でて慰めることとなったのだった。
リメイク前はゲイムギョウ界にカマロやソルスティスがあるのは変だ、と思って車種はなるべく言及しないようにしてたんです。
でも分かりづらいし、インメルマンターンとか普通にあるネプテューヌシリーズですし、やっぱり実写ビーと言えばカマロですし。
もう一つ、リメイク前はバリケードの武器のブレードホイール・アームズがどんな武器か盛大に勘違いしてまして、投げて使うフリスビーみたいなもんだとばっかり思ってました。
でもよくよく調べると、これヨーヨーみたいに使う武器なんスよね……。
今にして思えばすげえ無知だったなって。
次回、いよいよ主人公ズの登場です。