超次々元ゲイム ネプテューヌRe;TRANSFORMATION 作:投稿参謀
夢を見ていた。
氷の中で。闇の中で。
血と涙が混ざって泥となり、それが海となって辺り一面を覆いつくす夢。だがその泥の海を、満点の星空が照らしていた。
星空は、自分が知る限り一番美しい光景だ。いつだって自分はあの星を目指し足掻いてきた……。
だが今、自分の心を奪っているのは、空に浮かぶ星ではなく、泥の中に咲く一輪の花だった。夜空に走った稲光のような、青い色の花だ。
我ら種族の血は青く、血は命であるが故に、それは生命の色をした花だった。
花はいつの間にか女の姿になった。
涙と血の汚泥より咲いた、青い花のような女。醜さと美しさが同居し、魂を握りつぶされるように魅力的だが、近づけば何処ぞの寓話のように翼を焼かれる……。
それが分かっていてなお、女に向かって手を伸ばさずにはいられなかった。
女は胸に仄かに輝く半透明の球体……卵を抱き、此方を見上げていた。
* * *
キセイジョウ・レイの人生を一言で表すならば『冴えない』の一言に尽きる。
どんくさい上に気が弱く、周囲に流されやすい。努力はするが、その方向性は大いにズレている。頭もいいとは言えず、やることなすこと失敗ばかり。
当然、リーダーシップなど望むべくもなく、主催している市民運動もメンバーが好き勝手に動くのをオロオロしながら見るばかり。時にはメンバーの失態や違法行為の責任だけを押し付けられたことすらある。
そんな冴えない彼女だが今回は特に不運だった。
氷の穴の底で気を失い、次に目を覚ました時、彼女は何処とも知れない施設に囚われの身となっていたのだ。
定期船の船員や他の乗客は早々に解放されたようだが、レイだけは未だここで繰り返し尋問を受けていた。何日も外に出ておらず、もう時間の感覚もない。
「だ、だからですね、私はただの市民運動家で……」
「市民運動家、ね……」
狭い部屋でこちらを尋問してくる女の目は、軽蔑の色に染まっていた。
「ううう、そりゃあビラ配りくらいしかできなかったけど……」
「泣くな鬱陶しい……で、その前は?」
「はい?」
女の問いの意味が理解できず、レイは首を傾げた。
「だから、市民運動を始める前だ。何処で、何をしていた。どうして運動を始めようと思った?」
「それは……」
レイが言い淀むと、女は手に持った資料を机に投げ出した。それはレイについての調査記録だった。
年齢、経歴、出身地、その他多くの欄に『不明』とある……これが、レイが囚われ続けている理由だった。女にしてみれば、レイは正体不明の怪しい相手なのだ。
「これを見ろ」
女が手元の機械を操作すると、部屋の中のディスプレイに映像が流れた。
『レイさん? さあ、あんまり話さないし、何だか影の薄い人だからねえ……』
『なんていうかさ。自己主張とか自分の意志みたいなもんがないんだよね、あの人』
『市民運動って言ったって、お遊びみたいなもんだしな、アレ』
映っているのはレイの知人たちの顔だった。
市民団体のメンバーに、住居兼団体本部の雑居ビルの管理人、バイト先の上司同僚……みな、レイがいなくなっても気にした風でもない。
「誰に確認しても、お前の過去を知らないと言う。ワザとそういう風に印象付けたのなら、大したもんだ」
「そ、そんな馬鹿な! 私は……!」
昔のことを思い出そうとすると強烈な頭痛が襲ってきた。
「功績はない、趣味もない。友人も恋人もいない。誰からも必要とされず惜しまれもしない。お前という人間は、まるで空っぽだ」
「空っぽ……」
「何処で生まれ育った? 学校には通っていたのか? 親は、家族はいるのか?」
「わ、私は……!」
頭を抱えて記憶の底を浚うが、両親の顔も、自分が生まれた土地も、何も思い出せなかった。まるでそんな物は最初から存在していないかのように。
「……まあいい。時間はまだまだある。ほれ、これを返しておくぞ」
溜息を吐いた女は、何処か冷めたような調子で尋問を打ち切り、机の上にトートバッグを放った。レイの私物だ。
「忠告しておくが、ここでは専用の通信室以外で外に通信はできんぞ……今どき、ネットも繋がらん」
女の説明にも、レイは上の空だった。
「ついでと言ってはなんだが、もう一つ忠告してやる。尋問と言うのはな、こちらが望む答えを得られるまで続くものだ」
「……そんな答えは持ってません」
「なら、永遠に尋問は終わらんな」
* * *
次の尋問までの間、与えられた部屋に戻されたレイは、簡素なベッドに腰掛けると頭を抱えた。
さっきの女に問われた、自分は何者かという問いがずっと頭の中を回っている。だがそれに思考を裂こうとすると、やはり頭痛に阻まれた。
「…………」
どこからか視線を感じて身動ぎする。
ここに来てからずっと、誰かが自分を見ているような気がするのだ。
おそらく、カメラか何かで監視されているのだろう。
「……?」
その時、持ち帰ってきたトートバックの中から振動を感じた。
バックの中をまさぐると、白いスマートフォンが出てきた。
はて、自分はスマホなんて持っていただろうか?
正直なところ、レイはこういう機械全体が苦手で、老人用携帯電話ですら碌に使えないのだ。
考えている間にもバイブレーションは止まらず、画面には『F』なる相手から電話が入っていることが示されていた。
恐る恐る通話ボタンをタップする……も、反応はない。
もう一度タップするも、やはり反応はない。
……レイは、手袋をしていてはタッチパネルを操作できないことを知らなかった。
だが勝手に電話が繋がった。
半ば反射的に耳元にスマホを持っていくと、甲高い男の声が聞こえた。
『あ~もう、早く出なよ!』
「ひっ! ごめんなさい、ごめんなさい!! ……あ、あの、あなた誰なんです?」
『君のファンだよ! ってのは冗談で、俺はここにいらっしゃる、
「は、はあ……」
この相手はここの職員のようだが、なんとも急な話だ。
『で、さっそくだけど、その部屋を出て俺の指示通り動いてよ!』
「……え、でも扉には鍵が……」
『いいからいいから。俺……と通話しているこの端末を電子キーにかざしてくれ!』
「は、はあ」
指示通りにすると、電子錠が小気味いい音と共に解除された。
スマホをかざした瞬間、画面の一部分から昆虫の節足のような物が飛び出して電子錠に刺さったが、レイは気が付かなかった。
『よしよし。じゃあ、ええと……あんた、名前は?』
「き、キセイジョウ・レイです」
『じゃあレイちゃん、行こうか! ほらほら、急いで急いで!』
元々押しが弱いレイは、明るく自信満々な声の主に流されるがままに外に出た。
監視の職員が交代のために持ち場を離れるタイミングだったことなど、もちろん知る由もなかった。
『……ちょっとストップ! よし、そのまま直進!』
「あの、この指示にはどういう意味が……」
『ん~、その質問に答えると思う? あ、そこは右ね! 次は三つ数えてから左!』
「ですよねー……」
相手は妙に細かく進行方向や進むタイミングを指示してきた。方向音痴なので助かるが、相手の意図が分からずレイは嘆息する。
それに何故か、まったく人と会わない。これだけの施設なのだからすれ違ってもいいのに。
自身が人の目を避けるように、そして監視カメラが映さない範囲を動いてることなど、レイに解るはずもなかった。
「あの、ところでここは何処なんですか?」
『質問多いね~。……ここはここは七賢人の研究所だよ』
「七賢人……?」
なんだか妙に引っ掛かる物があり、レイは首を傾げる。
「って、確か遺跡とかを発掘してる……」
『
「軍の?」
「なんでも、ゆーこーじょーやく?とか言うのが気に食わなくて、軒を貸してるみたい。いつかは他の国を倒すんだと!」
他人事のようにケラケラと笑う相手だが、レイの身体の奥底でどす黒い感情が蠢く。
友好条約だなんだと綺麗なことを言っていても、一皮剥けば
女神に支配された世界なんて、こんな物なんだ……。
泥のような悪感情が、レイの内側を満たしていく……空っぽの内側が満たされていくことにレイは無自覚に暗い喜びを得ていた……。
* * *
やがていくつかの扉を開けた先で、非常に広い空間に出た。レイがいるのは、その空間の二階部分に当たるキャットウォークの上だ。
空間の奥には、巨大な影が立っていた。
……あの時、氷の底でレイが見た銀灰色のロボットだ。
特殊な装置と魔法陣によって氷漬けのまま安置され、足元では何やら防護服の男たちが何らかの作業をしている。
今は光を失っているはずの目が、まだジッとこちらを見ているような気がしてレイは身を震わせた。
『メガトロン様……!』
スマホから漏れ出た声は、今までよりも強い感情が籠っているように聞こえた。
「メガトロン」
口の中で、その名を呟く。
何故だか、あのロボットにはこれ以上なく似合っているような、名前その物にある種の力があるような、そんな気がした。
『今しばしの御辛抱を……通信機能がイカレてなきゃ、こんな面倒なことには……』
「えっと……?」
『あ、別に何でも! それより、そこの扉に入って!』
通信相手がボソボソと何か言うが、レイにその意味は分からず指示に従う。
扉を開けると、そこは一面がガラス張りの窓になった部屋だった。その窓からは研究室のような場所を見下ろすことができ、何人もの白衣の男女がせわしなく動いているのが見えた。
彼らが特に興味を惹かれているらしいのは研究室の中央に置かれた大きなシリンダーだった。その中に青く発光する球体が入れられている。メガトロンと共に、氷の中で見たあの球体だ。
「あれって……あの時の卵?」
『ああ、あれ? あれは確かに卵さ! ただしほとんど死にかけの、ね』
ボンヤリと卵を眺めているとシリンダーの内部に電撃が走り、卵が振動した。周囲のモニターに映されたグラフやメーターが大きく動く。レイにはまるでそれが、悲鳴を上げているように見えた。
研究者たちは機械的にそれを観察している。
「酷い……」
口から漏れたのは、素直な感想だった。
研究者たちにすれば何か科学的な意味があるのかも知れないが、レイには単純に卵をいたぶっているようにしか見えなかった。
『それはいいからさ、この先の通信室に……って、ちょっと!』
通信相手が急かすが、レイは窓から卵を食い入るように見ていた。
窓の向こうでは、シリンダーが開けられ巨大な丸鋸やドリルが卵に迫っていた。研究者たちは卵を解剖しようというらしい。
それを察知したのか卵が震える。まるで、助けを求めるかのように。
「だめ……」
『レイちゃん! ちょっとほら早く! 早くしろって!! おい!!』
乱暴な口調になっていく通信相手。いつもなら、謝ってから言う事を聞くだろう。
だが今のレイにとっては、相手の声より卵の方が大事だった。
丸鋸の刃は、もう卵の表面に触れそうだ。
『言う事聞けって……』
「だめええええええッ!!」
瞬間、レイの身体から大きな光が放たれた。
窓ガラスが砕け散り、研究者たちがなぎ倒され、丸鋸やドリルが止まる。
「なんだ、今のは……」
「衝撃波、と言うよりはエネルギー波のような……!」
「お、おい誰だ君は!?」
レイはスマホを投げ捨てると窓枠を跨いで研究室に入り、そのまま卵に駆け寄るとそれを抱き上げて走り出した。
「さ、サンプルが!」
「警報を! 侵入者だ!」
「警備班、警備班!」
倒れた研究者たちが騒ぎ出すと、たちまち警報が鳴り響く。
「あ~あ、まったく……」
……捨て置かれたスマホがギゴガゴと音を立てて変形する。四つの青い目があり、六本の節足で動く姿は蜘蛛か何かを思わせた。
「ま、ここまでくればあとは簡単だ……悪いねレイちゃん。ここの連中を上手く引き付けてよ」
機械昆虫は軽くレイに詫びつつも、通信室に潜り込むべく動き出した。
この忌々しい世界に転送された時、たまたま主君の傍にいた彼は、これまた偶然にも接触してきたレイの私物に化けていたのだ。
カサカサと這い回って物陰に隠れ、騒ぎを聞きつけたらしい職員が扉から出てきた隙を突いて中に忍び込む。
そして机の影から通信装置に爪を突き刺し、それを利用して味方に呼びかける。
『こちらフレンジー、こちらフレンジー! メガトロン様を発見! 繰り返す、メガトロン様を発見! 応援求む!』
* * *
走る、走る。
警報が聞こえる中、レイは卵を抱えて、施設の中を走る。
あちこちから黒服にバイザーの男女が現れ追いかけてくる。
何処をどう走ったのかも分からず、気付けばあのロボット……メガトロンの傍に来ていた。
その足元の機材の影に縮こまって身を隠し、荒く息を吐く。
自分がこんなに走れることに驚きつつ、抱えた卵を見下ろし、自問する。
何で自分は、こんな物のために駆けだしたのだろう。いつもなら、強く言われればそれに流されるはずなのに。それにさっきの力はいったい……?
卵の表面を撫でると、中にいる何かがモゾモゾと動いた。それが不安を感じているように思えて、小さく子守唄を口ずさむ。
あなたは一人ではない、父や母や兄弟がいるから、というような内容の、ゲイムギョウ界で古くから伝わる歌だ。
子守唄が届いたのか、卵は大人しくなった。
こんな時だと言うのになんだか微笑ましくなって、口元が緩む。
女神に対する嫌悪とは違う、もっと暖かくて澄んだ何かが空っぽの心を満たしていく。
「そこにいたか……!」
だが、その迂闊さの代償は大きかった。
気付けば黒服たちに囲まれており、腕を掴まれて無理矢理立たされた。
「痛い! ら、乱暴にしないで……!」
「脱走者、確保。これより連行する。サンプルも確保」
さらに黒服たちが卵を奪い取ろうとするので、頑として渡すまいと強く抱きしめる。
「だ、駄目! この子に何をするの!!」
「この子? ……エイリアンの幼体が?」
「このエイリアンには、人を洗脳する力があるのかもしれないな。無理矢理に母性を植え付け育てさせる。カッコウの托卵と同じだ」
「そ、そんなんじゃ……!」
黒服たちの物言いに腹を立てたその時、施設に激しい衝撃が走った。
ここで時間は僅かに遡る。
ここはプラネテューヌの首都から離れた場所にある金斧峡と呼ばれる峡谷だ。
峡谷の底には川が流れているが、巨大なダムがそれを堰き止めてダム湖を形成していた。
水力発電所としてだけでなく、観光名所としてても有名なここだが、今日は風変りな客が訪れた。
雲を切り裂き、いずこかより襲来した戦闘機……リーンボックスにおいて最強の戦闘機と名高い第五世代戦闘機『ラプター』は、ステルス性をもたらす角張った機体を揺らし、超音速で施設に接近。ギゴガゴと音を立てながら宙返りするようにして変形した。
逆三角形のフォルムに、胸にキャノピー、背中には主翼とスラスター。人型だが膝から下が逆関節になっていることといい、嘴を思わせる口元といい、猛禽類めいている。
そのロボットは、ダムの縁に舞い降りると右腕をミサイル砲に変形させ、併設された送電施設に向けて迷うことなく発射した。
「何が……」
『総員緊急配備! 当施設は攻撃を受けています! エイリアンの襲撃です!!』
「な……!」
『送電施設が破壊されました! 冷凍状態を維持できません!!』
レイの見ている前で銀灰色の身体に纏わりついた氷が見る見る溶けて、水が滴り落ちる。
「総員退避! 退避しろ! 急げ!!」
黒服たちも防護服たちも、それを見て一目散に逃げていく。だがレイはその場に立ち尽くし、動き出したメガトロンを見上げた。
氷がなくなるにつれ、メガトロンの全貌が明らかになっていく。
全体的に刺々しく攻撃的な意匠に覆われた体は、左右で非対称だった。右肩には角のような装甲があり、右腕は左腕に比べ丸太のように太いが、両脚にはキャタピラらしき物がある。
鋭い両眼に真っ赤な光が宿ると、抱えた卵が喜んでいるかのように震えた。
「俺様は……破壊大帝メガトロンだ!!」
残った氷を砕いて、銀灰色のロボットが咆哮した。地獄から響いてくるかのような重低音だ。
メガトロンは腕を振るって彼を捕えていた装置をなぎ倒し、機材を踏み潰す。
『隔壁閉鎖! 隔壁閉鎖!!』
アナウンスと共に、隔壁が降ろされ外へ通じる通路が閉ざされていく。
メガトロンが不愉快そうに獅子に似た唸り声をあげると、右腕を大砲と銃剣を組み合わせたような武器に変形させと、それを隔壁に向けた。
独特のチャージ音と共にエネルギーが充填され、一拍置いてから光弾となって砲口から飛び出す。光弾によって金属とコンクリートの分厚い隔壁がまるで紙キレのように破壊され、その余波で場の混乱はより大きくなっていく。
「お、こんなところにちょうどいい獲物がいるじゃねえか」
「おそろしく早い砲撃、俺でなきゃ見逃しちゃうね」
炎と瓦礫を背に、いくつかの人影が立っていた。
剣を手にする者、ナイフを構える者、銃を持つ者、もっと独創的な武器を使う者もいる。
彼らはみな、冒険者やハンター、旅人などと呼ばれる国に属さない戦闘のプロたちだ。この施設の者たちに雇われているのだろう。
「こんなデカブツなら俺一人でやれるぜ!」
「久々に血が騒ぐぜ。こいつは俺の獲物だ……」
「この装備を見ろよ! 扱いづらいって話だが、最新型が弱いわけないだろ!!」
彼らはこのゲイムギョウ界でも上澄みの実力者であり、普段から巨大なモンスターを相手取っているこ ともあって、目の前の金属の怪物に負けるなどと微塵も思っていなかった。
……それはメガトロンも同じだ。
その時、メガトロンが見ていたのは、足元にいる小さな生き物だった……いや、彼はずっと、愚かにも自分を解析しようした下等生物たちの機械を通じて彼女を見ていたのだ。
この青い花のような女を。
レイは金属の怪物を見上げ、無意識に卵を掲げる。
「女はどうする?」
「知るか。巻き込まれて死んでも事故。仕方なかったって奴だ!」
「よし、さっさと片付けていつもの店で一杯やろうぜ!!」
メガトロンは獅子のような唸り声を上げると、後ろから迫る人間たちの攻撃に構わず、彼女に向かって手を伸ばした。
スタースクリームがダムの縁から空に飛び上がると、武装した車両がそこかしこから現れた。ほとんどはどこかの国で使われなくなった中古品だ。
それらの放つ銃弾や火の弾を受けつつも面倒くさげに首を回すと、施設の外壁が破壊され爆炎と共に中から黒焦げになったいくつかの影が吐き出された。
剣やらナイフやら、粉々に砕けたそれらと共に地面に転がった黒焦げの人影は、ピクリとも動かない。一応、死んではいないようた。
続いて外壁に開いた大穴から、巨大な戦車が姿を現した。銀灰色で刺々しい意匠に覆われている……そして何より、車体の前部に厳めしい顔が埋め込まれていた。
戦車は砲塔から光弾を発射し、その度に戦闘車両が数台まとめて木っ端微塵になる。それが落ち着いた頃、スタースクリームは戦車の傍に降り立ち、恭しく傅いた。
「航空参謀スタースクリーム、参上しました。メガトロン様」
「遅いぞ。この俺を放って何をやっておった」
あたり一面が火の海と化した中、戦車はギゴガゴと音を立てて変形し、メガトロンの姿になった。
「もちろん、必死に探しておりましたが、何分未知の世界で勝手も分からず……」
「貴様のことだ。どうせ俺のいない間にニューリーダー風でも吹かせておったのだろう。俺を探しておったのも、これが欲しかったからだろうが」
相手のおべんちゃらを封じたメガトロンは、航空参謀に向かって何かを放る。
それは十字型の機械の部品だった。これこそスペースブリッジのコアユニットだ。本来重なることのないはずの二つの次元を結び付ける、特殊極まる機械である。
「それがサイバトロン星への道を開いてくれる。スペースブリッジの用意はできているだろうな?」
「もちろんですとも。万事抜かりなく」
スタースクリームが慇懃に答えると、メガトロンはフンと鼻を鳴らすような音を出した。
「ではブリッジを開くために必要なエネルギーの確保は?」
「……そちらは、何分勝手の違う世界ですで、まだ……」
「相変わらず詰めの甘い奴よ……サウンドウェーブ! この施設のエネルギーは使えるか?」
『報告すル。可能。少しの改造デ、スペースブリッジの起動に十分な電力が得られル』
「結構!」
通信越しの機械的な声にメガトロンは満足気に頷き、スタースクリームは悔し気に拳を強く握った。
「メガトロン様、メガトロン様!」
そこへカサカサと小さな影が這いよってきた。
「ご無事でなによりです!」
「フレンジーか。今回の働き、大儀であった」
「おほめに預かり、光栄の至り! ……あれ?」
と、フレンジーは破壊大帝が手に何か抱えているのを見つけた。それは気を失った人間……キセイジョウ・レイだった。意識を失ってもなお、卵を抱きしめている。
「レイちゃん? 連れてくんですか?」
「なんでまた、そんな下等生物を?」
「……俺には計画があるのだ。貴様たちのブレインでは思いも付かぬような計画がな。こやつはそのための欠かせぬ
「
質問してくるフレンジーと訝し気に口を挟むスタースクリームを、メガトロンはギラリと睨んだ。
「余計な詮索はするな! それより施設の改造を始めるぞ! スペースブリッジを開き、サイバトロンから援軍を呼び寄せるのだ! そして……!」
メガトロンは背中のスラスターからジェット噴射をして飛び上がり、スタースクリームもそれに続く。フレンジーはひょいと航空参謀の背に飛び乗っていた。
破壊大帝は腕にレイを抱えたまま、もう片方の腕を大きく広げた。
「肉ケラどもの世界を炎で浄化してくれるわ! ふふふ、フハハハ、ハーッハッハッハ!!」
炎と戦闘車両の残骸が散らばる中、メガトロンの哄笑が響き渡る。
それはゲイムギョウ界が迎えようとしている未来の縮図に他ならない。
そして卵を抱きかかえた市民運動家キセイジョウ・レイ。メガトロンは彼女を、その未来のために必要としているのだった。
これにて書き溜め分が尽きました。ここからはスローペースでの更新となります。
今回は、第5話の対となる話です。
表題とオプティマス、メガトロンが見た夢のモチーフは、フレデリック・ラングブリッジの(ジョジョで有名な)詩、『不滅の詞』の一節。
かの『一人は泥を見た。一人は星を見た』ってやつです。
メガトロンがやたらポエミーなのも仕様。
リメイク前にリベンジ版を出せなかったのが心残りでしたの本作のメガトロンのデザインは、いきなりリベンジ版となっています。