セイカレス……20xx年からサービス開始した、VRMMORPGの代表作とも言えるオンラインゲームだ。今までのオンラインゲームとは違い、課金を推奨していないとても珍しいゲームである。課金システム自体はあるのだが、恩恵は数種類のアバコスだった。しかもそのどれもがイマイチで、100万人のユーザーがいる中で課金者は2%にも満たなかった。レベルの上限は1000までもありカンストするにはある特殊なクエストを受ける必要があった。クエスト受注レベルは900、つまり900以降はどんなに頑張っても1Lvすら上がらないのであった。サービス終了までにレベルカンスト者は3名という驚愕の数字を叩き出した。その、カンスト勢の一人である
PCを起動し専用のデバイスを頭に付け、ベットに寝転がる瀬里奈。デバイスにはマイクが付いてあり、「起動」の一言でゲームが開始される。すぐさま、現実での意識はPCの中へを誘われる。しばらく真っ白な空間を漂い、キャラクター選択画面に入る。瀬里奈が作ったジョブは3つ。1つ目はLv560の種族がエルフ、職業はハンター、2つ目はLv869の種族がヒューマン、職業は剣士である。そして最後のジョブこそ瀬里奈が10年間ずっと使い続け、世界に名を轟かせたものである。「キャラ選択、
「うーん、久々に何匹か狩ろうかなー」
そう思った矢先に、目の前にちょうどいい標的が通った。見た目は猪のようだが、体格はゆうに6mを超え、その牙も太く長く反り返っている。このモンスターはベリーと呼ばれ、硬い強い経験値
「やっぱりこの銃じゃ火力不足か……」
劉娜が装備しているのは初期装備のハンドガンである。いくらレベルをカンストしてるからといって、武器の火力が足りなければ確実に仕留められない。特に相手が硬いと評判のベリーじゃなおさらだ。相手の方もダメージをくらい、こちらに気づいている。しかし、レベルの差があるので襲っては来ない。退屈しのぎにもならないので、ちゃっちゃと終わらせるべくもう一発打ち込む。HPは0になり、ベリーはノイズと共に消えていった。先ほどベリーがいたとこには『EXP 50』という表記が出ていた。
「相変わらず
先程のは獲得経験値で、カンストしている劉娜には全く関係ない代物である。因みに同じLv86の魔物は平均800EXPもらえる。50Lvの人が100体狩ると51Lvにあがる計算だ。セイカレスでは100Lvまでは普通にやってたら到達できる。しかし、それ以降になると効率の良い狩場、そして高経験値がもらえるクエストを消化しないと、なかなか上がらない仕組みになっている。なのでサーバー全体の平均レベルは400Lvという非常に低い値になっている。現在の時刻は午前11時24分。終了祭が行われるのは午後19時00分からだ。しばらくフラフラ歩いて、ちょうどいいとこに休憩所があったので立ち寄ることにした。休憩所といっても簡易的なもので、数人のNPCがアイテムや武器を売っていたり、質素な宿があるくらいである。しかしそれでもプレイヤーは幾人かいて、PT募集をかけてた。中にはまだ初めて数ヶ月の新人などもおり、どうやって声をかけるべきかで挙動不審なものもいたりした。
「よぉにぃちゃん、いい装備してんじゃねぇか?ちょっと俺等にも分けてくれよぉ」
しばらくぼーっと椅子に腰掛けてると、周りが騒々しくなってきた。俗に言うクレクレ野郎だ。このゲームでは、プレイヤーの装備を交換できるシステムがあるのだが、相手が拒絶すると力ずくで奪おうとする輩が出てくるのである。絡んでいる奴は3人、一人は125Lv、残りの二人は60Lvそこらである。対して絡まれている少年はLv30。劉娜からすれば大した装備ではないが60Lvあたりなら喉から手が出るほどのレア装備である。少年が付けている装備は、装備可能Lvが20でありながらLv100まで普通に使える代物である。恐らく防具作成のさいにレア装備が出来てしまったのだろう。不運な子だ……だが彼らも災難だ。劉娜がいないとこでやればいいものを。
「嫌だ!これは僕が作ったんだ!僕のものだ!」
「あぁーん?俺たちがこんなに頼んでんのにきょひんのかよぉ?!」
「ひゃぁあははは!こいつビビって足ガクガクでやんのぉ!?だっせー!?」
劉娜は一つ小さくため息をつくと、3人組のもとに向かった。
「ねえ、あんたらあんまし調子に乗るんじゃないよ」
「あぁ?なんだテメェ!俺たちが誰か知ってんn……」
相手が言い終わる前に足を払い初期装備に持ち替えたハンドガンで腹を撃つ。ほかの二人も同じように弾を打ち込んでいく。HPは1/3を切りレッドゾーンに差し掛かった。3人は恐怖で顔を歪め半べそをかいている。
「別にあんたたちが何者かは興味ないんだけどさあ、もうちょっと場所わきまえてくれる?ホント目障りなんだよねえ、PC買ってもらって調子こいたガキじゃあるまいしさあ。さて、不愉快だかさっさとあたしの目の前から消えてくれるかな?」
3人の顔は青を通り越し白になり、何度も倒れながらこの場を去っていった。しばらくの沈黙の後、あたりにいたプレイヤーから拍手が起こった。
「あ、あの!ありがとうございます!」
「あぁ気にしないで。本当に不愉快だからやっただけだし。あんたもこういったとこでは自分の身の丈にあった装備をつけな」
そう言い残し、劉娜は休憩所を立ち去った。現在の時刻は13時、そろそろギルメンが集まって来る頃だ。劉娜はアイテムボックスから転移石を取り出すと、王都グレアスを選択した。一瞬のまばゆい光の後、先ほどの青々とした草原ではなく中世ヨーロッパの建物が立ち並ぶ場所へと移動した。王都グレアスは最も人が集まる場所で、其処ら中で素材の出店をしているプレイヤーや、中ランククエストのPT募集している人もいる。そしてここには、劉娜作ったギルド「シルバープリンセス」があるのだ。ギルド名はサブリーダーであり劉娜の悪友のジンが「せっかくだからお前の渾名をつけようぜ」と言って半ば強引に付けられたものである。因みに劉娜の渾名は「白銀の姫」である。由来は劉娜性格もあるが、まるで白銀の世界を思わせるような髪と瞳が原因だろう。命名者がジンなのは言うまでもないだろう。
「少し早いけど、もう中に入っとくか。」
ギルドの扉を開けると、もうすでに何人か集まっていた。シルバープリンセスのメンバーは総勢23人、レベルカンスト者全員がいるギルドである。そのため月一で開催されるギルドバトルでは、3人が順繰りに入るという約束事をギルド内でしていたのである。これはほかのギルドからの苦情もあったのだが、それ以前に楽しめないという理由から自ら決めたルールである。
「あ、劉娜さん今日は早いですね」
「まあ、ギルマスが遅刻するわけにも行けねぇからな!?がっはっはっはっはっは!」
「ちょっ!ブラウズさん酒臭!?」
いつも通りの賑やかなギルドである。シルバープリンセスの約束事の一つ、男女・レベルの差・初心者関係なくみな平等にである。そのため、初心者には玄人が丁寧にゲームのシステムを教え、レベルが低いものはレベルの高い召喚士にモンスターを召喚してもらい、レベルをコツコツ上げるのであった。劉娜は自分の席に座ると、経験値石を取り出し過去3年間蓄えてきた経験値を移し替えた。経験値石とは、レベルをカンストしたものに送られるアイテムの一つで、不要となった経験値を保存しておくためのものである。市販でも似たようなものはあるのだが、容量が限られている上一個しかスタックできないのでかなり効率が悪いのである。経験値石に貯めてある経験値は、特殊な魔法や、鍛冶・武器に特性を付加させたりするのに使う。また、倉庫はアカウントで一括管理なので、入れておいて新しいキャラの育成の手助けにもなる。移し替えた経験値石をアイテムボックスに戻し、目の前にあったワインを飲む。セイカレスでは味覚はプログラムによって処理され、あたかも現実で飲んでいる感覚に陥る。まあ簡単に言うと味を感じることができる、ということである。時間が経つにつれギルメンが集まってきて、16時を回る頃には全員集合した。みな酒を飲んだり奥にある闘技場で模擬試合をやっていたりとかなり自由にやっている。そんな中劉娜は、一人ワインを飲みながら感傷にふけっていた。しばらくそうしていると、こちらに近づいてくる影が一つ。
「なーに考えてんだ?」
「……ジンあんた本当に変わらないね」
「それは褒め言葉か?」
「どう捉えてもらっても結構」
ジンは「つれねぇな」と言いながら、隣に座った。ジンは劉娜と同時期に始めたプレイヤーでレベルは1000、カンスト者である。種族はヒューマン、職業は戦士。根っからの脳筋で、「攻撃こそ最大の防御」「悩むくらいなら突進しろ」の精神で生きている男である。まあ歳は上だし頼れる兄貴みたいな感じである。
「そいやジンはこれからどうするの?」
「ん?普通に仕事しながら別のゲームするぜ。そういうお前はどうすんだよ」
「はぁ……どうしよっかなー。特に面白そうなゲームもないし」
元々ゲーム自体はそんなに好きではなかった劉娜だが、セイカレスをきっかけに少しずつゲームに触れていくようになった。今ではもう立派なゲーマーである。そうこう悩んでいるうちに窓の外が光った。時計を見ると19時を指していた。さっきの窓の光は終了祭の花火である。ギルドでは花火を見に行くもの、最後だからレア装備を大売出ししているもの、飲み比べをしているもの、実に様々である。サーバーが停止するのは3時間後の22時である。
「はあ……こうしていられるのもあと少しかー」
なんとなく呟いた独り言は、誰の耳にも届くことなく消えていく。思い返せば、長いようで短い10年だった。初めてオンラインゲームをはじめ、初めてフレンドができ、6年する頃には最強のギルドを作り上げてしまった。ギルメンと必死になって素材を探したり、ソロで最難関ダンジョンに潜って瞬殺されたり、ギルドバトルでは強すぎて面白みに欠けると苦情が来て、そしてなんの変哲もない話で盛り上がったり、本当に内容の濃い10年だった。
『まもなく22時になります。22時になりますと強制的にログアウトさせていただきます。長い期間ご利用頂き誠にありがとうございます。』
そんなアナウンスが流れてきた。時計を見ると21時56分。劉娜はギルドチャットを開くとそこに『今までありがとう!みんなと過ごした時間とても楽しかったよ!』と打ち込み、送信した。しばらくすると、一斉に『シルバープリンセス最高!』と返信が来た。劉娜はそのチャットを見て、目に涙を浮かべた。終了まであと10秒。王都には鐘が鳴り響いている。
3,2,1……
目を開けると見慣れた自分の部屋ではなく、同じように見慣れた誰もいないギルドであった。外では、鐘の音が響き渡っている。
「嘘……どういうこと……」