先生の墓の前で   作:Haito

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最後の生徒について、自殺に関する描写が含まれます。
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トリニティ(ウイ/ナツ/ミカ)

古関ウイ

 

「う、うぃぃ。今日は暑いですね、先生」

 

 

「こ、ここまで来るの、結構大変だったんですからね?」

 

「セミはまだうるさいし、蚊は飛んでるし、道は混んでるし……墓参りとは言いましても、先生のではなければ諦めていましたよ」

 

「……あの頃のように、先生が来てくれたのなら良かったのですが。思えば幸せなことだったのだと、最近になって分かってきました」

 

「おっと。どうやら、私は二、三番目みたいですね。もう、かなり綺麗です」

 

「では、お供えものだけ。えっと、ここに置いておきますね」

 

「あの、クッキーです。も、もっと気の利いたものがあったかもしれませんが……」

 

「先生の好きなお菓子なんて、聞きませんでしたから」

 

 

「……考えてみれば。先生については、最後まで知らないことだらけでしたね」

 

「わ、私は、古書館に閉じこもってばかりでしたから。他の趣味も、好きな食べ物も、お気に入りの場所も……あまり、話す機会はありませんでした」

 

「実は今、そのことを後悔しているんです。うぇっと、何故かと言うと……」

 

 

「あの、本を書こうと思っているんです。先生についての」

 

「先生がこのキヴォトスにいらっしゃってから、数多くの生徒を助け、幾多の災厄を打ち破ってきたことについて。もう、何年も前のことになってしまいましたが」

 

「し、信じられないかもしれませんが……私なりに色んな場所に足を運んで、色んな人から話を聞いてですよ?」

 

「ま、まだ傷が癒えていない方もいらっしゃいましたし、その、反発を受けることもありましたが……めげずに済んだのは、先生のお陰かもしれません」

 

「それで、伝記のようなものを記そうとしたんです。せ、先生がこのまま忘れられていくのは……その、悲しいので」

 

 

「それで、順調に進んではいたんですが……」

 

「途中で少し、つまずいてしまったんです」

 

「記述を細かく詰めていくにつれて、分からないことが増えてきてしまって。その、例えば……」

 

 

「……エデン条約が襲われたあの日に、先生は撃たれてしまいましたね。傷は浅くはなく、周囲の状況も危険なものでした。それに……」

 

「……あの舟に乗って遥か上空へと向かったとき、数えきれないほどのトラブルに見舞われたと聞きました」

 

「そういったときに……先生は内心では一体、何を考えていたのだろうかと」

 

「責任感、恐怖、勇気……どんな想いを抱いて、あなたは生徒のために立ち向かっていったのだろうと」

 

「……でも。考えれば考えるほど、私には分からないということに気が付きました」

 

「先生は、多くを語りませんでしたからね。まぁ、そこも魅力の一つでしたが」

 

 

「もちろん、情報を集めて想像で書くこともできます。遺された日記や証言から、ある程度は推察できますから」

 

「でも、それはやめました」

 

「先生本人に何も聞かないまま、私の想像だけで物語を補っても……」

 

「それはきっと、本当の先生を表せはしませんから」

 

 

「だからと言うわけではないのですが、えっと……」

 

「……もっと知っておけば良かったって、そう思うんです。その、先生について」

 

「古書館だけでなく、外の世界へと出て、もっと一緒に、違う時間を過ごしていればと」

 

「きっと、私の私の感傷もあるでしょうけど……。どちらにせよ、遅すぎる後悔ではありますが」

 

「あぁ、でも」

 

「あの海は、とっても楽しかったですよ?」

 

 

「っと、話が逸れてしまいました」

 

「はい。結局のところ、伝記は、出来る限り客観的な視点で作ろうと思っています」

 

「先生を知る人がまだ生きているうちは、読み手が補ってくれるでしょうから」

 

 

「おっと。は、話し過ぎましたね。そろそろ時間です」

 

「実は今日も、やらなければならないことが山積みなんです。まったく、なんで私なんかがこんなに多くのことを引き受けてしまったのか……」

 

「……後悔はしていませんが。別に、面倒臭いのも事実ですけど」

 

 

「さて、先生。最後に、もう一つだけ」

 

「外の世界へと出て、私も色々なことを知りましたが」

 

「あなたと居られた古書館が、思えば一番心地良かったです」

 

 

「だから、その。いつかまた一緒に、本を読みましょうね?」

 

 

 

 

 

柚鳥ナツ

 

「こんな日はアイスが美味しいね~、先生」

 

 

「おっと。とっても残念だけど、先生にはあげるわけにはいかないよ。すぐ溶けてしまうからね」

 

「代わり、コレ。数量限定の巨大マカロンだよ~! 最近話題のヤツ!」

 

「いや~、とっても並んでてさ。正直、自分で食べちゃおうかと迷ったぐらい」

 

「惜しいけど、先生にあげるよ。よく味わって食べてね……」

 

「……なーんて、言いたいところだけどさ」

 

「幽霊に舌があるかどうかは、まだ分からないからね」

 

「もしなかったら、骨折り損になっちゃうよ。もう、まったく……」

 

 

「……スイーツも何も食べられなくなるのに、どうして死んじゃったかな」

 

「もちろん、先生の最期の選択を否定するわけじゃないよ? 先生として、何より大人として、正しい答えだったとは思う」

 

「でも、死んでほしくはなかったな。やりたいことが、まだたくさんあったのに」

 

 

()についてだって、先生と話してみたかった。先生はどんな死生観で、死後の世界とかについてどう思っているのか」

 

「……そういうことを話せる人間なんて、そうそういないからね。やっぱり、ちょっと寂しいかな」

 

 

「でも、そういう死とかについて……私なりの結論はあるんだ。うん、先生が居なくなったことをきっかけに、ちょっとだけ考えた」

 

「私はさ。死後の世界も生まれ変わりも、存在しないと思う。ふふっ、学校で言ったら怒られそうだけど」

 

「さっきはああ(・・)言いはしたけど。先生はあの時に死んで、そこで終わりの話なんだ」

 

「先生の死に特別な意味を見出すのも、運命に理由を求めるのも……最初はしてみたけど、すぐにやめちゃった」

 

「それはきっと、私にとっては逃避にしかならないから」

 

 

「……ねぇ先生、ちょっと変なことを言うよ?」

 

「何というかさ。人の生涯ってのは、こんなバニラアイスだと思うんだ」

 

「舌の上で溶けて、全部食べちゃえばそれでおしまい。甘かったって感想だけ残して、それだって数日経てば忘れてしまう」

 

「うん、とっても虚しいものだと思うよ?」

 

「……でも、完全に無意味だって言うわけじゃないんだ」

 

「舌の上で転がしたときの、甘かったっていう一瞬の感覚。その思い出にこそ、価値があると思ってる」

 

「……いずれ全て、消えてしまうものだとしても」

 

 

「ふふ、分からないかな? いや~、我ながら曖昧なハナシだね」

 

「でも、もう先生は聞いてこないからね。だから、私だけ分かっていれば大丈夫」

 

「それに……何だかんだ、私はこのマカロンを残していってしまうことだし」

 

 

「それじゃあ先生、また来るよ。さて、次は何を持ってこようかな~?」

 

「そういえば。まだ一つ、言っておきたいことがあったんだった」

 

「……もう聞いてはいないけど、改めてこう伝えておくね」

 

「ありがとう。先生と居られた日々は、すっごく楽しかった」

 

 

「またね、先生」

 

 

 

 

 

聖園ミカ

 

「先生、やっほ~☆」

 

 

「何だかんだ、今月でもう五回目になっちゃったね!」

 

「あまり来ちゃいけないって言われてたけど、寂しくてさ! やっぱり来ちゃった」

 

「あははっ。先生が直接言ってくれたら、私だって聞くよ? でも……」

 

「……あなたはもう、とっくに居なくなっちゃった。だから、先生が悪いんだよ?」

 

 

「っと、そうそう! 別にこのまま、思い出に浸っていても良かったんだけど」

 

「近況報告をしなくちゃだね! うん、それも約束だった」

 

「先生が言った通り、ちゃんと学校には行ってるよ? 全然授業には興味ないけど、ちゃんと出席してる」

 

「他の人たちとも、ちゃんと話してる。めんどくさい誘いは断ってるけど、良いな~って思った子とはお友達にもなってるし!」

 

「でもやっぱり、ナギちゃんとかセイアちゃんと話してる時間が長いんだけどね。最近は特に!」

 

「昼も夜も、最近はどうだって、辛くはないかって聞いてくれるんだ。あはっ、何でだろうね?」

 

 

「──やっぱり、気付いてるのかな?」

 

 

「先生との約束の時間まで、あと半年だもんね。あともう少しで、私は先生のところへ行ける」

 

「まぁ、先生のところに行けるというより──」

 

 

「言っちゃえば、自殺するんだけどね☆」

 

 

「まだ、肝心の方法とかはぜんぜん考えてないけど……」

 

「って、聞いてる人いないよね! わっ、知り合いにバレたら大変……」

 

「……良かった、誰もいないみたい。もう、こういうところは直らないなぁ」

 

 

「ナギちゃんたちが聞いたら、怒るだろうからね。止められちゃうかもしれない」

 

「それに、本来なら先生だってそうだと思う。生徒がこんなことをするのは、許すハズもないよね」

 

 

「……だからこそ、最期にああ言ってくれた時は嬉しかったんだ」

 

 

「後を追おうとする私の手を取ってさ。この先三年、気持ちが変わらなかったらいいよって」

 

「でもさ? 本当は絶対に言いたくなかったんだろうなってことぐらい、私にも分かるよ」

 

「……けど、それ以上に先生は理解してくれてた」

 

 

「先生のいない世界に、私は耐えられないだろうって」

 

 

「三年の間に、私が先生のことを乗り越えられるか……それか、私を救ってくれるような人が現れるか」

 

「そんな希望を込めて、先生は三年って言ったんだろうね」

 

「その期間も、可能ならもっと伸ばしたかったんだろうな~。あの表情からするに、五十年ぐらいにはしたかったのかな?」

 

「でも、無理だった。だって、私はこんなだから。たぶん、先生も予想できてたんじゃないかな?」

 

「とは言っても……自分でも分かるんだけど、三年って期間は最善だったと思うよ?」

 

「うん、もしかしたら(・・・・・・)があったかもしれないね!」

 

「……そんな未来、吐き気がしちゃうけど」

 

 

「うぅ~。もっと話してたいけど、最近は暑いね~」

 

「熱中症になってもいけないし、今日はこれぐらいにしようかな!」

 

「それじゃあ、また来るね☆」

 

 

「──あと半年だね、先生?」

 

 

 ~~~

 

 

「ふぅ、疲れた」

 

「こんなに体を動かしたのは、あの時以来かな?」

 

「もう、ぜんぜん体を動かしてなかったからかな? 体がすっごく痛いよ」

 

「この調子だと、明日は筋肉痛が酷いかもなぁ……」

 

「……まぁ、もうそんなこと心配しなくてもいいんだけど」

 

 

「よいしょっと。どうにか、ここまで来れて良かった」

 

「聞いてよ先生、結局バレちゃってさ? やっぱり、セイアちゃんは勘が良いね」

 

「ナギちゃんも来るとは思ってたけど、まさかサオリちゃんたちまで止めてくれるなんて。私も案外、慕われてるのかな?」

 

「でも、私って強いね。全部、どうにかなっちゃった☆」

 

「もちろん、お友達を殴るのは良い気分じゃなかったけど……しょうがないよね」

 

「ちゃんと遺書は書いてきたから、それで許してくれるかな?」

 

「……許してくれたら、いいなぁ」

 

 

「さて。追いつかれちゃっても面倒だから、さっさと始めるね」

 

「ほら、この爆弾! 先生も知ってるよね、ヘイローを破壊するヤツだよ」

 

「なかなか手に入らなかったんだよ? 途中で色んな人にも気づかれちゃってさ、余計に疲れたし」

 

「こうして作動させて、タイマーを起動すれば……っと」

 

 

「はい、これでオッケー☆」

 

 

「あと三十秒で爆発してくれる。ちゃんと試したし、間違いないよ」

 

「こうやって抱きしめておけば、失敗することもない」

 

「……これ以上動けないし、腕も怪我しちゃってる。近くに遮蔽物もない」

 

「停止スイッチもない。気が変わっても、もう逃げられないね」

 

 

「……うん。逃げたくはならないけど、すっごく怖い」

 

「でも、それ以上に安心してる。これで終わりなんだなって」

 

 

「……ごめんなさい、先生」

 

「私は結局、こうなっちゃったや」

 

「もちろん、ダメなことだって分かってる。でもさ──」

 

「──お姫様には、王子様がいないとダメなんだよ?」

 

 

「わっ、もうそろそろだね」

 

「3、2、1──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先生?」

 

「えへへっ、よかったぁ」

 

「ずっとずっと、会いたかったんだよ?」

 

 

「──やっと、一緒にいられるね」

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