メジロラモーヌ「面白くない男」   作:お話下手

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面白くない男

 

 『貴女の婚約者です』

 

 ある日突然、お婆様に屋敷へ呼ばれ何事かと思えば最初の言葉がそれだった。お婆様の側に立っているのは見たこともない優男が一人。グレーのスーツを身につけ綺麗に整った身なりから何処ぞの御曹司だろうか。婚約者などあまりにも馬鹿げた話しだ。ウマ娘である私はターフを…レースしか愛さない。何処の誰とも知らぬ男と一生を過ごすなど死んでも御免である。

 

 少し癪だが、あの生意気な男の手を借りることにした。お婆様に返事をする前にスマホを取り出し、婚約者と呼ばれた男は不思議そうな顔をする。電話履歴は彼で埋まっているため確認する必要すらない。ワンコールで繋がり『メジロ家にすぐ来なさい』とだけ伝え電話を切る。切れる前にスピーカーから困惑と怒鳴り声が聞こえるが知ったことではない。自分の側にいないあの男が悪いのだから。

 

 待ってる間もお婆様から相手の説明を受け、やはり某家の長男であり向こうも婚姻の話には乗り気らしい。男も此方へ話しかけてくるが全て無視をした。先程から容姿に関する世辞を言われ悪い気はしないが、全くつまらないのである。私のレースに関する話を一つもしない。いい加減苛立ちが募ってきたが、全力疾走で駆けたのか電話相手がものの十五分足らずで到着した。

 

 『もう!ラモーヌ!俺も忙しいんだからすぐに駆けつけると―――これはこれは御当主様、ご無沙汰しています。再びお会いでき恐悦至極に存じます』

 

 汗を流し息も絶え絶えで、扉が開かれると同時に悪態をつく男。自身の専属トレーナーである。

 お婆様を見た瞬間、乱れた呼吸を一瞬で整え優しげな笑みを浮かべた。器用な男だ。胸を張り、背筋を伸ばし堂々と室内に入る。足音を立てずに無駄の無い動作は洗礼されており礼節を弁えていた。

 一般のトレーナーであるこの男。前に何度か弾除けに重鎮達とのパーティーに連れていたが、このような場に対しやたら手馴れている。何処で習ったか聞いても記憶が無いからわからないと言われ、掴み所のない胡散臭い男だった。

 しかし、容姿は悪くなく顔立ちは整っておりナイフのような切長の目は魔性の如き惹きつけるモノがあり、重鎮達の婦人に対しては暫し人気者扱いされていた。学園内ではふざけたことをするが外面は良い男である。

 

 『このような場を設けて頂いたお婆様には悪いですが、私…彼と結婚致しますわ』

 

 『はぁ!?』

 

 トレーナーはその外面を剥がされ目が点になった。腕を組み、身体を寄せるフリをして背中の皮を摘み上げる。これ以上何か言えば皮膚を引き千切ると言わんばかりに。

 

 『ら、ラモーヌ…御当主にあまり御冗談―――あがが』

 

 『年齢的にまだお婆様にご報告するのは早いと思いまして。まぁ!彼ったら照れているようです』

 

 『あがが』

 

 お婆様はコントみたいな事を繰り広げる二人をジッと見つめるだけ。御曹司の方はショックの言葉を小さく口にするだけで何も言い返せない。自分の鋭い眼光が射抜いたからだ。

 

 『それではお婆様、失礼致します』

 

 トレーナーと御曹司がそれ以上何か言う前に扉へと向かう。当然、婚姻を決めた相手を引き摺りながら。最後までお婆様が何も言わずにいたことに少し不思議だったが、今にとってそれは好都合だ。

 

 『正気か!?』

 

 屋敷前に止めていた車に乗り込んでトレセン学園へと戻る。運転手以外、周りの目が無くなった彼は焦ったように耳元で大声を上げる。うるさい。

 

 『お婆様が用意したお相手、見るからにつまらなそうだったもの。あんな相手と一生過ごすなんて死んでも御免だわ』

 

 『あー。成程、時間稼ぎね』

 

 一人納得したように頷く。何か誤解しているようである。

 

 『何を言ってるのかしら、婚姻はするわ』

 

 『いや、なんでだよ!結婚だよ!結婚!一生涯の者だよ!?まさか俺のこと好きなの!?』

 

 それこそあり得ない話だった。あの御曹司がどうでも良いタイプならばこの男は大嫌いなタイプである。そこに恋愛感情はない。

 この男を選んだのは使えるからだ。もう一度言うがこの男は外面は良い。何処で学んだか興味無いが礼儀作法やマナーを身につけており、メジロ家の恥を晒すようなことはしない。更に自身の専属トレーナーとして脚の怪我の完治からトゥインクルシリーズの最後まで面倒を見切れる実力と教養もある。

 お茶の作法から食事の支度まで私自身の好みに対応出来、身の回りの世話も可能。

 問題は口答えな生意気さと記憶喪失であるが、前者は兎も角、後者に関してどうでも良い。寧ろ何か思いだして居なくなる方が都合が悪い。

 

 それならばまだこの男の方がマシだ。面白くない男だがつまらない男ではない。

 

 『あのさぁ、それって奴隷じゃない?』

 

 『前にそういう人生でも構わないと仰っていたじゃない』

 

 記憶喪失な彼。自分という存在が無い感覚に近いようで、己の将来像や未来を思い浮かべることが出来ないらしい。積み重ねた過去が自分自身を作るなら、それを失った自分は死んでるも同然だと。

 故に記憶喪失者は自分の過去を探り記憶を取り戻して蘇るらしいが、彼は自分の過去を知っても最後まで記憶が戻ることはなかった。

 

 『確かに、君が学園を卒業したらやること無くなるか…』

 

 自分の将来に一切興味を持たず、今の言葉からまぁ…良いかと思っているに違いない。そんな捨てる人生ならば貰ってやろう。私が有効活用してやろう。

 それで仲が上手くいくか等わからぬが、彼も男だ。気まぐれに偶には『愛してる』と口にすれば良い。自分のとっての夫婦の価値観などその程度である。

 

 『ラモーヌはどうして俺を選んだんだ?』

 

 『あら、それは先程全て答えたつもりだけど』

 

 『いや夫婦となると…その、そういうこともあるから。本当に俺で良かったのか気になって』

 

 僅かに胸がドキリとするような感覚があった。自分でもよくわからないそれに何でもないと言い聞かせ、相手に悟られないよう口にする。

 

 『意外ね。貴方は自分の評価に興味ないと思っていたわ』

 

 『確かに俺はね。でも君には興味ある』

 

 それこそ意外だった。トレーナーとウマ娘としての関係は築いていたが、二人の仲は御世辞にも良いとは言えない。互いが打算で付き合い、時には悪態をつくことも偶に…いや割とよく喧嘩していた気がする。彼は私に目を合わせず流れていく外の景色を眺め表情が見えない。

 

 『そう。てっきり私に対して苦手意識があるとばかり。別に貴方を選んだことに大した理由は無くてよ、メジロ家の跡取りの為なら肉体関係なんて問題ないわ。変?』

 

 一般的な未成年としてはおかしいとは思う。しかしメジロラモーヌという存在にとっては確かに問題は無かった。無かった筈である。

 

 『いやなに、君は本当に愛する人としか結婚しなさそうと思ったから』

 

 『私が愛しているのはレースだけ。それ以外は愛さない』

 

 吐き捨てるような言葉に一瞬。本当に一瞬。彼が寂しそうな顔をしていたような気がする。そうか、と小さく呟いて何事も無かったよう前を見据えた。トゥインクルシリーズは終わったが、やるべきことは多くなる。メディアの取材にインタビュー。ドキュメンタリーの撮影にメジロ家の親族に挨拶。式場の準備に招待する重鎮達への根回し。

 

 そして、指輪選び。

 

 これから忙しくなるだろう。残念ながら円満な夫婦生活を想い馳せることはない。事務処理のような、主人と奴隷のような夫婦生活が始まるのだから。

 

 そう思っていた。思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――だが彼は死んだ。アッサリと。

 

 

 

 

 

 

 指輪を買いに銀座を共に練り歩いている時だった。二人っきりだった為いつも通り彼は社交用の態度は捨て去り、トレセン学園の時と同じよう悪態をついたり、それこそくだらない話しで互いに笑っていたような気がする。

 

 ふと彼が立ち止まり、何も無い虚空を見つめる。

 

 『どうしたのかしら』

 

 『…マズイ』

 

 『え?』

 

 急に走り出した。その表情は見たこともない程焦り、駆け足も服の乱れを気にしないくらい全力疾走。

 この先は交差点である。嫌な予感がし此方も駆け出す。その先にはアルバイトだろうか、大きな荷物を抱えたウマ娘が横断歩道が渡っていた。歩行者用の信号は青だったが、ギリギリ間に合うと思ったのか改造車が信号を無視してきたのである。

 本来なら絶対に間に合わないほどのスピードと時間。だが、彼だけそれに気づくことが出来、ウマ娘に体当たりするのが自分にも見えた。

 

 景色がスローモーションに変わる。

 

 怒号と悲鳴が聞こえる。

 

 男達が車の運転手を引きずり出そうとしている。

 

 逃亡しようとしているのを必死に止めようとしていたが、誰も肝心の彼のもとへ駆け寄ろうとしない。

 それもそうだろう。下半身があり得ない方向に捻じ折れ曲がっているのを見れば、恐ろしさが先にくる。

 私は静かに、ピクリとも動かない彼に近寄る。脚が鉛のように重い。虚ろな目に映る私のその顔はいつもより無表情だった。吐き気がする。

 

 『何をしているの』

 

 周りが驚くほど冷たい声が出る。決して救命活動をしない者達に対してではない。いつまでもそこに寝転がっている、愚かな男に対して言っているのである。

 

 『早く起きなさい』

 

 まだ仕事が残っているのに休む暇などない。これから指輪を買いに行くのではなかったのか。まだ親族達との挨拶も済んでいない。式場の準備も私にさせるつもりだろうか。気分が悪い。車道の中心、服が汚れるのも気にせず隣に座り込む。僅かに指先と瞼が動いた。

 

 『あの、子は…』

 

 『無事よ』

 

 見れば泣きながらごめんなさいごめんなさいと、何度も何度も謝罪しており女性達は落ち着かせようと躍起になっていた。

 

 『だから早く起きなさい。やることは一つも終わっていないわ』

 

 頭が痛い。

 

 『酷い…奴だな…ホント。君は…俺のこと、なんとも…おもっ…いない…からなぁ。でもおれは…きみ……あい…して』

 

 『―――――』

 

 今なんて言った?あい?

 

 まさかアイシテイルと言ったのか。突然の愛の告白に頭が真っ白になる。未だに熱を持つ手を掴み握った。反応はない。

 いつも死んでるような目だったが、光さえ失っていったその瞳に濁ったモノが混じり込み握っていた手は…腕は一気に重みを増す。

 

 『起きなさい』

 

 反応は無い。

 

 事務処理のような夫婦生活を送る筈だった。この男にとって捨てるような人生を貰った筈だった。漸く私の物にした筈だった。それがこんなアッサリと失われることに許せない。自分のモノが失われた。認められない、認めたくない。

 

 『ホント、面白くない男』

 

 頬に手を添え優しく撫でる。

 

 『…っ』

 

 もう起きなさいとは言えなかった。何故か言葉に詰まる。レースで味わう高揚感とは違う熱いモノが胸の中で込み上げる。それが気持ち悪くて仕方ない。痛くて苦しくて仕方ない。

 

 『貴方…そんなっ…私―――』

 

 どうしてこんなにも激情に支配されるのか。みっともなく全身を掻きむしりたい。目尻から熱いモノが止めどなく流れる。自分とは思えない嗚咽が出る。その答えに辿りつくのに時間はかからなかった。

 そうだ、おかしい話しだ。跡継ぎのためならば、結婚相手が誰でも良かったならばこの男である必要は何処にも無い。

 レースにしか愛が持てないと思っていた、その絶対が揺らいだことに認められなかった。彼は自分のことを嫌っていると思っていた。拒絶されるのが怖くて線引きをして、愛を手に入れなくても、ただ側にいてくれてレースで愛を感じられるならば幸せであると。

 

 あのくだらない日常が続いて欲しかった。この男が欲しかったのだ。

 

 『私も愛してるっ…』

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 一度だけ聞いたが彼は天涯孤独だった。両親は半ば駆け落ちで夫婦となったらしくその上、母親は癌で。父親は交通事故で亡くしたらしい。

 式はメジロ家でひっそりと行われることにした。

 

 まさか自身が父親と同じ死因で、結婚式が葬式に変わるとは。彼が生きていたら参ったよオイ!と叫び出しそうだが、その声はもう聞こえない。

 婚姻の件も無くなり、もしや前回のお見合い相手と結婚させられるかと思ったがお婆様は私に対して何か言うことはなかった。別にそれでも構わなかった。もしかすれば彼を忘れられるような気がして。時間が忘れさせてくれるのだと。

 

 しかし、逆だった。どうやら自分はあの男に心底惚れていたらしい。

 

 月日が経つほど想いが強くなる。会いたい。声が聞きたいと。

 

 そんな気持ちを振り払うようレースを走り、以前よりも自分の走りに鋭さが増す。無敗を飾り誰も手が届かない領域へ、辿り着く。本当に欲しいモノには手が届かず。

 

 レースしか愛さなかった自分が彼への想いに支配される。誰も見てない所で喚き散らし、二度と満たされない愛情が憎しみに変わる。

 

 貴方のせいで私はおかしくなった!

 貴方のせいでレースだけを愛せなくなった!

 貴方は私に想いを告げて、私は貴方に想いを告げられなかった!

 

 ああ!生きていればこの手で殺したい程憎い!あの細い指をへし折りたい。全身の骨を抱き折りたい。あの首筋に噛み付き血を啜りたい。逞しい背中を爪で引き裂きたい。あの可愛らしい舌を噛み千切りたい!

 

 引き出しから万年筆と紙を取り出し、想いの丈を書き殴る。読んだ者が戦慄するような殺意に満ちた恋文。それはこれっきりではない。この衝動は頻繁に起こり、特にレース後の余韻が身体に残っている時は凄まじく真夜中であろうと執筆に力が入る。文字に書き起こせば書き起こすほど身体が疼き、おかしくなりそうだった。

 

 許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい許せない殺したい会いたい。

 

 手紙は日を追うごとに一枚から二枚、二枚から四枚、四枚から十枚。十枚から百枚と増えていく。あの男が生きていたら白目を剥いていただろう。

 

 だが時折、十枚に一枚は純粋に愛の想いを綴った手紙もあった。読んだ者が赤面し、声に出して読むことさえ憚るようなあまりにも情熱的な内容である。

 時が経ち、身体が衰え、レースを走るウマ娘として引退してもその習慣は変わらず、代わりに手紙の内容は落ち着きが出てきた。愛を語る内容が増えてきたと言って良いだろう。

 

 今にしてみれば愛していないと思っていた自分が馬鹿らしいと思うくらい言葉が出てくる。いつも楽しそうだった貴方。いつもふざけていた貴方。でも時折、慧眼と博識を持ち、嘘みたいに真剣な顔つきになる貴方。紅茶を淹れるのが上手な貴方。料理も得意だったわね。

 下品かと思えば品格を持ち、天真爛漫かと思えばミステリアス。女好きかと思えば実はウブ。やる気がないと見せかけて影でウマ娘の為に働いていたのを知っている。

 

 書けば書くほど、自分が彼をずっと見ていたのだとわかった。愛を語っておきながら自分の好意に気づかないとはとんだ生娘である。

 

 だがある日突然。

 

 『え?』

 

 いつもみたいに手紙を書こうとした時に、思い出せなくなったのである。彼の声を。どんな笑い声だったのか、どんな泣き声だったのか。

 何処かで聞いたことがある。人は、聴覚・視覚・触覚・味覚・嗅覚の順で忘れていくと。

 

 急いで彼の声が入った映像でもないか探したが、残念ながら見つからない。写真はトレーナー業で撮影された物があるため顔は忘れないと思っていたが、全ての写真において彼が”笑顔“で写っている物は一つもなかったのだ。私の前ではあれ程表情をコロコロと変える男だったというのに、仕事では無表情ばかりである。

 

 もう、笑顔が思い出せない。

 

 また、失い。絶望してしまった。

 

 時が自分を救ってくれると思っていたというのに、更に大切な物まで奪われていく。もうこれ以上は心が激情に耐えられなかった。

 身体を動かす気力は無くなり、食事もまともに喉を通らない。心配した妹のアルダンが泣きながら様子を見にきた。家のことは全て任せて問題無いほど成長し、何よりそばで支えてくれる者がいる。羨ましい限りだ。

 

 私の可愛い妹アルダン。貴女は幸せに生きてほしい。ずっとそばで支えてくれた存在と共に末長く生きなさい。

 私はもう良かった。このままあの男を忘れていくなら死んだ方がマシ。それにこれでやっと逢えるのだから。

 

 『貴方、面白くない人ね』

 

 『逆に君は面白い子だね…』

 

 『この紅茶、美味しくないわ』

 

 『なにぃ!? 君が喉が渇いたって言うからわざわざ―――』

 

 『っ!』

 

 『成程、足を故障しているのか。見せてくれないか?』

 

 『貴方、今日から私のトレーナーになりなさい』

 

 『え。絶対嫌だ』

 

 『このトレーニング内容はなに? やりたくないのだけど』

 

 『我が儘言うな。君の怪我はまだ完治していない。焦ったいだろうがこれ以上の走りは絶対に許可出来ない。それでも文句言うなら、俺と勝負して勝ったら良いぞ〜』

 

 『今日のトレーニングはここまでかしら』

 

 『ああ、お疲れ様。もう暗いから送っていくよ』

 

 『…今日はトレーニングをやる気分ではなくてよ』

 

 『ふむ。調子が悪そうだな…良いよ。なら、何がしたい? なんでも我が儘聞いてあげる』

 

 『この程度じゃ物足りないわね』

 

 『まぁ、わかってはいたがG1でここまで圧勝するとはな』

 

 『見惚れたかしら』

 

 『いやまだ詰めが甘いとこがあった。自身の身体スペックの高さとレースの読み合いは素晴らしいがラストスパート、カツラギエースのスタミナ不足に救われなければ負けていた可能性が…おいどこ行く』

 

 『面白くない男…』

 

 『今日の紅茶はどう?ブレンドを少し変えてみたんだが…』

 

 『ふぅん。…前の方が好きね』

 

 『段々君の好みがわかってきたぞ』

 

 『トゥインクルシリーズも遂に終わりか。ハハ!これで君と別れられると思うとせいせいするぜ』

 

 『そう、ね…』

 

 『私、彼と結婚致しますわ』

 

 『はぁ!?』

 

 走馬灯が見える。それでも彼の笑顔は思い浮かばない。出逢いからなんてことない日常。いつも通りの風景にレースの時。私の気まぐれに鼻が効く男だった。私の好みにとことん拘る男だった。夫になれと言った時は間抜けな顔だった気がする。どんなモノだったか忘れたけど、構わない。だってこれから逢えるのだから。

 

 出会い頭に口づけをしてやろう。沢山の愛を囁こう。楽しみだ。

 

 きっと、想像もしないような間抜けな顔を見せてくれるのだから。

 

 

 

―――――

 

 

 

 メジロラモーヌ。最強のウマ娘。

 宝石のような美しさと獅子のような強さを持ち、嫉妬すら憧れすら届かないと言われたメジロ家の至宝。愛に殉じた女。

 僅か四十四歳でこの世を去る。この時、彼女の体重はたったの二十八キロしかなく、悲劇的な衰弱死を遂げてしまったがその顔は悲しすぎる程、穏やかであったという。

 

 




次の更新は8月12日0時となります。
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