メジロラモーヌ「面白くない男」   作:お話下手

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トレセン音頭に夢中になってました


独占欲

 

 「やぁ、朝帰りとは君もなかなかやるじゃないか」

 

 マルゼンスキーのマンションから無事帰宅し、誰にも見つからないようにトレーナー寮に入ろうとしたその時だった。背後から凛とした爽やかな声が聞こえる。安堵から一気に血の気が引き、おそるおそる後ろを振り向くと眼鏡をかけた私服姿のシンボリルドルフが腕を組んで佇んでいた。

 

 「おおお、おはよう」

 

 「あぁ、おはようトレーナー君。おや、そんなに怖がらないでくれ。別に君のプライベートに口を出すつもりはないんだ。ただ、君は少々危なっかしい性質がある故に運も悪いところもある。何かあったのでないかと心配になってね」

 

 確かにルドルフの様子は怒っているようではない。むしろ今まで通りシンボリルドルフとして困ったような笑顔なのであった。しかし、口から休み無く出される言葉に僅かながら威圧を感じるのは気のせいだろうか。

 

 「き、昨日職場のみんなとご飯食べてね…」

 

 その後、酔っ払ったたづなさんとライトハローさんに連れられて吐くまで飲んだこと、偶然通り掛かったマルゼンスキーに介抱されていたこと。全て事細かく。嘘偽り無いのを報告した。

 …流石に下着姿で寝ていたとか、マルゼンスキーとちょっと良い雰囲気になったとかは口が裂けても言えないので其処は伏せておく。ルドルフは嘘を見抜く観察眼を持つ。余計なことは言わない。言ってしまえばお仕置きが来る可能性があった。

 

 「ふむ、なるほど。 大人の付き合いはわかるが程々にしなければいけないよ。 生活費もラモーヌからの催促に関して私から庇い立てすることは出来ない」

 

 基本的にルドルフは俺に甘い。他にもクリスエスとマルゼンも優しいが少々ベクトルが違う。厳しいラモーヌ、シリウスから手助けしてくれるが、悪いことは嗜めるし俺の能力を高く評価してくれている。だが、時折独占欲が強いところがあり職場の女性を食事に誘っているのがバレるとお仕置きされそうになった。

 

 実はルドルフから直接此方に『好意を持っている』と告白されたことがある。

 

 が、当然断った。女の子に好きと言われるのは非常に非常に嬉しいが、教え子に手を出すのはかなりマズイ。物凄くマズイ。最悪逮捕される。

 

 ルドルフは聡い子だし納得はしてくれたが、諦めるようなことはなかった。不意打ちのアピールは続いているし、様々な手段で此方を骨抜きにしようとするからとても怖い。いつか墜ちてしまいそうになる。

 

 「ゴメンね、次から気をつけるよ」

 

 何はともあれ今回は追及が其処までなくて助かった。彼女には悪い思いをさせてしまったし、今度何かお詫び―――――。

 

 「ああ、でも首筋に付いてる痣には見過ごせないな」

 

 「え」

 

 嫌な予感がして窓に映る自分の姿を改めてよく確認する。確かに耳の下辺りに小さな丸い痣があるではないか。そういえばマルゼンスキーは俺にしがみついていたが、まさかその時に付けられたのか…?

 

 「あ。あれ~どっかぶつけたかな? 酔っ払っていたし覚えてないや」

 

 「成程、嘘ではなさそうだ」

 

 いつの間にか音も立てずに近づいていたルドルフ。俺の腕を掴み、そのまま何処かへ連れていこうとする。ちょっ、チカラ強い!

 

 「ルドルフさん!? どうする気ですか!」

 

 成人男性の三倍のパワーを持つウマ娘の中でも最上級の能力を持つ彼女だ。此方の抵抗なんぞ子供の腕力みたいなものである。逃げられない。

 

 「はは、なに。すぐにすむ」

 

 声質はやはりいつも通りのルドルフ。いやどちらかと言えば機嫌が良いように聞こえる。まさかお仕置き!? お仕置きですよね!

 

 マズイですよ! いや、ルドルフはメチャクチャ好みのタイプだしどっちかと言うと凄い好きだけど未成年はアウトだから! 学園にバレたらアウトだから!

 

 「学園の内情は全て把握している。勿論、誰も来ない場所も、な…」

 

 いやー!貞操がー!たづなさーん!ルドルフ止めてー!俺をボコボコにして良いからー!

 

 大体叫んでいれば、また何かやらかしたとたづなさんが飛んできてくれるが、そういえばあの人、ライトハローさんを送っていったから今学園にいないんだった。

 

 最後の手段も封じられてしまい絶体絶命かと思ったがそこに救いの存在が。

 

 「あれ? 二人とも何してるの?」

 

 ミスターシービー。ルドルフと同じ担当ウマ娘である彼女が私服姿で現れた。

 

 「おや、シービー。 君が休日の学園に来るなんて珍しいな」

 

 シービーはマルゼンスキーと同じ、寮ではなく離れで一人暮らししている。休日はいつも散歩している彼女からして学園にいること自体は中々珍しい。

 

 ルドルフはシービーの姿を見るとすぐに手を離してくれた。

 

 「うん、実はトレーナーにシューズの買い物を付き合ってと頼んでいてさ。 あれ? もしかして忘れてた?」

 

 全く覚えていないが、この状況から抜け出せるなら藁にでも縋る。

 

 「そ、そういえばそうでした」

 

 「ほう」

 

 ルドルフは一瞬目を細めた。もしかしたら嘘に気づいたかもしれない。だが、彼女は意外なことにそれ以上追及することはなかった。シービーの手前、下手なことは言えないのだろう。

 

 「約束していたなら仕方ない。 また今度にしようか」

 

 「悪いね、ルドルフ」

 

 シービーは何が起こっているかわからないと思うが、ルドルフの邪魔をしてしまったことには気づいていたようで軽く謝罪する。

 

 「俺の方こそゴメンね」

 

 なんでかは知らないが、俺自身も彼女に謝ってしまう。別にルドルフと恋人関係でもないのにおかしい話だが、何故か罪悪感を感じる。

 

 「謝ることなんてない。 私の方こそ冷静さを失っていた、済まないね」

 

 ルドルフはちょっと悲しそうな顔をしてその場を去っていった。ウマ耳と尻尾が垂れ下がっている。

 

 「いやー、ルドルフはホントに君が好きだね」

 

 姿が見えなくなってからシービーが苦笑してポツリと溢す。周りから見ても明らかにバレていたのか。

 

 「記憶喪失前の俺を知っているからだと思うんだけど…」

 

 彼女の言動からして記憶を失う前の俺もルドルフのことが好きだったらしい。所謂、相思相愛。記憶がないのに彼女にやたら惹かれるのはそのせいかも知れないと考えたが、他の担当にも同じような感情抱いてしまうから説得力がない。

 

 「もう付き合っちゃえば?」

 

 軽いな!

 

 「いやいや、未成年だから…」

 

 未成年じゃなければ構わないんだ。と、シービーは呟くがむしろそれ以外に何があろうか。

 あと考えうることと言えば記憶が無いのに、ルドルフのその好意を利用している気がしてあまり気分が良いものではない。記憶を失う前の俺に申し訳ない気持ちがある。

 

 「早く。 間違いを犯す前に良い人見つけないと…」

 

 「無理だと思うけどな。だって君―――――いや、なんでもないや」

 

 口ごもるシービー。そういえばこの子も俺のことを知っているようなこと言っていたような。初対面の時、私のこと覚えてる?って聞いてきたけど、まさか彼女も記憶喪失前の俺と何かしらの関係だったのか?

 

 「一応、一応聞くんだけど。シービーもルドルフと同じなの? その…好意みたいな」

 

 「え。 いやどうだろ…君は私のこと凄い好きだったみたいだけど」

 

 「そうなの!?」

 

 女好きも大概せいと自分に言いたい。あっちにフラフラこっちにフラフラと好意をばら蒔いていれば周りは呆れていたに違いない。

 

 「それはなかったよ。 だって多分君がルドルフ好きな時は私のこと知らないし、私のこと好きな時はルドルフとは関係無かったから」

 

 ルドルフ好きな時はシービーを知らなくてシービー好きな時はルドルフを知らない。意味深なことを言われて頭の中が混乱してくる。

 

 一体どういうこと。

 

 「うーん。 私も上手く説明出来ないんだよね」

 

 似たようなことはシリウスにも言われたことがある。記憶喪失になってから彼女に初めて会った瞬間、いきなり胸ぐらを掴まれた。ルドルフが知っている俺と自分が知っている俺は違うと。しかもルドルフとは違い、正反対の憎しみの感情を向けられている。   

 

 前の俺が何かやらかしたんだろうが、申し訳ないと思いつつも謝罪のしようがない。

 

 それが今は和解してないにも関わらず、なんやかんやで担当することになっているのだからわからないものだ。

 

 「君はなんて言うか、ウマ娘のことがホントに好きな人だったよ」

 

 そりゃ名門であるトレセン学園のトレーナーになるくらいだ。相当勉強してデカイ夢を持って情熱に溢れた人間だったに違いない。

 

 「ただ、その…うーん。それが私にとって…いや、やめとこ」

 

 何故かシービーはこれ以上野暮だと思ったのか急に別の話題に移る。単に考えるのがめんどくさくなった可能性もあるが。いつもことなので仕方ない。

 

 「それより休日の約束だけど…」

 

 「あぁ、確かシューズを一緒に選ぶとか言っていたね」

 

 「それ嘘だから」

 

 嘘だった。シービーもそうだが、担当ウマ娘の殆どは表情から感情を隠すのがメチャクチャ上手い為、嘘を付かれても全くわからない。特にルドルフとシリウス、クリスエス、シービーにラモーヌ。君らホントに未成年?

 

 「別にほっといても良かったんだけど、君に貸しを作っておくのも悪くないかと思ってさ」

 

 毎度シービーの気紛れに振り回されているが、今回はそれに助けられたらしい。気分屋の彼女に借りを作るのは後々が怖いが背に腹はかえられぬ。

 

 「シューズを買い換えるのはホントでさ。君の意見も聞きたいかな」

 

 「因みにそれは借りを返したことに…」

 

 「ならないよ」

 

 にこやかにズバッと切り捨てられた。まぁ、担当の競技道具を精査するのもトレーナーの役目であるので付き合うのは問題無い。問題はスポーツ店に辿り着くまで間違いなく寄り道の連続であること。それが彼女の良さでもあるので今日の休日は暇だったし、全く構わないが。

 

 「わかった。 じゃあ着替えてくるからちょっと待ってて」

 

 「うん」

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 「シービーにとってトレーナー君はどんな存在だい?」

 

 前に一度ルドルフに問われたことがある。

 

 今まで沢山のトレーナーを断ってきたのに彼を一目見て決めたことに不思議だったのだろう。逆に此方も気になったのでルドルフに質問に質問で返した。

 

 「私? そうだな、唯一の同士と言っても良い」

 

 ルドルフの夢は全てのウマ娘を幸福にすること。その同士と聞いてなるほどと納得してしまった。彼は元々そういう男だったことを。

 

 「あーあ、あんな能天気なくせに爆弾抱えてるからなぁ。 こういうの苦手なのに参っちゃうよ」

 

 トレーナー寮に元気よく走っていく彼の姿を見てミスターシービーは思う。ルドルフは彼の記憶をできれば取り戻してほしいと考えているらしい。元々そういう関係だったのだから猛アピールも彼女からしてみれば、嘗てのスキンシップだったに違いない。 

 

 自分達の肉体年齢と精神年齢がちぐはぐなせいで中々上手くいかないのだが、あのルドルフが彼に対して彼処まで冷静ではいられないのだから余程愛し合っていたのだろう。

 

 独占欲も愛故に手放したくないからだ。

 

 前回のトレーナーの最期。彼は自分の記憶を全て取り戻したが、同時にルドルフを担当していた時の記憶も取り戻したようだった。そう、取り戻してしまったのだ。

 

 恐らくそれは彼にとって何か許せないことだった。

 

 あの時追い詰められていたトレーナーにとって最悪のタイミングであり、私に襲い掛かった不幸も相まって結果的に自ら命を絶ってしまった。

  

 『大丈夫だよ、シービー。また逢える…いや、もう逢わなくて良いんだ』

 

 嫌な光景を思い出す。彼はこのまま記憶を取り戻さない方が幸せなのではないかと思う。そうしなければまた同じことを繰り返すに違いない。ホントに嫌になる、こういう煩い関係性…。

 

 私にとってのトレーナーか…多分当て嵌めるとしたら。

 

 「呪いが一番合っているかもね」

 

 

 

 




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