「失礼します。本日取材の挨拶できました。東京ライダーズの井森と牛村です」
古びた二階建てのビルの一階にある占い天照星。内装のほとんどは暗くてよく見えない。中に入って数秒後、部屋の奥からゆっくりとした足音が聞こえてきた。
「おお、井森くんじゃない。久しぶりだね、元気にしてるってオーラが出てる。それでお隣の君は」
「東京ライダーズの東京ウィークエンドでライターをしている牛村と申します。本日は取材の挨拶と段取りの打ち合わせで来させて頂いたんですけど」
「そうか。じゃあお二人さん、向かってすぐ右のソファーに座るといいよ。」
「いや天照星さん、相変わらず中暗いですね。牛村、ソファー意外と深いから気をつけて。あの取材の段取りの説明をしたいので少し明かりをつけて頂きたいんですけど」
「実はねこの前、井森くんが来た時にはまだあった照明なんだけど、ほら僕の占いは暗くないとできないんでね、あの後照明は全て取っちゃったんだよ」
「ああ、そうなんですね。一応パソコンを持ってきてるんで見えなくはないですけど、映画館みたいになっちゃいますがよろしいですか」
「面白いじゃないの、ワクワクするね。早速段取りを始めようか」
「じゃあ説明させて頂きますね、牛村、全体の流れを」
「では、私からは全体の流れと時間を確認させて頂きます…」
僕たちは約三時間に渡り段取りを行った。天照星さんはとても気さくな方で、僕たちの段取りに対して文句も言わず、ただ良いねとだけ返答をしてくれた。取材スケジュールは一週間、その限られた一週間で各雑誌四 見開き二ページずつ記事にしないといけないのだ。そんな僕たちの緊張も伝わったのではないだろうか。帰りの支度をしていると天照星さんが言った。
「実はさっき占わせてもらったんだが、牛村くんは何かを探しているようだね。そして井森くんは何か気になっている事があるようだ。でも大丈夫だ、二人ともこの場所から南に向かえば吉と出ているよ。特に明日行くといいと出でいる」
「天照星さん分かるんですか。実は牛村、生き別れの母親を探してるそうなんですよ。あ、いやこっちはただ秘密を探りたいなって人がいるくらいですから、ってそこじゃなくて、段取りの方の話は大丈夫ですか。」
「井森くん、安心しなさい。僕は聖徳太子の耳って言われてるんだよ。最大で五人までは聞き取れるんだ。だから段取りの話は問題ないさ。ところで牛村くんは母親を探してるんだね。」
「はい。小さい頃に母親とは別れてしまっていて、そこからずっと会えてないんです。まだ二歳の頃だったので母の名前も覚えてないんですけど。実は父もその後に亡くしてて。施設や里親と生活をしてきたんですが父の情報しか出てこなくて、母の情報がないんです」
「そうか、君はとても複雑な環境に育ったんだね。悪いが僕は占い師であっても君の母親を特定することまではできない。けれど占いからはヒントをもらうことができる。まずは明日、南の方向に行ってみなさい」
「井森、地図を出してくれ。ここから南って何があるんだ」
「牛村すごいぞ。さっき話したクラブなんだけど、ムーンライトビューティっていうお店なんだよ。ほらここから南にあるんだ。先輩が牛村を誘えって言ったのも何かの縁なのかもしれないな」
「お二人さん、慌てては行けないよ。そこに答えがあるとは言っていない。ただ吉と出ているだけだ」
「いやでも天照星さん凄いですね。今回取材を受けてもらえて良かった。今回取材させて頂いたのも、読者からのアンケートで今取材して欲しい人一位だったからなんです。天照星さんが予約も取れないほど人気な理由分かる気がします。本当に悩みとか当てちゃうんですもんね。こんなにも忙しい方なのに、この取材を引き受けてくれたのは、占いで吉と出ていたからですか」
「そうだね、井森くん。僕は忙しくても占いで吉と出たものを優先している。それは自分のためでもある。やっぱり良いようになるのが一番さ。でもね、吉と出ていたとしても必ずどこかに落とし穴はあるものだ。吉と出ていたものが急に凶になってしまうこともある。明日にはどうなるか分からない。でも今日君たちと話してみて何かの縁を感じてね、君たちのためにもなるんじゃないかって、僕は二人を信じてみることにしたんだよ」
「私たちも天照星さんのためにもいい記事書きますので、どうぞ最後までよろしくお願い致します」
「よろしくお願い致します。ではまた来週、取材の時に来させて頂きます。」
「よろしく頼んだよ。うん、まだ雨止みそうにないね、二人とも気をつけて帰りなさい。水溜まりは踏まないように」
PM5:40 外は夜、雨はさらに強まりそうだ