一話
「ゼェ・・・ゼェ・・・」
豪雨の降る中。枯れ木となった一本の木の根元で血を流す腹に手を当てながら、ホリゾンブルーのトレンチコートを着た青年が横たわる。その息は荒く、顔色も悪くなっていった。足元には供与された小銃が転がり、さらにその下には同じ服を見に纏う兵士や、違う色の服を着た兵士の姿まであった。
「は・・・ははは・・・」
どんどん視界がぼやけていく中、少し痩せた様子の兵士は呟く。
「・・・結局俺は鉄砲玉かよ・・・・・・クソッタレめ・・・ウグッ!」
直後に痛みが走り、思わず腹を抑える自分。味方の増援も確認できず、救助も・・・鼻から期待していなかった。なぜならここに自分がいるのは・・・
「証言者を消すためだろうしな・・・・・・」
その為の無謀な突撃であり、砲撃だ。今頃、内地で上層部はご満悦だろう。ただの金食い虫と立場を脅かす存在は消え、戦線は前進した。
嗚呼、何と言う素晴らしい事だろう。だからこそ、無力感に苛まれる。
どうしてこうなったのだろうか・・・
何と世の中は理不尽なのか。
何と不公平なのか。
そんな思考がぐるぐると回る。おそらくはこれも仕組まれた事なのだろう。でなければ支援砲撃で味方ごと吹き飛ばすなんて普通はしないからだ。こんな事に巻き込まれてしまった兵士達には本当に申し訳ないと思う。
あんな・・・戦争をゲーム程度にしか甘く見ていない奴らの為に命を張っている事に・・・・・・
「・・・はぁ・・・・・・」
願わくばこの戦争。こちら側が負けてほしいものだ・・・
「・・・おはよう」
朝の教室に入り、挨拶をする。しかし帰ってきた返事はない。うん、いつもの光景だ。
自分はそのまま席に座ると片付けていた本を開く。今読んでいるのは軍事学書。歴史の勉強も兼ねて読んでいた。
クラスでもカースト最下位の自分は教室の後ろでボッチを堪能していた。するとヒソヒソと後ろ指を指す言葉が聞こえる。
『ねぇ、また戦争の本読んでるよ。あいつ・・・』
『右派とかじゃないの』
『ほんと、捕まるか死ねばいいのに・・・』
ふざけんなと言いたいところだが、ここで言っても面倒になるだけなのでとりあえずは無視の方針をとる。
どうして、ここまで言われるのか。それは単にクラスの人気者と喧嘩をしたからだ。
そいつは自分にとって都合の悪い所は蓋を閉じ、都合のいい話しかせず。顔面偏差値も高く、親もこの辺では有名。人を落とすのが非常に上手く、三股なんて当たり前。ひどい時は五股くらいしていただろう。何か問題を起こしても親が金持ちだからこんにゃくで解決してしまう。絵に描いたようなクズだ。そんな奴を好きになれる方が頭おかしいと思っていた。
そんな時、あいつは自分の趣味を軽蔑し、馬鹿にしていた。その事に腹が立ち、一言言い返したらこの有様だ。何と器の小さい事か・・・・
そんな感じで内心呆れながら授業が始まるのを待っていると奴が来た。
「おはよう!!」
「「「おはよー!!」」」
教室に入ってきた明らかに高い声にクラス中の女子が反応する。あぁ、五月蝿い。黄色い歓声が教室を包む中、奴こと小野寺輝は自分を一瞥するとすぐに視線を女子達に戻す。そして教室がワーワー騒ぎ出した時、不意に視界がぐらりと揺らいだ。
「っ!?なんだ・・・?」
この時期の夏バテかと思っていると他の全員も同じように倒れていた。何が起こっているのかと思うと視界は急に真っ暗になり、思わず瞼を閉じていた。
正暦一九三六年 五月六日
フランク共和国 ブルターニュ州カンペール
「なんでこんな事に・・・」
俺、南部茂はトボトボとフランドル積みの建物を歩く。片手には英語の本を持って・・・
思えば数日前、いきなりヘンテコな場所に呼び出されたのが原因だった。目が覚めたらふかふかベットで寝ていたのだ。どう言うこっちゃと思っていると白人の綺麗な女性が顔を覗かせて英語で話しかけて来た。
「おはようございます」
「え?あ、はい・・・」
思わず変な声が漏れてしまうと他のクラスメイトも同じように目を覚ました様子で何やら大騒ぎだった。ここは何処だの、家に帰してだの、綺麗な人に欲目で声をかけたりと、とにかく騒々しかったのは覚えている。大きな装飾のついた部屋でクラス全員が起きた頃、奥の扉から少し大柄な屈強な体をした黒髪に髭を生やした初老の男が入って来た。するとその男はフランス式の肋骨服を着ており、見るからに軍人と言った様子だった。するとその男は俺たちを見ると歓迎するように話しだす。
「初めまして大魔法師とその同胞がた。ようこそ、フランク共和国へ。私、フランク共和国准将ジュール・ファーブルと申します」
ジュール・ファーブルと名乗った男はそう言うと自分達を歓迎するように手を大きく開いた。
ジュール・ファーブルの話を要約するとこの世界でフランク共和国と言うこの国家は東側に存在するライヒ帝国との戦争中であり、戦況は拮抗。その状態がズルズルと続いてしまっているそうだ。その状況を打開する為に異界から強い魔法を使える人を呼び出し、それが俺たちだったらしい。
そんな話を俺たちは晩餐会でもしそうな、それこそベルサイユ宮殿みたいな豪華な部屋で聞いていた。
取り敢えずいまだに全員が混乱しており、状況が理解できておらず。輝がいなければ大騒ぎだっただろう。いけ好かないがこう言うカリスマ性はあるから実に腹立たしい。交渉術も上手く、あとは他人を見下すような姿勢をなくせば良い人なのに・・・・
そんな風に考えてしまってると机に置かれたグラスに飲み物が提供される。グレープフルーツに似たその飲み物を注いだ美人なメイドさんに釘付けの男達。女子達はクラスの代表である輝にいつも通り一目惚れだった。喉が渇いていたので徐に全員が出された飲み物に口をつけているとファーブルは最後にこう言った。
「我々、フランク共和国の民主主義を守る為に、民主主義の敵を打倒する為に。あなた方は創造神ガイア様に導かれてお越しになられたのです」
そう言うとファーブルに輝が質問をした。
「・・・話は分かりました。ですが、幾つか質問を宜しいでしょうか?」
「あぁ、良いとも。元はと言えばこちらの事情だ。なんでも聞いてくれ」
そう言うと輝はファーブルに幾つか質問をした。
「最初に、この国ではどのくらい戦争が続いているのですか?」
「今年で四年目になる」
「では、私たちを呼び出したのはどう言った方法で?」
「大規模転移術式で強い魔力を持つ者を呼んだのだ」
「魔法?この世界には魔法が有るのですか?」
「左様、この世界には魔法が存在している」
魔法という言葉にクラスメイトが興奮した様子を浮かべる。すると輝は少し険しい表情でファーブルを見ながら聞く。
「では、次に最も重要な事を聞きます・・・・
私達は元居た場所に帰ることは出来るのですか?」
その問いに全員が一斉に視線を向ける。確かに、こっちはいきなり呼び出された方だ。帰れなかったら全員が絶望するに決まっている。と言うかそれが普通だ、するとファーブルは暫しの沈黙ののち口を開いた。
「・・・・・・方法はある」
すると一気にブアッと雰囲気が明るくなる。すると一人の少女、三沢晴美が言う。
「じゃあ、今すぐ帰してください!じゃなきゃ誘拐で訴えますよ!!」
そう言うとファーブルは悲しげな表情を浮かべると自分たちに言った。
「・・・・すまないが現時点で君達を帰還させるのは難しい」
「何でですか!?」
「君達を返す為に必要な魔力が不足しているのだ。今回呼び出したのだって、戦場で魔法が使えなくなるのを考慮しての物なんだ」
ファーブルの話を聞き、席を立ったり、滑り落ちたりして絶望するクラスメイト。
「どうすんだよ!?」
「帰して!家に帰してよ!!」
「やだよ!俺戦争なんか行きたくねぇよ!!」
阿鼻叫喚するクラスメイトを輝が席を立って収めるために机を叩き、全員の注目を集めた。
「みんなの気持ちもわかるけど一旦落ち着こう。・・・ファーブルさん。貴女の話を聞く限り、帰る為の材料が足りないだけで帰る方法はあるんですよね?」
「その通りだ」
「ほら、この人も言っているだろう?俺たちに帰る方法はあるんだ。何も絶望しなくていいんだ。だから落ち着こう」
そう言うとクラスメイトは輝の一言に落ち着きを取り戻し、席についた。すると輝はファーブルに聞く。
「ファーブルさん。我々が帰還する為に必要な方法は分かりますか?」
「そうだな・・・戦争が終わればその分の魔力は溜まるだろう」
「だ、そうだ。この戦争が終われば俺たちは元の世界に帰れる。つまり、戦争に勝てば良いんだ。俺たちが戦争に参加して、少しでも早く戦争を終わらせればいい」
そう言うとクラスメイトの一人、大上航が輝に不安そうに聞く。
「で、でもよ・・・・俺たち戦争なんてした事ないぜ?」
「大丈夫さ。俺がいる限りお前らを守ってやるよ」
キラキラした自信に溢れる目でそう言う輝に航は安心したのか表情を緩め、他の全員も同じように安心し始めた様子だった。
しかし、俺はずっとファーブルという軍人から目を離さなかった。ファーブルさんは確かに見た目通り感情豊かで軍人よりも芸能人みたいな明るい雰囲気を持っていた。しかし、芸能人みたいな雰囲気を持っているからこそ何処となく心の内に警戒心が生まれていた。
結果として、輝の扇動のお陰でクラスメイトの殆どが戦う道を選択した。元居た場所に帰る為に・・・・
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