一〇一話
『政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為。』
日本におけるテロとは主にこのように定義されている。主に特定秘密保護法や自衛隊法にて明記されている一文である。
テロというのは太古から存在し、有名なもので言えば『ブルータス、お前もか』で有名なユリウス・カエサルの暗殺事件やアメリカが対テロ戦争に乗り出すきっかけとなった9・11があるだろう。
そう、テロというものは意外にも深い歴史を持っている。
それはたとえ、正暦という名のつくこの世界に於いても……。
「消化だ!急げ!」
「くそっ!奴らガソリンでも撒いていたのかよ!?」
炎の燃え盛る中。中庭で燃え盛る屋敷を呆然と眺め、時折崩れてくる柱などから逃げている仲間。そんな中、築城が燃え盛る城を眺めながら後ろで立っていたコンラートに聞いた。
「ディルクはいつ戻ってくるんだっ!?」
そう問われるも、コンラートは答えることができなかった。ただ茫然と彼は燃え盛る城を眺めていた。
「今回の任務は主に諜報と破壊工作だ」
前の司令部襲撃と同じく車のボンネットの上に地図を置く。そして一部の人間は旧共和国軍兵の軍服を着ていた。
「俺と一部の人間で中で騒動を起こす。その隙に残った部隊はあの古城から出てくるテロリストを拘束しろ」
そう言うと数名が問いかける。
「拘束できない場合は?」
「射殺許可は出ている」
「出火した際の消防の出動は?」
「消防局との折り合いは既に付いている」
何人か確認を終え、ディルクと他四個中隊はそのまま地図を確認するとそのまま潜入部隊と待機部隊に分かれる。Mボートは八八ミリ砲を搭載した装輪式駆逐戦車という位置付けである。
偽装用に八輪の大型トラックの見た目をした運送業者に扮しており、ネットがない今はそこまで詳しく調べようとすれば時間がかかるわけでそれっぽく振る舞っておけばバレない。と言うか今までバレる気配すらなかった。検問所ってガバガバやな。まぁ、出国はいつも比較的ゆるいけどさ……。
「既に付近の国境には陸軍部隊が展開している。取り逃しても彼らが捕らえるだろう」
「了解」
「では、作戦を始める」
そうして深夜の闇夜を漆黒を纏う部隊は出動していった。
道にMボートを停車させ、待機部隊はそのまま魔導演算機を装備したまま待機する。
既にディルクは魔導演算機を
「……」
そんな中、待機組のコンラートはディルクの飛んでいった方を見ながら少し考え事をしていた。
「隊長?」
「ん?」
よほど考え込んでいたのだろう、彼は部下から声をかけられていた。
「何か連絡が?」
「あ、いえ。何やら考え事をしておられたようですので……」
「ああそうか……」
部下に心配されるとは情けないとコンラートは思う。
「いや、なんでもない。……それより状況はどうだ?」
「はっ!以前として変化ありません」
「そうか」
コンラートは片手に突撃銃を下げながら遠くに映る今は抵抗軍の集会場と化した古城を眺める。
「やれやれ……テロリストがこうも堂々としていると違和感を覚えてしまうな」
無理もないとコンラートは内心感じる。
ここは帝国と共和国の国境付近とはいえ、ロール地方のラインランドである。
そう、ロール地方。半年前までは共和国の領土であった場所であり、戦後処理において帝国領へと編入された土地であった。
ロール地方は葡萄畑や感応石鉱床がある戦略的にも重要な場所であり、長年帝国と共和国での戦争の種でもあった。特に後者は太古より戦略物資として重宝されてきており、共和国が革命前の王国の時でも常々国境線は細かく曲がりくねっていた。
そして無数の戦乱の中で国境線は毎年のように変化しており、ここに住まう住人も今自分がどちらの国に帰依しているのかすらよくわからない状態だった。『国籍がどっちなんてどうせ税金の時にわかる話だ』と言うくらいには。
しかし、ここが元共和国領であるが故に一部の人間は秘密裏に抵抗軍に協力していると言う。それもそうかもしれない。戦争が終わり、元々共和国市民であった彼らは戦後処理でいきなり帝国市民へと国籍を移されるのだ。希望すれば家を売って共和国に行くこともできるが、長年住んできた家を易々と売っぱらう者などほぼ居なかった。
そして共和国市民であることに誇りを持っていた彼らはまたこの土地が共和国になることを願い、そのために戦ってくれる組織である抵抗軍に対し、多くの援助を行っていた。彼らが母国である共和国を攻撃していると言うことを指摘しても一貫して『敵に寝返った政府に協力する輩を攻撃して何が悪い』と答える。聞いて呆れそうになってしまう……大隊長が『くだらんイデオロギーだ』と吐き捨ててしまうレベルの会話に彼らは頭を悩ませていた。
「テロリストに加担している時点で捕まると言うのに……」
おかげでここの警察署の駐車場にパトカーが停車する時はオーバーホールの時だけだと立ち寄った修理屋が嬉しそうに嘆いていた。
「おかげで任務が捗らんな……」
多分、自分たちが呼ばれたのもこの為なのだろう。
普通、こういった任務の際。帝国領内での活動であれば通常は一般の陸軍の部隊が駆り出される。
だが、もし陸軍を動かした場合。その様子を見ているであろう街の市民に紛れ込んだテロリストに加担した者が一方を入れ、そのまま逃げられる可能性があった。
抵抗軍の持つネットワークは予想以上に深くて広く、どこに彼らの目があるかわからない。故に元々人目を避ける必要があり、その存在を知る者はほぼいない……すなわち軍事行動を行なっても勘付かれにくい我々が今回、この任務に駆り出されたのだろう。
「今度給料を上げてもらうか……」
司令部からこの頃。我々をしばき回しているのだからこれくらいの事は許可されるに違いない。
中に潜入するために茂は蓮子や他数名を連れて古城の近くにある湖の辺りにたどり着く。
そして、彼らにとっては懐かしい旧共和国兵軍服を着ていた。
「この感覚、懐かしいな」
横田がそう口にすると他の面々も頷く。
「ね、どっから仕入れたかは知らないけど」
「まさかこいつをまた着ることになるとは……」
そう言い、彼らはかつて戦時中に来ていた軍服に懐かしさを覚えていた。ここに転移する前は軍隊のぐの字も経験したことのないひよっこであった彼らは今ではすっかり一人の兵士として活動できるくらいには成長していた。ただ、その代わりに失ったものも多いが……
「そろそろ作戦区域だ。相手は曲がりなりにも落魄れた軍隊。前の司令部のようには行かないと思え」
「「「「はっ!」」」」
全員が頷くとそのままディルクは横にいた蓮子に目を向ける。
「蓮子。いけるか?」
そう問いかけると彼女は頷く。
「ええ、いける」
「じゃあ頼む」
反応を見て茂はそう言い、彼女は少し緊張しながら手に黄金色に光る精霊石を仕込んだ魔導具を取り出す。
これはあくまでもまだ仮説に過ぎないが、この世界における魔法というのは強力な脳波が感応石と反応して起こる一種のエコーに近いものであると推測していた。
「……」
目を閉じ、蓮子は潜入する大湊などの手を取ると。そのまま手に持っていた精霊石から魔法陣が一瞬だけ浮かぶとそのまま消え、しばらくしてまた元の場所に戻ると次に送り込む人員を何回か送り込み、最後に蓮子は茂の手を取った。
「行くよ」
「ああ」
そして最後に茂の手を取ると、彼女は魔法を発動し、その淡緑の光が一瞬二人の体を包むと次に見えたのは先ほどまで見ていた古城の屋根であった。
今回、茂の立てた作戦はほとんど蓮子の持つ能力頼りの作戦だった。教国の禁書を見て転移魔法の陣を見た彼女はその特異的なまでの魔導適性を用いて軽い練習をしただけで転移魔法を簡単に扱うことができた。
そして彼女は同じく教国で手に入れた精霊石を使った魔導具を駆使して転移魔法を発動させて潜入させていた。
教国で精霊石を手に入れた事は実際に教皇庁に侵入した者のみの秘密となっており、コンラートはおろか立川達ですら知らなかった。
「さすがだな」
「そりゃこんなに連発していたらすっかり慣れるわよ」
魔力保有量と魔導適正が(神様のおかげとは言え)完璧に釣り合っている彼女はこうした魔法を発動しても魔導レーダーには一切反応しなかった。その為、諜報戦などにおいては限りなく逸材と言える。他にも転移者に見られる特徴として魔導適正の高さなどが挙げられ、どれも隠密行動にはうってつけであった。
元々お国柄として魔力量の多い人材を欲する帝国にとってみれば『使えない魔法兵』として烙印を押されやすい魔導適正の高い魔法兵はこう言った隠密戦に於いては最強とも言えるのだ。
むしろ魔力だけ多い連中は歩いているだけでも魔導レーダーに引っ掛かる可能性があるので、そこを重点的に狙われる可能性がある。
だからと言って魔導適性しかない者はすぐに魔力枯渇で地獄の頭痛に悩まされる。
魔力保有量と魔導適正
どちらも一長一短であり、蓮子のような完璧な比率の者は今後必要とされる人材であろう。ただ、魔力は何度も魔力切れによる頭痛を我慢すれば次第に魔力は増えていくが、魔導適正に関しては訓練できないのでどうしようも無い。だから今後は共和国のように帝国も魔導適正の高い人材を欲するようになるかもしれない。
なおこの理論は数十年後に脳に軽く電気刺激を与える事で魔導適正を高める施術の確立により解決される事案であった。
「それじゃ、仕事を始めますかね」
そう答え、抵抗軍の衣装の上に三七式魔導演算機を背負い、茂は最近では日常でもつける事の多い逆位相眼鏡を付けたまま背中の魔導演算機に光学迷彩を掛けてその存在を消していた。
演算機に収納しているオート5諸共視界から消え去り、肩から見れば肩から
この新型短機関銃は戦時中に帝国軍の短機関銃を鹵獲した共和国軍がプレス加工などを再現して作って戦争末期に配備し始めた新型短機関銃だ。ストッピングパワーを求めて帝国軍の九ミリ弾薬を使っていた辺り、使い勝手が良かったのかもしれない。
「行くぞ」
「うん」
互いに頷くとディルク達は古城の屋根から所々見張りの兵が立っている中庭を見ていた。
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