戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一〇三話

クルトと接触を果たしたディルクはそのまま古城のワイン保管庫から出る。

 

「どうだった?」

 

貯蔵庫の曲がり角でカセリーヌが顔を出す。

 

「新たに情報を渡すから反対側に来てくれだってよ」

「そう……」

 

少し考えた後にカセリーヌは一考した後にディルクに提案する。

 

「少し警備の人間が多いわ。検問も設置され始めている」

「だとしたら不味いな……」

 

どうにか検問を通らない遠回りの順路を模索していると彼女が聞いてくる。

 

「どうかしたの?」

「いや……コイツを預かっているんだ」

 

そう言ってディルクは個包を見せる。あの野郎、検問ができるから厄介者のコイツを渡したのか……。やはりあの男、協力者らしく逃げる事に特化しているか……。

 

「なにそれ?」

「抵抗軍が打っていると噂のワクチン。例の屍人に使われているのもこれで分かるかもしれない」

「例のゾンビ薬ね、でもどうする?検問がそこかしこに設置され始めているけど」

 

そう言い、警備兵として潜入した自分達は一旦他のメンバーと合流を図りたいと思うと、カセリーヌが小突いて合図する。

 

『皆中庭に呼んでおいた』

「……そうか」

 

読心でもしたかと思うほどの手際だが、ディルクはそのまま頷くと中庭に向かう部屋に入る。

 

「まだ集まってはいないか……」

 

入った部屋のバルコニーから外を眺め、中庭を確認する。美しい庭園を窓から漏れる灯りが照らし、庭園の剪定された庭を見る。眼鏡をかけている上に薄暗いから顔はほぼ見えない。しかし、こんなバルコニーに出ている人間は少なくとも周辺にほぼいない。だから……

 

「気づいたな」

 

確認をとり、中庭に入ってくる兵士たちを確かめる。数が多くなった上に検問があるとはいえ、すでに自分を含めれば五名ほど送り込んだ現状で中庭に集まるとまず初めにディルクは受け取った認識表をそのまま手渡す。

 

これはこの世界における話だが、認識票には感応石が使われており、この前の魔導鍵と同じように特定の刻印がされており、認識票を見れば敵味方わかる仕様なのだ。やっぱやけに未来的な部分が多いよこの世界。

 

「これは大湊、こっちは百里、最後に松島」

 

前に教皇庁に侵入した時と同じメンバーで五名は潜入している。目的は今回の会議の盗聴と抵抗軍の次の作戦計画の情報。後者は難しい場合は断念して構わないと言う判断だ。

 

「状況は?」

 

茂が問うと、大湊と松島が答える。

 

「ダメね、何処も検問だらけ。認識票を持っていなかったからバレたら恐ろしかったわ」

「同じだ。聞いているよりも警備が多すぎる。誰かお偉いさんでもくるのか?」

 

その異変にここにいる全員も同様に同じ疑問を抱く。

 

「盗聴は?」

「まだ仕掛けられていない」

「計画書は?」

「ダメね、司令室にはまだ人がいる」

 

未だなにも進んでいない現状、そんな中での収穫と言えば……

 

「コイツだけだな」

 

協力者が渡してくれた小包、中は例のワクチンが入っている。

 

「コイツを無傷で持ち出す必要がある」

「なにそれ?」

「例のゾンビになるかもしれない薬」

「「「?!」」」

 

これにはいつも無口の百里も驚いた様子を見せた。無理もない、あんな恐ろしい光景を見たから二度とごめんだと思う。時々その悪夢にうなされていると聞いているし、聞いたことがある。

 

「(帰る時、その苦痛に耐える事はできるのだろうか)」

 

それは分からない。もしかすると怖いと言い出すかもしれないし……いや、ここで考えるのは無粋か。

 

「ともかく、コイツをいち早く外に渡す必要がある」

「そうだな」

「どうする?」

 

松島の問いに他は蓮子の方に顔を合わせた。

 

「え、私?」

「これ運ぶのにお前以外の適任者が何処にいる?」

 

聖地条約なんてクソッタレみたいな話ではあるが、彼女は完璧に転移魔法が使える。秘密裏に物を運ぶのにこれ以上強力な存在はいなかった。

しかし彼女は慌てた様子で言う。

 

「で、でも帰りはどうすんの?作戦じゃあ、転移魔法で帰るはずじゃあ……」

「そのためのコイツさ」

 

そう言い、ディルクは背中の虚空に向かってコツと音を立てる。

 

「コイツの出力なら、ここにいる全員が運べる」

「でも……」

 

そこで大湊が言う。

 

「心配すんな。逃げ道はいくつか確認しておいた」

「そうよ、コイツが心配?今まで帰ってこなかったことがあるかって話よ」

 

松島もそう言い、押し込まれた蓮子はそこで軽くため息をついた後に茂を見て言った。

 

「帰ってきてよ」

 

その強い視線に茂は頷いた後に彼女の肩を掴んで答える。

 

「当たり前だ」

 

茂にそう答えもらった彼女はそのまま無言で個包を受け取ると茂によって簡単に城の屋根へ飛び、そこで茂は暗視魔法を使う。

 

「あそこか……」

 

遠くに映る車列を確認するとそこで茂は持っていたフラッシュライトを使って信号を送った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「信号です!」

 

通信兵から報告が入る。緊急時は信号弾が出る手筈であり、予想外の連絡に待機組は驚く。

 

「なんと言っている」

 

コンラートが聞き、通信兵は信号を読む。

 

「あて、副長、至急、重要物資送る。です!」

「重要物資……」

 

しばし一考した後にコンラートは今までの経験から指示を出す。

 

「車を用意しろ」

「わかりました」

 

おそらく何かしらの証拠を掴んだ可能性がある。とすると、至急で運んでおいた方が良いと予感していた。

待機組はそれぞれMボートと3tトラックで車道の路肩で待機しており、ぱっと見運輸会社が休憩しているようにしか見えなかった。

 

作戦が始まって二時間ほど、未だ動きのない古城の監視に暇を持て余していたのか、はたまた休憩中のカモフラージュということか、トラックの横で例の転移者達は彼らの国の言語で会話をしながらポーカーに興じていた。

 

「おい君たち」

 

声をかけると彼らは一瞬驚いた様子を見せるも、すぐさまトラックに乗り込む。

 

 

 

Mボートは国家機密の塊だ。そんな物に元は共和国軍兵であった転移者を乗せる事に初めは懸念を抱いていた。

しかし、彼らと接しているうちにその認識は間違っていたと思った。

 

従順な飼い犬。

 

少佐がそう評したように、彼らは実に忠実に命令をこなす。まるでロボットだ。子供の頃、映画館で見た機械人形のように彼らは言われた命令をこなす砲兵などにはもってこいの人材だった。そして少なくとも彼らには諜報戦の訓練を施したというが、もし命令系統に異変があった場合、彼らは動揺するのではないかという不安があった。

 

「(戦闘面で問題はないのだがな……)」

 

正直言って誤射が一切ないと報告を受けた時は心底驚いたもんだ。

戦時中も、何かしらの戦闘行為において誤射と言うものは一定数発生する。うちらの部隊だって何度か誤射で負傷者を出しているが、あの転移者達はまるで自分達の居場所が丸分かりかのように射撃をしていた。その点では賞賛に値する。

 

「問題なく終わると良いが……」

 

コンラート自身としてはそろそろ()()()()()と予測していた。

すると道路に歩いてくる一人の影をよく見て、コンラートはそれが仲間であると認識すると手招きをした。

 

「お待たせしました」

 

合流したのはカセリーヌ大尉であり、彼女の手には紙で包まれた小包があった。

 

「例のものだね?」

「はい」

「すぐに車を回す。荷物を届けよう」

「分かりました」

 

短く答え、カセリーヌはそのまま部下に小包みを手渡す。そしてカセリーヌが手渡したその一瞬、

 

「誰だ貴様」

「っ!?」

 

腕を掴んでコンラートは個包を受け取ろうしとした男を背負い投げして地面に叩きつけた。その瞬間、他の隊員達も慌てて銃口をその男に向けた。

 

「がぁ……」

 

無数の銃口を向けられ、コンラートに絞められているその男は苦し紛れに声を出す。

 

「何故分かった」

「あいにくと隊員の顔は全員覚えているんでね」

 

そう言うとさらに腕を引っ張った後、気絶弾入りのリボルバーを取り出して一旦全員が離れた後にそのまま気絶弾を撃った。

ひと段落した後にコンラートは軽く汗を拭ってつぶやいた。

 

「危ない危ない、危うく情報を抜き取られるところだった」

 

猿轡をし、そのまま見ぐるみ全部剥がして中身の荷物調査をし始める。

 

「徹底的に洗っといてくれ。尻の穴までかっぽじって探しとけよ」

「はっ!」

 

言われずとも、侵入者に対して一杯食わされた状態だ。この侵入者が何処のどいつなのかを調べなければ気が済まなかった。

 

「まさか気づかなかったとは……」

 

軽く頭を抱えながらコンラートはどうしたものかと思っていると、横からカセリーヌが声をかける。

 

「あの……」

「ああ、すまない。何か用かね?」

 

若い子に心配されるとは恥ずかしいものだと、思い一瞬で気を取り直したコンラートにカセリーヌは事情を話し出した。

 

「すみません。少佐よりこの個包を司令部に届けて欲しいと伺ったのですが……」

「司令部に?」

「はい。何でも中身は抵抗軍の新型ワクチンだからと……」

 

その話を聞き、コンラートは目を見開いて驚いた。そして胸を撫で下ろしていた。

 

「危なかった…上に絞られる所だった……」

 

そう言い、一旦大きく息を吸い込んだ後にカセリーヌを見ながら言った。

 

「カセリーヌ大尉、信頼出来る者に移送させる。君が運んでくれ」

「へ?」

 

首を傾げるカセリーヌにコンラートは人を呼ぶ。

 

「おい!ゲルハルトを呼んで来い!」

「あ、ちょっと……」

 

トントン拍子で進んで行く話に蓮子は進言しようとするがコンラートは疲れたからかよく分からないが恐ろしい勢いで指示を飛ばしていた。

 

「あの……」

「心配すんな。コイツは直線番長だが、戦時中からの知り合いで信頼に値する」

「直線番長は余計だよ」

 

そう突っ込んできた一人の軍人は陽気に言うと、持っていた突撃銃を乗ってきた車に放り投げながら言う。

 

「さてお嬢さん。出発しよう」

「良いんですか?」

「ああ、問題ない」

 

そう言うと、彼女は社用車として士官用の車として置いているTyp82Eに乗り込む。初めは阿○博士の車やんと言っていたが、今ではすっかり慣れてしまったものだ。

 

「出すぞ」

「は、はい……」

 

なんやかんやであっという間に乗せられた車の後部座席でカセリーヌは個包を抱えたまま急用で現場から走り去って行った。




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