戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一〇四話

蓮子を転移魔法で送り届けた後、古城に残った南部、大湊、松島、百里の四人は認識票を持ったまま古城内の警護の為に大湊・松島ペアが中で警護し、茂と百里はその二人を古城の屋根上から監視して援護していた。

片手に共和国製半自動小銃(RSC1918)を持ち、窓の外から大広間横の部屋に向かう松島達を百里は見ていると横で茂が話しかける。

 

「じゃあ、俺は行く。後を頼んだぞ」

「ん、分かった」

 

いつでも狙撃ができるように準備をしたまま百里は照準を合わせ、茂はそのまま例の協力者のいる作業場に向かった。

あらかじめ古城の地図は記憶しており、茂は順序通りに中庭の反対側まで歩く。

 

会議は先ほどのワイン保管庫を中心に左側の大広間で行われ、右側は俺たちが植林をしていたあの河辺が見える方向だ。

左側は田畑が広がっている影響で隠れる場所がほぼ無い為、逃げるのであれば右側一択だ。あそこには隠れるのにちょうど良い林がある。

この古城は綺麗なロの字型の構造で、中庭は戦争の影響で剪定されて来なかったのだろう、伸び切った植物が生え散らかしていた。

 

「(作業場は確か此処の筈だが……)っ!!」

 

曲がり角を出ようとした矢先、遠くから声が聞こえる。それも大勢の声だ。いくら抵抗軍に扮しているとは言え、なるべく接触は避けていきたい所だ。だが……

 

「(隠れる場所が……)」

 

此処は中庭の見えるバルコニーにつながっている。隠れるにしたって場所が無い。仕方がない、警備兵として扮するかと思って聞き耳を立てた矢先、

 

「ご覧の通り、会議室周辺の兵はすべて移動させました」

 

おいおいマジかよ、警備兵に扮したら逆に怪しまれる。

 

「(逃げるか?)」

 

いや、だとしたら会議がオジャンになる可能性がある。それでは作戦失敗だ。

 

「(あいにくと魔法は使えないし……)」

 

使えるには使える迷彩魔法も勘のいい人がいると一瞬でバレる。だから使えない。

 

「(一か八か……)」

 

近づいてくる声を聞きながら一瞬で判断したディルクはそのままバルコニーに続く扉を見た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「閣下が自前の兵をお連れなさったと言う事で此処にいる兵はすべて外に目を光らせております」

 

やや小太りの抵抗軍将官がそう述べるとその後ろを歩く一人の若い男は短く頷くとゆっくりと口を開いた。

 

「それで良いです。あとは無事に会議が終わる事を祈るだけです」

 

周りを数名の突撃銃装備の兵士に囲まれた白を基調とした軍服を着た青年はそう頷きながら歩くと、ふと曲がり角の部分で立ち止まる。

 

「どうかされましたかな?」

「……」

 

視線の先には両開きの扉があり、カーテンがされたままだった。するとその扉を見ながらその若者は聞く。

 

「あの先は?」

「はっ、あの先は中庭が一望できるバルコニーであります。今は剪定しておりませんので噂ほどの美しさもありませんが……」

 

どこかその青年を馬鹿にしている雰囲気を織り交ぜながら男が言うと、その青年は徐に歩き出してその扉に手を当てた。

 

「っ!?」

 

鍵がかかっていなかった事にその男は一瞬驚く。そして青年は扉を開けるとそのままバルコニーに出た。

 

「ほほう……」

 

そして眼下に広がる中庭の姿にこんな言葉を漏らす。

 

「美しい」

 

すると後ろから将官が現れ、慌てた様子で青年に言う。

 

「大変申し訳ありません!此処の鍵を閉め忘れてしまっていて……!!」

 

何処か怯えるように話す将官に青年は言う。

 

「いや、良い」

「は?」

 

首を傾げる将官に青年は言う。

 

「ポテ司令、美しいとは思わんかね。この景色を」

「は、はぁ…申し訳ありません。幾分将官はこう言ったものに疎く……」

 

困惑して本当にわからない雰囲気で此処の指令を担当するモリス・ポテはその青年……抵抗軍副司令のヘイルダム・ルメイ()()を見ていた。

すると彼は困惑するポテに言う。

 

「見たまえ将軍、此処では生命が生き生きとしている」

「はい……」

 

ポテはこの青年の価値観に付いて行けないと思った。まぁ、元よりそんなこと考えてすらいないのだが……。

 

「中庭という限られた空間を植物がひしめき合っている」

 

戦争中、此処は幾度となく砲兵隊の放つ砲声や銃声を聞いていた事だろう。

そしてあの運命のニョルニル作戦の際に戦線を瓦解した事もよく見ていた事だろう。

 

「この城はまだ共和国が王政だった時代に作られた物だという。ただ、当時は財政が悪化しており元の設計よりも貧相な建築となってしまった。そしてそのまま王政は革命により崩壊してしまった」

「……」

 

ポテはやや眉を顰めながらヘイルダムの話を聞く。

よく変な感覚を持っている人間であるとは聞いているが、正直此処までとは思っていなかった。

 

「そして目の前に生きる植物は無造作に育ち、碌な剪定も行われていない」

 

とっとと会議を終わらせて帰って欲しいと思っているとヘイルダムはポテに聞いた。

 

「ポテ司令、まるで我々のようではないか」

「?」

 

いよいよ頭がおかしくなったかと思うとヘイルダムはバルコニーの柵に腕を置いて中庭を見下ろしながら彼は言う。

 

「まるで我々のようではないか」

「……は?」

 

ヘイルダムは何処か自笑するように続ける。

 

「戦争という枠の中で何を求めて戦っているのか、何のために戦っているのか。

集まってくる兵士は皆荒くれ者か犯罪者。

戦争という言葉に踊らされ、子供のピクニック気分で集まる子供達。

終戦を受け入れられない、故郷を帝国にされた人々。

司令官が持っているとされる噂の禁術の魔力に吸い寄せられた工作員。

 

 

 

よく此処までまとまったと感心するレベルだ」

「っ!?」

 

ポテは一瞬戦慄する。曲がりなりにもこの抵抗軍の副司令を務め、ジュール・ファブールが動けない今は実質的な司令官である彼が零した言葉にポテは恐怖した。

 

「今日の会議も協定を結んだ者以外の諜報員を炙り出すための会議だ。司令からの命令で既に作戦は進んでいる以上、工作員の炙り出しは必要だ」

 

彼はそう言うとバルコニーを後に歩き出す。

 

「ポテ司令、君のところにも多くの工作員が隠れているはずだ。是非とも協力してくれるかい?」

「はっ……っ!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……」

 

バルコニーの床の下。息を殺して茂は壁に張り付いていた。手はバルコニーの床の隅の装飾にかけ、足は窓枠にガッチリと踏んでこれでもかと踏ん張っていた。

そして反対側の屋根を一瞥するとそこで屋根に隠れていた百里からハンドサインを受けてそのまま先ほどまでヘイルダム達が話していたバルコニーに飛び移った。

 

「危ねえ危ねえ。死ぬかと思った」

『君ってよく無茶できるね』

 

無線で百里が話しかけてくる。ちょうど反対側にいた為にバルコニーの監視は彼女に任せていた。すると茂は少し息を整えた後に無線を使って松島に聞く。大湊は盗聴器を持っていた関係で無線機を持っていないからペアを組ませたわけだが……。

 

「松島、盗聴器の方は?」

 

時間的には十分ほど経っているがどうだかと思っていると返答があった。

 

『会議室に取り付けた。ただ、電池式だからそれほど長くは無理ね』

「それくらいは承知だ」

 

扉を触り、鍵は掛けられていない事を確認すると茂はそのまま中に入る。

 

「それと松島達。警備が多い理由がわかったぞ」

『え?』

「ヘイルダムがいたのさ」

『っ!?』

 

一瞬、無線の向こうで絶句する松島が居た。無理もない、まさかここにヘイルダムが現れるなんて思いもしなかっただろう。そして彼が現れた時の対策は一つ。

 

「すぐに撤退しろ」

『わかってる』

 

盗聴器の通信範囲は古城から出ていてもある程度は繋がる。いまだその能力が計り知れないと蓮子ですら言う以上、下手に手を出したらしっぺ返しを喰らう可能性があると推測していた。

ヘイルダムに関しては正直警戒しすぎていると言われてしまうかもしれない。そこは受け入れる。だが彼に関しての情報は極めて高い魔導適正としょっちゅう魔力欠乏になっている事、それ以外はまともに分からんのだ。

 

未知とは恐怖、だからヘイルダムに対し俺は恐怖していた。

 

「会議が始まる前にお前達は脱出ポイントに集結しろ」

『『了解』』

 

まずは例の協力者が言っていた物を回収しに向かったほうがいい。ヘイルダムに関してはその後だ。

 

 

 

 

 

ヘイルダムがいない事を確認し、警備の兵がいることに安心感を抱きながら作業場に入る。

元々武器庫だったためか中には大きめの作業台が置かれ、その中に先ほど見たのと同じ作業着を着た工作員クルトの存在を確認した。

 

「クルトさん、先ほど言われた書類をお持ちしました」

 

そう言い、適当な理由を付けて適当に紙を手渡すと彼は自分の顔を見て一瞬だが軽く頷いた。

 

「おう、そうか。……ちょっと待ってろ」

 

紙を受け取り、彼はそのまま足元にあった鞄に手を伸ばすと封筒を手渡した。

 

「じゃあコイツをマクバ司令に渡しておいてくれ。今月の認識票の名簿だ」

「分かりました」

 

そして封筒を受け取るとディルクは一瞬魔を置いた後にクルトに話しかける。

 

「クルトさん、少しゲーテについて話しませんか?」

「ん?別にいいが……」

「では少し」

 

そうしてディルクはクルトを一旦人気のいない場所に連れ出した。クルト曰く、ここは作業員がサボりに使う休憩所だそうで滅多に人が来ることはないそうだ。そこで早速ディルクは渡された封筒を開けながら聞いた。

 

「クルトさん。コイツは?」

「なんかの写真と通信記録だ。俺もさっき見たばかりだからさっぱりだ」

「……」

 

入っていたのは一枚の写真と紙。紙には通信記録としてその受信先が書かれており、写真は……

 

「なんだこれ?」

 

写真には何処かの港なのだろうクレーンやトラックの写った写真があった。裏面を見ると写真を撮った日にちが書かれていた。するとクルトは入手経緯をディルクに伝えた。

 

「その通信記録に挟んであった。俺も今さっき気づいたんだ」

「……」

 

おそらく誰かの趣味なのだとディルクは思った。ただいい写真だったから貰っておこうと思って彼はポケットにそいつを入れた。

そして通信記録を入れた封筒を内ポケットに入れるとクルトに言う。

 

「それから、要らぬ心配かもしれんが今度抵抗軍内でスパイ狩りが行われるそうだ」

「どう言うことだ?」

「さっき噂で聞いたのさ。此処に来ている副司令官からな」

「……」

 

一瞬だけクルトの目に動揺が浮かんだ。そして少し間が空いた後にディルクにゆっくりと言った。

 

「……感謝する」

 

そう言い残すと動揺を隠しながらクルトは戻って行った。

 

 

 

 

 




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