戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一〇六話

抵抗軍兵に現れるゾンビ化の原因と思しきワクチンを運ぶカセリーヌは運転するゲルハルトに話しかける。

 

「街まであとどのくらいですか?」

「ん?そうだな…あと三〇分くらいだろうか……」

 

そんな問いかけをするカセリーヌを見ながらゲルハルトは懐から一枚の写真を取り出す。そこには二人の子供と妻、そしれ自分の映る写真であった。

 

「ご家族ですか?」

 

すると見えていたのだろう、カセリーヌがやや前に乗り出して聞いてきた。

 

「ん?ああ、自慢の家族さ」

 

少々恥ずかしいと思いながら彼は写真をしまう。

 

「綺麗な奥さんでしたね」

「そうかい?私の自慢の妻なんだ。少し怖いところもあるが、それがまた良い所でもあるんだ」

「そうですか……羨ましいです」

 

彼女はそう言うと手に個包を後ろの座席に置いた状態で、一応スオミも置いていた。

 

「君の家族はどうなんだい?」

 

ふとゲルハルトは聞く。彼女は転移者の一人だ。異世界より連れてこられた少年少女達の一人。彼女にももちろん家族がいるはずだ。

 

「親がいなくて寂しいんじゃないか?」

 

バックミラーを見ながらそう聞くと、彼女は首を横に振って答える。

 

「いえ……私の両親は毒親でしたから」

「毒親?」

「私たちの生まれた国にある言葉です。私の場合は親から殴られる事もしょっちゅうでしたから」

「そんな事が……?!」

 

ゲルハルトは信じられないと思いたかった。目に入れても痛くないほど可愛い自分の子供に向かって暴力を振るうなど……。

 

「碌でもない両親だったんだな」

「ええ、本当に碌でも無い人達でしたよ」

 

彼女は椅子に座りながら答える。その声はどこか悲しげなものだった。

 

「私、幼い頃に子役をしていたんです」

「ほう、子役を……」

「ええ、子役として頑張っていたんですけどね…でもそれで満足な仕事をとってこれなかったら……」

「そんな事で……」

 

世の中そんな親もいるのだとゲルハルトは思う。碌でも無い奴と言うのは一定数発生するものだが、子供の暴力を振るう奴は下の下であると彼のみならず他の人々は思うだろう。

 

「君の世界ではそれが普通なのか?」

「いえいえ、こんなのはごく一部ですよ。それにその暴力もバレて私は両親の元を離れて祖母の家で育ちましたから」

「……すまない」

 

失礼な事を聞いたと彼は思った。よりのもよって女性の傷を抉ることになってしまった事を恥じてしまった。

 

「構いませんもう気にしていませんから。…それに、あの()()()()が死んでいようと私はどうでも良いので」

「……」

 

少なくとも実子にこんな事を言われてしまうほど愛情も消え失せてしまったのだろう。

こんな事を言われるような家族にはしたくないと心に誓っていた。

 

「(クラウス、エリカ……)」

 

 

 

 

 

今は無事でいるのだろうか……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

きっかけはこの作戦が始まる直前の事だった。ちょっとした買い出しの為に駐屯地の外に出て買い物をした時の事だ。

 

「ゲルハルト・モーデルさん?」

「?」

 

ふと街中で声をかけられた。その不審な男はゲルハルトを呼び止めると彼に一枚の写真を手渡すとそのまま裏路地に消えていった。

 

「これは……っ!!」

 

写真を見たゲルハルトは一瞬固まった。なぜなら、そこには猿轡の状態で寝かされている家族の姿があったからだ。

咄嗟にゲルハルトはその男の入っていった裏路地に向かって走っていった。

そして先ほどの男を見つけた。

 

「っ!テメェ!!」

 

咄嗟にその男の首を締め付けるように壁に叩きつけるとその男は言った。

 

「良いので?今ここで殺せば家族の安否はわからなくなりますよ?」

「……」

 

しばらく首を抑えた後、ゲルハルトはゆっくりとその手を引いた。

 

「テメェは何もんだ」

「さぁ?」

「……」

 

今すぐにでも殴り飛ばしたい所ではあるが、家族の事がある。嘘を言っているようには見えず、今は堪えるしかなかった。

 

「…要求は?」

「理解していただけて何より……我々の要求は『転移者を一人連れてくる事』です」

「……」

 

転移者はうちらの新編部隊のメンバーだ。つまり、誰かがこの情報を知ったと言うことになる。

 

「我々は常にあなたの行動を見ていますのでご注意を。では」

 

そう言い残すと彼は消えていった。

路地裏に一人残ったゲルハルトは立ち尽くしたまま写真を再び見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「(もうすぐだ。もうすぐで終わる)」

 

ゲルハルトは運転しながら内心焦っていた。家族が人質に取られている以上、今は相手の言う事を聞くしかない。

相手の要求は転移者だった。彼女には申し訳ないが、家族の為に……。

 

「何か焦っているんですか?」

「!?」

 

後ろから声をかけられて一瞬驚く。いかんな、これ式のことで驚いてしまうとは……。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……すまない」

「気をつけてくださいね?ここ、結構ぬかるんでいるみたいですから」

 

そう言い、彼女は小包を抱えていた。あの小包は抵抗軍の例のゾンビになる薬である可能性があると言うことで司令部に必ず届けなければならない。

 

「本当に大丈夫です?」

「ああ、問題ない。この程度なら……」

 

このTyp82Eはシャーシはキューベルワーゲンの物だ。だから多少の悪路でも走る事ができた。

前日に雨でも振ったのだろうぬかるんだ道でよく揺れていた。この先の林で合流なのだが……

 

「あなたから焦りと悲しみが伺えますね……」

 

すると彼女が後ろから声をかけてきた。そしてそのままゲルハルトの真後ろに立つとそっと目を閉じて何か探っているように口にする。

 

「なるほど…あなたが焦っていたのは家族を人質に取られたからですか……」

「っ!」

「動かないで」

 

咄嗟にアクセルを踏み込もうとした瞬間にゲルハルトの首にナイフの感触が当たった。刀身が見えない……ガラス製か。

 

「うっかりであなたの首を切りたくないんです。そのままでお願いします」

「……いつから気付いていた?」

 

ゲルハルトはカセリーヌに問うと彼女は答えた。

 

「初めの違和感は向かっている先が街じゃなくて全然田舎の方に向かっている時から。

次に写真を見ていた時のあなたの悲しげな表情から」

「……」

 

ゲルハルトはそこんな表情に出ていたのかと思っていると彼女は続けて言う。

 

「モーデル大尉、あなたの心情が理解できないわけではありません。ですがそれは罠です」

「……」

「貴方のご家族を人質に取るような連中が約束を守ると思いますか?」

「そうかも知れんがね。それでも今の俺はその()()()()()()に縋ることしかできないんだ。だから……」

 

その瞬間、彼は急ブレーキを踏んだ。その反動でカセリーヌは首に当てていたナイフを一瞬彼から話してしまった。その隙に彼は懐から取り出した拳銃を彼女に向けた。

 

「だからしばらく大人しくしていてくれ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

古城にて帳簿を盗み出した茂は盗聴のために消えていった大湊を追いかけて林の中を進んでいた。

 

「ったくあの馬鹿野郎が…」

 

持ち出した帳簿を全て松島に放り投げ、彼は消えた大湊を探していた。

そして藪に隠れて盗聴機械を動かす大湊を見つけた。

 

「おい」

「あっ、しげ「このアホが」痛っ!」

 

見つけた瞬間に茂は大湊の頭を軽くドツき、そのまま彼の首根っこを掴んだ。

 

「ったく、作戦中にふらつくんじゃねえよ」

 

そう言って引きずると、大湊はそこで事情を話す。

 

「いやだって、盗聴して敵の親玉が出てきたら気になるもんだろう」

「ん?敵の親玉?どう言うことだ?」

 

どう言う事だと思い聞き返すと大湊は教えた。

 

「あのおっさんだよ。ジュール・ファブール、俺たちを呼んだあの張本人」

「……まじか」

 

そんな大物が来ていたのかと茂は納得と同時にいやな予感を感じた。

 

「とにかくお前は魔法が使えないんだから、とっとと帰るぞ」

「はいはい」

 

そうして二人が帰ろうとした矢先……

 

「誰だ!!」

 

突如現れた抵抗軍の兵士に銃を向けられた。持っているのは共和国軍新型半自動小銃(MAS-49 半自動小銃)、まだ共和国でも配備の進んでいない新型の小銃だ。金持ちの犯罪組織はいつの時代でも潤沢で高品質な装備を整えている事よ……。

 

「す、すまない」

「なんだ、味方か……」

 

抵抗軍の制服を着ていた事から仲間と思われたようで、その小銃を持った兵士は銃口を下げると少し疑問に持った様子で話しかける。

 

「お前たち、所属は?」

「連絡員です。ポテ司令に報告をしたらそのまま……」

「そうか」

 

話を聞き、その兵士は小銃を背中に戻すと注意するように言った。

 

「サボるなら気をつけろよ。ここ結構人目に着くからな」

「ああ……わかった」

「じゃあな。次どこで会うかは分からないが……」

 

そう言い残すとその兵士は消えていった。

 

 

 

その事にホッとしたのも束の間、慌てた様子で兵士が戻ってくると俺たちに向かって聞いてきた。

 

「忘れる所だった」

「?」

「サボるならここじゃなくて古城の空き部屋にしとけよ」

「あ、あぁ……分かった」

 

やや顔が引き攣りつつも答えるとその兵は小銃を持ったまま消えていった。

 

「……行ったか」

「ふぅ、死んだかと思った」

「そんときゃ最悪魔法を使うさ」

 

そう答えると茂は大湊を引っ張ってそのまま林の奥へと消えていった。

その時、ディルクの無線に連絡が入る。

 

『少佐!』

 

慌てた声でコンラートが繋いでくる。無線封鎖を中で繋いでくると言う事は余程の緊急事態と言うことだ。

 

「どうした?」

『申し訳ございません。部隊内で工作員が侵入していた挙句、ゲルハルトが裏切った模様です』

「ゲルハルトが?どう言うことだ?」

『理由はわかりませんが、先ほど捕らえた工作員からの情報でゲルハルトは裏切り、カセリーヌ中尉を連れ去りどこかに消えたと……』

 

その瞬間、ほんの一瞬だけ彼の顔が歪んだ。

その顔はとても鋭く、まるでナイフを突きつけられているような感覚だった。

その一瞬の言い難い表情に横にいた大湊は一瞬で萎縮してしまったが、すぐにディルクは無線の電源をつける。

 

「大尉」

『はっ!』

「追跡は?」

『現在、一個小隊が追跡を……』

「分かった」

 

追跡状況を聞き、ディルクは怖いほど淡々とした口調で告げる。

 

「今からの命令は全て記録より抹消。できるな?」

『わ、わかりました』

 

無線の向こうでコンラートは緊張した声で無線の記録装置の電源を落とすとそのまま無線を聴き続けた。

 

『記録装置を切りました』

「よろしい、指示を出す」

『はっ』

 

すると懐から彼は懐中時計を取り出すと時刻を見て指示を出した。

 

「東南東方向、距離二千。追跡係に連絡」

『はっ!』

「発見しても殺すな」

『わかりました』

 

そして無線が切れると茂はしばし間を置いた後に大湊に言う。

 

「大湊、盗聴は?」

「え?あ、あぁ……まだ盗聴中だ」

「そうか……」

 

報告を聞き、茂は一瞬考えると彼に言う。

 

「大湊、会議が終わるまでお前は戻って待機。声が悪くてもいい。録音できるまでやり続けろ」

「分かった」

 

そして頷くと、茂は大湊とは反対方向。古城の方に歩いていった。

 

「南部?」

 

どこに行くとだと聞く前に彼は答えた。

 

「悪い、任務が残っている。追って連絡する」

 

そう言うと彼はそのまま古城の方に戻っていった。

 

 

 

 

 




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