戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一〇七話

現在、我が帝国の混乱はおさまりつつある。

 

数週間前に貴族のボンボンが起こした司令部占拠事件で軍部の貴族派は今度こそ一掃された。無理もない、人質をとった相手は陸海空全ての軍の参謀長達だ。貴族の横暴に怒りを抱いたのも道理だ。

 

あの事件で陸軍は尻拭いとして自前の優秀な部隊を派遣した(事になっている)。それに呼応するように空軍や海軍までもその特殊な訓練を受けた魔導演算機所有の部隊を編成しようと目論んでいた。だから仲の悪い海軍ですら陸軍に頭を下げて訓練を申し出たのだ。

 

部隊に関する詮索をしない代わりに訓練を行うと言う約束のもと、今は第三中隊が主導で訓練を行なっていた。

 

「裏切りか……」

 

古城の中でディルクはふと呟く。

想定していないわけではなかった。なにせ、部隊内に教国の工作員が紛れ込んで転移者を誘拐しようとしていたくらいだ。だが、まさか中隊長が裏切ったのは予想外だ。

 

「(まぁ、恐らくは脅しだろう)」

 

出なければ裏切る理由が付かない。彼の忠誠心は見上げたものがある。と言うより部隊で一番帝国に対する忠誠心は高いかもしれない。

そんな彼が自分たちを裏切って転移者……それもカセリーヌを連れ出すのは家族が人質に取られている以外は考えられなかった。

 

「はぁ…終わったら部隊の再編待った無しか……」

 

こんな事件があったんだ。まずゲルハルト大尉には厳罰……下手すると極刑が待っているやもしれない。

考えれば考えるほど悪い方向にしか進まないために、ディルクはそこで考えることをやめようかと思った。

 

 

 

向かう先は先ほど倒した兵の倒れている帳簿を置いていた部屋だ。近々、スパイ狩りが行われると言う抵抗軍の中で帝国は多くの諜報員を化けさせているが、今後は動きづらくなるだろうと予測していた。

 

「今後はそう言うのも考えなければならないか……」

 

正直、カセリーヌが誘拐された事に対してそれほど大きな心配はしていない。だって、彼女は転移魔法使えるからいつでも逃げ出せる。

ただすぐに逃げ出さなかったのが少し疑問ではあるが、それよりも問題は……

 

「(ゲルハルト大尉を脅したのが誰になるかと言う問題だよな……)」

 

目的があのワクチンか転移者か、はたまた両方か……どちらにしろあの教国が絡んでいるようにしか見えない話だ。

 

 

 

そんな事を考えているうちに先ほどの現場に到着すると、そこでは何人かの兵が部屋を守るように固めていた。

 

「何があったんです?」

 

何も知らない心配のようにディルクは警護していた兵に話しかけると、その護衛兵は教えてくれた。

 

「この部屋の中で殺しがあったんだ」

「へ、へぇ……」

 

何とも恐ろしい顔を作って答える。覗き込むと、そこには先ほど倒した抵抗軍兵の遺体が纏められ、血で濡れている壁などが照らされていた。

わざわざ殺した現場に戻るなんて、犯罪者の思考回路そのものなんだが。まぁ、やっている事はほぼ同じか……。

 

「中には帳簿をしまっていたらしいから、恐らくはそいつを狙っての殺したんろうな」

「そうですか……」

「お前も気をつけろよ?」

「大丈夫ですよ。俺はこんな偉くないですから」

 

ディルクはそう答えると、そのまま銃を持って現場をさろうとしたその瞬間、

 

「こういった殺人を犯した犯罪者は、しばらくすると現場に戻って来ることがあるそうですね」

「あ、あなたはっ…!!」

「?」

「馬鹿っ!」

 

するとディルクは警備の兵に頭を鷲掴みされて敬礼させられた。

 

「し、失礼しました!副司令官閣下!!」

「っ!!」

 

目の前に護衛とともに立っていたのは小野寺輝その人だった。彼は目立つ白い士官服を着用し、階級章は准将を表していた。

 

「(えらい出世してんな)」

 

まず初めに思ったのがこれだ。前に会った時は自分と同じ少佐だと思っていたのだが……。

何とかやり過ごさせて欲しいと内心願いながらディルクは准将となったヘイルダムを見ていた。すると彼は殺人の起こった現場である部屋を見ながら意味深に話しかける。

 

「殺人を犯した人間は、自分が何かしらの証拠を残していないか不安になって事件現場に戻ってくるそうです」

 

そう言い、凄惨な事件現場を確認するとヘイルダムは横にいた警備兵に話しかける。

 

「警備、ご苦労様です」

 

そう言い、彼は兵士を労う。魔法を使うのは最後の最後だ。出来るだけ穏便に済ませたいのだから。だがこの状況は……

 

「そして君も」

「は、はっ!!」

 

緊張した声で答えると、ヘイルダムは俺を見てこう言い放った。

 

「こんな事件を起こして不安にでもなったかい?エリク・ピエールくん。いや……

 

 

 

南部茂くん?」

 

 

 

その名を聞き、茂は無言のまま右手を動かすと護衛の兵が一気に銃口を向けてきた。彼らが持っていたのは帝国製の突撃銃だった。

 

「ーーーったく、ウチでもあまり配備されてない高級品を持ちやがって……」

「なっ、まさかお前……!!」

「気をつけるんだな」

 

その瞬間、魔導演算機を通して右手から鋭い閃光と衝撃が走った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

古城の爆炎は待機中の部隊からでも視認できるほどだった。

 

「くそっ!」

「隊長がおっ始めやがった」

「ったく、こっちは裏切りで忙しいってのに」

「車を出せ!隊長を殺させるな!!」

 

コンラートが指示を出し、第二中隊を一時的に傘下に加えて飛行魔法兵を飛ばし、Mボートも発進させる。

 

「彼らに砲撃準備だ。こっちは数が足りない」

「了解です」

 

そして出て行くMボートに電話を入れるとそのまま中で準備が始まる。

 

「蓮子、無事だと良いけど」

 

今現在、一個小隊が彼女の行方を追って追跡している。皆は口を塞いでいるが、蓮子と茂の関係は皆知っていた。

だから無事に見つかる事を願っていた。

 

「見つかんなかった時のことを考えると恐ろしいよ」

 

前橋の言葉に返す築城の呟いた一言で車内全体が一気に冷え上がったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

今回、松島達がいないと言うこともあって本来であれば六台の所を五台に減らし、作戦に当たっていた。

元々戦車砲を流用した車両だけあって反動も大きく、正直装輪式にしたことで防御性能はそこいらの装甲車とほぼ変わらない性能。まだバールンタイヤじゃないだけ防弾性能は高い部類だろうが……。

 

『各車、射撃用意』

 

すると車長を務める前橋が無線で指示を出す。

 

『目標、前方の古城。距離一八〇〇、弾種徹甲榴弾。射撃準備のまま待機』

 

夜戦用の緑色のペリスコープの先では白光りする飛行魔法兵の姿と、その先で煙の上がる古城があった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

幹線道路から離れた舗装もされていない道路の横の林でその男は待っていた。

 

「……やっと来たか」

 

その男は吹かしていたタバコを捨てると林の前で止まったTyp82Eを見た。

運転席にはゲルハルトが乗っており、ヘッドライトも照らさず。明らかに居場所を隠すようにして車が止まると、運転席から一人の帝国軍人が降りてきた。

 

「遅えぞ、クソが」

「……」

 

林で待っていた男はそう答えると、ゲルハルトはダンマリしたままその男を静かに見ていた。

 

「んで、この女が例の奴か?」

「……そうだ」

「ほほぅ、なかなか良い体躯をしていやがる」

 

そう言い、その男は後部座席で気絶している一人の少女を見て内心舌なめずりをした。

 

 

 

 

 

男は新大陸のとある小国の工作員だった。その国は某国と戦争中であり、戦局は拮抗状態だった。その状況を打開する為に帝国内部で匿われていると言う噂の転移者を是が非でも連れてくるよう命令を受けていた。

 

「(これで俺も出世コース間違いなしだ……!!)」

 

そして帝国内で調査を続けていると、ある帝国内部の人間から転移者の情報と彼らを匿っている部隊の情報が入ってきた。そこで、そのうちの一人。人質をとりやすいのを適当に選んで誘拐させた。

そしてこの女を運べば、自分の将来は決まったも同然だった。

 

気絶している様子のその少女を見て、男はゲルハルトに命令する。

 

「おい、この女を運べ」

 

銃を突きつけ、男はゲルハルトを脅す。

 

「良いのか?そのようなヘボ中で俺を倒せるとでも?」

「それは承知さ。だから……」

 

そこでゲルハルトは気づいた。この林の奥からこちらを見ている複数の視線を。

 

「(やはり伏兵を忍ばせていたか)」

 

特に自分は魔導演算機持ちの人間だ。巷では機械兵などと言われ注目の的らしいが、今はそんなことを言ってられる状況ではなかった。

相手の持っている銃はデリンジャー。正直、余程の高威力弾でなければ自分の障壁魔法では貫通し得ない弾丸だ。だが、忍ばせている伏兵の持っている銃がどれ程のものなのか分からない以上、下手に動けない。それに、家族が人質となっている今。自分に出来る事は命令に従うくらいだ。

 

「よーし、こっちに来い」

 

車から彼女を降ろし、背に背負うとそのままゲルハルトは林のなかに進んで行く。

 

 

 

 

「よーし、ここだ。ここで良い」

 

林の中を進み、ゲルハルトはある場所で止まった。木々がよく生い茂る林の中でその男はゲルハルトにかセリーヌを下ろすよう銃口を向けながら指示を出す。

すると隠れていたのだろう、数名の人物が彼女を回収してそのまま林の中に消えていった。

 

「……これで、家族を解放してくれるのか?」

 

ゲルハルトの覇気のない声にしの男は気味の悪い笑みを浮かべるとゲルハルトに銃口を向けたまま言う。

 

「んなもん知らねえよ」

「何だと?!貴様っ!!」

「おっと動くな。どうせお前に道はねえんだ。家族はどうなっても良いのかい?」

「くっ……」

 

ゲルハルトはそこで抜きかけた拳銃の手を止めると、その男はデリンジャーを向けたまま彼に話す。

 

「俺からの連絡が途絶えると見張り役がお前の家族を殺すことになっているのさ」

 

そう言うと、その男はゲルハルト向けて命令する。

 

「お前の背中にある魔導演算機も下せ」

「……」

「下せっつえんだよ!!」

 

その瞬間一発銃声が響き、ゲルハルトの右腿を貫いた。

 

「くっ……」

 

血が滲み、ゲルハルトは一瞬悶絶するとその男は銃口を彼の眉間に向けたまま怒鳴り散らす。

 

「いいか!今のてめえは俺の言うことしか聞けねえ雑魚なんだよ!雑魚は雑魚らしく黙って俺の命令を聞きゃ良いんだよ!」

 

男の怒鳴り散らす声は林によく響いていた。

 

 

 

 

 




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