目が覚めた時、俺は変な場所にいた。
桜が舞い、鳥居があり、灯籠や手水舎、拝殿などがあり、周りには木々が生えていた。
それはまるで日本の神社だった。何処ぞのシューティングゲームの主人公がいそうな場所だ。
ここは何処だと思っていると俺は誰かから声を掛けられる。
「こっちですよ」
声のした方を振り向くとそこには一人の女性が拝殿の濡れ縁に腰をかけて俺を手招いていた。その女性は長く、綺麗な長髪に整った実に美しい日本人と言った様子で、巫女服を着ていた。俺はその人の横に座るよう言われ、その神々しいオーラから大人しく従うと、その女性は俺を見て言った。
「いきなり呼び出してごめんなさいね」
「え?…あ、はい…??」
いきなりなんのこっちゃと思いつつ、俺はその女性の話を聞いた。
「まさか、
「?」
すると女性は俺にそっとお茶を差し出した。
「まぁ、色々とお疲れでしょうから。まずはこのお茶でも飲んでくださいな」
そう言い、差し出したのは陶器の湯呑みに入った緑茶と皿に乗った羊羹だった。懐かしさを感じる二つに俺は少しだけ戸惑いつつも、食べないのは申し訳ないと感じて羊羹とお茶を飲む。懐かしい味が舌を包み込み、涙が出そうになる。それに、二つとも今まで食べた中で一番美味かった。
お茶を飲み終えると女性はフフフと小さな笑い声をすると俺に聞いた。
「お味はいかがでしたか?」
「とても良かったです」
「それは良かったです。お気に召された様で…」
そう言うと女性は俺を見ながら聞く。
「もっと欲しいのであればご用意いたしますが?いかがいたします?」
その問いに俺はこう答える。
「いえ…あれだけで十分です。一度に大量に食べてもまた欲しくなってしまうだけですから…」
「ふふっ、実に貴方らしいです事…おっと、まだ名前を言っておりませんでしたわね」
そう言うと女性は俺に対して自己紹介をした。
「初めまして、南部茂くん。私は天照大御神と言います」
「っ…!?」
女性の自己紹介に思わず目を大きく見開いて驚く自分。目の前にいる女性…天照大御神はそう名乗るとまたも愉快そうに笑みを浮かべて言った。
「ふふっ、面白い顔をされる事で…」
「え?あ、いえ…」
日本人として、知らぬ者は居ない。日本神話の主神であり、現在の天皇家の祖先でもある天照大御神。そんな伝説の人物を目の当たりにして俺は固まってしまった。すると天照大御神は俺を見て聞いた。
「どうですか?私の名前を知った感想は?」
「いえ…何とも…俄かには信じ難く……ですが、もう…驚きで……」
言葉もチグハグになる自分に天照大御神は微笑みながら語り掛ける。
「そうでしょうね…何せ自分は日本では伝説の存在となり、形骸化してしまっているのですもの…」
少々残念に語る天照大御神。しかし俺は衝撃を受けていた。それこそ頭に雷が落ちた位の。
すると天照大御神は俺を見ると、俺を落ち着かせる為にある話題を切り出した。
「南部さん。貴方をここに呼び出したのは他でもありません」
「……転移のことですか?」
「左様、貴方がたが巻き込まれてしまった集団転移。その事について私は貴方に詳しい話をしなければなりません」
「?!?!?!?!」
いきなり何を話されるかと思えば、まさかの神様から話される事実。驚愕する出来事に俺はまたもや混乱した。すると天照大御神は事の経緯を話した。
「貴方がたを転送させたあの転移術式は人が犯してはならない禁術、神に背く行為なのです」
「……」
そう言う天照大御神の話を俺は真剣に聞いていた。
「世界の理を破り、異空間を移送する事は心身の破壊を起こし、人を人ならざるものに変化させてしまう恐ろしい術なのです。本来、その術は我々、神と呼ばれるものしか使う事はできませんでした…。
しかし、何百年も前にある背教者が己の命を賭して異世界を無理に繋ぐ方法を作り上げた…いや、作り上げてしまいました…」
話を聞いた俺は思わず聞いてしまう。
「天照様…幾つかお聞きしても…?」
「ええ、どうぞ」
そう言われ、俺はいくつか気になったポイントを聞いてしまった。
「先ほど仰った転移術式ですが。お話を聞く限りでは自分を含めたあの場にいた者は死んでいるはずでは…?」
「それは、転移される時に慌てて我々が貴方がたを守ったのですよ。紛い物の…完成されていない転移術式から貴方がたを」
「なるほど…」
詳しい話をされ、納得していると天照大御神は言う。
「まさかこの時代になって転移術式を組み上げる者が居たとは我々も想像していなかったのです」
そう言うと天照大御神は俺たちを呼び出したあの転移術式について詳しく語り出した。
「あの術式は時間、場所を問わずに適当な場所を選ぶ物。本来は術式が発動する前に事前に干渉すべきでしたが。
信仰心が薄れ始めているこの時代、大規模な干渉もできず、おまけに術式に必要な魔力を恐るべき速度で溜めてしまったのです」
「……」
どうやってそんな事を…。
そう考えると、まるで分かっているかの様に天照大御神は言う。
「魔力を集めた材料は…あの戦争です」
「……西部戦線ですか…」
その時、俺の頭にはあの地獄が思い浮かんだ。数多の死体が浮かび、銃弾と砲弾の雨が降り続ける世界。軍曹や伍長が死んだあの戦線を…。
過去の記憶を思い出す俺は天照大御神の声に引き戻される。
「そうです。あの転移術式を使った者は戦争で死んで行った者の霊を糧に、多くの魔力を手に入れたのです」
「なんと非道な……」
その事に俺は怒りを抱いた。あの戦場で死んでいった人達は禁止された事を行う為に生贄になったと言う事。到底赦される事ではない。
すると天照大御神は詳しい話をする。
「人の霊には普通の幾万倍もの瑪那…分かりやすく言うと魔力が溜まっています。人が亡くなり、体と霊が切り離されると本来その霊はこの世界に還るはずが、あの転移術式によって瑪那に変えられてしまっています。これは明らかな冒涜。道を外れた行為です」
そう言うと天照大御神は俺の顔を見ながら言った。
「そして、転移術式はまた発動されようとしています」
「な、何ですと?!」
衝撃的な事実に俺は思わず立ち上がりそうになる。それはつまり…。
「軍曹や…伍長も…その転移術式に……?」
「ええ…そうなります」
「そんな…」
俺は思わず頭を抱えてしまう。せめてヴァルハラでは…と思っていたのに……それすら許されず。それどころか魔術の糧にされているなんて…俺はそれがとても悲しかった。
頭を抱える俺に天照大御神は話しかける。
「そこで我々はその転移術式を発動させぬ為に貴方にここにお越しになって貰いました」
そう言うと天照大御神は俺の手を取りながら言った。
「転移術式の発動を阻止し、その発動の関係者及び術式に関係のある物の全ての破壊を。私達から依頼します」
「……」
思わぬ話に俺は驚きのあまり言葉も出なかった。まさか俺がこんな話をされるとは思わなかった。
だけどこんな俺にそんな依頼をすると言うことは何か意味があると言う事。俺は思わず二つ返事で頷くと、天照大御神はホッとした様子で両手を合わせ、俺の胸に手を当てた。手がポワッと光ると、俺の頭の中に何かが入ってくる感覚が起こった。
「貴方に必要な物は全てお渡しします。ですので必ず転移術式の装置の破壊と術式の発動者である背教者。ジュール・ファブール並びに、転移者である小野寺輝の殺害をお願いします」
「小野寺も…ですか…?」
「ええ、そうです」
俺は小野寺輝の名前が出たことに驚きを隠せなかった。すると天照大御神は溜息混じりに言った。
「あの者はいずれ転移術式の真相を知り、それを使うと予見されています。だから使用前にここに連れて来る必要があります」
「そうですか……」
「あの者をここに連れて来てください。それは貴方の望みでもありましょう?」
「…分かりました」
全て知っている様な眼差しで言われ、俺は神様の依頼を受けた。
「転移術式に魔力が充填されるまで目算でおよそ四年。それまでに事を片付けて下さい」
そう言い手の光が収まると俺は思わず聴いてしまった。
「天照様、自分は…転移された自分達が帰れる方法はあるのですか?」
そう聞くと天照大御神は少し驚いた様子を見せるもすぐに答える。
「私の力であれば。日本に帰すことは可能ですが…一体何故?」
その問いに俺は少しだけ、顔を俯けながら言った。
「…せめて……親の墓参りだけは…したいですから…」
そう言うと天照大御神は優しそうな目を浮かべ、納得した様子で頷いた。
「成程、親思いの優しい子です事…分かりました。では今すぐにでもお帰りになられますか?」
その問いに俺は即座に答える。
「いえ、帰るのは仕事を終えてからにしようかと思います。自分はやりたい事があるので…」
普通であれば是非お願いしますと言いたいところだが、俺は先に小野寺を始末したいという気持ちに駆られていた。
「(それに…)」
呟くことはなかったが。俺の気持ちを察したのか、天照大御神はどこか愉快そうに言った。
「成程、貴方の本心はそれでしたか…」
「いやはや、自分も恥ずかしいものです」
「いえいえ、いい事だと思いますわ」
そう言うと、俺の視界は徐々に白くなる。俺の意識がグーンと落ちる中、最後に天照大御神は俺に言った。
「では、よろしくお願いしますね。我々はいつでも貴方を見ていますから」
彼を帰還させた後、自分の住処でお茶を飲んでいると私を呼ぶ声がした。
「仕事は終わった?」
現れたのは片手にマスケットを持ち、白い服にフリジア帽を被った一人の美しい女性だった。するとその女性は天照大御神の隣に座ると彼女に語りかける。
「やー、良い子だったわね。あの青年…」
そう言う女性に天照大御神はやや呆れた様子で言った。
「そうね…少なくともマリアンヌ…貴方よりお転婆ではないわね」
そう言われた女性ことマリアンヌはハハハと乾いた笑いをすると思い返す様に先程までここにいた青年の顔を思い出す。
「しかし、彼はすごいね…ここ最近でも稀に見る信者だったわ」
「そうでしょうね…ま、あんな事もあれば神に縋りたくもなるでしょう…」
「そうなの?」
「ええ、彼の過去を見ればね…」
そう言うと天照大御神は湯呑みを置くとマリアンヌにある映像を見せた。映像を全て見たマリアンヌは苦笑した顔をしながら言った。
「なるほど…彼の信仰心が強い理由がよく分かるわね…」
「だからこそ彼は神を信じ、神を敬服する。だからこそ彼は近年では稀に見る程強い信仰心を持った」
「…だから中継点に使って、その見返りに
「中継点とは言い方が悪いわ。あの術を使われた時を覚えているでしょう?」
「ええ、嫌と言うほどね」
そう言うとマリアンヌは苦虫を潰した様な表情を浮かべ、忌々しそうに思い返す。すると、マリアンヌは天照大御神に聞く。
「それで、これからも運命の干渉を積極的にするの?」
「ええ、仕事は早めに済ませておいた方が良いですから」
そう言い、天照大御神はお茶をまた飲むと、先ほど帰らせた青年を思い出して思わずつぶやいた。
「ふぅ……若いというのは素晴らしいですね…」
「え?」
突然の天照大御神の呟きに疑問に思うマリアンヌであった。
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