戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

110 / 151
一一〇話

燃え盛る古城の上で緑白色の爆発を見る。色から察するにMボートからの対空射撃だろう。

 

「……」

 

燃え盛る古城でも唯一燃えている気配のない地下のワイン貯蔵庫。そこの一角でディルクはオート5を構えて息を殺していた。今までの爆発や火災の影響だろう、地下室の屋根は一部が吹き飛んでおり、その上で炎が見えた。

向こうも同じように息を殺して自分を探しているはずだ。

 

 

 

ここのワインセラーはレンガ製ではあるが、柱を木で支えており、当時の王国の財政難が滲み出ていた。

 

「……っ!!」

 

一瞬動いた影に向けて一発の銃声が轟き、複数の空のワイン樽を吹き飛ばしながらその向こうに隠れたヘイルダムに攻撃を加える。

残った残弾はこれで六発、撃ち切ったらあとは拳銃しか残っていない。短機関銃用の弾丸は全て撃ち切ってしまった。

 

チューブに最後の散弾を装填し、ディルクはヘイルダムの後を追って貯蔵庫を走る。

今までの榴弾による攻撃や、爆発魔法の余波ですでに戦闘服はズタズタに引き裂かれていた。だがあのマーチバルの悲劇のような生きているのが不思議と言われたあの大怪我ほどではない。

 

「(だが、あんまり無茶できねえな……)」

 

飛び散った木片が掠った頬を軽く撫でながらそう感じた。

そして、怪我をしているのは向こうも同じだ。地下室に逃げ込む直前、あいつの白い軍服が裂けて薄く血で滲んでいるのを見ていた。

 

「(残り六発…賭けるしか無いか……)」

 

ディルクは残っている武器を確認し、散弾銃を持つ。

この密室空間で散弾銃は最強の武器だ。散らばる小粒の鉄球の面攻撃から逃げ場は無い。

するとヘイルダムもカンプピストルに擲弾を入れて飛び出たディルクに射撃する。壁に当たって爆発した破片は周辺のワイン樽をズタズタに引き裂いていた。

 

そしてヘイルダムもカンプピストルの弾薬を押し出すと、今度は銃口側から弾薬を装填していた。

 

「はぁ…はぁ……」

 

それから息を整え、ヘイルダムは残りの残弾と持っている魔石の残量を確認する。

ヘイルダムが今でも障壁魔法を展開している理由がこれだった。魔石を持ち、その魔石を消費して障壁魔法で自分の体を守っていた。

 

「っ!ぐっ……」

 

咄嗟に腹に受けた傷の痛みが走る。この傷は逃げる際にエリクが乱射した短機関銃の拳銃弾が掠った跡だった。

 

「(残りは四発か……)」

 

残っているのは小型擲弾二発と、特殊な弾薬が一発ずつだった。

今までは中折れピストルに入る小型擲弾ばかりを撃っていたが、今度の擲弾はそれとは違う物だった。

 

「(いるな……)」

 

棚の陰で隠れてうっすらと聞こえる足音に耳を傾ける。

 

「……」

 

そしてその足音が棚を出たと確信した矢先、ヘイルダムは飛び出してそのまま引き金を引いた。

発射された特徴的な前方が丸みを帯びた擲弾はそのままディルクの展開する障壁魔法に接触するとそのまま中の中の弾薬に引火すると、そのまま障壁魔法の分厚い壁をぶち抜いた。

 

発射したのは成形炸薬弾仕様の擲弾だった。いくら分厚い障壁魔法と言えど、中で形成されるメタルジェットの爆轟に晒されればひとたまりも無かった。

 

「なっ?!」

 

その事に驚愕している隙にヘイルダムは次の弾薬をすぐに装填して発射した。今度は炸薬の多いタイプの高威力の榴弾だ。

彼はその発射された弾丸を避けると、壁で大爆発を起こした。

 

「うわぁぁああっ!!」

 

その悲鳴と衝撃波はこちらにも向かい、飛んできた破片で頬を切ってしまった。

 

「……」

 

普通なら今の爆発で死んだと思うだろう。だが、ヘイルダムは感じていた。

 

「(まだ死んでいない……)」

 

ヘイルダムはそう感じ、軽く舌打ちしながらカンプピストルに残った小型擲弾を込めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、古城上空では地上から発射される対空砲の砲撃や、その間を縫って飛ぶ抵抗軍と帝国の兵士。それぞれの飛行魔法兵が空中戦を行い、さながら戦場となっていた。

 

古城が燃えていることや砲撃音などは当然近隣住民の耳にも聞こえており、もちろん警察や消防に通報が入っていた。

しかし、事前に抵抗軍の情報を知っていた警察や消防は野次馬が戦闘区域に入らないようにする程度の行動で抑え、消化活動も積極的に行う様子はなかった。

近くに抵抗軍の拠点があることを知り、とっとと厄介払いをして欲しいと思って警察も協力していたが、まさかこんな事になろうとは思っても見なかった。

幸いなのはあの古城の周囲に村や民家が無かった事だろう。

 

「対空射撃!撃てぇ!」

 

何度目かわからないMボートからの対空射撃、持ってきていたのは対空砲弾と徹甲榴弾。予定では古城に集積されている物資を砲撃するはずだったのになぜ……。

 

「ったく、対空砲撃っても誤射をしそうで怖いわね……」

 

無数の緑白色の爆発が起こり、それは通常の対空砲弾よりも大きなもので、飛行魔法兵に対するダメージは通常に比べても大きい物だった。

 

「うおっ、あぶねっ?!」

「気をつけろハンス!」

「わかっています」

 

コンラートの注意に彼はそう答えると、目の前で対空砲の爆発に巻き込まれた様子の抵抗軍兵を見る。

その光景はさながらあの戦争を彷彿とさせた。

 

「(まるであの頃に戻ったみたいだ……)」

 

薄暗い中、暗視魔法を使って戦場を飛んでいたあの頃。

魔導レーダーで探知されると一斉に共和国の対空砲の放火に晒されて乱数軌道で避けながら敵陣に攻撃を加えていたあの頃。

地獄の戦場を空から見下ろすのは戦闘機や爆撃機のパイロットくらいだと思っていたあの頃。

塹壕に隠れて砲撃をやり過ごす恐怖にかられて逃げ出したくなったあの頃。

目の前の緑白色の爆炎を見ているとそんな情景が思い浮かんでしまった。

 

「気をつけろ!対空砲に直撃したら吹っ飛ぶぞ」

「「「「「了解!」」」」」

「全員止まるな!やられるぞ!」

 

抵抗軍の出撃していた飛行魔法兵の数は五十名。丁度戦時中に所属していた部隊と同じ人数だった。だが……

 

「踏んできた場数が違うんだな!!」

 

そこでコンラートは一人、急接近して敵の演算機を蹴っ飛ばして体勢を大きく崩した瞬間に突撃銃を叩き込む。

他の場所でも同様に類を見ない空中での至近距離での格闘戦や集中砲火で次々と抵抗軍の兵士は撃破されていく。

装備はほぼ同一であり、ここでは練度の差がものを言っていた。

 

一つ爆発があった時は大抵は魔導演算機が暴走反応を起こしている時だった。

 

「(損害はどうなっているんだ……?!)」

 

おそらく、戦後では最も多い損害であることは間違いないと考えれるほど余裕が生まれてきたコンラートはそんな事を考えてしまった。

戦時末期に鹵獲品を使って攻撃をしてきた事例があったがゆえに演算機所持者同士の接近戦の訓練も積んでいたことが功を奏した。

 

『撃て撃て!』

「味方の誤射には注意しなさいよ!」

 

地上でもMボートの主砲が本来の用途である対空砲としての威力を存分に発揮しており、おまけに限定旋回できることからより広範囲に射撃できていた。

車長用ハッチから汎用機関銃で上空に向けて射撃をしている前橋は興奮気味に対空砲を撃つ車両に注意を入れながら暗視魔法を展開して上空の状況をよく観察していた。

 

「やっぱエースなのね……」

 

機関銃の再装填をしながら空を眺めていると遠くからエンジン音が聞こえ、その方を見ると林の中から一台のトラックが接近してきていた。

 

「あれは……っ!!」

 

接近してきたトラックを見て前橋は反射的に対空マウントをそのトラックに向けた。向こうは二台に砲を乗せたテクニカルだったからだ。

しかし敵はすでに発射準備を整えており、照準を合わせていた。

 

「間に合わない!!」

 

Mボートに装甲の類はほぼない。強いて言えば小銃弾を防ぐくらいであんなちっぽけな砲でも吹き飛ばされる。死んだと思ったその瞬間、

 

ドゴーンッ!!

 

目の前のトラックが突如爆発した。目の前で真っ赤な炎とかしたトラックを前橋達は半分呆然と眺めていると、無線で声がした。

 

『……無事かい?若いの』

「っ!!」

 

聞き覚えのある声にコンラートが反応した。

 

「その声……ゲルハルトか?!」

 

 

 

 

 

少し離れた場所でその手にトリガーのついた硝煙の出ている棒を持っているゲルハルトは無線でコンラートに話しかける。

 

「あいにくと演算機は壊れたから援護しかできないがね」

 

そう言うと彼は下に置いていた弾薬箱から円錐状の弾頭を取り出すと、その棒に差し込んだ。

そして照準をMボートに接近するテクニカルに合わせるとそのまま引き金を引き、そのままテクニカルに発射された弾頭が命中して爆発を起こした。

 

「大尉、どうぞ」

 

その横で弾頭を手渡す隊員にゲルハルトは言う。

 

「俺はもう大尉じゃない」

 

そう答えると、その部下は冗談を言っているのかと言った様子で答える。

 

「何を言っているんです?大尉が一言相談してくれれば良かったものを言わないからですよ」

「そうです、おかげでこっちは大焦りしたんですから」

「今度同じことがあれば我々が解決しますので」

 

そう答え、追跡をしていた五名は大尉を見てやれやれと言った様子で話す光景を見てゲルハルトは言う。

 

「お前達は空の援護に迎え。俺はここで()()を守る。……分かったら行け」

「「「「「はっ!」」」」」

 

魔力切れ防止の薬剤を摂取し、五人はそのまま空に上がっていく。

空や地上の共に激戦となっているこの場所で本当に申し訳ないことをしたと思いながらゲルハルトはその手に採用直前で終戦を迎えた残念兵器(パンツァーファウスト250)を構えていた。

 

「こいつぁ、オーブン煙突(パンツァーシュレック)より使いやすいな」

 

今度部隊の装備に入れてもらおうと考えたが、そこでその考えをもみ消していた。自分に居場所など存在しないのだから。

あの兵だって、わざわざ気遣ってくれているだけかもしれないと思っていると後ろから声をかけられた。

 

「そんな野暮なことを考えていると、いつか過労死しそうですね」

「カローシ……?」

 

その疑問を投げかけた先には車の中で倒れていたカセリーヌその人だった。

彼女は気絶していたと言う事で車に乗せており、今は起きてゲルハルトに話しかけていた。

 

 

 

あの後、気絶したゲルハルトが起きると気絶寸前に呟いた言葉を聞いた隊員が訓練中の第三中隊に連絡を入れ、そのまま家に突入して家の中で監禁されていた彼の家族を救っていたそうだ。

 

起きた頃には既にゲルハルトの家族を救い出した後だった。

 

「うちの国にある言葉です。働き過ぎて死んじゃうのを意味する言葉です」

「死ぬまで働くのか?まるで軍人だな」

 

特に戦死する様を真横で見てきたからこそ、転移者の地元の軍人は戦争があったのだろうかと思っていた。だが、反応を見るにどうも違うらしい。

 

「いやいや、うちの国じゃあ普通の会社で起きている事案ですよ」

「……君たちの国は化け物の国なのかい?」

 

やや苦笑しながらカセリーヌに聞いてしまう。文字通り死ぬまで働くその状態に若干の恐怖すら抱いた。

 

「仕事というのは適度にサボってなんぼじゃないのかい?」

「うちの国じゃあ、仕事は奉仕に近いですから」

「君たちの国は奴隷でできているのかい?」

「まぁ、似たようなものです」

 

だって企業戦士とかいうくらいだし……。

カセリーヌはそんな事を考えながら車を降りるとそのままゲルハルトの足元に積み上がっている対戦車擲弾をゲルハルトに手渡した。

 

「私も手持ち無沙汰なので手伝いますよ」

「いいのかい?」

「ええ、この状況で何もしないのは嫌ですから」

 

そう答えると、ゲルハルトは少し笑いながらその弾頭を受け取った。

 

「ありがとう。感謝する」

 

それがどちらの意味でのことなのか、カセリーヌは容易に想像がついていた。

 

 

 

 

 




お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。