外で抵抗軍の飛行魔法兵による空中戦が行われている中、古城の地下室ではまだディルクとヘイルダムによる一騎打ちが行われていた。
「……」
カンプピストルに小型擲弾を装填した状態で地下室を歩く。
残っだ弾丸は二発、慎重に見極めて撃たなければならない。
向かう先は先ほど擲弾をエリク相手にぶつけた場所だった。
「(いないか……)」
やはりそこに遺体はなく、爆発痕だけが残っていた。
「(だが、致命傷だな)」
炎に照らされて見える血痕があり、おまけに一部爆発片のない場所があり、おそらく彼に当たったものだと推測していた。
「(この血痕を辿れば何は見つかるか……)」
無防備の状態で至近距離であの爆発だ。体力も残っていないと考えたヘイルダムはそのまま血痕を辿っていく。
「……」
そして血痕を辿っていきカンプピストルを構えたままワインセラーを進むと、あるところで途切れているのが分かった。
「これは……」
視線の先には線が張られ、その先にあったのは卵型手榴弾だった。
「トラップか……」
最後の悪あがきかと思いながらその簡単なトラップを踏み越えようと足を上げた瞬間、
「っ!!」
乗り越えようとした足に紐が当たってちぎれた。こっちは囮で、本命はこっちであったのだ。
その瞬間、樽の間に仕掛けていた手榴弾が爆発。ついでに下にあった手榴弾も誘爆してワインセラーの棚や柱ごと吹き飛び、大きな土埃が舞い上がった。
その瞬間を逃さず、反対側の棚の上で隠れていたディルクは持っていた散弾銃の引き金を三回引いた。
「……」
これで終わりかと思った瞬間、土煙の向こう側から小型擲弾の銃撃が飛んできてディルクは咄嗟に障壁魔法を展開したが、今までの過酷な戦闘による魔力消費が激しく、満足に展開出来なかった為に軽く破片で怪我をし、戦闘服に穴が開く。
「っ!!」
その痛みで棚から転げ落ちて残った一発を確認しながらその場を離れる。
「……」
そして土煙の奥から一人の人影が現れ、足を軽く引きずって血を流しながらきていた軍服が赤く染まり始めた彼は徘徊するかの如くワインセラーを歩く。
「南部ぅぅぅううう!!どこだあぁぁああああっ!!!」
そう雄叫びを上げると、それを聞いていたディルクは内心戦慄した。
「(マジかよ?!あれで生きてんのかよ!ゾンビじゃねえんだぞ!!)」
身体中に傷があり、背中の魔導演算機はヘイルダムの放った大型擲弾の盾となってズタボロ。ヘルメットも最早機能を成して居ないんじゃ無いかと言うほどベコベコになっていた。
「はぁ…はぁ……」
足元には血が溜まり始め、いよいよまずいと思い始める頃合いだ。
オート5を抱えたままワインセラーに隠れているディルクは荒く息をしていると、そのままのっそりと立ち上がって至る所から血を流しながら体を前に進ませる。
そしてヘイルダムもワインセラーを徘徊する。その手には残弾一発となったカンプピストルに残った力を使って小型擲弾を装填していた。
そして二人は燃え始めるワインセラーの中で互いの存在を探しながら半分自棄になって徘徊し、今までの戦闘の瓦礫を踏みつける。
そして二人は砕け散っている中でも珍しく残って居た空のワイン樽を積んでいた棚の反対側でその姿を認識した。
「「っ!!」」
今まで真っ白になりかけた視界が一気に回復し、同時に二人はその引き金を引いた。
片方からは小型擲弾が、もう片方からは最後のスラッグ弾が放たれた。
二つの弾丸は二人の間で正面から衝突すると小型擲弾の中の炸薬が誘爆し、その衝撃でスラッグ弾も砕け散った。
そしてその爆発の衝撃で今までこの地下室を支えていた柱は全て吹き飛んだ。
そしてこの財政難ゆえに木造で終わってしまったこの地下室は支えを失った今、その自重によって一気に崩落が進み二人の視界を遮っていた。
「うらぁっ!!」
「ぎゃっ!?」
最後の弾倉を使って抵抗軍兵の障壁魔法を貫いて残っている抵抗軍兵を倒していく。
戦争が始まってからどのくらい経ったかはもう分からない。遠くには報道機関や野次馬を必死に押さえ込む警官の姿があり、苦労していると思っていた。
「はぁ…はぁ……」
肩で息をしながらコンラートは周辺の状況把握をする。
「残りは?!」
「今ので最後です!!」
何とか魔導演算機を持った抵抗軍兵を倒した事を認識すると、休憩する事なく彼は次の指示を出す。
「閣下を迎える。全員古城に集まれ!」
『『『『『了解!』』』』』
地上にいるMボートも最後は徹甲榴弾を空に向けて撃っていた車両も居たくらいこの戦場は極めて激しいものとなっていた。
地上にはトラックや乗用車の燃える残骸が転がり、その視線の先では新型対戦車擲弾発射機を使って敵を撃破していた戦友の姿があった。
追跡した部隊から報告があるそうだが、後でじっくりと聞きたいところだ。だが……
「とりあえずは、閣下を探さなければ……」
今も古城の中で抵抗軍のエースと戦っている自分たちの上官の援護にいかなければ。
「補給は?!」
「はっ!すでにゲルハルト大尉とカセリーヌ大尉がトラックを回しております!」
「よし、簡単な補給をした後すぐに古城に向かって閣下を探し出せ!!」
「了解!」
そこでコンラートは一気に地上に降りて補給に向かった。
屋根が崩落し、同時に火災で燃える木材ごと落ちてきた元々はワインセラーだった場所で二人の人影が落ちてきた残骸を鍛冶場の馬鹿力とでも言うべき力で押し上げ、ほぼ同時に立ち上がった。
「「……」」
そして互いに血に濡れた白の士官服と黒の戦闘服を見に纏う二人はそのまま持っていた
燃え盛るワインセラーで二人は正面から銃口を向け合い、いつでも殺せる平等な姿勢を保っていた。
ヘイルダムの異名である白い悪魔に肖って作られた純白の士官服は至る所が血で濡れて赤く染まり、血が流れている所為で片目を閉じていた。
左腕からは赤い水滴が垂れ、准将の威厳もへったくれもなかった。
対するディルクもその名の由来となった漆黒の降下猟兵の戦闘服は至る所に穴が空き、そこから赤く滲んでおり、その戦闘服の象徴でもある背中の金属の箱は無惨にもズタズタで、割れた外殻の中からスパークが飛び散っていた。
彼もまた顔に血が流れ、片目を閉じて顎先から血を垂らしていた。
二人とも満身創痍とも言える形であり、出血量も明らかに多かった。
「……」
「……」
互いに銃を向け合い、彼らは睨み合った目線で聞いた。
「「いくつか聞きたいことがある」」
それは同時だった。二人とも、互いに疑問を感じて居たことが多くあった。
同時に聞いた事に小野寺はやや失笑するように口をひらく。
「どうやら、聞きたいことがあるらしいね?」
「俺もだよ……」
そしてまず初めに聞いたのは南部からだった。
「お前、それほど魔力が少ないのはなぜだ?なぜ魔力切れにならない?」
「僕は魔力欠乏症という病気なのさ。コイツのせいで僕は魔力切れの頭痛に悩まされない代わりに魔導適性が圧倒的に高いのさ」
彼はそう答えると、今度は彼が聞いてくる。
「君はあの噂の帝国兵かい?」
「……あぁ、そうだ」
小野寺の問いに南部は答える。ここは正直に腹を割ってお互いの質問に答えていた。
「貴様はどうやって教国の書庫に入り、なぜあそこを爆破した?」
「簡単な話さ。あそこに入る為に鍵を作ったのさ」
「(作っただと……?!)」
「そして、あそこを爆破したのは禁術を独占する教国の付加価値を堕とす為さ」
教国で抵抗軍がいた理由を彼は話すと、今度は彼が聞く番となった。
「あの教国で僕たちを襲ったのは君たちなんだね?そして、教国の拠点を砲撃したのも……」
「そうだ」
彼はただ正直に答えると、ヘイルダムはそんなディルクを見て聞いてくる。
「君の今の名前は?」
「……ディルク・フォン・ゲーリッツ」
「そうか……ディルクか」
南部の帝国での偽名を聞き、彼は短く頷くとその名をしっかりを覚えていた。
「よく覚えてこう。僕はあくまでも戦場でしか戦いを望まない身だ」
「そうか……」
彼の口から暗殺などはしないと公言しているが、正直信用できるかは分からない。ただ、その口ぶりから彼は本当に暗殺を望んでいないのだと言うのが感じ取れた。
帰還した後に注意をしておこうと思っていると、彼は続けて南部に聞く。
「君もそうだろう?ディルク・フォン・ゲーリッツ」
「……どういうことだ?」
「分からないのかい?」
すると彼は南部の顔を見ながら聞くように話す。
「終戦協定が締結されて七ヶ月、それなのに君は戦いに身を投じている。なぜ君は戦う?」
「それは、お前みたいなテロリストがいるから」
「違うね」
南部の言葉を切るように小野寺は言う。
「君も薄々感じているだろう?平和な街並みを見ることが辛い事を……」
「……」
そこから小野寺は追求するように南部に続けて話しかける。
「転移されてからもうすぐ四年。その中で戦争をしていた三年近くの年月で僕や君は大いに活躍をしていた。英雄と祭り上げられ、戦績を上げれば上げるほど周囲が誉める」
「……」
南部は戦時中の自分の扱いを思い返してしまった。
黒い天使や帝国の黒いダイヤなどと言われ、初の飛行魔法兵部隊を率いた優秀な魔法兵として多くの勲章を掻っ攫っていった。
「しかし、そんな戦績も戦争が終わればただの記録。優秀な兵からただの凡人に成り下がる。負ければ裁判で戦犯として裁かれる」
「……」
「そして戦争が終わり、煌びやかな街並み。平和を見て、その明るさから自分の罪悪感からその景色から目を背けたくなる。そうだろう?」
小野寺の意見に南部は何も言い返せなかった。彼の言葉はまさに事実の羅列だったからだ。だから言い返すことができなかった。
「ふっ、平和のために戦ってきたのに。結果がこのザマとはな……」
だからこそ彼は拳銃を持ったまま失笑した。それに乗っかるように彼も同じく失笑した。
「あぁ、そうだね……平和なんて」
「俺たちには眩しすぎるものだったんだよ」
英雄と祭り上げられるまでにその下に築いてきた死体の量、その罪悪感から平和と言う空間に入れるかと言われるとそうじゃ無かった。
それまでに殺してきた事に対し、自分はそれに値する
今まで殺してきた敵兵にもそれぞれの人生があり、その芽を摘み取ったのは自分たちだ。
「所詮、僕たちは戦争に慣れていない日本人なんだ」
小野寺の呟きが燃え盛るワインセラーで二人を包んでいた。
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