「……んぁ」
ぼんやりと目が覚める。
まず初めに見たのは真っ白な天井だった。
「……」
おそらく病院なのだろう。ベットの上で腕や足を固定されている感覚があった。
「やっとお目覚めなのね」
ふと足元から声が聞こえると、そこでは本を開いて椅子に座っていた立川の姿があった。
「なんだお前か……」
「動かないで。まだ骨は繋がっていないんだから」
そう言うと彼女は席を立って近づいてきた。
「はい、水」
そう言い、上呂型の水の入ったガラス製の器を手渡した。そして中の水を吸い込んでいた。
砂漠に雨が降ったような感覚で喉が潤うと立川に聞いた。
「生きている?」
「その脚を見なさいよ」
そう言い、軽く体を起こして脚を見ると、そこには石膏でガチガチに固定された右脚があった。
「……デジャブ?」
「私も同じ事思った」
そう言い、彼女は次に彼に聞いた。
「何があったの?」
その問いに南部は潤った喉でその時の情景を思い返しながら答える。
「古城で、小野寺と戦闘になって……それから地下のワインセラーでタイマンを張ってそれぞれ聞きたいこと聞いていたら、背中から一突きさ」
「誰に?」
「……ジュール・ファブールだ」
「!!」
その名を聞き、立川は目を見開いた。それもそのはずで、抵抗軍の親玉であり転移装置を持っている男であったからだ。
そして彼らが追っている人物でもあった。
「いきなりだった。気づいたら背中からサーベルを突き刺されて……」
「その大傷と……」
「あぁ」
そう言い、腹に巻かれた包帯を見た。ついでに右肩にも包帯をまかれ、一部はガーゼを貼り付けられていた。
「小さい傷は治しておいたわ」
「そうか……」
「蓮子と毎日魔力切れになるまでやったんだから」
「ありがとう」
南部はそう答えると、立川は言う。
「お礼は最新ブランドか、話題のザッハトルテで」
「ははは…了解」
痛む体を起こしながら、そう話すと病室にある電話機から立川は叫ぶように連絡した。
「あ、私です。患者さんが起きたので、至急医者を呼んでください」
そう言い電話を切ると、そこで南部は苦笑した。
「これも前回のマネか?」
「さぁ?」
わざとらしく答えると、南部は言う。
「ペテン師だな」
「ふんっ、勝手に言ってなさい」
すると病室に医者が入ってきて目を覚ました南部を見て触診やら記憶障害やらを確認された。その間、やはり立川は部屋の隅で検査が終わるのを待っていた。
「足の骨にヒビが入っていますので、あまり無理をしないでください」
「分かりました」
診察を終え、医師や看護師が出ていくと病室は南部と立川だけとなった。
「んで、お前さんが残った理由は?」
「あら、大怪我を負った上司の見舞いのつもりだけど?」
「そうか……じゃあ今日は帰ってくれ。俺はもう少し寝たいんだ」
そう言うと彼女はそのまま安心した表情で病室を後にする。
「これからは忙しくなるわよ。色々とね」
「どのくらいだ?」
「しばらく書類仕事から離れられないくらいね」
「はぁ、最悪だな」
「頑張ってね〜」
そう言い残すと彼女は去っていった。
そうして部屋に一人残ったディルクはふと呟いた。
「そういえば今日が何日なのか。あいつに聞いときゃよかった……」
病室を出た立川はそのまま病院を歩く。
ここはディルクが担ぎ込まれたロール地方の病院だ。戦闘で負傷して運び込まれた彼はここで本格的な治療を受け、入院をしていた。
病院の電話機を借りて、まず初めに蓮子たちが今いる第五〇駐屯地に電話を入れた。
「……」
数コールあった後、向こうが電話に出た。
『はい、こちら帝国軍駐屯地広報課』
電話に出たのは蓮子だった。電話も問題なく繋がっていることを確認し、立川は言う。
「あ、もしもし?私だけど」
『あっ!絵里?!どうしたの?』
「南部君が目を覚ましたから、連絡を入れたの」
そう言うと蓮子の声が高くなって驚いた様子で聞いてきた。
『本当?!』
「ええ、時期にそっちに連絡が行くと思うけど。早く結果を聞きたいだろうと思ってね」
『そう…よかった……』
「みんなにも伝えといてくれる?」
『うん、わかった』
「よろしく頼むわ」
そう言うと彼女は受話器を置いた。
すでに部隊は帝都まで撤退しており、彼の状態を見ると言うことで立川だけこの病院に残っていた。
「はぁ、まず初めに移送から始めないとね」
二週間。
それが彼が眠っていた時間だった。
あの古城での戦闘で大量出血をしていた彼は病院のストックを使い切る様な勢いで輸血を行っており、彼に直接輸血をしていたハンス少尉はあの後貧血で倒れてしまっていた。
それだけ血を必要とするほどの激しい戦闘だったのだろう。そこら辺は後で提出される報告書を読めばわかる話だが……
「さ、こっからが私の大仕事だ」
私服姿で周囲に圧力を与えないように彼女は南部のいる病室に戻って行った。
目を覚ました彼の傷は腹部の刺し傷と右足の骨にヒビが入っているくらいだった。
恐ろしくタフな体だと思いながらあえて薄くしている病院食をまずいと言っている辺り味覚も問題なさそうだ。
彼が目覚めたことを聞いて何度か駐屯地から連絡があり、彼も車椅子に乗って答えていた。
全員が安心した様子で、上司の意識が戻ったことにホッとした様子だった。
「……」
傷も回復魔法で寝ている間に治していたおかげか、よく寝ている事以外で変化はなかった。
よく寝ているのはおそらく寝ている間に回復魔法を使い続けていたからだろう。
そして彼は今、病院を移送するまでの間に眠気を殺しながらタイプライターを打って報告書の制作を行なっていた。
どうせあげるからと言うことで腕も折れていないことから書類作業を進めていた。
「やれやれ、仕事熱心なことで」
「どうせ後でやらされるんだ。今のうちのできるだけ片付けておかないとな」
そう言い彼は病み上がりだと言うのに、そんな雰囲気を感じさせない様な勢いで報告書を書き上げた。
骨の部分には立川が軽く回復魔法を使って治療の効果を早めていた。
「なぁ、これって労災降りるよな?」
「まぁ降りない事はないでしょう」
お目付役となっている立川は南部を無事に帝都まで送ることが任務となっていた。
「明日には退院だから」
「あぁ、わかった」
「だから早く寝なさいよ?」
「ああ、この書類が書き終わったらな」
そう言い、彼はタイプライターを書き終えるとそのまま紙を切ってそのまま横の机に置いた。
リハビリも少しずつ始めており、後二週間もあれば原隊に復帰できそうな勢いであった。
翌日 三月二日
ロール地方の病院を出ていく南部と立川は最低限の物を持って病院を後にする。
事情を知る医者たちは彼のことを内密にしたまま見送ってくれたことに感謝していた。しかしそれは彼ら医者にとっても同じことであり、彼らが活躍したことでここら辺にいた抵抗軍のテロリストたちは近づかなくなった。これでようやく街に平和が戻ると思っていたのだ。
いくら帝国に編入された元共和国領とはいえ、テロリストに加担するのはごく一部であり、ほとんどの人間はただ平穏な毎日を送ることを望んでいた。
「さて、行こうか」
「そうだな」
骨にヒビが入った程度だったからか、まだ完治とはいかないが松葉杖無しで彼は歩いていた。
「よく歩けるわね。そんな状態で」
「まぁ、慣れたもんよ」
「これだから前線上がりの人は怖いわね」
「じゃなきゃエースだなんて言われねえよ。足があるだけまだマシさ」
しかし彼の荷物まで立川が持っているあたり、やはり怪我を負っていると言うのがよく分かる。
「レルリン行きの特急をとっているから」
「おっ、マジか」
「君の義父さんから郵便で受け取ったわ。随分と贅沢な暮らしをさせてもらっているみたいで……」
「ありがたい限りさ」
そう言い、駅に入るとそこでは青色に塗装された06形蒸気機関車の率いる特急列車が待っていた。
「おぉ、すげぇ……」
「この機関車?」
「あぁ、生で動いているのを見たのは初めてだ」
そう言い目の前で蒸気を吐いて停車している蒸気機関車を見ていた。
この06型蒸気機関車は帝国が開発した車両の中で最強の牽引力を持っており、史実では待避線などの急カーブで脱線したりボイラーの設計ミスやボルトが取れたりなどの問題があって戦後に廃車となった悲しき機関車だった。
元々この列車は丘陵部を走る急行用だが、帝都に行くまでその丘陵地帯がある為、特急列車に繋いでいた。
「……ん?」
するとその特急列車の止まるホームの近くに何人かの軍人が立っているのが見え、ついでに物騒な車両が繋いでいるのが見えた。
「え……?何で特急列車にトランペッターが繋がってんだ?」
そう言い、装甲化された客車の前後を挟むようにⅣ号戦車の砲塔を二つ載せた一両の装甲車両を見た。
Panzerjäger Triebwagen
トランペッターの愛称で有名なこの軍用重装甲列車は二つのⅣ号戦車の砲塔をくっつけた車両で、第二次世界大戦では線路防護用に製作されたが、大戦末期と言う事もあり放置されていたところを連合軍に発見されていた。
少なくとも特急列車につける様な車両じゃ無いなと思っていると、横で立川が教えてくれた。
「あぁ、この前の攻撃で抵抗軍の飛行魔法兵が現れたでしょう?それであの後魔導演算機を使った列車強盗があったみたいで、その対策で客車も防護用に載せているのよ」
「ふーん、世紀末みたいだな」
「まぁ、このご時世じゃあね」
話を聞く限り、抵抗軍は鹵獲した魔導演算機を使って悪事を働いているらしく、それはそれで気分が悪くなるもんだ。
史実では三両しか完成しなかった車両が、目の前にあると言う事実に驚きと嬉しさを感じてしまう。
「特に今回みたいな国家間の長距離特急列車だとこの大きいのがついているわね」
「すげぇな」
「まぁ、旧式の戦車を流用した物らしいからあくまでもその場しのぎみたいな物なんだってさ」
「でも量産されてるんだろ?」
「らしいわね」
そう話していると、駅の奥の方から出ていく急行列車にも同様の重装甲列車を連結した車両が出ていた。繋いでいるのは同じくⅣ号戦車の砲塔を乗せたドライジーネ重装甲偵察列車の砲兵車両だった。
「さ、行くわよ。乗り遅れたら面倒なことになる」
「あぁ、そうだな」
思わず史実では絶対にあり得なかったキメラ編成に見惚れる前に二人はコンパートメントの一等客車に乗り込んだ。
06型蒸気機関車+トランペッター+特急列車or急行列車+ドライジーネ。
男の子なら一度は考える夢の編成だと思わない?
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