三月五日
帝都郊外 第五〇駐屯地
部隊再編の為に閉鎖が決まった第五〇駐屯地の前で第五〇〇部隊の全員が集まっていた。
「はい、撮りますよ〜」
そして彼らの前には一人のカメラマンが立ち、豪華なカメラを持っていた。
隊員達が最後の時間として写真屋に写真を撮る事を依頼していたのだ。
「三…二…一…」
そして全員が駐屯地の門の前で集まり、その後ろにはMボートやピューマを止めていた。
普段はあまり写真に写りたがらないディルクもこの時ばかりは写真の中央に立って隊員達と共に写真を撮っていた。
今日は第五〇〇部隊最後の日だ。昨晩、最後の晩餐を食堂で派手に行い。全員がここで過ごす最後の時を過ごした後だった。
すでに荷物はまとめてあり、Mボートや3tトラックもピューマも出る準備はできていた。
各々ここでの思い出を語りながらトラックやMボートに乗り込んでいく。Typ82Eを先頭に車列は動き出し、彼らは最後の任務に就いた。
先頭のTyp82Eに乗り込み、その助手席でディルクは自身の記憶を頼りにアウトバーンに乗り込んだ。
「このまましばらく真っ直ぐ行って、ティファーヴァルトという場所で降りてくれ」
「わかりました」
彼は魔導演算機を持っておらず。魔法を撃つには腰に下げている精霊石の魔道具を使うか、魔法弾を介して使うしかなかった。
発射までにラグがあり、戦闘に支障が出る可能性があるとして彼は先導役として車列を飛ばしていた。
無線で各車両に連絡をとりながら今回の向かう先である魔導研究局に移動していると、最後尾を走るMボートから無線が入る。
『少佐、
「ったく、どんだけ転移者が気になるのやら……」
サンルーフを開け、車列の後ろを見るとそこには一台のベンツ260Dがこの車列を見ていた。
「誰なんですか?」
「帝国保安局だ。厄介な連中だよ」
「うわ、目の敵にされているじゃないですか」
横で運転しているハンスがやや顔を顰めてしまうと、ディルクは無線で聞いた。
帝国保安局は俗にいう秘密警察であり、言ってしまうと反ユダヤの抜けたゲシュタポである。主にスパイや反乱分子摘発を主任務としているが、如何せん帝都に第七師団を相談無しで突入をさせた事や転移者の情報を一切渡さないのが気に食わないらしいようだった。
「排除できるか?」
『派手に事故らせます?』
「いや、面倒ごとを増やしたくない。パンク程度だ」
『了解です』
Mボートの荷台に乗っているゲルハルトが
「距離よし」
「……」
スコープを使って引き金を引くと、発射された魔法弾は260Dのタイヤに命中。小規模の爆発を起こして盛大にパンクしてバランスを崩してガードレールに衝突していた。
「脅威排除」
『まだだ、他の車両が現れる可能性が高い。引き続き警戒を』
「了解しました」
アウトバーンを走りながら彼らはMボートを見て警戒していた。
それから二台ほど追跡してくる車を潰し、Mボートと転移者を運ぶ車列は帝国のとある地域の深い森の奥に存在する一つの施設に到着した。
車を停め、扉を開けて降りるとまず初めに顔をよく知る研究員が出迎えてくれた。
「お久しぶりです」
「ええ、二年ぶりでしょうか?」
研究員と握手を交わすと、Mボートから次々と隊員達が降りてきてその施設を眺めていた。
そして一部は森の方に行って吐瀉音を轟かせていた。
「ここに入った時に魔導具にやられたそうで……」
「ああ、隠蔽用の結界ですか。じゃあしばらくきついかもですね」
俗に言う魔力酔いに晒された彼らの看病をしながらその施設、帝国軍魔導研究局に入っていく。
「所長は?」
「はい、いつもの場所にいますよ。お会いになられますか?」
「……いや、やめておこう」
「その方が得策ですね。なにせ……」
その瞬間、前回と違って建物で埋められた滑走路横の格納庫から爆発音と爆炎が飛び出た。
「うわーー!!」
「ヤッベェ!!」
「消化器!消化器持って来い!!」
煤まみれになりながら出てきた白衣を着た研究者が出てくると、格納庫に備え付けられていた消化器が動き、消火剤が吹き込まれていた。
「こんな状況ですからね」
「……」
ケロッとした様子で話す研究者に慣れたと思っていたディルクはまだまだここは魔境であったと感じざるを得なかった。
「君、よくもあんなぶっ壊してくれたね」
頭がチリチリになって、煤まみれの顔になってどこにあの白い肌があるのかと思うほど酷い見た目で水を飲むのはエレニカ・ネーデルハイト技術大佐であった。
「まぁ、至近距離で擲弾が爆発しましたからね」
「あの状態でよく爆発しなかったと思うよ。おかげで良いデータが取れた」
「そうですか……」
どこか楽しげに語る彼女にディルクはやや警戒しながら話していた。
「もとより成功品が一つしかない三七式だ。同じ機体を作ったところでまともに動くかも分からないからな」
「そんな化け物を私に渡す時点でどうかと……」
「ワンオフ機なんだから仕方がないだろう」
エレニカとディルクは魔導演算機の一件で話していると、彼女は外に停車しているMボートを見て聞いてきた。
「どうだい、あの車両の出来は……」
「火力支援車両としては十分すぎる性能です。ただ問題として……」
「対空性能にやや問題があると聞いているよ」
「ええ、抵抗軍が魔導演算機を持ち出してきた以上、対空能力を増やして欲しいところです」
「難しい注文をしてくれるね……」
今でこそ港防護用の小型船舶として海軍などで採用されているMボートであるが、元々は特殊任務の際に極秘裏に重火器と兵士を運ぶための偽装トラックだ。
その主目的であるすべての地域で満足に走る事のできる大砲を装備した装輪式軽駆逐車両としての役割は十分なようだった。
「元々対装甲車を目的に作った車両なんだ。そこに対空能力を付け加えることになると……」
六両並ぶ八輪大型トラックを見てエレニカは目算を立てる。
「一ヶ月は改修作業にかかるだろうね」
「一ヶ月ですか……」
ちょうど与えられた休暇と同じ日程だ。おそらく設計は既に完了しており、あとは改修作業を待つ程度なのだろう。
「噂の問題児達はここで預かることで良いのかい?」
「はい、よろしくお願いします」
そう言い、新しく来た
「はぁ…永遠の厄介者かね。転移者達と言うのは……」
「……」
ディルクは魔力酔いで苦しんでいる彼らを見ると、そのまま前に来た時よりも圧倒的に建物の増えた魔導研究局を一瞥して所長室を出る。
そして出る直前、エレニカはディルクに言付けする。
「君の三七式の修理も一ヶ月かかる。それまで君は無防備に近いことを忘れないでくれ」
「分かりました」
「今、別の部署が鹵獲できた抵抗軍の魔導演算機の解析を行なっている。終わり次第、君にも報告をしていくよ」
「了解しました」
そう言い、彼は連絡事項を聞くとそのまま部屋を出ていった。
前まで古い飛行場を改装したにすぎなかった魔導研究局は、今は魔導演算機の成功を受けて多くの実験棟や宿舎を備えており、それらを隠すように大規模な隠蔽用の結界が貼られていた。
「オロロロロロ……」
そして結界を通った際の魔力酔いで派手に吐瀉物を撒き散らしている横田を周囲のクラスメイトが看病していた。
「今日から君たちは一ヶ月、ここに住んでもらう。ここにいる人間はちと変な奴もいるが、まあ大丈夫だ」
「あの爆発で信用できると思う?」
「……」
松本のツッコミにディルクは返せずにいると、彼はそんな彼らを見ながら続けて言った。
「まぁ、君たちが死なないことを祈るよ」
「「「「「は?」」」」」
「じゃあ、また一ヶ月後に迎えに来るから」
「あ、ちょっと!!」
そそくさとTyp82Eに乗り込み、コンラート達も今度は3tトラックにそそくさと乗り込む。すでに荷物も降ろし終え、トラックの荷台は空になっていた。
基本的に
ちなみに、魔導研究局の悪魔の如き悪い噂はコンラート達も十分知っているがゆえに敢えて彼らに何も言わずに移送任務に従事していたし、早く帰りたいと思っていた。
「じゃあな〜」
「おい待てこの野郎!!」
兎も角、数人が魔力酔いになってくれて助かったと思いながらディルク達は魔導研究局を出て行った。
あそこは変態が多いが、自分の知る限りではおそらく一番安全な場所であるので、彼らを預かってもらうには十分な場所だった。
車列の内、Mボートは置いて行っていくことになっており、次に道路に出た車列はTyp82E、ピューマ、3tトラックだった。
部隊の解散に伴い、これらの車両も別の場所に行くことになる。
これからの抵抗軍に対する秘密裏に動く実働部隊をどうするのかと聞きたい部分ではあった。
「(上は一体何を考えているのやら……)」
兎も角、最後の任務を終え。帝都に帰還する彼らはアウトバーンを走行する。
Typ82Eの後を3tトラックが三両追従し、その後ろをピューマが走る。行き先は帝都。側から見れば小規模の輸送隊に見えることだろう。
誰もが部隊最後の時を静かに過ごしていた。戦時中からの戦友との別れに寂しさを覚えていた。
「少佐……」
横でハンスが聞いてくる。
「このあと、我々はどうなるんですか?」
「部隊の再編でまず大きく人員は減るだろうな」
今の所、第五〇〇部隊には通常よりも多い八〇名で部隊を構成していた。
「ですが、転移装置に対しては」
「そこまでは俺も分からんよ。上が何を考えているのか……」
そう答えると、先行きが全く見えない中。車列は元来た道を戻って帰って行った。
「最後の任務、ご苦労だった」
第五〇駐屯地に帰還したディルク達はそこで装備を片付けて待機する隊員達を見る。
「君たちには一週間の休暇が与えられて、その後に辞令が届く予定だ。
諸君と戦い抜いてきた日々は、私の中に残り続ける」
そう言うと、彼は自分に付き従ってきた隊員達に頭を下げた。
「そこで改めて私から言わせて欲しい。ありがとう」
とりわけ、年下だと言うのに命令に口出しもせずに聞いてくれた彼らには感謝しきれない部分が多い。
「再編後の部隊で会えるかどうかは分からないが、その時はまたよろしく頼む」
そう言うと、彼は隊員達を見て敬礼をした。それに答えるようにコンラート達もまた敬礼で返す。
そして装備を返却し、私服姿で出ていく隊員達は必ず駐屯地のディルクにいる士官室を寄って最後に挨拶と握手をして駐屯地を後にしていく。
そしてそんな彼らを見送りながらディルクは一人、休暇前最後の仕事を片付けていると部屋に最後の一人。コンラートは入ってきた。
「少佐」
「あぁ、まだ帰っていなかったのか」
「ええ、他の隊員を見送っていましたから」
そう言うと、ディルクは仕事を片付け終え。コンラートに近づく。
「大尉は優秀な副官だった」
「私も、あなたのもとで働けて光栄でした」
そう言うと、二人は固く握手をするとディルクは彼の顔を見て言う。
「また、どこかで会った時は酒でも飲みたいな」
「ええ、是非とも」
そう言うと、最後にディルクはコンラートに行った。
「今までご苦労だった」
「はっ!」
そして、コンラートを入り口まで見送り。駐屯地には最後にディルクだけが残っていた。
メルセデス・ベンツ260Dはよくゲシュタポが使っていた車らしいですね。
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