戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一二一話

マッサリアのレストランで食事を摂っているディルクとカセリーヌはその後フルコースで肉料理やデザートを頂き、最後にコーヒーを飲み終えて会計も済ませて店を出る。

 

「どうするの?」

「うーん、近くのバーを探してからだな……」

 

店を出て二人は次の予定を考える。

 

時刻は二一時。すっかり太陽は消え、空には星空が見える時間だった。

 

「近くのバーか……」

「軽く歩きながら探そう」

「そうだね」

 

歩きやすく設計されたドレスのままカセリーヌはディルクと腕を組んで歩く。彼女の空いた手には財布やらを入れたパーティバックを持っていた。

 

「わぁ、もう真っ暗だね」

「そうだな」

 

車が走り、二人はヨットの浮かぶ桟橋を見る。

 

「……それで?後ろの車はどうするの?」

 

近づいた時にカセリーヌは小声で聞く。聞いているのは後ろから自分達を監視しているジュヴァキャトルの事を指していた。おそらくは保安局の海外工作員だろう。店の中から見えにくい位置に留めていたあたり、ホテルまで突き止めたのだろう。

 

「執念深いのも面倒だな……」

 

車をもう少し前で降ろしておくべきだったと後悔していると、カセリーヌが聞いてくる。

 

「片付ける?」

「君がマークされる可能性がある」

 

監視している保安局のメンバーの車を停まっていた車のミラー越しで見ながらディルクは始末しようとしているカセリーヌを止める。

 

「しばらくは泳がせておこう。今のところ、向こうは君が俺が話しかけた旅行客くらいにしか思っていないだろうからな」

「それはちょっと無理がない?」

 

少なくとも上ですらここに転移者である彼女がいるとは把握してない。

今頃は魔導研究局で生贄になっているであろう横田達には気配殺しの魔法を使ったため彼女が消えても気づく事はない。

もし効果が切れてもあの悪魔がどうせ扱くからそんなこと言ってられないだろう。

 

「問題なのは保安局が俺のことを探り出したことだな」

「あぁ、前に言ってたわざと悪評流してたやつ?」

 

カセリーヌが聞き、彼は頷く。

 

「そうだ、元々参謀総長や情報参謀長……その時はまだ行政参謀長だった人と話した結果、参謀本部を中心に俺の悪評をわざと流したのさ」

「まあ、裏で色々やってるもんね」

 

少なくとも魔導演算機使って秘密裏に抵抗軍の拠点をいくつも堕としたり、Mボートなんて言う国家機密の兵器を投入したり、外国で極秘裏に任務を行っていたり……少なくとも表に出せないくらい違法行為をしている時点で罪なもんだ。

 

「元々軍と保安局は仲が悪いからな」

 

主に司令部占拠事件の後に軍部の将官らが一斉に貴族将校を除け者にしたくらいから……。

元々帝国保安局は秘密警察で違法行為も辞さない集団だ。そんな陰湿な後ろめたい部分でいっぱいの組織が探りを入れると碌なことがない。

 

特に保安局は優秀な能力を持つ転移者達を欲しがっていた。横にいる転移者が新大陸の工作員に誘拐されそうになった一件しかり、転移者を独占している軍部に腹が立っているのだろう。

最も軍部も保安局もどっちも目の敵にしているので表立って動けないのだが……。

 

抵抗軍や教国だけでなく、国内からも狙われ始めた事実にもはや腹が痛くなってきそうだ。

 

「あっ、そう言やぁ教国ってどうなっているんだろう?」

 

少なくとも訓練中だった彼女らに強襲を仕掛けたり、戦線崩壊のどさくさに紛れて転移者を確保しようとしたり、最近だと転移装置の情報を強奪しようとしていたり……。とにかくやらかしまくってたあの狂国は現場どうなっているのだろう。

 

少なくとも禁書保管室が小野寺の手で吹っ飛ばされた影響で中の禁術に関する情報がごっそりなくなってしまった今、国内では混乱が続いているのだろうか。

 

「帰ったら聞いてみよ」

 

休暇が終わった後に参謀総長に聞いてみようと思っていると、横でカセリーヌが小突く。

 

「仕事の話」

「ん?あぁ、すまん」

 

仕事の事を考えそうになっていた所を注意され、ディルクはハッとなった。

 

「取り敢えずバーを探そう」

「飲みすぎないでね」

「そっくりそのまま返すよ」

 

そう言うと二人は夜の街を歩きながら夜の酒を飲むの場所を探していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして、街のバーを見つけ。二人はそこに入っていく。

初めの頃は抵抗感がある酒だったが、今ではすっかり慣れたもんだ。

 

「「乾杯」」

 

ここの地酒と言うパスティスとハムとチーズの盛り合わせを頼み、二人はグラスを傾ける。

 

「お客さん、観光客かい?あっ、もしかしてハネムーンだったり?」

 

するよバーの陽気な店主が話しかけてきた。

 

「ハネムーンじゃないですよ」

「ええ、停まったホテルが同じで知り合ったんです」

「おっと、こりゃ失礼」

 

店主はやや申し訳無さそうにしながらグラスを拭いていると、ディルクが答える。

 

「私はある仕事でこっちで契約を取りに来たんです」

「ほぉ、それは大変だ。そちらのマドモアゼルは?」

 

そして店主は次にカセリーヌを見て聞く。

 

「私は観光です。休暇を取ってこちらに……」

「ほうほう、冬のマッセリアは空いているから観光にはもってこいですよ」

 

店主はそう答えると、今度はディルクの方を見て聞いてきた。

 

「お客さん、少し帝国訛りですが。もしかして……?」

「気を悪くしてしまいましたか?」

「いやいや、私は気にしていませんよ。もう戦争は終わったんだ……」

 

そう言い、店主はグラスを棚に片付ける。

 

「戦争が終わってここの観光客の足取りも元に戻ってきたんだ。今更帝国とやかくで文句なんて言ってられないですよ」

 

そう言い、ディルク達は後ろで盛り上がっている客の声を聞く。これじゃバーというより居酒屋だな。

 

「それに、ここは爆撃で壊されたりはしていませんしね。隣町は軍港がある影響でよく帝国軍の爆撃がありましたがね、ここはほぼ無傷で済んだんだ」

 

店主は少し思うところがあるようで、グラスを片付けると次にコニャックを取り出す。

 

「確かに戦争で多くの人が死んだ。でも生きている方が重要なんです。死んだら誰かの思い出の中でしか、その人は生きられないんだ」

 

そう言い、店主はサイドカーを作って二人の前に出した。

 

「私も、戦争中は徴兵された身でしてね。まぁ、銃を持って前線を走ったものです」

「戦争にですか」

 

ディルクが聞くと、店主は頷いた。

 

「ええ、歩兵でしたが。向こうで負傷してこっちに帰ったら、戦争が終わっていました」

「そうなんですか……」

 

カセリーヌが答えると、店主はディルクを見ながら聞いてくる。

 

「あなたも元軍人か何かですか?」

「……ええ、元々は歩兵でした」

 

少し緊張しながら答えると、店主はやはりと言った様子で柔らかい表情で言う。

 

「店に入った雰囲気でわかりましたよ。多分、同じ病に侵されていると……」

「……わかりますか?」

「ええ、こっちに帰ってきてからたまに見る悪夢です。よく妻にも心配されてきましたから」

 

そう言い、ディルクは時折見る戦場を走って自分が撃たれる情景が脳裏を過ぎる。

PTSDに悩まされている身なのだと遠回しに店主は言っていた。

 

「貴方とは仲良く慣れそうです」

「そう言って頂けると嬉しいです。この苦しさを共有できる人がいるのが、何よりの救いだ……」

 

そう言うと店主はシェイカーを片付け始めていた。

 

「帰る家があるの何よりの救いですよ」

「……」

 

店主のその想いの詰まった一言にディルクやカセリーヌは一杯カクテルを飲み終えると、そのままお代を置く。

 

「ありがとう店主。またいつか来るよ」

「ええ、お待ちしています」

 

そう言い残し、店を出ていくディルクとかセリーヌを見て店主は

 

「(あの二人、すでに意気投合していたな……)」

 

その後の未来が予想でき、内心祝福をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「帰る家か……」

 

帰り道、ふと小山がつぶやく。

 

「どうかしたか?」

「ん?ちょっと気になっただけ」

 

彼女は軽く頭を振って答えると、ふと小山は南部に聞く。

 

「ねえ、茂くんってさ……」

「?」

「日本に帰りたいって思っているの?」

 

小山の問いに彼女は南部はしばらく答えるのに間が開くかと思っていた。しかし、彼はあっさりと答える。

 

「ああ、帰りたいさ」

「……」

 

あまりにもサックリとした答えに小山は一瞬唖然となってしまった。

 

「そ、そうなんだ……そっか…」

 

やや虚どりながら小山は南部の返答に驚いていると、南部はそこでそう答えた訳を話す。

 

「帝国の家族に引き取られた身だけど、所詮は他所の人間だし、そもそも俺は転移者である事を今の家族に伝えていない」

「……」

「それに、俺はまだやり残したことがあるんだ」

 

先ほどバーの店主も言っていた『死んだら誰かの記憶の中でしか、生きられない』事だった。

 

「祖父さんのことを覚えていられるのも、俺しかいないんだ」

「お祖父さんって……あの元自衛官の?」

「そうそう……ってなんで知っているんだ?」

 

そこで南部は純粋に首を傾げると、小山は逆に聞き返した。

 

「え?だって昔茂くんと会っていたじゃん」

「え?何処で?いつ?」

 

お前は何を言っているんだと言う表情で聞き返す南部に困惑しながら小山は続ける。

 

「ほら、あの河川敷でシガレットを渡してさ……」

「……ああっ!!あの時か!!」

 

そこで思い出したのだろう、南部は声を上げた。

 

「あの河川敷で泣きかけていた子か!!」

「え?むしろ今まで気付いて居なかったん?!」

 

まさかの事実に小山は目を見開いて南部の顔を見た。

 

「いや、すっかり忘れてた」

「ウッソー……」

 

つまり、今まで自分が考えていた初めての出会い関係は全部自分の妄想に過ぎなかった事実にやや呆れてしまった。

 

「驚いたわ。まさか忘れていたなんて……」

「いやぁ、既視感はあったんだ……少し」

「少し?」

 

少し睨みながら聞き返すと、南部は半分言い訳じみた様子で答える。

 

「だってあん時、蓮子ずっと泣き顔だったし……」

「泣き顔って……いやしてたな」

 

その時の情景を思い返すと小山は個人で納得した。なにせ、初めて会った南部に対して泣きかけた所でシガレットを渡された訳だし……

 

「今思うとあれ立派な誘拐だな」

「被害届出してないから犯罪じゃないよ」

 

小山はそう言い、ある意味で合法な『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』と言うと南部はその後の事を口にする。

 

「ってか、あの後の事俺聞いてないな……」

「茂くんのお祖父さんが頑張ったってことしか私も知らないなぁ……」

「あの後、蓮子はどうしたんだ?」

「お婆ちゃんの家で過ごしたよ。虐待が認められたから……」

「そうか……」

 

どこか安心した眼差して南部は小山を見ると彼女も南部の顔を見ながら言う。

 

「まさか河川敷の話を忘れていたのは予想外だったな〜」

「時折思い出してはいたからな!」

 

彼は終始、虚どりながら答えていた。




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