今の所、なろう版は七月までは更新するつもりです。
マッセリアにて休暇中のディルクは真夜中のホテルの一室でバルコニーに出て外の景色を眺めていた。
「お風呂出たよ〜」
「ああ、分かっ…っ?!」
外の景色を眺めていると、後ろから声が聞こえ、振り向いた先でディルクは吹き出しそうになってしまった。
なにせ今の彼女の姿はバスローブを着ているものの、前がほぼ全開だったのだ。まず冬でそんな格好をしている事に驚きを覚えた。恥ずかしさ?既にヤっているのに気にする必要あるか?
「前をちゃんと閉めとけよ」
「あっ、そう言うのやっぱ気にすんだ!」
「当たり前だろう?」
特に監視されているんだからさ。少なくともここに到着した時は保安局の車は居なかったので、カセリーヌが同室にいることには気づいていないだろう。
「ほら、さっさとパジャマに着替えろよ」
「はいはい」
そう言うと、彼女は肩まで伸ばした髪をタオルで巻いたままバスローブで体の水気を拭くとそのまま持ってきたパジャマに着替え始めた。
「……」
「どうかした?」
扉の向こうを見るディルクにカセリーヌが聞くと、彼は軽く首を振った。
「…いや、特に何もな」
そう答えてディルクもシャワーを浴びに入ろうとした時。
コンコンッ
扉をノックする音が聞こえた。誰だと思っていると、扉の向こうで従業員の声が聞こえた。
『ディルク様。ホテルのサービスをお持ちいたしました』
「?はい、今出ます」
そう答え、ディルクは扉を開けるとそこでは一人。ホテルの従業員がカートを持って待っていた。
卓上には一本のワイン瓶とグラスが置かれていた。
「あの……」
「ホテルよりサービスのワインです」
明るく答えるホテルマンを見て、ディルクは後ろを一旦見るとそのままホテルマンを招き入れていた。
「クラウスが作戦行動に移りました」
「よし、そのまま対象を連れ出せ」
外の車で青年の上司が指示を出す。その顔はとても不満げなものだった。
「本当にやるんですか?」
「上からの指示だ。転移者の情報を握っている可能性のあるディルク少佐を尋問して、居場所を吐かせろと」
「それだと軍部が保安局に乗り込む理由ができますよ?」
「おまけにあの護衛の女もいるんです」
「それくらいのリスクを冒しても、例の転移者が欲しいんだろう」
半分呆れも混ざった様子で上司は答える。
今回派遣された人数は四人と車一台。チームを仕切って休暇中のディルクを追っていた。
目的は転移者の確保だった。これ以上に強力な魔砲兵を保有して軍の力が大きくなっていく事に不安と不満を募らせているのだろう。
この時点で、彼らはカセリーヌを軍が派遣した護衛という認識だった。
「無茶言いますよ。よりにもよってあの新人にやらせるんですか?」
「これも経験だ。何事もな」
「相手の実力は未知数です。護衛が居るのに新人には荷が重いのでは?」
車に乗り込んだ他の工作員が聞くも、意見は変わらなかった。
「もし失敗しても、上は把握しているはずだ。怒られるのは俺だけだろうよ……」
上司の答えに同乗していた工作員は目を見開いて驚いた表情を見せた。
「所詮はトカゲの尻尾切りだ。処分を受けるのは下っ端だ」
そう言い、青年がホテルマンに扮して入って行ったホテルの部屋を見ている事二〇分。
手間取っていると思っていると、一瞬だけ部屋に閃光が走り、耳のいい彼等も聞こえた銃声が聞こえた。
「っ!!」
「くそっ!撃ちやがった!!」
「行くぞ!!」
三人は慌てて車を降りた。
ホテルを駆け上がり、部屋の前に集まると部屋に入る。
鍵は掛かって居ない様で、PPKを抱えながら中に入った。
「動くな!!」
そう叫んで部屋に入るとそこには誰もおらず、部屋のベットがやや膨らんでいた。
咄嗟に布団を剥がすと、そこには先ほど派遣した青年が猿轡をした状態で気絶していた。
「あの〜」
「っ!!」
反射的に振り向くと、そこにホテルの従業員とおぼししき人が立って居た。どうやら、部屋から聞こえた銃声と慌てて入って行った自分たちが気になったらしい。
「どうかされました?」
「あ、あぁ……この部屋に泊まって居た男の行方を追っているのです」
そう言い、自分は探偵であると誤魔化すと事情を説明した。それを聞いて納得した様子の従業員は部屋に泊まっていた男の情報を教えた。
「あぁ、それなら先ほどチェックアウトされて行きましたよ」
「時間は?」
「一〇分ほど前に」
「どこに行ったとかは?」
「さぁ?私はなんとも……」
従業員はそう言うと部屋の状況を軽く見終えると、そのまま去って行ってしまった。
「どう言うことだ?」
ホテルは監視していたと困惑すると上司は指示を出す。
「とにかく追うんだ。急げ!」
「はい!」
指示を出し、慌てて出ていく工作員を見ながら上司は気絶していた青年を叩き起こす。
「おい、何があった?!」
「う…あ…」
青年はまともに返事ができていない。おそらく相当重い一発を食らったのだろう。
外では車の走り出す音が聞こえ、上司は気絶した青年を引き連れてホテルを出て周囲の捜索に当たった。
「(奴がチェックアウトしたのは一〇分前…こいつが入った後ということか……)」
上司は近くの公園で部下を運びながらディルクの動向に首を傾げていた。
「(だとすると気絶させた後にチェックアウトした事になる)」
もしチェックアウトをしたのならロビーから出ていくのを見ているはずだ。その為に工作員を配置して居たのだから。
「(おかしな話だ)」
だとしてもホテルから見えて居なければおかしな話だ。
「どう言う事だ?」
思わず首を傾げていると、気絶していた青年が軽い呻き声を上げて目を覚ました。
「あ、あぁ……」
「起きたか……」
そして意識がはっきりしてくると、捲し立てるように上司に聞いた。
「っ!申し訳ありません!不意を突かれて……」
「騒ぐな。落ち着いて状況を教えろ」
上司は青年を落ち着かせると、青年は一呼吸整えた後にその時の状況を伝え始めた。
「どう言うことだ?」
突然ワインを渡されたディルクは困惑していたが、ホテルマンに扮した青年はカートを持ったまま彼に言う。
「ディルク様に当ホテルより宿泊サービスとしてワインを提供する様にと言われておりまして」
「そうですか……」
少し部屋を見た後、彼は青年をカート毎迎え入れた。
「こちらにお願いします」
「わかりました」
そう言い、ホテルマンはワインを置いた台を運び入れるとその瞬間。
「くっ!!」
ネクタイで首を縛られ、その瞬間。青年はディルクを蹴飛ばす。
「っ!」
脚を蹴られ、一瞬姿勢を崩した瞬間に青年は隠し持っていたPPKを持ち出した。
「させるか!」
拳銃を持ち出し、部屋の中でディルクは拳銃を持っていた手を手刀で叩き落とす。骨の逝った音がした気がするが、今は関係なかった。
「うごっ?!」
そして青年がディルクを見下ろすように立った瞬間。頭を猛烈に殴られた感覚に陥った。
「しまっ……」
徐々に視界が真っ暗になり、気絶する寸前。彼は言う。
「おかしいな。ホテルにはディルクの名で登録して居ないんだが……」
「そ…んな……」
それを最後に青年の記憶は途切れていた。
「それを最後に、記憶はありません」
「……偽名だったか」
報告を聞き、上司は罠にハマったと感じた。時間が無かったために名前を調べることができなかったが、まさかそんな罠を張っているとは予想外だった。
「奴は別の身分証を持って居たのか……」
「完全に不意を突かれました。まさか気絶弾をあんな近距離で使うなんて……」
青年は萎れながら口にすると、報告をしに工作員が戻ってくる。
「ダメです。見つかりません」
「くそっ、どこに行ったんだ」
「落ち着け。まず、彼がどうやって我々の監視をすり抜けてホテルから出たかを考えるんだ」
そう言うと、彼はその時の状況をまとめながら口にする。
「三〇分前、こいつが侵入した時に奴が偽名を使って網を張っていた。そしてその後、こいつを気絶させて縛り上げた後にチェックアウトをしたの二〇分前…そして銃声がしたのがおよそ一〇分前……」
つまり、一〇分の間にディルクはホテルから出て行った事になる。十分可能ではあるがホテルの構造上、どのエレベーターを使っても玄関からは丸みえだ。
「車はどうだ?」
「先ほど見に行きましたが、ありませんでした」
「駐車場に行くにはホテルの正面を通らなければ行けません」
「正面玄関は裏口からでも確認できます」
「不審な人物は見かけなかったのか?」
「いえ……」
そんな上司の問いかけに部下は答える。
「問題が起こった際、全員がホテルの部屋に行きましたから……」
「……そうか」
そこで上司は全てが繋がった。
「だから、彼はここを脱出できたのか……」
「どう言う事です?」
部下が聞くと、その上司はそのトリックを話した。
「銃声で混乱した隙に脱出とはね〜」
「うまく引っかかってくれて何よりだ」
170Dに乗りながらディルクとカセリーヌは話す。
「部屋に相手から借りた銃を使って空砲とはね……」
そう言い、彼女は濡れたままの髪を魔法で乾かしながら答える。
「半分心理戦だったがね」
「でも作戦は無事成功ってことで」
「まずその前に突撃してきたのが驚きだけどな……」
そう言い、ディルクはホテル脱出までの経過を思い出していた。
まず初めに部屋に突入してきた保安局の男をディルクが注意を引いている間にシャワー室に隠れていたカセリーヌが後ろから不意打ち。その後縛り上げた後に簡単にバスローブの紐と部屋にあった置物を重しに男の持って居たPPKの空砲を製作する。
あとはさっさとチェックアウトしてロビーで待つこと十分。仕掛けていた空砲に気づいた外にいた工作員が階段を駆け上がる姿を見ていた。
数は三人、部屋で縛った一人と合わせて今まで確認した人数と同じだ。
四人が部屋にいて混乱している間にディルク達は悠々と車に乗り込んで脱出していた。
本当はすぐにでもカセリーヌの転移魔法で逃げようかとも思ったが、車でバレていると思ったために全員に隙を作らなければならないと思い全員が車に乗り込んでいるのを思い出して考えた……半分心理戦だった。
「これからどうする?」
「そうだな……隣町にでも行ってみるか」
「えっと……マルティウス?」
地図を見ながら彼女は聞くと、ディルクは頷く。
「そうだ、共和国の軍港がある場所だな」
「これで完全に保安局を撒いたの?」
「多分な」
これで余計な邪魔者が消えたと思いながら二人は車を走らせていた。
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