ハーメルン版:プリキュア
なろう版:ゆゆゆorまどマギ
朝、目が覚める。
もう起きているのか寝ているのかも分からない感覚だ。
魔力切れの激しい頭痛を我慢しながら体を起こす。
「……」
まだ視界が歪み、頭が銅鑼を鳴らしている。
横にある薬剤でキメて魔力切れの症状を抑える。
立川絵里、またの名をオードリー・モレノと言う。現在私は帝国軍魔導研究局にて保護という名目の拷問を受けています。
同室にはクラスメイトの女性が時々呻き声を上げながら悪夢を見ているのか寝ており、部屋を出ると必ず誰かしら部屋に辿り着けずに倒れている同級生がいます。
彼らは皆、ある人物のせいで疲れ果てて気絶しているのだ。
すると自分達がいる宿舎に一つの威勢の良い声が響き渡る。
「やぁやぁ、今日も良い朝だ!諸君!」
「ひっ!!」
その声を聞いた途端、誰かの怯えた声が聞こえる。そりゃそうだ、今までの仕打ちを考えれば彼女に恐れを抱かないわけがない。
「まずは初めの食事と行こうじゃないか!!」
そう言いし白衣を着ているその女性は廊下で死んだように倒れていた厚木を起こすと、彼女は嫌に陽気な表情で青年少女達を起こす。
魔導研究局にディルクによって叩き込まれて一週間。彼らは深淵をのぞいているような気分だった。
この場所に自分たちを放り込んだ後にとっとと逃げ出したディルクの気持ちが分かるようになるのに時間はかからなかった。
前に例の魔導演算機の開発に協力した時には彼一人がここに放り込まれたと言うのだから恐ろしい話だ。
「(よくもまあこんな生活を続けられたわね……)」
歩兵譲りの強靭な精神力にもはや舌を巻くしか無いと思いながら立川は疲れ切った顔で研究所の食堂に赴く。
転移者の保護という秘密の重要な任務を行うにはうってつけだと言うこの研究所。ここでテストパイロット的扱いで立川達は今後の方針が決定するまでここに居候することになっていた。
しかし、ここの所長であるエレニカ技師はそのテストパイロットと言う名目を盾に転移者達を自分の試作した魔導演算機にこき使っていた。
彼女達が開発している魔導演算機の小型化の試作品は確かに今まで見てきていたあのリュックサックのような見た目とは違い、なんとなく古いショルダーフォンのようなサイズ感だ。
Mボートに搭載しているような大型の魔導演算機ではなく、『しもしもー?』とか言っていそうな見た目の魔導演算機に舌を巻いていた。
『私の目的は魔導演算機を世界中に齎す事だ』
開発中、エレニカ技師はそう語っていた。そして同時に『魔導演算機は二〇年もすれば廃れる』と発言しており、私たちは心底驚いていた。
自ら開発した技術が廃れると分かっていてなぜ研究をするのかと疑問に思ったが、エレニカ技師は続けてこうも話していた。
『確かに演算機は廃れるとは言ったが、それはあくまでも戦場での話だ。日常生活において演算機が廃れることはない』
それが彼女が開発を続ける理由だという。
戦争が終結し、向こう十数年は平和が訪れると技師は話しており。逆に言うと、それほどの激戦だったと言うことも自分たちは認識した。
私たちの暮らす日本では八十年近く戦争が起きていないと話すと、エレニカ技師は大層驚いた後に少し微笑んでいた。それはどこか羨望の眼差しも混ざっていた。
『どんな形であれ、それだけ長い期間平和なのは奇跡が連続して起こった……神様からの贈り物だな』
エレニカ技師はそう話していた。確かに、この世界にきて平和がどれ程有難い事だったのか、私たちは知った。いくら後方で大砲を放つだけの仕事とはいえ、多くの市にゆく兵士や戦場という特別な環境の緊張感は味わっていた。
ただそれを、私たちは無意識のうちに忌避していただけであり、視界に入れたとしても記憶の中から消去していただけだったのだ。
だから、その現実から逃げたいと思ったが為に戦線が崩壊したあの時。私たちは満足に動く事ができなかったのだろう。
毎年の八月十五日、テレビがさまざまな特番を組んでは戦争反対を叫ぶプロパガンダを流し、それの事に賛同したり失笑するネットの文言。
今更ながら、本当に平和というのは眩しくて遠い存在だったのだと言う現実を身に沁みている。先の作戦の時だって、テロリストは私たちを殺す目をしていた。本物の殺意だ。
とても恐ろしかった。自分達を敵として認識し、抹殺しようとしてくるその気迫。半狂乱になって機関銃の引き金を引いていた同級生。
訓練施設での教国の強襲部隊は私たちの誘拐を目的にしており、殺す事を目的にしていなかった。だから恐れる事なく引き金を引くことができた。
砲兵ですでに多くの命を奪ってきたと言うのに、あの時は人を殺した感覚に吐き気が出てしまっていた。
「(今更よね……本当)」
立川はそんな自分に恥ずかしさと申し訳なさを感じながら研究所の食堂に少しふらつきながら向かって行った。
「(ああ、休暇中のディルクが羨ましい……)」
少なくとも後で小山は別の形で苦痛を与えたいと思う立川であった。
三月十二日
エスパニア王国 フェロール
その日、南部達は共和国よりさらに東に存在するエスパニア王国という場所を訪れていた。
かつては無敵艦隊を有する大陸を支配せしめんとした強力な国家であったが、時代と共に国家は疲弊し。今ではその無敵艦隊の姿は跡形もなかった。
フェロールはそんなエスパニアの中でも群雄割拠している新大陸に通ずる海。通称、西大洋を拝めるエスパニア有数の軍港だ。
港には世界一小さい弩級戦艦として有名なエスパーニャ級戦艦が停泊しており、その横には重巡洋艦のカナリアス級も停泊していた。
「あったか〜い」
「まあ、ここはこの時期でも泳げるような気候だからな」
小山が車の中でそう溢すと、南部はそう答える。
現在二人は共和国をさらに越え、より南部の国家に出ていた。それがここ、エスパニア王国。
常夏を謳い、街の至る建物は太陽を象徴するようにレモン色に塗られた建物が多く存在していた。
「この後海にでも行くか?」
「賛成!」
水着も買ってあるしと言って彼女は楽しげに答えると、南部は双眼鏡でフェロールの街並みを見下ろしていた。
二人がなぜこんな場所にいるのか、その理由は数日前まで遡る。
マルティウスまで厄介なストーカーを追い払って逃げた二人はそこでマルティウスと言う共和国の一大軍港のある街に入っていた。そこで車中泊をして一夜を過ごした。
翌日、適当なレストランに入って食事を注文した時の事だった。バーカウンターで食事を待っていたディルクはふとあの写真の事を思い出した。裏に日にちの書かれたあの港の写真だ。
古城から持ち出した情報の中でも数少ない血で汚れていなかった写真だ。特段重要性はないと言う判断がされ、ディルクはなかなか良いカメラで撮られたものだからと持ち出していた。おまけに、小野寺自身あの写真を気にかけている様な言葉を連ねた所も妙に引っかかっていた。
撮られた日時は三ヶ月ほど前。ちょうど俺たちが教国で極秘作戦を行っていた頃の日にちと一致する。小野寺が地下の禁書保管庫に爆薬を仕掛けて禁書を燃やし尽くしたあの一件だ。
未だにあれほどの危険を冒してまで書庫を破壊する必要があったのかと問われると疑問が残るが、何かしらの意図があっての事なのだろうと予測していた。
そんな写真を見ていると、ディルクはふと声をかけられた。
「お前さん、ここいらじゃ見ない顔だね」
振り返ると、そこには年老いた老人が横に座っており。その老人はディルクの持っていた写真に目をやった。
「なんの写真だい?そんな変な港の写真なんか持って」
そんな問いかけにディルクはふとその老人にこんな言葉を投げた。
「実は、この写真の港を探しているんです」
「ほぉ、旅人かい?」
「そんなところです」
ディルクはそう答えると、その老人から漂う潮の香りから話しかけた。
「貴方はもしかして漁師ですか?」
「ああ、そうだ。なんで分かったんだ?」
ここは軍港の港であり、普通なら軍人と答えるだろうと思っていたのだろう。少し驚く老人にディルクは簡単にその訳を答えた。
「潮の香りの中に少しだけ魚の匂いがしました。時間帯的にも漁から帰ってきた直後でしょうしね」
「ほぉ、あんた天才か?」
感心した様子でその老人はディルクを見ると、彼はそうでもないと言った様子で少し肩をすくめていた。
「地元の方なのでしたら、この港がどこかわかりますか?」
「うーん……俺じゃあ見た事ねえな。少なくともここいらの港じゃねえな」
「そうですか……」
ディルクはその老人の返答に少し残念げに思いながら仕舞おうとすると、その老人はその腕を軽く掴んだ。
「ちょいと待ちな。若いの」
「?」
そこでディルクは首を傾げると、その老人はこう続けた。
「もう少しでここいらの港に詳しいやつが来る。そいつに見せれば分かるだろうよ」
「え、そうですか……?」
そこで少々の驚きと共になぜそこまでしてくれるのかと言う疑問が浮かんだが、その老人はディルクを見てこう答えた。
「お前の目からは強い意志を感じたんだ。まぁ、船乗りの勘だがな」
心当たりがあるんだろう?と言った様子で話しかける老人にディルクは少し苦笑してしまうと、ちょうど店に一人の親父という見た目の見るからに船乗りな男が入ってきた。
その男を見るや否や、老人は声をかけた。
「おいミュラー。ちょっといいか?」
「?どうした親父」
ミュラーと言ったその男は老人を見ると、彼はディルクの持っていた写真を見せながら聞いた。
「この若い奴がこの写真の港を探しているらしい。お前なら見覚えあるだろうと思ってな」
そう話すと、男は老人の事を慕っているのか分からないが軽くため息を吐いた後にディルクの写真を見た。
「あー……こりゃフェロールだな」
よほど港を渡り歩いたのか、写真を見ただけで場所を特定していた。
「フェロール?」
「エスパニア王国の港だ。西大洋にある大きめの港だな」
「なるほど……ありがとうございます」
「感謝されることでもねえよ」
ディルクの言葉にミュラーはそう答えると、今度は呆れた目で老人を見ていた。
「……というか親父、また男引っ掛けるつもりだったのか?」
「はっ、そんなことこんな若造にするかよ」
「えっ?!」
悲報、まさかのこの老人ゲイだった……。
下手したら掘られていた可能性にディルクは計り知れない恐怖を味わうのだった。
次回更新は不明なり。しかし最後までの下書きは完了した。
そしてこれを書いていて脳裏に中島みゆきの『世情』が流れてきた。
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