戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一二七話

三月二〇日

帝都レルリン 統合作戦本部

 

その時、飛んできた情報にペッツは首を傾げた。

 

「抵抗軍の拠点だと?」

「ああ、なんでも保安局から逃げた先のフェロールで見つけたそうだ」

 

コルネリウスがそう答えると、ペッツは呆れた様子で席に深くつく。

 

「全く、あれだけ仕事は厳禁と言っておったろうに」

「いや、完全なマグレだ。元々フェロールやラ・チャンコにいた事は事前に聞いていた」

「はっ、保安局から逃げた先で抵抗軍の拠点を見つけるとは……なんと言う強運…いや、不運というべきか?」

「どちらにしろ、運が強いのは戦中からの話だ。今更の話とも言える」

 

司令部の一室、陸軍参謀総長室の私室にて会食を伴いながらの二人の対談は進む。

 

「最近、抵抗軍の行動は君が悪いほどに静かだ」

「おそらく、内部のスパイの炙り出しに人員を割いているのだろう」

 

現在抵抗軍の活動は控えめであり、その実内部では大規模な粛清の嵐が吹き荒れていた。相手は主に潜入していた諜報員などだ。

 

抵抗軍は転移魔法装置と言う禁術を使用する装置を保有し、なおかつ魔導演算機の独自生産も可能としていた。その技術を狙って多くの国が諜報員を送る若しくは秘密裏に繋がっていた。

一門の大砲の火力を迅速に移動可能にした魔導演算機は、集団で使うと非常に強力な兵力となる事実はすでに東西戦争で周知されていた。

なにせ、感応石や魔導具を使わずともほぼタイムラグ無しで魔法を瞬時にお届けできるのだ。つまり、余計な魔力消費を抑えて魔法を離れるのだ。これほど魅力的なものも中々無いだろう。

 

「まるで軍隊だな」

「実際、敗残兵の寄せ集めのようなものだ」

「全く、英雄がいる噂は人を引き寄せる甘い蜜のようだ」

「…白い悪魔か……」

 

今まで何度もディルクと対峙して戦ってきた、戦場のライバルだ。

 

「戦時中からディルクの…いや、彼がエリクだった頃からの敵か……」

「マーチバル攻勢……全てはあそこから始まった」

「ああ、ある意味で戦場に一筋の光が差し込んだ瞬間だ」

「絶望の阿鼻叫喚と共にな」

 

初めてその報告を聞いた時は耳を疑った。

突如として戦場の上を巨大な乳白色の、今までとは比べ物にならないほど桁違いな規模の砲撃魔法が発動し、双方合わせて四個師団が一撃で壊滅した伝説の砲撃。一発で街を一つ破壊できるほどのその砲撃に参謀本部が戦慄したのは今でも鮮明に刻まれていた。

 

「前にマーチバルに視察に行った時、私は足が竦んでいた」

 

戦後、一度だけペッツは自ら戦場痕を秘密裏に見て回ったことがあった。その時の旅の最後の目的地がマーチバルだった。

 

「戦前、あそこは一面の麦畑が広がっていた」

「行ったことあるのか?」

「ああ、妻と新婚の頃にな」

 

ペッツはそう返すと、コルネリウスも納得した後にステーキを切って一口。

 

「だが私が見た時、あそこはクレーターが出来上がっていた」

 

忘れもしない、小高い丘の上。マーチバル全体を見下ろせるその場所にて双眼鏡を使わずとも焼きついた光景。

 

「塹壕も丸ごと消えていた。戦後すぐに向かったはずなのだがな……」

「……」

 

塹壕も意味を為さぬほどの超強力な砲撃魔法、それほどの威力を繰り出した一発の155mmの砲弾。まさに動く災害とでも言うべきなのだろう。

 

「双方合わせて四個歩兵師団の喪失。あの攻撃の破壊力は共和国も予想以上の影響だったそうだ」

「だろうな。味方も二個師団失い、一時的にあの戦域は空白となった。先に取られてしまったがな……」

 

コルネリウスはやや悔しげにそう語ると、ワインを一口。

 

「しかし、それ以降共和国は二度目の砲撃をしなかった」

「ああ、おそらく味方も丸ごと吹き飛ばすその威力にとても戦場で使うには危険極まりないと判断したのだろうな」

 

ルテティアに侵攻を果たした帝国軍はその際に幾つかの情報を共和国軍から入社していたが、その際に白い悪魔に関する情報は一切が抹消されていた。

 

「マーチバルの爆炎は50キロ離れた前線司令部にも影響を齎した」

「今までの記録上、世界一危険で巨大な爆弾だな」

「恐ろしいのはそれが一人の魔法兵によってもたらされた事実だ」

 

鋭い目をペッツは浮かべると、コルネリウスもその危険性をよく分かっていた。

 

「ああ、あれほどの威力の魔導砲撃が一人で撃てるのであれば。個人の魔法兵が何かの気の迷いで街を一つ吹き飛ばすかもしれんからな」

「そうだ、あれほどの魔法を一個人が持つことは潜在的な脅威を抱える事になる。しかもその魔法兵はテロ組織の副司令を務めていると来た」

 

その恐ろしさにコルネリウスも短く頷く。

 

「犯罪組織が国をも滅ぼす力を持っている……」

「想像しただけで恐ろしい話だ」

「今までの戦争の常識がひっくり返るぞ」

 

帝国軍の中でも聡明な考えを持っている二人はその未来を想像して思わず手が不思議と止まる。

ヘイルダムと名乗るその魔法兵を持ってして首都の政府機関に街ごと吹き飛ばすと脅して何かしら要求をすれば簡単に政府転覆などを狙える。

そうすれば簡単に国を乗っ取ることすら可能だ。

 

「戦争をせずとも国を滅ぼすことができるぞ」

「軍隊もまるで意味をなさない」

 

二人はそんな話をしながら最後にデザートを手に取る。

 

「しかし、だからこそ威嚇でしか使えない」

 

ペッツはそこでそう答える。

 

「威嚇であっても、既にその威力は発揮されている」

「敵も下手に使わないと?」

「事実、一度も砲撃をしていない」

「……」

 

ペッツの意見にコルネリウスは納得した。

 

「まあ、いずれにせよ。抵抗軍の本拠地が掴めない以上、少しでも抵抗軍の情報は欲しいところだ」

 

ペッツはそう話すと、最後の一口を口に入れていた。

 

「……ところで何だが」

「どうした」

 

そして食後、徐にペッツはコルネリウスに話しかける。

 

「突拍子も無い話かもしれんが……

 

 

 

ディルク少佐は転移者ではないのか?」

 

そんなペッツの意見にコルネリウスは一蹴する。

 

「そんな訳あるか、戸籍の裏付けも出来ている。既に死亡届も向こうでは出されていた」

「ああ、だがどうしても気になってな……」

 

二人はディクルの戸籍情報を諜報員を使って調べさせていた。それを見ても共和国時代の彼はマーチバル攻勢で死亡していることはすでに届けられていた。

 

「そもそも、ディルクが転移者だとしてどうする?既に転移者を匿っている以上、教国との対立構造が変わることはない」

「……そうだな、考えすぎたか」

 

ペッツはコルネリウスに言われて考えていた事を脳から消去していた。彼の言う通り、転移者達を庇っている以上、教国と対立しているのは変わらなかった。

 

「(おまけに少佐は我々に多大な貢献を齎したしな……)」

 

電撃戦の提唱や新型戦車の設計、陸軍のみからすると恐ろしいほど優秀な人材だ。

おまけに少し気に食わんが海軍にも理解を示していた。今度少佐は秘密裏に海軍や新設された空軍にも視察に行く予定だ。なんでも、司令部占拠事件の際に自分達を作ってくれた部隊長に挨拶をしたいそうだ。その際に空軍から『陸軍はまだ魔導演算機を持っておられたのですか?』と小言を言われてしまったが……これに関しては甘んじて受け入れるしかなかった。

そもそも陸軍参謀本部直轄の秘密部隊だった上に、今では抵抗軍を追う事に特化した部隊である事をこの際言わざるを得なかった。それで向こうは納得してくれたのだからこの際良しとしよう。

 

「(少佐は人気者だな)」

 

ロンネル将軍の名声が鰻登りの裏で、真実を知る者達の間ではディルクが話題の的となっていた。その事実に、ペッツはやや苦笑してしまっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ほんっと、君って変な問題をよく引っ掛けてくるね」

 

車に乗りながら小山は不満げに溢す。

 

「お?それは嫌味でいいかい?」

「えーえー、嫌味ですとも。せっかくの休暇中にとんでもない掘り出し物を見つけてきてくれて」

 

南部はハンドルを握りながら港を見る。後ろには荷物が大量に乗っており、そのほとんどは土産だ。

 

「仕方ないだろう、見つけたもんは」

「だからって自らバンザイして敵地に乗り込むのは……しかもほぼ丸腰で」

 

彼女はそう答えると、そこで南部は言う。

 

「でも武器はある。しかも連射できる強い武器がな」

「……」

 

南部の目を見て、やや諦めた様子で彼女は懐からM712と、20発弾倉を取り出す。

 

「こうなるんだったら、向こうから突撃銃でも持ってくればよかったわ」

「今から転移魔法で取りに行けばいい」

「やだよ。あんな阿鼻叫喚地獄」

 

基本的に小山達の主装備は突撃中だ。ペッツ総長の計らいで、すでに抵抗軍がどこからか突撃銃を持っていた為に部隊の全員が突撃銃を装備していた。予備兵装は自由だったが、まあブローニングHPが多かったよ。

 

「さて、これから殴り込みをかけるわけだが……」

「はいはい、お得意の転移魔法と精霊石のセットでしょう?」

「ああ、魔力供給は任せろ」

 

南部はいつもの声でそう返すと、いつもは隠している拳銃を腰に下げてどこから持ってきたか、いつもの黒い目出し帽を取り出す。頬の部分には小山が縫った黒い翼の天使が見えた。

 

「持ってきてたの?」

「ああ、俺のトレードマークだ」

「……はぁ、仕方ないわね」

 

軽くため息をついた後に彼女も収納魔法の陣に手を入れてそこから自分の蓮の花の刺繍の入った黒い目出し帽を取り出す。

 

「流石にここでつけると銀行強盗になっちゃうね」

「ああ、おまけに動くのは陽が落ちてからだ」

 

現在時刻午後三時、ホテルを引き払ってまでフェロールに移動した彼らは市内の道端に車を一旦止めた。

 

「やれやれ、休暇中は仕事厳禁じゃなかったの?」

「偶然見つけたんだ」

「偶然ねえ……」

 

あの写真を追って見つけただけやろがいとツッコミたかったが、正直小山自身はあの写真に特段意味は無さそうに感じていた。

 

「弾は?」

「長くは無理よ」

「問題ない、最悪奪えば良い。そもそも隠密で動くしな」

 

互いに拳銃を確認すると、そのまま二人は細々とした準備を始める。二人とも使う弾薬は9mm拳銃弾、片方はマシンピストルだ。しかし派手に撃ち合うと警察がすっ飛んでくるかもしれない。

 

「場所はただでさえチンピラが多い場所だ。気をつけろ」

「あら、無粋な輩にはお見舞いしてあげないとね」

 

少し怖い笑みで小山は答えると、南部は一瞬女の怖さを感じていた。




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