戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一三話

それから数日は本当に忙しかった。何度も何度もこの『三七式魔導演算機』の試験をさせられたからだ。耐久試験をクリアし、そして・・・・・・

 

「久々の・・・街だぁ!!」

 

俺はこれほど街の明かりで泣くことがあるとは・・・なるほど感覚が麻痺しているようでこれはいけない。

今頃デニスはどうしているだろうか。あぁ、早く帝都のプレッツェルが食べたい・・・

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

なんて思っている自分がいました。俺は現在、義父の仕事場である参謀本部に呼ばれています。

 

「なんとか生きて帰って来た様だな」

「はっ!小官は五体満足で帰還いたしました!!」

「うむ、ご苦労だった」

 

俺は義父に敬礼をし、無事に帰ったことを伝えた。その横では義姉が心底ほっとした様子で俺を見ていた。義姉は元々魔導適正を殆ど持っておらず、一般の帝国兵として働いていた。自分を助けた時は偵察部隊にいたそうだ。しかし、参謀本部の親族と言う事であの後、後方に下げられたそうだ。義姉曰く『もっと前線にいたかったが魔法をまともに使えないから仕方ない』と悔しげに言っていた。そして義父はすでに届けられている結果を読み、満足げに。そしてやや残念そうに言う。

 

「試験結果はこちらにも届いた。十分すぎる成果だな」

「お褒めに預かり、光栄であります!」

 

そう言うと義父は今度は報告書をおくと次に別の紙を取り出した。

 

「帰還早々に悪いが次の命令だ」

「拝見いたします・・・・・・っ!?これは・・・」

 

命令書を見た途端。俺はとてつもない高揚感に包まれた。今までで一番の興奮だ・・・

俺が内心そんなふうに思っているとは気づかず、悲しげな表情を浮かべる義父と義姉。しかし、俺は嬉しかった。また戻れるのだと・・・

 

 

 

『西部戦線への派遣』

 

 

 

本来であれば士官学校を卒業の後、派遣されることが決まっていたが。自分は参謀総長の計らい(策略)であの実験体地獄だ。早く前線に行きたい気持ちとは裏腹に後方で憔悴する地獄だったから俺としては最高だった。

 

「数ヶ月だけだが。気をつけろよ」

「ええ、問題ありません。自分は実戦を経験しておりますので」

 

それも死亡率の高い突撃兵として・・・・・・

俺はまたあそこに帰れるのかと思うと帝都でしようと思っていたことなんか全部吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正暦一九三八年 六月八日

ライヒ帝国西部

 

命令を受諾した数日後、俺は約一年ぶりに戦場に帰ってきた。そう、地獄の西部戦線だ。相変わらず硝煙と死体の山。砲声と銃声が轟くこの戦線に・・・

 

「(戻って来たんだ・・・俺はついに・・・)」

 

思わず口角が上がりそうになるが、それを抑え。列車を降り、ついでに共和国の時は無かった貨物列車に積んだ荷物を持って配属される部隊に向かった。あの時と違い、俺は帝国軍魔法兵として戦地に赴いていた。駅を降りると俺は出迎えを受けた。

 

「よう、ディルク。長旅ご苦労。実験体にされた気分はどうだった?」

「ああ、此処と変わらんくらい地獄だったさ」

「へっ、そりゃあ大変な事で」

 

そう、モルモットにされた俺とは違いデニスは士官学校を出た後にここに(西部戦線)に来ていた。俺とデニスは互いにハイタッチするとデニスは後ろの荷物を見ながら感心した様子で見る。

 

「それが新型か・・・」

「ああ、『三七式魔導演算機』だ。最新鋭だぞ?」

「羨ましいなぁ・・・」

 

そう言いながら俺は重量一〇キロもある演算機を背負うとデニスの後をついていく。義父が手配をした様で俺はデニスと同じ部隊に派遣される事となった。

 

「ようこそ我らが第四五魔法科中隊へ。後輩君?」

「へっ、デニスに後輩と言われるとはな・・・」

「まぁ、ディルクには戦績で直ぐ抜かされそうだがな」

 

そう言うと俺はテントの中に入ると上官となる人物に敬礼をした。

 

「ディルク・フォン・ゲーリッツ少尉。現時刻をもって第四五魔法科中隊へ着任致しました!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正暦一九三八年 三月某日

フランク共和国 戦没者墓地

 

その日、多くの白い十字架が立ち並ぶ墓地で一人の軍人が花束を持ってやって来ていた。

その軍人は大尉の階級章を持ち、共和国軍砲兵科所属である事を指す胸章をつけ、幾つかの略綬も付けていた。その青年はある白い十字架の前に立つと持っていた白い花束を置いた。花束は全て待雪草で、花言葉は『慰め』この場所にはピッタリと言えよう。

 

「久しいね。南部くん」

 

花束を置いた青年。小野寺輝は『エリク・ピエール』と簡易的に掘られた墓標を見ながらそう言う。

 

 

 

今日は彼が自分の砲撃に巻き込まれて亡くなった日から一年がたった。

 

「あれから一年が経ったけどみんな忙しくしていて、ここにも来れないみたいだよ」

 

そう言うと輝は忙しそうに走っていたクラスメイトを思い出す。

自分たちの砲兵中隊は三つの砲兵小隊と一個の補給小隊で構成され、戦局の変化に伴い参謀本部直属の部隊としていろいろな場所に派遣されていた。おかげで今回休暇が取れたのも輝のほか数人だけだった。

 

「ま、僕としては君の戦死を直接見れなくて悲しかったけどね・・・」

 

あの後、あそこの周辺を手に入れた共和国軍は数ヶ月は遺体処理に奔走していた。何せ双方合わせて四個師団の遺体だ。後処理も大変だった。

そんな中、自分は運ばれてくる戦没者の中からエリク・ピエールの遺体を探していた。しかし、見つかったのは彼の着ていたホリゾンブルーのコートだけ。それも塹壕内に残されていた物だ。おそらく自分の砲撃で跡形もなく消えてしまった。と言うのが結論だった。実際、砲撃の後。遺体すら残っていない兵士もいたわけなのだからそうなのだろう。しかし、遺体を確認できなかったのは実に悔しい。

 

発見出来なかった時はどれほど悔しかったか。まぁ、あれ以降彼は一切姿を見せない様だし、帝国の捕虜となっていても捕虜収容所に居るのがオチだろう。共和国と同様、帝国の捕虜収容所も悲惨だと聞いている。だったら、まともな訓練をして来ていない彼はそこで揉み潰されていることだろう。

 

そう判断し、自分は今日も軍人としての生活をしていた。

クラスメイトは日本への帰還という人参をぶら下げられ。生き残り、帰るために一部例外を除いて毎日を生きていた。

そう思うと輝は困った様な表情を浮かべながら呟く。

 

「全く、小山さんには困った物だよ。僕の言う事を聞いてくれない時もあるから・・・これも君の計算の内なのかい?」

 

茂が戦死してからというもの、蓮子の自分へのあたりは強かった。少尉である彼女は上官であるはずの自分の命令を聞かずに独断で行動することがあった。自分の権限を用いて懲罰することもできたがそれではクラスメイトに不信感を煽ることになるので注意程度で済ませていた。

蓮子の自分に対する当たりにクラスメイト達は時々自分を疑う様な目で見るがその都度弁明をして仲違いを回避して来た。クラスメイトの内ゲバほど面倒なものもない。常に牽引式の155mmカノン砲と砲兵ハーフトラックで戦線を走り回り、砲撃を行っては次の陣地に移動して火力支援。その繰り返しである。

最近は戦争にも慣れて来て砲撃をするまでの手順に迷いがなかった。帝国軍の陣地に向けて砲撃する事の抵抗感も薄れていた。

上がってくる文句と言えば携帯が使えない事、化粧ができない事くらいだろうか。それ以外は食事もきちんと摂れ、衣食住の確保もされているので何とかなっている。正直三十人の面倒を見るのも疲れて来たが、もう慣れたものだ。

 

「・・・さて、僕は行くよ。君もゆっくり休んでいてくれ」

 

そう言うと輝は花束を置いたまま去って行った。待雪草の花言葉には『慰め』意外にも花言葉がある。それは…

 

 

 

『あなたの死を望みます』

 

 

 

 

「イギリスの伝承からその意味もあるそうだ。自分の敵だった茂には良い贈り物だと思わないかね?」

 

自分はそのまま花束を置くと墓地を後にする。墓地の出口に向かった時、出入り口にある花屋である人物と出会う。

自分と同じ砲兵隊の兵科で、女性の軍服を着ていた。階級は少尉。そのブラウンの短髪を下ろしつつも、血のような赤い目には強い決意を感じる。

自分はその横を通りすぎるとその少女は自分を暗い目で見つめ、その後買ったであろう花を貰い、墓地に入って行く。その光景を目にし、自分はそのまま墓地を去って行った。

 

 

 

 

 

「ーーー最低」

 

エリク・ピエール二等兵の墓標に花を持って立った少女・・・小山蓮子は菊の花束を持って同級生の墓参りに来ていた。蓮子は献花された待雪草の花を見るとそれを手に取り、置き換えるように菊の花束を置く。そして墓標の前で足を屈めると両手を合わせ、目を閉じ、祈る。

 

「待ってて・・・茂くん。敵は必ず取るから・・・」

 

そう呟くと蓮子は閉じていた目を開け、輝の献花した待雪草の花束を墓地のゴミ箱に入れると降り出す雨の中、茂の来ていたコートを着て濡らさぬ様に傘を差しながら墓地から出て行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うわ、降って来やがった・・・」

 

そこは西部戦線後方の野営地。そこで明日からの戦闘に備えて魔導演算機の調整と試運転を行なっていたディルク達は空模様を見てゲッとしていた。

 

「おーい、この後の天気知っているやついるか?」

「はっ、観測所によれば明日の昼まで雨だそうです」

「うわぁ、これじゃあビニールシート運ぶのが今日の仕事だな・・・」

 

するとテントに伝令兵が入ってきて言った。

 

「デニス少尉、中隊長より命令であります!」

「そら来た。面倒な仕事だ。・・・おい、ディルク!ちょっと手伝ってくれ!」

「・・・・・・」

 

デニスがそう叫ぶと視線の先には雨を見てぼーっとしているディルクの姿があった。

 

「おい!ディルク!」

「ん、あぁ。・・・分かった」

「早くしろよ。お前らしくねぇ」

「あぁ・・・すまん」

 

少し辿々しい様子の動機にデニスは思わず聞くも、ディルクはいつも通りの表情で返したので取り敢えずホッとした。

 

「(雨か・・・・・・)」

 

ディルクは戦場での雨を見てあの日のことを思い出していた。

 

「(曹長・・・伍長・・・敵は取りますよ・・・)」

 

そんな密かな決意を胸にディルクはテントを飛び出し、配られたビニールシートを戦線に配りながら塹壕内の水を排出するための水路作りのためにシャベルでひたすら穴を掘るという地獄の作業を始めていた。

 

「相変わらず西部戦線は地獄だ・・・・・・」

 

水路を作っている最中。ディルクはヘルメットを被りながら空を見上げてそう呟いていた。

 

 

 

 

 




第一章『ようこそ地獄へ』完

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