戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一三一話

かつての戦場、マーチバルに於いて今までヘイルダムが残した痕跡を追って来たディルクはその終着点に到達していた。

一ヶ月与えられた休暇の最後、彼は初めての戦場に帰って来ていた。

 

「中身は一体なんなのか……」

 

そして地面の中から掘り出した金属の箱。材質はスチールで蓋はゴムで密閉されており、しっかり防水もされていた。

蓋をゆっくりと開けると、中身は油紙の封筒に包まれていた。

 

「書類か……」

 

そして封筒の封を開けて中身を見ると、カセリーヌも同様にその紙を覗き込んでいた。

 

「なんなの?これ」

「通信記録だな……これは」

 

ソレは数字や天候などが書かれた通信記録だ。日付は三ヶ月ほど前から一ヶ月ほど前までのものだ。

 

「なんの通信なの?」

「無線通信……それも電波灯台の通信記録だな」

「電波灯台?」

 

聞き慣れない言葉に彼女は首を傾げると、ディルクは答えた。

 

「俺らで言うならGPSのようなものだ。座標を示した電波を常時流して、洋上を航行する船舶の今の現在位置を把握したり、気象情報を入手するための施設だ」

 

説明を終えると、カセリーヌは首を傾げた。

 

「でもなんでそんな通信記録をわざわざ残していったの?」

「それは……」

 

そこでディルクはしばし考える。こんな船舶の通信記録しか残っていない書類をわざわざ隠してまで俺たちに見せようとした理由、それは何なのか。

そして小野寺の行動パターンを考え、ディルクは記憶を掘り返す。そこで思い出したのは教国で見つけた二つの暗号文の残り一つ。

 

『艦ノ煤煙ラシキモノ見ユ』

 

もう一つがこの書類の隠し場所とすれば、もう一つの意味とは何なのか。

 

「……まさか」

「どうかしたの?」

 

そこでディルクは顎に手を当ててある懸念が脳裏を過ぎった。そしてそのまま目の前にいたカセリーヌに聞く。

 

「なあ、王国の格納庫で見た書類に修理工場の記録が残っていたよな?」

「え?ええ、昔の客船を改造したって言った記録があったわよ?」

 

書類を見た当時は『あそこにあった修理工場の記録をまとめておいてあっただけじゃないのか?』と言って一蹴していた書類。それは確か、古い客船の近代化改修工事の内容だったはずだ。

古城で見つけた写真はフェロールの港を撮影していた。あの港のクレーンに写っていたロゴは確か、船の修理工場だったはずだ。

思わず写真を取り出して確認すると、クレーンには修理工場のロゴが写っていた。

 

教国の二つの暗号。

フェロールの港を写した写真。

そして手元にある電波塔台との通信記録。

 

三つの異なる事象に共通点があると、それは物事の本質となる。この三つの証拠の共通点は……

 

「船だ……」

「え?」

 

ディルクの小さな呟きにカセリーヌは困惑していた。しかし、ディルクはそこからブツブツと呟く。

 

「そうか…そう言う事か……」

 

全てが繋がった気分だ。

これだけの証拠があれば、彼が何を示したかったのか理解できた。

 

「これは奴が今いる場所の暗示だ」

「え?」

「ははっ、通りで抵抗軍の本拠地は叩けないわけだ」

 

書類片手に彼は苦く笑う。これほどの警戒網を潜り抜けてこれた理由がこれでようやく判明した。

 

「今まで俺たちはテロ組織の捉え方は俺たちの世界の考え方が浸透していた」

「え、ええ…モグラ叩きみたいになっているわね」

 

そこでテロ組織の根本を抑えるために自分たちが動いていた。しかし結果は抵抗軍の動きを完全に抑えることはできなかった。

 

「それはテロ組織は行動指針だけを共有して、やり方はどのような方法でも構わないと言う放任主義だからだ」

「は、はぁ……」

 

説明を受けてもいまいち理解が進まない彼女にディルクは話し続ける。

 

「そしてそのテロ組織の概念は、俺たちの間ではテロ組織と軍事組織は別物と言うのが俺たちの脳にはインプットされている」

「ええ、そうね」

 

そう頷きながら彼女は納得していると、そこでディルクは続ける。

 

「確かに、下っ端はそうかもしれない。しかし自ら軍を名乗っている以上、上はそうだろうか?」

「っ!!もしかして茂くん…」

 

そこで勘づいた小山は思わず目を見開く。

 

「明確な意思決定権を持つ上官の命令に従い、部下は行動を起こす。一応戦時条約には『軍隊とは部下の行動について当該紛争当事者に対して責任を負う司令部の下にある組織され及び武装したすべての兵力、集団及び部隊から成る』と言う明文化がされている」

「それってつまり……」

 

そこでディルクな頷いた。

 

「自らを軍と名乗る抵抗軍はどこかしらに命令を出す司令部を必要としていると言うわけだ。

元が軍人の集まり故に、命令を受けなければただの案山子だ。軍人としての職務は戦争中に叩き込まれている。その癖が抜けていない抵抗軍は非公式な軍隊として、君臨している」

「でも何で船と関係あるの?」

 

カセリーヌはそこで首を傾げると、ディルクは言う。

 

「司令部というのは基本的に通信機器などを搭載するが故に満足に移動ができない。ましてや、大勢の人数を抱える組織れあればあるほどな」

「?」

「だが、その司令部を丸ごと移動できればどう思う?」

「え?」

 

そこでディルクは困惑しているカセリーヌに資料を片付けながら話す。

 

「戦時中、共和国に司令部を複数装備して作った要塞があった。司令官が移動することで要塞の指揮系統を複数化し、内部に侵入されても長期の抵抗ができるようにしていた」

 

そこで思い出すのはアシューデル要塞の複数の予備司令部と、不定期に移動した要塞司令官の存在だ。あの時はすでに司令官が存在していないと言う斜め上の答えだったが、三つの司令部がある事実に皆が正気を疑っていた。

 

「あの時は機械ではなく司令官が移動していたが。その司令部の設備を丸ごと一箇所に集めて、尚且つ移動できるようにすれば良いとは思わないかい?」

「っ!あぁ、そう言うこと!!」

 

書類を仕舞い終え、車に戻る途中。ディルクの説明に納得が行ったカセリーヌは軽く手を叩いて納得する。

 

「つまり、抵抗軍の司令部は船の上ってこと?」

「そう言う事だ。幸いにも、証拠は多く残っている」

「え?」

「後でわかるがな」

 

そこで首を傾げた彼女だったが、ディルクはそのまま車に乗り込む。

 

「さて、帰ったらやることが目一杯だ」

「あ、ちょっと……」

「仕事が山積みだな」

「ハハハ……」

 

自ら仕事増やしに行っているよね?と言う疑問が出かかってしまったが、それを飲み込んで彼女も車に乗る。

 

「だがその前に、証拠隠滅をしないとな」

「ええそうね」

 

それは保安局に秘密裏に殴り込みに行くと言う事であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

教国や帝国、共和国などがあるこの大陸の他に海を挟んだ先に新大陸と呼ばれる大陸がある。

数百年前、とある冒険家が神の導きに従って海に出た後。死にかけた先でようやく見つけた新たなユートピアとされていた。

それから新大陸に楽園を求めて大勢の人が危険な航海を承知で海を渡った。そしてその先で彼らは森を開墾し、村を作り、国を作った。

 

しかし、新大陸に数多に乱立した小国家は合併や分離を繰り返し、終わりなき内乱の時代を迎える事となった。しかしその戦争の余波は西大洋と呼ぶ海の壁によってこの大陸に届くことは無かった。

ただ最近は新大陸の方ではある一国が合併や征服を行なって大陸を平定しつつあると言う情報も流れていた。

そんな新大陸の国家群の主な対立理由は宗教や民族、そして資源だ。俗にディルクが三流や二流の戦いとする戦争だ。

 

イデオロギーが原因の戦争は三流の戦争で、資源の奪い合いの戦争は二流の戦争と呼び。一流の戦いとは、戦争をせずとも戦争よりも大きな儲けをもたらす市場の戦いの事とディルクは定義していた。

そしてこの世界にて一流の戦いと言うものをディルクはすでに提示していた、それが『軍需物資等貿易に関する条約』だった。

 

この条約は戦時以上の利潤を国内にもたらしており、『こんな事なら戦争なんてしなきゃよかった』と官僚や政治家達に言わせた効果をすでに出し始めていた。何せ財務省の官僚が鼻歌混じりに計算機を叩いていたと言うのだから余程の効果があったと想像できる。

 

 

 

 

 

同時刻

西大洋 洋上

 

共和国海軍西大洋第一艦隊

旗艦 アルザス級戦艦三番艦フランドル

 

新大陸を隔てる海の守りの要の共和国艦隊、その旗艦を務めるアルザス級戦艦は特徴的な38cm四連装砲を三基装備する洋上の城だ。共和国が誇る最新鋭戦艦であり、この前の改修で電子装備も充実していた。

主砲は通常の戦艦よりも小口径とはいえ、貫通力が高く。16インチに引けを取らない威力を持っており、砲弾が軽くなると言うこともあって装填速度が早かった。

このアルザス級戦艦に対抗するように帝国は16インチ連装砲四基を装備するドイッチュラント級戦艦を建造していた。

 

「前方に艦影視認!」

 

見張り員が叫ぶと、レーダーに写っていた艦影が見える。

 

「艦名は?」

「『ヌヴォ・モーンドゥ』……エスパニア船籍の大型貨客船です」

 

副長が返信の文を読みながら答えると、艦長は軽く鼻で笑う。

 

「ふんっ、ヌヴォ・モーンドゥ(新世界)と名付けるとは。何とも面白い船だ」

「主な航路は西大洋横断航路ですね」

「ほう、だからあの大きさか」

「何だか、見た目が客船に似ていますね」

 

双眼鏡で映る景色を見ながら副長がそう溢すと、艦長に聞く。

現在艦隊は新兵の航海訓練中であり、時折民間船が近づきすぎる事もあった。おまけに今は随伴のル・ファンタスク級駆逐艦を一隻随伴させているだけであった。本当は二隻随伴の予定だったが、港を出るときに一隻は民間船と衝突してしまったのだ。

 

「臨検しますか?」

「構わん。元より王国船籍の船に簡単に手出ししたくない」

 

共和国語の艦名ではあるが、所属はエスパニア王国の貨客船。下手に手を出して国際問題にを引き起こしたくないと艦長は溢していた。

甲板に布で覆い被した荷物が乗っており、よっぽど大量に荷物を運んでいるのだろうと言うのが予測できる。

 

「分かりました。直ちに退去するよう命令を出します」

「ああ、それで良い」

 

そう答えると、艦隊指揮官の名の下に即時退去命令を出していた。そしてヌヴォ・モーンドゥはその通信の通りにフランドルから距離を取って離れ始めていた。




第九章『狭間の休暇』完

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