戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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できれば一五〇話くらいで終わらせたいと思うこの頃……。


第十章
一三二話


そもそもとして、この世になぜ『禁術』と呼ばれる魔法が存在しているのか。

 

理由は様々ではあるが、まぁ大体は真っ当な理由から来ている事が多い。

禁術になるのにはそれなりの理由がちゃんとあるのだ。

 

転生魔法であれば転生先の体の持っていた本来の魂と転移魔法の使用者の魂が混在し、魂の器ともいうべき精神が崩壊する可能性が高いから。

 

死霊術では一度死んだ人間を一時的に復活させる倫理上と衛生面の観点から。

 

 

 

そして転生魔法は……世界と別世界を、時間と次元の壁を超えて強制的に繋ぐ所為で二つの世界が融合し、その双方が消失する可能性があるから。

 

 

 

基本的に禁術になるのには理論の時点で禁止になる場合が多い。実践すると何が起こるかたまったものではないからだ。理由はこんな具合で倫理的や、そもそも世界を消し飛ばす可能性があるからだった。

 

そしてこうした禁術を使用した者達は『異端者』や『狂人』などよ呼ばれ。教国の騎士団の処罰の対象となる。

 

 

 

 

 

それは転移魔法の追跡をしている自分達もその『狂人』の部類に入るのだろうか……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正暦一九四〇年 四月三日

帝都レルリン 統合作戦本部

 

その日、統合作戦本部に一人の軍人が帰還する。

 

「失礼します」

『うむ、入りたまえ』

 

彼は一人でこの部屋に入る事を許されている数少ない人物だ。通常、この部屋に入るためには多くの手順を踏んだあとに秘書官を同行させる必要があり、基本的に時間がかかる。

しかし、彼の人物のみはいつでも入る事が許されており、秘書官の同行も必要なかった。

前よりも重くなった扉を押して開けると、部屋の奥でその男は書類にサインをしていた。

 

「いつ戻った?」

「はっ、二日ほど前に」

「そうか…コルネリウスも二日前から休暇だったな……」

 

ディルクはそう返すとペッツはペンを置いて顔を上げた。

 

「全く、君と言う男は……どうしてこうも問題を引っ張ってくるのかね?」

 

君の両肩には悪魔でも棲みついているのかね?と軽く愚痴を溢しながらディルクを見ると、彼もなんとも言えない表情を隠しているようだった。

 

「まぁ、お陰で終戦協定に従わない跳ねっ返りどもの本拠地を見つけられた訳だが……」

 

席を立ち上がると、彼は隣の部屋にいる秘書官にコーヒーを頼むとペッツが先にソファに座った後にディルクが座り込んだ。

 

「しかし、厄介な事になったものだ」

「何かありましたでしょうか?」

 

ディルクが問うとペッツは少し疲れた表情で彼を見返した。

 

「三日前、保安局で騒動があったそうだ」

「保安局で……?」

「ああ、なんでもある情報を紛失したと言う話だ。向こうはてんてこ舞いになっているそうだ」

「元々違法捜査や越権行為も辞さない集団ですし……バチが当たったのでは?」

「はっ、そうかもしれんな」

 

ペッツは少し晴れ晴れしたような、すっきりしたような満足げな表情で秘書官から出されたコーヒーカップにミルクと砂糖を入れて口に運んでいた。

そしてディルクは反対に何も入れる事なくカップを傾けていた。

それを見ながらペッツは怪訝な目を見せながら溢した。

 

「しかし、君のそのコーヒーに何も入れずに飲む習慣はあり得んよ」

 

基本的にコーヒーを飲む時、ここの国やこの世界の人達は砂糖やミルクを入れて飲むのが当然だった。と言うか、ブラックのままコーヒーを飲むのが日本人くらいなわけで……。

 

「私は構いません。コーヒーの香りを楽しみながら飲むのも一興です」

「なるほど……」

 

理解できんと言った表情でペッツは再びコーヒーカップを傾けると、ディルクに聞いた。

 

「さて……報告書は読んだ。また危険手当を支給せねばならんな」

「いえ、今回ばかりは自分が勝手に行動しただけですので」

「しかし、抵抗軍の本拠地が分かったのは大きな()()だ」

 

もはや戦果と言っている辺り、目の前の御仁……いや、おそらく軍全体がこの事態を『戦争』と認識しているのだろう。それを当人たちが自覚しているかは定かでは無いが……。

 

「ともあれ、君に渡す物がいくつかある」

「はっ」

 

カップをおいて一息付いたペッツは懐から二通の封筒を取り出した。

 

「一つは君にめでたい話だ」

「はっ」

「ここで開けたまえ」

 

そう言われペッツに差し出された封筒を開くと、そこにはいくつかの階級章が転がってきた。階級章を示すのは『中佐』の階級章、そして同封されていた紙には昇進命令の文字が印刷されていた。

 

「これは……」

「おめでとう。……と、あまり大声では言えんがな」

 

ペッツは少し苦い表情でそう溢すと、ディルクを見る。

 

「保安局がいよいよ君のことを本格的に探ってきている今、転移者の居場所を探られるのは色々と面倒だ」

「分かっております」

 

転移者の素の能力は非常に高いと言って差し支えなく、その理由は不明なままだ。

そもそも、転移魔法という禁術をこれほどまでに完璧に近い状態で発動できた事実にそう言った方面の方々は驚愕しているわけだし……。

 

と言うより、今の帝国陸軍が転移者を監視という名の保護をしている理由の一つが、転移者達の持っている科学的知見がこの世界の技術よりも大きく発展していたからと言うのと、その転移者達の持つ()()()()()()()()の高さが保護の対価に見合うものと判断されていたからだ。

そりゃ数年も砲兵隊の仕事をしていれば砲兵の仕事能力は高いだろうよと納得していた。

 

「今日から君は中佐に昇進。ロンネルは大将に昇進したどさくさに紛れてだが、いい雲隠れになったと思いたいな」

 

数日前にロンネル中将は大将へと昇進し、第七機甲師団師団長兼帝国陸軍機甲軍団総司令官へと階段を登った。年齢に似合わない異例の出世コースとも言えるような采配だが、前任の総司令官が退任する直前に『後任はロンネルにしてくれ』と言ったのが決定打となったとか何だとか……。

 

まぁ、国内外で圧倒的人気を持つロンネル団長を陸軍の誇る機甲師団のトップに挿げるのは良いのかも知れないが、あの人は根っからの現社主義者ぞ?などと思っていたが、『戦争の兆候があればすぐに中将に降格して前線に飛ばしてもらう』と言う約束を交わしたそうで。なるほど、それなら大丈夫そうだと納得している自分がいた。

 

「では、こちらの封筒は?」

「ああ、次の派遣先だ」

「……」

 

一瞬だけ目元が細くなった。元々、自分が指揮を採っていた部隊は解散され、今後の方針によっては()()()()()まで行くかも知れないと考えている身としては一瞬身構えてしまうものであった。

 

「部屋を出た後に封筒を開封してくれ」

「はっ」

「話はこれで終わりだ」

「了解いたしました。……では、失礼致します」

 

ペッツはコーヒーも飲み終え、ソファを立って部屋を出ていくディルクを扉が閉まるまで見送ると軽くため息を付いた。

 

「ふぅ…今の帝国の基礎は彼が作ったと言っても過言ではないか……」

 

前にコルネリウスと会食でつい溢したある疑念、それはディルクが転移者なのでは無いかという疑念だ。

卓越した戦術論に電撃戦を提唱する才能、新型戦車の設計に。何より彼自身が持つ、帝国軍の中でも異常な数値を叩き出した魔力保有量。

もし彼が転移者と言っても特段違和感を感じない。しかし、もしそうだった場合。帝国は彼個人に計り知れない()()払っている。それこそ、帝国の帝室ですら頭を下げなければならないほどには……。

 

「(しかし、時すでに遅しだな……)」

 

権力者とは、時に豪運とも呼べる運の強さも必要となる。戦さ聡明で天才的な頭脳を持っていようと、時代が早かったや立場の問題から運が無かったなどの事象があればそのまま世間に埋もれるのは確か。

その点、ディルク・フォン・ゲーリッツと言う青年は恐ろしい程に聡明で豪運の持ち主だ。そしてその恩恵を最も受けているのは帝国陸軍だ。

 

浸透戦術の規模を大きくした電撃戦と言うのは東西戦争終結の一躍を担っており、新型戦車の能力の高さは共和国重戦車(ARL-44)を超えているとも言われている。

おまけに、同じ車台で中戦車、重戦車、自走砲まで発展できる拡張性のある戦車は目から鱗であった。また弾薬の共通化も大きく補給線の整理に貢献していた。

 

 

 

電撃戦とⅤ号戦車、そして弾薬の共通化。

 

 

 

ここまでくると陸軍はどっぷりとディルクの恩恵に浸かっており、抜け出すことはもはや不可能。最後に関しては帝国製突撃銃(StG-44)が空軍や海軍にも採用されている影響でもはや軍全体に広がっていた。

 

「(そもそも、彼が転移者である事実はどこにも無いな……)」

 

元々禁術を使用していたが為に、ジュール・ファブールも戸籍を偽造する際に綿密で、非常に精巧な戸籍を与えており、それは帝国軍の調査ですら暴かれることは無かった。

転移者からの証言も、そもそもディルクが検閲した状態でペッツに報告を上げていたので、彼自身に関連するような文言は握りつぶしていた。故にペッツ達上層部は彼の正体を知る事は不可能だった。

転移者達の口から幻のもう一人の転移者の情報は、当の本人によって口元を塞がれていたのだ。

 

 

 

転移者と言う世間的にも立場の低い、いつ消されても問題のない世界を生きる彼ら。

それに比べて陸軍佐官で軍部の信頼が厚くて絶対的な権力があり、社会的地位の確約されている一人の死んだはずの転移者。

 

どちらに部があるかと問われれば誰もが同じ答えを出す事だろう。戦場という過酷な環境で()()()学んだ彼らはあっという間に墓地送りになるこの環境に、口を噤む選択を取っていた。

 

このような多くの事象が組み合わさって、帝国軍はディルクが転移者である事実を見透かす事は出来ずにいた。

 

「(忘れよう、そして二度と話題にする事はないだろう)」

 

ペッツはそこでこれ以上、余計な問題を引き寄せたくないと考えていた。すでに胃薬が手放せなくなった以上、帝国に多く奉仕した影の英雄に自ら火の粉を被りにいく勇気は無かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「(どう言う事だ……?)」

 

総長室を後にしたディルクは命令通りに部屋を出た後にもう一つに渡された封筒を開けると、そこには命令書が入っており。そこにはこう印刷されていた。

 

 

 

『ディルク・フォン・ゲーリッツ中佐は至急、運輸課に出向し。そこで新たな命令を待て』

 

 

 




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