戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一三四話

事の発端は統合作戦本部でペッツから司令を受け取った頃に戻る。

ペッツより運輸課に出航するよう言われたディルクはその足で親友の仕事場のある場所に向かった。

 

「よう」

「おう、どうした?」

 

運輸課に訪れるとわざとらしく挨拶をするデニスはディルクを迎え入れるとそこで彼は聞いた。

 

「んで、わざわざおまえが待っていたのには理由があるんだろう?」

「おう、流石にバレバレか」

 

すでに運輸課にくる事を想定していたのだろう。ディルクの好きな銘柄のブラックコーヒーまで用意したデニスに感心と、これか下される命令に少しばかりの疑問を持っていた。

 

「煙草は?」

「必要ない。煙草は嗅覚に異常をもたらす」

「相変わらずだな」

 

諜報員の仕事の方が似合ってんだろと軽く揶揄われながらも、何時もの事だと軽く流して彼の淹れてくれたコーヒーを一口。

 

「うむ、やはりお前が入れると美味いな」

「そりゃどうも」

 

彼自身は蒲公英コーヒーが好きだが、コーヒーを挽く能力はとても高い。どこか残念な奴だと思いつつさらに一口。うむ、いい香りだ。

 

「やはり本物が一番だな」

「当たり前だ。偽物が本物に勝てる訳なかろう」

 

そして運輸課の椅子に座らせてもらったディルクはそこでデニスに聞いた。

 

「俺は運輸課に出向してから命令を待てと言われたのだが……」

「おう、その話そのなんだが……」

 

そこで一旦周りを彼は確認すると、彼を誘った。

 

「ディルク、ちょっと飲みに行かないか?」

「何処に?」

「最近見つけたお気に入り。良い子がいたのよ」

 

真昼間から仕事を抜けようと誘ってくるデニスにディルクは軽くため息を吐きつつも席を立った。

 

「じゃあ、そのお気に入りに案内して貰おうか」

「おっ、流石。んじゃあ行こうぜ」

 

そして二人は颯爽と運輸課を後にすると外に停めていた彼が乗ってきたベンツ170Dに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「んで、態々外に連れ出したのは?」

 

そして統合作戦本部が見えなくなり、一旦尾行の有無を確認した後にディルクが助手席に座るデニスに問いかけた。

そして問われたデニスもバックミラーを一瞬見た後に答えた。

 

「いやぁ、流石に俺も色々とお前さんに関わる仕事ばかりした影響で隠す仕事ばかりだかたな」

「いつも感謝しているよ」

 

散々自分の部隊の為に廃棄前の弾薬の誤魔化しや武器の調達。それから武器の補給ルートに関してまでを、数名の仲間がいるとは言え参謀本部にも極秘で行っているデニス。

彼には補給の面でとにかく頭が上がらなかったのは事実だ。

 

「何、俺の仕事をしたまでよ。むしろお前に感謝されるのがむず痒い」

 

そう言いデニスは椅子に深く倒れると、ディルクに言った。

 

「取り敢えずこのまま俺の家に行ってくれ。話はそこからだ」

「了解」

 

時刻は昼、軍人や会社員は食事を摂っているので多くに人々が街に繰り出している時間だ。

帝国の法律で公務員は仕事中に酒を飲んではならないと言うのがあり、その影響か軍人で飲んでいる人間は今まで一人も見た事がなかった。隠れてるやつは例外だがな。

 

「ここだ」

 

家の目の前の道路で車を停めると二人はデニスの借りている家に入る。

 

「最近のお見合いはあったのか?」

「馬鹿、お前さんの方が呼ばれる事が多いんじゃないのか?」

「生憎と、噂の影響で今まで一人もしていないさ」

 

デニスとアパートを歩いて移動すると、デニスが鍵を持って扉を開ける。

 

「ミャ」

「?」

 

するとデニスの部屋の前では一匹の黒猫がデニスの帰りを待っていた。

 

「よぅ、覚えているか?こいつの事」

「ミャ」

 

するとデニスはその黒猫を抱き掲げると、そこでディルクはその猫に心当たりがあった。

 

「あぁ、年明けの時の黒猫か」

「そっ、あの後俺の家で飼ってんの」

 

嫁さんが居ないから代わりに可愛がってる、と言って猫がデニスの肩に乗っていた。

 

「名前はあるのか?」

「ああ、クトゥーゾフって名付けた」

 

そう答え、デニスは黒猫の名前を教えた後に部屋に置かれていた革製アタッシュケースを手渡した。

 

「それでこれが、今回のお前の仕事だ」

「中身は?」

「開けてみろ」

 

彼に言われて、その鞄の中を開けるとそこには灰色の軍服と一つのカメラとフィルムが入っていた。

 

「これは……」

 

戦場で何度か遠目で見た事があるその軍服にデニスは頷いた。

 

「ああ、今日からお前の仕事は報道部従軍記者として海軍と空軍に同行することだ」

「なるほど」

 

彼はこうなった理由を考えていた。

 

「お前さんが抵抗軍の本拠地を見つけた影響で総長はカンカンだったな」

「ははは、仕方ないだろう」

「お前の運の良さには呆れるばかりだよ」

 

そう返され、ディルクは軽くため息を吐くと従軍記者の制服の入った鞄を取ると部屋を出て行こうとする。

 

「ディルク」

「?」

 

そこでデニスはディルクに片手を出しながら聞いた。

 

「土産」

「……あぁ、ちょっと待ってろ」

 

何かと思えば最後にデニスがこの前の休暇の土産を要求し、ディルクも少し口が緩むと一旦車に戻って、向こうで買ってきた赤ワインの瓶一本を手渡した。

 

「気をつけろよ。公安局にお前が貼り付けたメッキが剥がれちまった以上、敵は抵抗軍だけじゃ無くなったぞ」

「ああ、分かっているさ」

 

デニスの注意を聞きディルクも軽く頷いて部屋を後にした。

 

「……本当に気をつけろよ」

 

デニスの最後の呟きは、生憎とディルクには聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

その後、車に乗り込んだ彼は従軍記者としての身分証明証と制服。仕事道具のカメラと、同封されていた命令書を確認する。

 

「今回も非合法ですか」

 

いつも秘密裏に指令を受け取っているが故に当たり前の形式だったが、普通の命令書はこの世界だと革張りのバインダーに挟まれて渡されることが多い。

理由として戦争がまだ貴族の嗜みだった頃の名残であり、帝国における全ての軍事作戦は皇帝陛下の名の下に行われていた。

そして皇帝陛下の烙印無き作戦は非公開・非合法の任務である事を指し。いかなる問題があろうと帝国は責任を取らないと言う証でもある。

産業革命を迎え、一気に近代化を迎え、帝室の権威も堕ちたこの世界に於いて未だにこういった形式上の文化は残されていた。

 

「そう言えば日本史の先生が言ってたっけ『明治維新は日本人全員が侍になった日だ!』……って」

 

お爺ちゃんだったけど、ほんとに歴史が好きなんだったなと思い返していた。

あの教師は特攻で父親を失った世代の人間で、要は直接戦争の被害を被った側の人間だった。

故に戦争のことに関して色々と言って来ていたのは覚えていた。

 

そんな昔のひと時を思い返すと、すぐに彼は軽く頭を振った後に次の仕事道具の鞄を後ろに置いて車を走らせる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「こちらが、統合作戦本部からU-2596潜水艦に下命される極秘令です」

「…確認しました」

 

統合作戦本部の印の封筒を見てレーマン大尉は一瞬驚いた。そりゃそうだ、皇帝陛下の烙印が押されていない非公開、非合法の任務。訓練航海の彼らにははっきり言って荷が重い。

 

 

 

通常ならば。

 

 

 

「まぁ、中身を見てください」

「……」

 

ディルクに言われ、恐る恐る中身の三つ折りの紙の命令書を見ると困惑と拍子抜けした表情を浮かべた。

 

「これは?」

「簡単な任務ですよ。あなた方の好きな、艦を動かす仕事です」

 

そこには指定された座標を進むように指示する命令書が下されていた。

 

「とある諸事情で私をそれらポイントに移動し、ポイント毎に浮上してください」

「変な命令ですな」

「そうでしょうね」

 

側から見れば護送任務とも取れるが、陸軍の人間が海の上で何かを探すようにポイント毎に浮上させる。

 

「(これ以上突っ込むのは無粋か)」

 

自分たちに火の粉がかからなければ良いなとレーマンは考えると、命令書を読み直してそこに記された番号と暗号を記憶する。

 

「命令書はお返しした方が良いですかな?」

「ええ、その方が色々と助かります」

 

陽気な笑顔で答えるディルクに末恐ろしい何かを感じたレーマンはそのまま紙と封筒を返すと、思わず口に出てしまう。

 

「飛んだ訓練航海だ」

「そちらに危険が及ぶ場合は遠慮なく私目に毒吐いてください」

「そうならない事を祈るばかりです」

 

レーマンは胃痛を若干感じると、ディルクが言った。

 

「胃薬が欲しくなった場合は持参したものがあるので言ってください」

「……部下に情けない姿はお見せできませんので」

 

目の前の男、他の人間にも同様に胃痛を起こさせているか。

 

 

 

 

 

その後、レーマンは通信を担当する一人に命令書にあった暗号文を用いてユニグモを使うと、すぐに返信があった。

そして言われた座標を海路図に書き込むと、その情報をウェルナーにも伝えた。

 

「艦長、この暗号は何なんですか?初めて聞きましたよ」

「新しい司令部の命令だ。新しい暗号の精査性も兼ねてだそうだ」

「なるほど、試験運用ですかい」

 

最近導入されているマグネトフォンはこの艦にも搭載されており、通信を行う際は一旦録音したものを早送りで再生して通信を行う事をしていた。

 

「ポイント毎に浮上し、シュノーケルの動作試験。その他諸々の訓練をするぞ」

「了解っ!」

 

通信員は敬礼で返すと、レーマンは事情を何も知らない新米乗組員達を思いながら今回の船旅の平穏を願っていた。

 

 

 

 

 

その頃ウェルナーも自分に割り当てられたベットで持ち寄った鞄を開いていた。

カメラの予備のフィルムや数枚の書類が入っている中、その仕切りを持ち上げるとそこには一丁の銃……俺の愛銃の一つのオート5が隠されていた。

この鞄、戦時中にデニスがルテティアに持ち込んだあの感応石を詰め込んでいた鞄だ。今は感応石の代わりに旅行の荷物と銃器を隠し持って来ていた。ちゃっかり予備弾薬も持ち込んでいる辺り、用意周到だった。

 

「(使わないだろうな)」

 

そんな事を考えていた時だった。

 

「記者さんよぉ」

「はい?」

 

声をかけられ、やや力強く仕切り板を戻すとそこでは一人の水兵がウェルナーを見ており、何か望んでいるようだった。

 

「すまん、明日の俺の当直の時でいいからさ。一枚撮ってくれないか?実家用に欲しいんだ」

「あぁ、分かりましたよ」

「すまんな。あとで高めに買うよ」

 

その後は寝る直前だったのだろう、嬉しげな表情で自分のベットの方に戻って行った。

それを見て少し安堵するウェルナーだった。




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