戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一三六話

U-2596の航路は司令部より指示された航路を順調に進む。

 

「馬鹿者ぉっ!!」

 

司令所でレーマンは部下の水兵を叱り倒す。

その剣幕は凄まじいものであり、他の乗組員達でさえもたじろぐ程であった。

 

「貴様らが何をしたか言ってみろ!」

 

そして叱られている新米水兵二人は恐る恐る口にした。

 

「はっ…自分等は…」

「夜間の浮上中に…煙草を吸いました」

 

当時見張りをしていた二人は休憩がてら出港前に酒保で買った煙草を自慢のライターで灯らせていた。

そこをレーマンが発見していたのだ。

 

「深夜に煙草を吸う危険を教育されなかったかっ!?」

 

唾が飛んでいくような勢いで捲し立てる艦長、確かに洋上で煙草を吸う事は暗視魔法が使える魔法兵相手には自分の居場所を簡単に晒すことになるので、夜間の少しの明かりも灯すなというのが軍の教練本にも記されていた。

と言うか、明かりがあると真っ先に狙われるので軍艦でも作戦行動中の夜の時は全ての窓を閉めている。

 

魔導砲撃は軍艦の艦上構造物の破壊が効率良く可能であり、榴弾よりも破壊力のある徹甲榴弾のような扱いを受けており、軍艦や一般水兵の天敵でもあった。

 

「灯り一つで俺たちまで殺す気かっ!!」

 

一喝を喰らい、足を小刻みに振るわせるほど怯える二人の水兵を庇う士官はいない。

そりゃそうだ、この潜水艦の乗組員の半数は東西戦争を生き残った経験者だ。練度も経験も新米とは比べ物にならないので新米が叱られる理由にむしろ睨みつけるほどだった。

 

そして説教を終え、三日間の罰掃除を食らった二人は渋々と言った雰囲気だったが船内の魚雷磨きをしに発射管室に向かって行った。

 

「容赦ないですね…」

 

そんな光景を一枚写真に収めていたウェルナーは副長に一言言うと、彼は軽く笑みを作りながら言った。

 

「すごいでしょう?うちの艦長は」

「えぇ、名艦長ですよ」

 

司令室で航海士に座標を聞いているレーマンを見ながらウェルナーは再びシャッターを切っていた。

あんなに優しい軍人を相手にいい経験を積んだと内心では思っていた。

 

 

 

ウェルナーの仕事は従軍記者として写真を撮りながら、記事を書く事。

今回の特集は新米水兵訓練へと感想や、上級士官へのインタビューである。

 

「潜水艦乗組員は戦死者の数が、先の東西戦争では高かったですが…」

 

船室で先ほど叱られていた二人の水兵にインタビューをする。

罰掃除を少しサボれるということで二人は快く承諾してくれた。

 

「らしいな」

 

先の東西戦争において、海では海軍同士の戦いが起こっていた。

南方大陸から共和国に送られる輸送船を帝国海軍は狙っており、それを護衛していた共和国艦隊との争い。

 

「でも俺たち帝国海軍にとって潜水艦乗りは華さ」

 

戦艦の質では圧倒的であった共和国海軍、大して帝国海軍は潜水艦や駆逐艦などの小型艦の大量運用による群狼戦術を展開していた。

故に帝国の戦艦は数が少なく、代わりに巡洋艦や駆逐艦の機動部隊が多く展開されていた。

 

そしてそんな帝国の潜水艦に対応させるべく、共和国の艦艇は対潜能力が他国と比べて圧倒的であった。

 

「だろう?」

「確かにそうですが…」

 

帝国はこの大陸に保有する領土だけで自国民の腹と娯楽を満たすことが出来ている。

共和国の弱点は本土の領土だけで自国民の腹を十分には満たせないという点だった。

 

「俺だって潜水艦乗りになりたくってこんなご時世に志願してんだ」

「お袋からは大泣きされちまったがな」

 

そう言って二人は笑っているが、ウェルナーは内心そりゃそうだろうよと思っていた。

確かに東西戦争以前は戦争というのは貴族だけができる特権的行為であった。

 

まるっきり第一次世界大戦以前の話になってしまうが、この世界では東西戦争の段階でそれらに日露戦争から第二次世界大戦まですっ飛ばしたような形だ。

たった一度の戦争によって戦争そのものに対する意識が変わってしまっていた。

 

元々戦争を禁ずるための教国が存在しているこの世界、少々歪な戦争に対する価値観があった。

それ故にこの世界の中世のような時代において、同年代の地球と人の命の重さを比べると高かったのだ。

 

「これから軍備は縮小されると言う話ですが、お二人はそのことに関して何か思うことはありますか?」

「んなもん知らんよ」

「俺たちは言われた通りの給料が支払われればいいさ」

 

二人はそう言うと、ウェルナーもインタビューを締めると二人は罰掃除を再開していた。

そして、そんな二人を見た艦長が一言。

 

「幸せなもんだ…」

 

その呟きに乗組員達、特に一年以上前から従軍していた戦争経験者達は頷いていた。

 

()()を知らないで軍務が終えられる。良いことさ」

「…そうだな」

 

そんな乗組員達に新米の水兵達はどう言う事だと首を傾げていた。

 

 

 

 

 

夕刻、浮上航行を行いながら海を進む潜水艦の艦橋で双眼鏡を持って暗くなりつつある夕焼けの海を見る。

 

「副長、ウェルナー記者を呼んでくれ」

「はっ!」

 

伝声管でしたの司令部に伝えると、直ぐにウェルナーはハシゴを伝って登ってきた。

 

「お呼びでしょうか、レーマン大尉」

 

カメラを下げて登ってきた彼に、レーマンは潜水艦のハッチと伝声管の蓋を閉じて周りに聞こえないようにしてからウェルナーに話しかけた。

 

「…中佐、貴方は初めて人を撃った時の事は覚えていますか?」

「…」

 

レーマンは前の陽が落ちる様を見ながら問う。

 

「陸戦は海戦と違い、己の身姿を晒して争っている」

「えぇ、そうですね」

「我々が今まで沈めてきた商船や駆逐艦などは相手の顔が見えませんでした。精々、救命ボートに乗り込む乗組員や海に飛び込む船員を見るまで」

 

そして当たりがやや暗めいてくる。

 

「顔が見える距離まで接近して戦うという恐怖は、一体どれ程のものでしたか?」

 

レーマンはディルクに聞くと、陸軍兵士として叩き上げでの仕上がった士官に聞いた。

そして聞かれた一人の青年はその時の顔をよく覚えている。

 

ホリゾンブルーのトレンチコートを身に纏い、支給された小銃を手に取って照準を合わせたあの日の事。

初めて撃った弾丸は一人の魔法兵を火達磨にした。

 

「吐き気と、恐ろしい罪悪感を感じます。そうですね、まるで禁忌の書物を開いたような…」

「…」

「しかしもっと恐ろしいのは、その行為にもいずれ慣れると言う事」

 

ディルクはそう言い、戦線を走っていた時の記憶を思い出す。

 

「本来であれば、人同士で血を流す事は教典にも記された罪そのもの。しかし争う事を辞めず、本来であれば仲介をするはずの教国もその意味を成していない…」

「っ…」

 

ディルクのその一言に一瞬レーマンは目を見開いて驚いた。

それは教国の否定、つまり正教の否定とも捉えられてもおかしくはない話だったからだ。

軍にも教会から派遣された従軍司祭が多く訪れている。

 

多くの軍人は己の未来の安寧を求めて司祭を通じで神に赦しを乞う。実際、艦内には小さな祭壇がある。

 

「中佐、貴方は神を信じていないと?」

 

恐る恐るレーマンは問うと、彼は少し鼻で笑った後に

 

「いや?神は信じていますとも」

 

その時の表情は何とも歪んだ、それでいて何処か熱心な信者の笑みに見えた。

 

「…そうですか」

 

教国の騎士団とも違う雰囲気を感じたレーマンはディルクと言う陸軍のエースを相手に軽くため息を吐いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ふむふむ…」

 

その様子を鏡を使って興味深く覗いていた天照大神。

最近の趣味と化した南部への覗き見行為だが、今日もいつも通りであった。

 

「またいつもの覗きか?」

 

そんな彼女に一人の女性が近づく。

ユニオンフラッグを描いた盾とポセイドンの三叉戟を手にし、アテナの兜をかぶった姿の彼女の名はブリタニア。

 

「あら、あの世界はこの鏡を通さないと見れないのよ?」

「それはそうだがな…」

 

そして横に座り込むと、ブリタニアは言う。

 

「神間会議が終了した」

「あらそう…」

 

報告を聞き、少しだけ彼女の目元は鋭くなる。

 

「まぁ、当事者であるお前さんの要求通りに事は推移する事になる」

「ほぅほぅ、それは良い事ね…」

 

天照は訪れたブリタニアにお茶を淹れると、

 

「貴様、私には紅茶を淹れるべきであろう」

 

彼女はそう文句を溢すと、天照はやや呆れた様子で言う。

 

「偶には紅茶以外飲みなさいよ。よくもまああんなイギリス料理で満足するわね」

「戯け、ウェールズ料理と混ぜるな」

「はいはい…」

 

そしてティーカップに日本茶を注ぐと、ブリタニアは渋々カップを傾けていた。

遠回しにそれ以外の英国料理はまずいと言っている事は指摘しないでおこう。

 

「全く、貴様は雑だな」

「あら、貴方達みたいに私には戒律がないもの」

 

ティーカップに日本茶を入れた天照にブリタニアはやや呆れていると、

 

「あら、良い香りね」

 

そこにマリアンヌが現れ、天照の淹れた日本茶に吸い寄せられるようにちゃぶ台に座り込んだ。

 

「とりあえず無事に終わってよかったわ〜」

「えぇ、あなた方のおかげね」

 

お疲れ様と軽く労いながらマリアンヌには湯呑みで注ぐと、彼女は日本茶を横坐で座ってゆっくりと飲み始めているとブリタニアは言う。

 

「相変わらずジョン・ブルは保守的すぎるのだ。あの若造め」

「まぁ、仕方ないわよ」

「そうそう、保守的思想も大事にしないと」

 

三人は団欒をしていると、マリアンヌは言う。

 

「でもおかげで世界の門を開けた後の対応ができる」

 

それにはブリタニアも頷く。

 

「あぁ、我らの世界に開いた傷は小さいうちに修復すべきだ」

 

そして天照は一息ついた後に

 

「えぇ、向こうは神亡き世界になって貰わうわ」

「あのなぁ…」

「この中で一番恐ろしいこと言うなよ。君」

 

そんな天照の対応に、分からないわけではないがそれでも流石な反応に軽く絶句していると

 

「おや、皆様もうお揃いでしたか」

 

星柄のシルクハット・紺のジャケットに赤い蝶ネクタイ、紅白縦縞のズボンを履く白人紳士が天照のちゃぶ台を訪れた。

 

「何だ、貴様も来ていたのか新入り」

 

ブリタニアはそう言い、訪れたアンクル・サムを見ると彼は軽く頷いた。

 

「えぇ、天照様に呼ばれて来ない者などいるとお思いですか?」

「…ふんっ、それもそうだな」

 

ブリタニアは少し笑みを見せると座り込んだアンクル・サムに天照は他の三人と同じようにお茶を注ぐと四人はちゃぶ台を囲んでお茶を飲み交わしていた。




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