戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一三七話

ディルク・フォン・ゲーリッツは嘗て共和国兵兵士であった男である。

しかしなんとも数奇な運命を辿って彼は今、帝国の優秀な一軍人としての道を歩んでいた。

 

「…」

 

ヴィルヘルム・テオドール・ペッツはある資料を読みながら溢す。

 

「転移者をどうしたものか…」

 

それは現在研究所で匿われている転移者達に関する情報である。

元々、転移者達の管理はディルクに一任していたが、彼は今は海軍と空軍に出張中で今の管理はエレニカが行っていた。

 

「二九名の転移者と、抵抗軍の拠点…」

 

現在帝国内には東西戦争中に捕虜となった転移者達を隠匿して保有している。

戦後、転移魔法や仕様が明らかになった共和国の臨時政府ではあったが、彼らが帝国に要求したものの中に転移者達の返還があったが、帝国側は大攻勢の際に当該部隊は第七機甲師団によって壊滅し、そのような捕虜は名簿にない。と回答していた。

 

現在、転移装置を開発の指揮をとった共和国のジュール・ファブールと言う男を巡って世界は水面下で対立している。

この状況は裏で教国がおそらくけしかけたに違いない。自分達の書庫を破壊した可能性のある抵抗軍に報復措置を取るために。

 

歴史に残る大事件である禁書保管庫の爆破。

世界中の禁術を纏めた最も警備が厳重な場所の破壊工作。

 

元々権威主義的様相を持つ教国と言う国において禁書保管庫の破壊と言うのは国の存亡に関わる話であり、仕掛けられた側は血眼になって首謀者を探している。

事実、アンジョラ枢軸卿から内部の混乱度合いは聞いており、対立していたマッキ・カーターとも手を組むような事態になっていると言う話だ。

 

「(とすると、完全に蓄積された禁書は消失した証か…)」

 

こういった重要なものは大抵はコピーがあると言うもの。しかし世界を滅ぼしかねない禁書は複製を禁じていたのだろう。

 

「(混迷極める社会情勢だな…)」

 

抵抗軍による組織的テロ行為による治安悪化、転移装置の各国の影の奪い合い。

帝国と共和国による合同捜査による国内の反発。

そんな状況にペッツは内心そう吐露すると、部屋のノックがされる。

 

「入れ」

 

ペッツは書類を片付けながら言うと、部屋に一人の士官が入ってくる。

 

「閣下、先の抵抗軍拠点に関する新たな報告が」

「見せたまえ」

 

言うと、士官はペッツに幾つかの紙を見せる。

 

「…」

 

そしてそれをサラサラと目を通すと、ペッツは言った。

 

「そうか…」

 

ペッツは少々興奮を抑えるような声色でその士官に言う。

 

「分かった、ご苦労であった」

「はっ」

 

そして士官が消えると、ペッツは据え置きの電話を手にやった。

 

「あぁ私だ、至急運輸課のデニス中尉を呼んでくれ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、帝国軍魔導研究所では今日も今日とて転移者達による阿鼻叫喚の地獄が生まれていた。

 

「あぁっ…」

「ヴッ…」

 

トイレで魔力切れの症状による嘔吐を一発済ませて出てくる小山。

その顔はやつれており、人工魔石精製の為の実験に協力させられている代償を受けていた。

 

「呪ってやるぞディルク・フォン・ゲーリッツ…」

 

食堂で誰かが言ったか。まだ彼の本名が出ない分理性が残っていると言うもの。或いはその名で呼びすぎて本名を忘れたか…。

ルーティンで実験に協力させられ、その暁に魔力切れの激しい二日酔いのような頭痛に悩まされる日々。

 

救いなのはルーティンの日でなければ自由時間があることだろう。

外出する際に言って時間通りに帰れば何をしていようが自由であることだろう。

近くには街があり、そこで私達は休暇を過ごしていたりするのだ。

時間で言うと週休三日、これほど素晴らしい労働環境もなかろう。

 

戦場という不眠不休の命の危険がある場所と比べれば天と地ほどの差がある。

 

「今日の当番は?」

「一班、三班は頭痛で悶絶」

「じゃあ今日は二番が休みか…」

 

一ヶ月以上同じ生活をしていれば慣れると言うもので、魔力からになった際の対処法だけやたらと鍛え上げられているような気がする。

 

「今頃ディルクは何をしているんだろうな…」

「さぁな」

「仕事だろ」

 

ディルク・フォン・ゲーリッツ…確か本名は…あれ?何だったか。まぁ良い、自分達をここに預け投げ、その後姿を一度も見せなくなった一人の士官の顔を思い返しながら築城達は言う。

 

「仕事か?」

「一ヶ月以上顔を出していないんだ、忙しいんだろ」

「抵抗軍のニュースもないのにか?」

 

新聞を常に読んでいる自分達だが、最近は抵抗軍に関するニュースというのをあまり目にしていなかった。

前のように激しいテロ行為を行ってきていないので、鳴りを潜めたのかと彼らは思っていた。何せほぼ隔離されたような場所で暮らしているので世間の様子を窺い知れないのだ。

 

「なぁ、俺たち本当に帰れると思うか?」

「何馬鹿なことを言うか…」

「そのためにアイツが動いているんだろう?」

 

朝の食事をしながら彼らは言う。事実、今もディルクは海軍の協力の元、抵抗軍の拠点である船舶の捜索と調査を行っていた。

 

「でもよ」

 

そこで築城は言う。

 

「俺たちがここに来て一ヶ月以上だ。その間一度も顔を出して報告に来ないんだぞ?」

「…」

「忙しいからだろ」

 

それに横田は沈黙、厚木が答えると、築城は不安を隠さずに言う。

 

「俺達、永遠にここで暮らすんじゃないかって思ってさ…」

 

そう吐露する彼に一人が後ろから話しかけた。

 

「そんな馬鹿なことあると思う?」

 

彼に話しかけたのは立川であった。

 

「立川…」

「約束破ったらうちらでアイツを殴りに行けば良い。幸い、私たちにはそれができる能力があるでしょう?」

 

彼女は言うと、築城や彼女の言葉に耳を傾けていた他の転移者達も静かになる。

この一ヶ月の間で彼等はただ魔力切れで悲鳴を上げていたわけではなく、お陰で自分達に魔力が備わって来たのだ。それこそ、魔導演算機を動かす事が出来るくらいには。

 

「今はこんな状態だけど、自分の身を守るくらいの準備は常にしておきましょう」

 

彼女はそう言うと、そのままトレーを持って片付ける。

すっかり顔見知りとなったおばちゃんに軽く挨拶を済ませると、彼女は食堂を後にした。

 

 

 

「なるほどね、そんな事が…」

 

部屋のベッドに座って少々眠たそうな顔色を浮かべながら小山は反対に座る立川を見る。

小山は先日の実験のルーティンで生贄になって今日は魔力切れで半分ダウンしていた。

 

「で、貴方の旦那は今どうしているの?」

「ん?多分抵抗軍の拠点調査に行っている…筈」

 

少々自信なさげに彼女は言うと、こめかみに手を当てて目を閉じる。

 

「…」

 

そして少しの間、間を開けると彼女は言う。

 

「今潜水艦に乗って居るって」

「どうやって通信したのよ…」

「魔法」

 

彼女はそう答えるとベットに横になって布団を被る。

 

「はーん…さては禁術?」

「さぁね…ZZZ」

 

小山はそのまま寝入りかけた所を立川が言う。

 

「ねぇ、この後エレニカ大尉に会いに行くんだけど。付き合える?」

「む…り…」

 

半分寝言のような様子で返した小山に立川は軽くため息を吐いた後に部屋を後にした。

そして施設の廊下を歩きながら彼女は少し考える。

 

昨今の情勢は新聞でしか把握しきれないが、抵抗軍の動きは怖いくらいおとなしい。前とはまるで違う。

この世界の常識をよく知らない自分達だが、魔法の技術をよく知らない事は今の自分達の欠点である。

 

「やはり魔法は学び直す必要がありそうね…」

 

生憎、自分達はあくまで純粋な砲兵として育てられて来たので術も魔導砲撃以外を知らない。

自分で自分の身を守るために必要な術を持っていないのだ。

 

立川は施設のある部屋の扉を三回ノックした。

 

『入れ』

「失礼します」

 

入ると、部屋には一人の女性。エレニカ・ネーデルハイト技術大尉が座っていた。

 

「君たちが来るとは珍しい」

 

基本的に転移者達は固まって動く事が多く、滅多にエレニカに言う事はなかった。

ただこの人は筋の通る意見であれば誰であろうと耳を傾ける事は立川は今までの付き合いで把握していた。

 

「大尉殿、折り合って頼みがあります」

「何かね?」

 

エレニカは聞くと、立川は言った。

 

「私たちに魔法をお教え願いたく」

「ほぅ、どう言う事かね?」

 

エレニカは彼女の要望に少し興味深そうにしながら聞く。

 

「我々は自分自身を守る障壁魔法すらまともに教育を受けていない身です」

「そりゃそうだ」

 

転移者達に帝国の国籍はおろか、共和国の国籍すら存在しない。何故なら、彼等は異世界人であるからだ。

国籍が無い以上、彼等に義務教育を受ける権利は無く、その中に組み込まれて居る魔術師としての基礎教育も施されていなかった。

 

「君達に魔法を教えるための権利は存在しないからな」

「しかし私達は軍籍を保有してします」

「…」

 

立川はそこで今の自分達の立場と言うものをエレニカに言う。

 

「軍籍を保有するには国籍を有する必要があります。私達が今までの行動を行っておいて疑われていないのは、我々に軍籍があるからでしょう」

「…」

 

そこでエレニカは言う。

 

「君たち転移者の管理して居るのはディルク・フォン・ゲーリッツ陸軍中佐では?」

「いえ、現在の私達の管理を行なって居るのはエレニカ大尉であると我々は伺っております」

 

立川はエレニカに頭を下げる。

 

「お願いします。私達に魔法を教授頂けないでしょうか?」

 

彼女はエレニカに聞くと、彼女は持っていた書類を卓上に置いた後に軽くため息を吐いた。

 

「君は、帝国随一の魔術研究者に小学生の授業をしろと言うか?」

「…」

 

異世界人である彼等に対し、帝国が保護をして居るのは彼等が持つ優秀な砲兵としての能力の戦力として蓄える為。

転移者が大陸中に散らばるのを防ぐ為である。

 

暫くの間の後、エレニカは立川を見ながら口を開いた。

 

「…まぁ良かろう」

「っ!」

 

立川はその返答に一瞬驚いた。

 

「ただし、教えるのは障壁魔法のみだ。我々に刃を突きつけられるわけにはいかせんぞ」

「ありがとうございます」

 

良き返答を貰い、彼女は部屋を後にすると、残ったエレニカは内線電話で手隙の研究員を呼ぶと共に苦笑する。

 

「意外と遅かったじゃ無いか…」

 

エレニカはそこで過去に在籍していたある士官から言われたあの話を思い返す。

 

「頼み込まれたら教える…君にしてはらしく無い教育方法じゃ無いか、ディルク」




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