戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一三八話

「浮上用意!」

 

船長の怒声と共に警報が船内に鳴り響き、慣れた警告音に深夜にも関わらず乗組員たちは飛び起きて通路を走る。

もはや慣れた行為だ。乗組員たちも初日に比べると余裕を持った様子で船内を走って配置に着いた。

 

「モタモタするな!!」

 

魚雷班長の叫びを聞きながら彼らは配置につくと、そこで船長は言う。

 

「バラスト排水。急速浮上」

「了解、バラスト排水。急速浮上」

 

機器を操作し、潜水艦のバラストに空気が注入されると中に詰まった空気の浮力でゆっくりと潜水艦は角度をつけて浮上し始める。

 

「…」

 

その感覚を従軍記者ウェルナーも感じ取りながら深度計がどんどん浅くなっているのを感じる。

 

この数日で何度も行われてきた浮上訓練だ。乗組員も慣れてきており、どこか余裕すら感じられる。

しかしその余裕は艦長の恐怖によって相殺されており、緊張感が場を包んだ。

 

「深度50…40…30…」

 

深度計を見ながら呟くと、その数値が0になった途端に上から水を割く様な音が聞こえた。

 

「索敵警戒!」

 

直後、梯子を登ってレーダー要員は最新のレーダーを確認する。

対空レーダーを装備した本艦は浮上航行時に敵機の位置を素早く確認する事が可能であり、また潜航速度も従来とは比べものにならなかった。

 

ハッチを開け、双眼鏡を片手に空気を取り入れる。

 

この艦長、部下に何事も経験と言って敢えて潜航時間を超えて潜航をする事が当たり前だった。

徐々に酸素が薄れて行き、濡れた真綿で首を絞められる様な気味の悪い感覚を何度も味合わされた。

艦長はそんな自分に少し面白そうにして余裕な顔で言い放った。

 

「恐ろしいでしょう?徐々に考えることもできなくなって」

 

その問いかけに自分は苦笑するしかなかった。畜生、こういう時に酸素発生させられる魔法でもありゃいいのにと心底思った。

 

二酸化炭素で埋まった船内はサウナの様に暑く感じ、男達の朝でむさ苦しい。おまけに酸素が薄い事で頭も朦朧としてくる。これで魚雷発射を行えて、しかも当てられるのだから恐ろしい。

 

「怖いです」

 

思わずその時溢した自分の一言は彼らにとっては最大限の褒め言葉だった。

 

「対空レーダーはどうなっている!?」

「周囲に敵反応ありません!!」

 

潜水艦に搭載されている対空レーダーは、水上艦の物と比べると貧弱ではあるが、対潜哨戒機を目視よりもいち早く探知できるので戦争後期から重宝されてきていた。

 

「よし、必要な空気を取り入れたら再び潜航する」

「バッテリーの充電は?」

「やっとけ。長く潜るぞ」

 

司令部から指定されたポイントを辿って航行する潜水艦は、周囲に船舶の有無を確認した。

 

「周囲に船舶の姿無し」

「スクリュー音無し…周囲に船舶を確認せず」

「静かな海域だな…」

 

エンジンを動かして発電している今、船員たちにも束の間の休息が与えられる。

その様子をフラッシュを付けながらウェルナーは言う。

 

「フラッシュ炊きますよ〜」

 

そう言ってシャッターを切ると、閃光が司令室を走った。

撮られた写真はフィルムケースに入れられて新しい物と交換する。

 

「少尉はいつまでご乗船を?」

「今度の洋上補給の時に」

 

そう言い二日後の洋上補給訓練の際にウェルナーは船を降りる。そしてその後は迎えに来る飛行艇に乗って帰還となる。

 

「おっ、マジっすか」

「んじゃあ俺のお袋用の写真を貰わないとな」

「お前ら…」

「はははっ…」

 

少しだけ緩んだ空気の中、司令室では写真を撮るウェルナーに頼んで乗組員の格好つけた写真に艦長は少し睨みながらも苦笑する。そりゃそうだ、艦長も写真に映る時は少し格好つけていたし。

 

「後でみなさんの写真をお渡ししておきますよ」

「悪いな…」

 

ぶっちゃけフィルム代は経費で落ちるので後で支払いさえしてくれればいくらでもとってあげられる。

借物のカメラとフィフムだが、従軍記者なんて自分用にフィルムを使ったりしているので金を払う分まだマシと思う…。

 

そしてそれを知っているが故に、そして自分の写真が欲しいが故に理解している面々は全員が口を噤んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、航海は何事もなく順調に進み、洋上補給訓練を行う。

 

「ソナーに感あり」

「照合は?」

「この音は間違いありません。同型艦です」

 

聴音手が言うと艦長は軽く頷いた浮上を命令。ハッチを開けると、そこでは一隻の補給館の周囲に餌を求めて集った様に潜水艦が並んで停泊していた。

 

「見えてきたぞ!」

 

司令塔から出た艦長は言うと、下に向かって聞いた。

 

「少尉の方は?」

「もうできてます!!」

 

一人の乗組員が返すと、船室から荷物を持ったウェルナーが梯子を登ってくる。

 

「よっと…」

 

司令塔を登って出ると、そこで彼は思わず溢す。

 

「おぉ〜…」

 

群がっている潜水艦群を前に彼は感嘆の声を漏らす。

 

「壮観な眺めですね」

「えぇ、特に今回は大規模な洋上補給です」

 

そこで写真を一枚収めた彼はしたから押し上げられた荷物を持つ。

 

「ここでお別れですな」

「はい、あっという間でしたが…」

 

ウェルナーなここで補給船に乗り込んで潜水艦を離れる。

そのため、乗組員たちに写真を収めたフィルムを手渡していた。

 

「フィルムは?」

「副長にお渡し致しました」

「分かりました」

 

だが正直、艦長としては彼にはすぐにでも下船してもらったほうが自分の精神状態が良くなる。

知らないとは幸せな事だとつくづく感じながら彼はタラップを持って停泊していた潜水艦の甲板に出ていた補給要員を見る。

 

「お世話になりました」

「いえ、こちらこそ」

 

そして同じく甲板に出た乗組員は穏やかな海の上でもやい縄を投げて船体を括り付ける。

 

「お疲れ様です」

「ありがとうございます」

 

そして最初にタラップを伝ってウェルナーが下船して後ろを振り返ると、そこでは補給準備に入る乗組員数名がウェルナーに見送りをしており、彼は帽子を取って返すとそのまま補給船に歩いて消えていった。

 

「何者なんです?彼」

 

そんなウェルナーを見送りながら副長が聞くと、船長は軽く苦笑する。

 

「さぁな?ただの記者だろ?」

「…そうですな」

 

長年彼と仕事をしていたが故に彼の言わんとする事はよく理解できた。

 

「やれやれ、とんでもないお客を運んでいたことやら…」

 

彼はそう溢すと、そのまま船内に入って行った。

 

 

 

下船したウェルナーはそのまま補給船に乗り込むと、

 

「ご苦労様です!」

 

そこで補給船の反対に係留されていた飛行艇BV138を見る。

空飛ぶ木靴と評された独特な形状は長距離を偵察する目的で開発されていた。

 

ウェルナーは持っていた軍籍表をディルクのものに変えると、止まっていた飛行艇に近づく。

 

「よぅ、船旅はどうだった?」

 

すると飛行艇のコックピットでデニスが軽く手を振って待っており、彼は飛行服を着ていた。

 

「お前が操縦するのか?」

 

それには思わず聞いてしまうと、彼は頷いた。

 

「お前みたいな魔法の才はないが、他は俺の方が成績が良かっただろう?」

「ミスしてお陀仏は勘弁だぞ」

「心配すんなって」

 

そんな軽口を言い合いながらディルクは飛行艇に荷物と共に乗り込むと、そこで人がほぼ乗っていないので、広々とした空間の座席に座ると先ほど出迎えた下士官が乗り込んだ。

 

「申し訳ありません」

「いいさいいさ」

 

気にしていない様子で返すと、彼はそのままコックピット席に座るとエンジンを掛けてプロペラを回転し始める。

 

「そこに報告書がある」

「あぁ、今読んでいる」

 

そう言い座席にやや雑に置かれていた数枚の報告書を読む。

報告書は研究所で探している転移者達の行動と雰囲気を記したものであり、同時に彼らに施した実験内容等が記されていた。

 

「よっぽど酷使しているな」

「あぁ、俺は背筋が凍ったよ!」

 

機内でうるさいのでほぼ怒鳴り声になりながら二人は会話している。

 

「こりゃよっぽど魔力が増えているかもな!」

「恐ろしいぜ!下手に反乱起こされたら手に負えんかもな!」

「その為に周辺部隊に演算機持ちがいるんだろ!?」

 

ディルクはそう言い、軍内部での転移者の微妙な立ち位置に苦労していた。

 

「そんな奴らの面倒とは!お前も貧乏くじだ!!」

「五月蝿ぇっ!!」

 

飛行艇は加速をするとそのまま機首上げ、水面から体を離す。

先ほどまで感じていた水特有の揺れ方が一切なくなり、水面から徐々に距離が取られる。

 

「お前に任務委任させてやろうか!?」

「やめてくれ!俺が禿げる!」

「禿げるのはいい事じゃねえか。男らしくなる」

「ふざけるな!」

 

機内でそんな事を話していると、ディルクは聞いた。

 

「どこで飛行艇なんか借りてきた?」

「知り合いの空軍軍人だ、迎えの車が来るからそれに乗って帰るぞ」

 

そう言うと飛行艇はそのまま沿岸部の空軍の飛行艇基地に進路をとった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、飛行艇は夜になって高度を落として水面近くを飛ぶ。

夜の海はとても暗い上に飛行艇で最も危険な時が着水の時。そして不慮の事故を防ぐ為にレーダーを使用しながらも水面スレスレを飛行していた。

 

「そろそろ到着だ」

「了解」

 

目の前の基地の明かりを見ながら頷くと、そのまま機体は海に着水し、そのままゆっくりと基地に入った。

 

「久々の陸だ…」

 

基地の敷地に足をつけてディルクは呟くと、後ろからデニスが肩を叩いた。

 

「潜水艦はどうだった?」

「むさ苦しかった。あと邪魔な場所にいると平気で艦長に殴られたわ」

「はははっ、容赦ねぇや」

 

そんな事を話しながら二人は基地の駐車場に停めていたデニスの車に乗る。

 

「鉄道じゃないのか」

「良いだろ、このまま研究所に行こうぜ」

 

どうやら自分はこのまま研究所に送られるらしい、前に転移者達を送りつけたのでどんな顔をされるやら。

 

「俺の体が保つと良いが…」

「お前に限界を教え込んでやる」

「訓練時代に教え込まれたっつーの」

 

そう言い荷物をトランクに置くと、そこではいつもの軍服が仕舞われていた。

 

「おいおい汚ねぇよ」

「ちょっと借りるだけだよ」

 

ディルクは少々申し訳なさを感じながら座った。

 

「くそぅ、後でシャワー行きだぞ」

「へいへい」

 

船内生活でシャワーなんて豪華品はなく、それ故に臭う彼を乗せて車は走り出す。




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