その時、アウトバーン沿いのモーテルで一人の男がシャワーを浴びていた。
「…」
そこで一人の若い陸軍将校、ディルク・フォン・ゲーリッツは久方ぶりに風呂に入っていた。
彼は降りた水上機基地から魔導研究局まで直行する予定だったのだが、
『すまん、一旦シャワーに入ってくれ』
着替えたとはいえ匂いを隠しきれなかったがために、途中で運転をしていたデニスが顔を青くしてちょうど見えたモーテルに車を停めると、ディルクをシャワーに行かせ、自分はトイレに駆け込んでいた。
それを前にいくら命令とはいえ友人を酒以外で吐かせた事に罪悪感を覚えながらシャワーで徹底的に自分の体を洗っていた。
「ふぅ…」
そしてシャワーを浴び終えた後に制服に着替えた彼はそこで先に先ほどまで顔を青くしていたデニスが、そこで早速持ち込んだウイスキーを開けていた。
「おいおい、早速酒か?」
「いいだろ?この後の運転はお前に任せればいい」
「飛んだ迷惑だよこの野郎」
数時間滞在した後にこのモーテルを離れて移動する必要がある。
元々海軍と同行したときにポイント事に浮上したのは、その航路の先に不審な船が見当たらないかと言うのを探る為だ。
今まで浮上した場所は小野寺が残したあの資料を元に、わずかな証拠でも血眼になって本拠地を探したい帝国軍上層部が出した命令だ。
「こちとらお前のせいで道端で吐いたんだ」
「おいおい、そりゃあ不可抗力ってもんだろ」
洋上を移動する移動式の司令部を持つ抵抗軍。それゆえに今まで不透明であった抵抗軍の通信網の全容は明らかになりつつあるが、毎日居場所を変えて動く抵抗軍を前に共和国と帝国は手をこまねいていた。
「もう呑んじまったし、俺の勝ちだな」
「ちっ…今度お前にたかるぞ」
そしてもしかするとと言う運試しのためにペッツは極秘に命令を出していた。
もしかすると、帝国保安局との揉め事を諌めるために一時的に帝都から自分を追い出すための口実かもしれないが…。
そんな事を言いながら制服を再度着こなしたディルクはデニスを見ていた。
「んで、この後魔導研究局に行ったらどうするんだ?」
「あぁ、聞いたところだとお前の三七式魔導演算機の改修品のテストをするそうだ」
「うわっ、マジか…」
それを聞き、その時ディルクの脳裏にはエレニカに扱かれた時の景色が思い浮かぶ。
「もうあれから何年経ったか」
「ははっ、新型機引っ提げて再会した時が懐かしいよ」
そう言いデニスはそこで同じ景色を思い出す。
「本当…良いことも悪いこともあったもんだ」
「…そうだな」
そしてデニスが思わず溢したその一言にディルクも頷いた。
あの地獄のような戦線で、そんな中でも兵士一人一人と交流し。酒を交わしながら笑い合い、誰かが家族の写真を前に誇らしげに語る。
「次の日に誰が生き残っているかは分からない。…だけど、あの時交わした会話や記憶はあそこでしか味わえなかったな」
「まぁ、あまり褒められた話じゃねえのはわかっているさ」
デニスは言うと、座っていたソファから立ち上がる。
「んじゃあ、運転頼むわ」
「あぁ、まかせろ」
片手にワインボトルを下げる彼にディルクは頷くと、二人はモーテルを後にした。
「ガー…ゴォー…」
そして後ろ座席で顔を真っ赤にして横に倒れて爆睡するデニスのいびきを前に、ディルクは少し額に血管が寄りながら匂いの関係で前回にした窓の外を眺める。
「…」
深夜のアウトバーンにはトラックが多く走っており、多くの荷物を積んで制限速度のない道路を全速力で走っていく。
深夜は車通りも少なくなるので自然と車の速度も上がるものだ。
「(俺の中の戦争はまだ終わっちゃあ居ないんだ…)」
そして通り過ぎる街灯を横目のディルクは思う。
かつて共和国の兵士として働き、そこで同級生に殺され、帝国に流れ着いた後は、今度は帝国兵として働く。
そして帝国内部で戦功を挙げて昇進する…今思えばありえないと思うような経歴だが、そこで思ったのは神の介入があったからなのだろうと思っている。
自分でもわかっている話だが、祖父を亡くした後。転々と親戚の家をたらい回しにされた自分の心の拠り所は、目に見えない全てを超越した神と呼ばれる存在だった。
その中でも神道を選んだのは、おそらく祖父に引き取られらころから日本神話を読んでいたからだろう。
そこから自分は宗教と趣味のミリタリーにのめり込んだ。全てを忘れるほど熱中できたそれは、嫌な現実の疎外感を簡単に忘れさせてくれた。
「(戦争…か)」
そして訳もわからず勝手にこんな世界に飛ばされ、そこから巡った数奇な運命。
すでに成人となってしまうほどには歳を重ね、そこで経験した
「はぁ…」
反吐が出てしまう。
こんな人生に、こんな運命に引き合わせた存在に。
帰りたいと思う感情は、おそらく転移者全員が感じている事だろう。それは自分も同じだ。
だって帰った先には置いてきてしまったものが多くあるのだから。
自分だって、祖父と両親を向こうに置いてきている。だから帰りたい。
「(本当に帰れるといいが…)」
南部の心には一抹の不安があった。確かに理論上は帰還可能であると言うのは教えてもらったが、あくまで理論上の話。
現実は何が起こるか分からない。
「(だからこそ、自分たちのようなか弱い存在は、神に縋ることしか出来ないのだが…)」
全てを超越した先に存在する神を前に自分たちは願うことしか出来ない。
先の見えない不安をかき消すために祈ることしか出来ない。
「(…小野寺)」
ディルクは魔導研究局に最も近い出口につながる道路を降りる。
「(俺は…お前といつか決着をつけるぞ)」
片手でシフトレバーを操作しながら運転するのはもう手慣れたもので、車はそのまま下道に入ると魔導研究局のある鬱蒼とした森の奥へと向かった。
深夜、ディルクは魔導研究局の設置した認識阻害ようの大型魔導具の反応を感じ取りながら車を順序通りに走らせる。
この手順を守らないと鬱蒼とした森を遠回りして抜けてしまうので、注意する必要があった。
「ん?何だ?」
しかし今日は少し様子が違った。
「っ!おい!デニス!」
「んあっ?!」
そこでディルクは寝ていたデニスを声で叩き起こすと、そこで車の速度を上げる。
「どうしたんだよ!?」
ディルクの声と速度を上げた車にデニスは驚くと、彼は言った。
「魔導研究局の魔道具が動いていない」
「っ…?!」
その一言でデニスはすぐにそれが異常事態であることを認識する。
魔導研究局の設置した魔導具は常時稼働しており、待機中の魔力を吸収して発動される。
つまりそれが作動していないと言うことは、何かしらの理由で魔道具が破壊されたと言う証だ。
「急ぐぞ」
「了解だ」
酔いが吹き飛んだデニスはディルクの真剣な顔を前に表情を硬くすると、その手に
そして森の中を進んでいると、目の前に突然門が現れ。その奥で燃えている研究施設を見た。
「突っ込むぞ!」
「おう!」
そこで目の前を走っていた一人の銃を構えた一人の兵士を轢いた。
「ぎゃぁあっ!」
そして突撃した車はブレーキをかけてドリフトをしながら停車すると、
ッ!ッ!
拳銃を片手にデニスがドアを開けて発砲し、ディルクもすぐに車を飛び終りて背後に出る。
「チッ、何だこの襲撃は!!」
そしてトランクを開けて中に入れていた荷物を開けてすぐに
「ディルク!」
すると車の後ろに退避してきたデニスが言うと、
「車壊すぞ!」
「後で上に請求してやるよ!」
そう言って確認をした後に装填済みだった散弾銃の引き金を引くと、
「うわぁぁあっ!!」
近くにいた一人の歩兵をズタズタにすると、持っていた
「くそっ、襲撃かよ!!」
するとそこで、少し離れた場所から砲声が聞こえ、そこでディルクはデニスに言う。
「援護できるか?!」
「あぁ!!」
そこでディルクは障壁魔法を展開すると、車から飛び出して走り出す。
「敵襲!!」
「撃て撃て!!」
そこで二人を見た歩兵が指を指すと、持っていた
「ちっ!」
放たれた銃弾はディルクの分厚い障壁魔法は容易に拳銃弾を弾く。
「くそっ!!」
デニスはそして持っていた短機関銃を引き金を引くと、代わりに襲撃者の歩兵を倒す。
ディルクも持っていた散弾銃の引き金を弾くと、目の前を妨害していた二人を鉛の小球をぶつけて倒す。
そして倒した歩兵の付けていた腕章を前に毒吐いた。
「なんで抵抗軍の奴らがここにいるんだよ!!」
「抵抗軍の襲撃とはなぁ!!」
そして二人は突撃をして敵を倒すと、
「ディルク中佐!!」
そこで確かに自分を呼んだ声が聞こえ、その方を見ると
「こっちだ!」
建物の間で一人の白衣を着た女性研究者…ここの長のエレニカが手を振っていた。
その姿を確認してディルク達は混戦状態を抜けて滑り込んだ。
「ご無事でしたか」
「あぁ君達もな」
そこでエレニカはディルク達を見ると、彼は聞いた。
「どう言う状況ですか?」
「見ての通り、抵抗軍の襲撃だよ」
エレニカは当たり前の回答を寄越すと、そこで粗方の事情を聞いた。
「一時間前だ。抵抗軍の部隊が魔導具を破壊して突撃してきた」
そして襲撃してきた抵抗軍の歩兵部隊は研究所を破壊していた。
「転移者達は?」
「Mボートに乗って抵抗している」
聞こえる砲声はそれだと言うと、エレニカはディルクに言う。
「研究者にも被害が出ている。緊急で悪いが、君の演算機を使って援護してくれ」
「え?試験も無しで…?!」
燃える魔導研究局の中、ディルクはやや驚くと
「大丈夫だ。各種試験は済ませている」
「…了解しました」
ディルクは迷っている暇はないとすぐに判断すると、エレニカの指を差した格納庫を見る。
「デニス、お前はここでエレニカ技師の護衛だ」
「あぁ任せとけ」
デニスはそこでディルクに頷くと、彼はエレニカを託すとそのまま燃える敷地を抜けて走り出していった。
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