一四話
正暦一九三八年 六月二〇日
ライヒ帝国 西部戦線 北部管区 第三防衛線
帝国陸軍第四五魔法科中隊に派遣されたディルク・フォン・ゲーリッツは帝国軍少尉として戦場を走っていた。本来は士官学校を出た後に一時的に実習期間として後方で仕事をするのだが、現在はそれおも省略していきなり前線にほっぽり出されていた。帝国の内情を感じつつ、俺たちは塹壕から体を出さない様にしていた。
「うわぁ・・・」
「これは酷い・・・」
絶賛塹壕から顔を覗かせてドン引きしているディルクとデニス。二人や、それ以外の新米魔法兵も同様の表情を浮かべていた。その理由は簡単。
「何分砲撃してるんですか・・・」
そう、目の前に広がる活火山にあった。かれこれ三十分以上砲撃しており、後方の砲陣地や、真横で撃たれている迫撃砲の影響で共和国側の陣地は土煙で何も見えなかった。武器の口径が三種類に統一になった影響で弾薬の価格が下がり、今までよりも恐ろしい量を撃つ事ができた。濃密な砲撃にさらされた共和国軍は外に出る事も出来なかった。砲撃の最中。自分たちの上官であり、帝国陸軍第四五魔法科中隊隊長であるヘルマン・シコルスキー大尉が指示を飛ばす。
「射撃用意!目標敵塹壕陣地!爆発魔法発動。撃て!!」
その直後。自分達魔法兵は魔法弾を装填し、引き金を引く。熱せられた弾丸が反対側に着弾すると爆発を起こし、爆発する。その後、前方の塹壕から歩兵部隊が塹壕から飛び出し、土煙の中を走る。
「俺たちも行くぞ」
「ハイッ!」
上官の指示に従い、デニス達も塹壕から銃を出すと上官から俺に指示が飛んだ。
「ディルク少尉。敵の砲陣地を撃て」
「はっ!」
「距離1300。見えるか?」
「はい。捉えました」
「発射!」
直後、銃口から赤いレーザーのようなものが飛び出し、視界に映る大砲のそばの弾薬箱を撃ち抜き、爆発する。ここからでも見える程の爆炎が戦線に上がる。
そこまでの様子を下の塹壕から見ていたデニス達は思わず呟く。
「すごい・・・まるで戦場の天使だ・・・」
すると空に上がったディルクは指揮官に搭載された無線機から通信をする。
『大尉殿。敵と思しき魔法兵を確認しました。発砲許可を』
「よろしい。発砲を許可する」
その直後、三発だけ小銃から弾丸が放たれ前の戦線に三つの爆炎を上げる。共和国の軍服を着た魔法兵が爆炎に巻き込まれ、塹壕に押し戻される。その間に味方がさらに接近し、塹壕内に突入した。デニス達が必死に地面を走る中、上空でディルクは素早く空を飛んでいた。
「はえ〜、新型って空も飛べるんだな」
「俺たちにも配備されねぇかな」
後ろで走りながら小隊兵士達がそうぼやく。確かに、あんな風な使い方なら欲しくなる。だけど、おそらく俺たちには絶対配備されないだろう。なぜなら・・・
「ディルク程魔力持った才能もいねぇだろうしな」
そう言い、術式を
「やれやれ、やる事の多い事で・・・」
上空で金属リュック見たいな・・・言ってしまえば某SFアニメに出でくるトリコロールカラーのロボットの背中にある奴に似た
「空を飛んで着弾観測に、物資輸送に、伝令に、味方の救援に火力支援?俺を殺す気か!!」
そう、共和国の時よりも空を飛べるという利点から滅茶苦茶仕事が増えた。『これ、魔法兵のする仕事じゃないよね?』と言った仕事までやらされ、それはもう酷かった。酷い時は三日間寝ずに連勤だった。なんて言う事もあり、後方のテントで文字通り魔力切れでぶっ倒れた。言って終えば空を飛べる魔法兵はそれだけなんでも出来ると言う事だ。
背後に向く二本の偏向式ノズルが特徴の《三七式魔導演算機》は某ロボットアニメ宜しく空を自在に飛べた。なんでこんな仕様になったのか。その訳は試作機がうまく行った時のことだった。実験後に吹き出た空気を見て俺が思わず呟いてしまった一言にあった。
『これ・・・・・・いずれ空飛べんじゃないっすか?』
『君・・・天才かね?』
そんなノリでエレニカ主任がこの演算機に慣性制御魔法だけを出す事のできる感応石*1を取り付け、他にもどうせならと筋力強化やその他諸々の感応石を追加装甲板のように取り付け。それを複数用意し、それぞれの戦局に対応出来るようになっていた。デフォルトである慣性制御以外にこの三七式魔導演算機には最大で四個の感応石板を取り付けることが可能だ。ただし・・・
「魔力消費激し過ぎんだけど・・・」
そう、全部の感応石板五個も付けると恐ろしい速度で魔力が減っていくのだ。おかげで付けている五個の感応石板を全部使うとなると三〇分くらいで魔力切れを起こす。そのため実際には三個を使うのが限界だろう。それも、
魔導適正Cの俺だが、その代わりと言わんばかりに魔力量が桁違いで、帝国軍から『優秀な魔法兵』と言われた。
共和国と帝国では優秀な魔法兵に対する考え方が違ったのだ。
共和国で優秀な魔法兵というのは体内に保有する魔力量をどれだけ効率的に魔法として発射できるのか。一発一発を美しく、そして豪快に撃つことが素晴らしいと考えるのが共和国基準の優秀な魔法兵。
対して帝国は体内に保有する魔力量で決まっていた。魔導適性がどうであれ、魔力が多けりゃいっぱい撃てんだろ的な思想なのだ。
分かりやすく言うと共和国は『一撃必中』、帝国は『下手な鉄砲も数打ちゃ当たる』と言うのが優秀な魔法兵としての基準なのだ。俺は帝国で士官学校に入る際に事前に受けた魔力検査で文字通り桁違いの係数を叩き出していた。検査装置の針が振り切れるレベルで。それを見た検査官が『おや、今日は疲れているのか?すまんが気付薬にワインを・・・』と言う感じだった。
とまぁそんな感じで魔力が多い俺は現在空を飛びながら偵察中であります。俺は味方の前進に合わせ、上空から魔法弾による攻撃を行う。耳に付いたヘッドホン越しに指揮官からまたも命令が飛ぶ。ヘルマン・シコルスキー大尉は新型演算機を見てこの使い方を提案したのだ。大尉は非常に良い人物だ。後方のテントでぶっ倒れた時は『無理をさせてすまなかった』と言ってその後上と掛け合って俺を休ませてくれた。実際、地獄だった訳だけれども・・・
兎も角、俺はかつての味方である共和国軍の兵士を撃ち抜く。あの時戦場で見た顔は何処にもいないが、やはり元とはいえ共和国の兵士を撃つのは心が痛む。しかし、そうも言ってられない。迷っていると死ぬのはこちらなのだから。
『少尉、味方の救援に向かってくれ。場所は・・・ーーー』
「ーーー了解です。直ちに救援に向かいます」
そう言うと俺は演算機を吹かして小隊を置き去りにして塹壕に突撃していった。
塹壕内は接近戦だった。曲がりくねった塹壕は長物の小銃が使えず、代わりに拳銃や短機関銃が重宝されている。中には棍棒や斧を使って原始的な殴り合いを起こしていた。そしてここでも・・・
「う、うわぁぁぁぁあああ!!」
今まさに一人の帝国兵が二人の共和国兵の持つシャベルによって殺されようとしていた。
『死ねぇぇえ!!』
『オラァァアア!!』
共和国の兵士がシャベルを振りかぶった時・・・
「ゴホッ」
「ガァッ!」
乾いた銃声と共に目の前にいた二人の兵士が倒れる。残った帝国兵はその後ろから現れた一人の魔法兵を見た。黒い髪と黒曜石のような瞳を持ち、背中に金属箱のようなものを背負い、片手には帝国製半自動小銃を持っていた。階級は少尉。兵科色は魔法科を表す緑白色。するとその青年は生き残った自分を見るや否や大の大人の俺を片手で肩に担いだ。
「このまま戻ります。落ちない様に自分のベルトを掴んでください」
「え?あ、う・・・うわぁぁぁぁぁぁああぁ!!」
空気の吹き出る音と共に俺は飛んでいた。自分と同い年くらいの青年に・・・
急激に地面が遠くなり、見えない後ろに飛んで行く。感覚的には昔乗った遊園地のジェットコースターを後ろ向きにした気分だ。
見えない恐怖に思わず叫んでいるといつの間にか味方の塹壕に降り立ち、俺はそこで降ろされた。
「今のうちに後方に行ってください」
「あ、あぁ・・・ウワッ!?」
その直後、再び目の前に非常に強い風が吹き、塹壕を飛んで出ていく。一瞬の出来事に思わず呆然としていると周りにいた別の隊の兵士が俺に言った。
「運いいなぁ、おめえさん。何処の所属だ?天使に救われるなんてよ」
「え?」
「遊覧飛行の感想でも教えてくれや」
「は?」
思わず呆然としていると一人の歩兵がやや疑問げに言った。
「知らねぇのか?あの少尉だよ。俺たちの間じゃあ『黒い天使』つって言って有名だぜ?」
「黒い・・・天使?」
「ほれ、アレだよ」
そう言い指差し先では、さっきの青年が空に浮かんで貫通魔法を撃っていた。
「ヒュー、良いぞ!もっとやれ!!」
「また砲兵隊が吹っ飛んだぞ。これで何回目だ?」
「さぁな、数えてすらいねぇよ」
そう呟く歩兵達に俺はその攻撃に思わず見惚れていた。銃口から放たれる赤い光線は一直線に共和国の砲兵隊を吹き飛ばしていた。
「砲兵が『戦場の女神』なら空飛ぶ魔法兵は『戦場の天使』だな」
「特にあの少尉はよく活躍しているよ」
そう言い、俺はそこで噂を思い出した。数週間前にここに着任したばかりだが、かつて無いほど共和国の砲兵陣地を叩き続け、この北部管区の前進に寄与していると聞いていた。その姿と確かな戦果から北部管区ではその見た目と空を飛ぶ動きから『黒い天使』と呼ばれていた。
「あれが・・・黒い天使・・・」
自分は空を飛んでいる一人の魔法兵を見ていた。
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