魔導研究局への襲撃、敵は抵抗軍。
「中佐殿!」
「逃げていなかったのか…」
エレニカの指示で飛び込んだ格納庫の中では数人の研究員が待っており、彼等を前にディルクは言う。
「準備は?」
「すでに完了させております」
そう言い、彼らはディルクをある機械の前に通した。
「悪いが、試運転はやらんぞ」
「問題ありません。破壊しても再度修復するのみです」
それが自分たちの役割であると言わんばかりの表情で言うと、ディルクは軽く頷いてそれを見る。
「名称は三七式魔導演算機改です」
「…」
新たに改装された魔導演算機はいつもの弾倉入れ込みの大型なものに二本の巨大な機関銃を備えたアームを有していた。
「ありがたく使わせてもらうとするよ」
そんな大規模改修を施された魔導演算機を前にディルクは言うと、早速それを背負って格納庫の中で両腕に装填された
「本形式は散弾銃を術式弾に転用できるよう改造を施しています」
「散弾銃をか…負荷が掛かる」
そう言うディルクの顔はやや笑みを浮かべており、その手に散弾銃を持つ。
「すぐに飛ぶ。お前達は退避しろ」
「はっ!中佐もお気を付けて」
できる限り調整と武器装填をしてくれたのだろう彼らは格納庫を出ると、そこでディルクは苦笑する。
「新型をこんな形でテストするとはな…」
そこで軽く意識を持っていって魔力を流すと、膨大な魔力の奔流を御したその魔導演算機の背部スラスターから熱っせられた空気が出ると、そこで上に向かって散弾銃を一発発射すると、そのまま直上して格納庫を飛び出る。
大きな音と共に空に上がると、そこではMボートに取りつこうとする抵抗軍歩兵部隊を見下ろした。
「さぁ、行こうか…」
そしてそこで二本のアームから伸びる二丁の
電動鋸のように連続した射撃は、容易に敵破壊部隊を簡単に一掃しながらその頭上を通過する。
するとその掃射に反応して抵抗軍歩兵が持っていた小銃を発砲するが、刻印弾でもないのに高速で飛翔する魔法兵に命中するはずもない。
「っ!」
そこでディルクは持っていた散弾銃の引き金を二回弾くと、そこで発射された散弾はそのまま地面に着弾すると小さな無数の爆発が視界を埋める。
「ひゅ〜、こりゃすげぇ」
そこでディルクは散弾が起こした爆発に思わず唖然となってしまうと、そこで彼はMボートを見る。
五両のMボートは砲撃を行っており、格納庫から飛び出した形跡があった。
「…」
そして燃え盛る魔導研究局を見下ろしながら、そこでディルクは近場にいた抵抗軍に向けて散弾銃と機関銃を発射する。
機関銃は自分の意識に反応して稼働可能で、事実地面スレスレを飛行した時に真横に向かって発射する。
「くそっ!飛行魔法兵だ!」
「ちっ、ここに魔導演算機はないって話じゃねぇのかよ!?」
そう叫んだ後に散弾銃の小爆発で障壁魔法も展開できずに吹き飛ばされる抵抗軍部隊。
「どれだけ突撃させたんだよ畜生め…!!」
そこでディルクは撃ち終わった散弾銃に散弾を装填する。
そしてそこで無線に手を当てると怒鳴った。
「おい!増援はどうなっている!?」
魔導研究局周辺には転移者達が暴動を起こした際にすぐに即応可能な陸軍部隊が配置されており、異常があればすぐに駆けつける手筈になっていた。
『…』
しかし通信はノイズが混ざっており、それを聞いて舌打ちをする。
「妨害電波か…!!」
研究所の警報は、先に展開していた妨害電波によって遠くまで届いていない。
「だが展開はしているだろう…」
そう言い燃え盛っている研究所を前にディルクは周辺に駐屯している部隊が来ていると推測すると、事実遠くから飛行魔法兵の姿を確認した。
「…」
ディルクはそれを見た後に地面に降りてエレニカと、彼女を守っていたデニスと合流する。
「大丈夫か?」
ディルクは建物の間に隠れていたデニス達を見下ろすと、そこでデニスは一言
「随分とまぁ派手なご登場だな」
「…その様子なら大丈夫そうだな」
そう言い強力な武装を備えたディルクの魔導演算機にデニスは苦笑していた。
その後、燃えている研究所を視認した陸軍部隊が到着したことで襲撃をして来た抵抗軍は拘束・掃討が行われ、消化作業が始まったことで事態は収束を迎えつつあった。
「大変なことになりましたな」
「あぁ全くだ」
夜が明け、駆けつけた消防車が消化用ホースで水をかけている様子を前にディルクと、駆けつけた部隊長をしていたゲルハルト。
「しかし、君がここの駐屯部隊とはね」
「はっ!異世界人の取り扱いに慣れていると言う、総司令部の意向で…」
「なるほど…」
そこでディルクは納得できた。
かつて転移者達を取りまとめた部隊に居た経験から、彼はその方を口外しないと言う規則の元で新たに昇進と部隊長就任を賜ったのだろう。
「正直、私はまた隊長と見える事ができて光栄です」
「隊長呼びはよせ。今の俺はただの士官さ」
ディルクはそう返すと、そこで損傷したMボートを見る。
「こっちも相当の数をやったが、手痛い被害を受けてしまったよ…」
「えぇそうですね…」
そこでディルクは回収している抵抗軍の遺体を運ぶ陸軍部隊を見る。
「敵がまさか異世界人のいるここを直接襲うとは予想外でした」
「あぁ俺もだ。正直、ここが一番安全と思っていたんだがな…」
しくじったと内心彼は思う。
国内外に様々な目がある抵抗軍だが、魔導研究局は帝国内でも魔導演算機を製造していた工場であったが、一般的には下手な魔法研究者の左遷先という印象が強かった。
「こちらの被害は死者四名、負傷者二三名。敵は死者八五名、負傷者一二四名。拘束したのは四名です」
「報告ありがとう」
ゲルハルトが渡してくれた被害報告書を受け取りながらディルクはそこで格納庫に残る一台のMボートを見る。
すると転移者達を管理していたディルクに、少し言いづらそうにしながらゲルハルトは言う。
「誘拐された異世界人は五名。いずれも逃走ルートの先に検問を張っていますが…」
「見つかると思うか?」
「…」
この場所は帝国内部。トラックで逃げるにしても通り道が多く、検問を張るような道路をまず抵抗軍は通る事はないだろう。
「申し訳ありません」
「これはこっちの話だ。命令で一ヶ月明けていたとはいえ、異世界人の管理を投げたんだ。その隙を突かれたのは痛恨だった」
ディルクは駆けつけた片手の部下を軽く労うと、そのまま研究所の奥に消えていった。
「…」
その報告書を前にペッツも思わず顔を顰めた。
「異世界人が誘拐されると言うのは…与えた被害に比べて大きすぎる結果だ」
それには同室に入ったコルネリウスも同様であった。
「魔導研究局への襲撃は用意重要に行われていた。設置型魔導具の破壊、妨害電波装置の設置。おかげで初動に陸軍は遅れをとった」
「民間からの通報で陸軍もようやく動き出せたと言うのだから情け無い」
元々、魔導研究局が置かれていた森林の近くの街では昔からあそこに軍の施設があると言うことは暗黙の了解であり、近くに陸軍の部隊がいることにも特段違和感を示さず。むしろ何も無い土地に軍からの徴収などで利益が出ることから、街の住人は揃って良い顔を浮かべていた。
通報もそんな街の住人からの爆発音がすると言う駐屯地に駆け込んできた人々からのものだった。
「研究所の設備は大半が破壊され、迫撃砲による一斉攻撃で憲兵では太刀打ちできなかったそうだ」
「だろうな」
ペッツは頷くと、葉巻を取り出して火を付ける。
「まんまとやられた。今、情報がどこから漏れたのか調査している」
コルネリウスはそう言い、卓上に置かれた誘拐された五人の異世界人の写真付きの資料を見た。
「コルネリウス、今回の一件…内部の犯行と見るか?」
「出なければおかしいだろう。魔導研究局は左遷先として有名な場所だ。本来なら見向きもされないような部署だ」
コルネリウスはそう言って魔導研究局襲撃の犯人は内部犯と仮定していた。
しかしそこでペッツは言う。
「しかし抵抗軍は転移魔法然り、死霊魔術然り、数多の禁術を有している。異世界人の居場所を把握できる魔法を使った可能性は考えられないか?」
「それができるなら、既にこの世に警察官など必要ないだろう」
二人はそう言い合い、ペッツの仮説を否定する。
「しかし禁術の中にはそう言った魔法も含まれているのではないか?」
「未来を見る魔法ならまだしも、現在の時間見る魔法なら禁術には記されていない」
かつて聖教国に降り立った大予言者である神が残したとされる、人が超えてはならない線であると伝えた禁術。
神より下賜された魔法の力はあくまでも神の手の上でのみ許される行為であり、その範疇を超えたものは必ず代償を払う。それが禁術が作られた経緯であると一般的には知られている。
事実、禁術に記された細かな魔法は全て世界に危険をもたらしたり、人々の安寧を脅かす物ばかりであったので、理論上においても危険な物であると学会においても理解されている。
「そこだ。未来を見ることは禁止されても、現在や過去を見る事ができると言うのなら、そう言った類の魔法があるに違いない」
「だとしたら、抵抗軍は禁術の他にも数多な魔法を有していることになるぞ」
「事実、転移魔法と死霊魔術を使った連中だ。どんな未知の魔法や持っていてもおかしくはなかろう?」
「…」
言われて、コルネリウスは考える。だとするなら容疑者の特定は不可能となり、軍内部の情報は丸裸にも等しくなる。
今まで行って来た捜査も全て筒抜けとなるなら、抵抗軍の本拠地の話も既に知られていることになる。
「すべてが振り出しに戻るぞ…良いのか?」
「どのみち抵抗軍のテロ行為は続くのなら、この辺で大規模に部隊を動かして掃討作戦を行う必要も出て来よう」
「…ペッツ、お前」
そこでコルネリウスは、ペッツの考えている事に溜め息を吐いてしまう。
「またディルクを酷使する気か?」
「ならば何のために彼の演算機を改造させた?」
「…」
コルネリウスはまた戦場に向かう彼に一抹の不安を覚えながらペッツを見ていた。
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