戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一四三話

「そんな…」

 

部屋で小野寺は驚いた顔をしていたので、立川は(自分もあまり強く言えた節ではないが)彼に言う。

 

「いや、元々学校でもモテモテだったから男たちから妬み買いすぎの部類だったわよ?」

「…」

 

元々南部とは色々とある身ではあったが、まさかそんな事を思わせられる。それも立川からともなると色々と考えされられるものがあった。

無論、立川も学校での行いはあまり褒められた優等生ではなかったが…。

 

「…変わったな。随分と」

「変わらざるを得ないでしょうに…貴様にあんな事されちゃあ」

 

立川は軽く睨んで小野寺を見ると、そこでようやく聞きたいことを聞く。

 

「私、なんでこんな姿になっているの?」

 

自分は帝国軍の軍服を脱がされていた。もし脱がせたのが彼なら、容赦なく飛び蹴りを喰らわすつもりだった。

すると彼はそれを見透かしたのか、殴るのは勘弁してくれと一つ言った後で立川に軽く言う。

 

「そりゃあ、君たちは優秀な砲兵だ。丁重に扱うように言ってある」

「じゃあなんで目覚めた時に貴様が近くで仕事をしていた?私たちは、貴様等の前ではどの様な扱いなの?」

「ふむ…そう聞くか」

 

小野寺はそこで少し考える仕草をとった後、部屋にあった戸棚を開けて中からリキュールの瓶を取り出すとグラスに注ぐ。

元々この部屋はヘイルダム・ルメイ副司令官用に用意された寝室だと言う。

 

「飲むか?」

「いらない」

「毒は入れていないよ」

「…」

 

小野寺の誘い、そして断った時の顔に軽くため息をついて立川はリキュールを受け取る。

香辛料の香りが一瞬漂い、毒物の類は感じ取れない。

 

「だから大丈夫だって」

「心配性なのは、過去の貴様の行いが原因だぞ」

「それは本当に申し訳なかったと思っているよ」

 

先ほどの綺麗な頭を下げた謝罪は誠意を感じ取れるのだが、どこか薄っぺらいものを感じ取ってしまうのも事実。

本人はいたって本気で謝罪をしているのは分かっていた。しかし自分がやられた事を考えると、それでは不満足なのが本音。

 

「…」

 

そこで立川はリキュールを一気に飲み干した後にベッドから出て小野寺の前に仁王立ちをしてそのまま、

 

パシンッ

 

これでもかと力をつけて彼の頬を叩いた。一発、乾いた音が部屋に響く。

 

「…」

 

右頬を赤く染め、一瞬顔が横に振れた小野寺はその後自分を叩いた相手を見上げて見つめる。

 

「…ふぅ」

 

そこでため息を吐いた立川は椅子に深く座ると、そこで彼女は小野寺の顔を見た。

 

「これであの時の借りは返した事にしましょう」

「ありがとう」

「…君、Mの才能あるよ」

「そりゃどうも」

 

立川に言われ、小野寺は軽く笑みを浮かべて彼女を見ており。そんな反応に彼女は言い難い表情を浮かべた。

 

「気色悪い」

「今の君たちからすれば、今の僕はその方が都合がいいだろう?」

「…」

 

小野寺の発言に立川は木兎、彼が何を考えているのかがわからなくなった。

抵抗軍が自分達を狙っている理由も定かではないし、誘拐された直後でこんな再会も望んでいなかった。

 

「悪役を演じているの?」

「そうかもしれないね。まぁ君の場合は例外だが、他のみんなは僕のことをどう思っているのかな?」

「…そうね、『敵の親玉の元で働く嘘つきのボンボン小僧』と言ったところかしらね」

「ふふっ、小僧か…大層な評価だ」

 

立川から自分に対する評価を知り、苦笑した小野寺は少し笑う。

 

「そこ笑う?普通」

「こうでもしなきゃやって行けないさ。こんな場所にいればね」

「そうね、抵抗軍の副司令官?」

 

そこで立川はこめかみに手をてて肘をテーブルに立てる。

 

「そうさ、大陸中の恨みと失笑を買う抵抗軍の副司令官。かつて戦争で戦果を上げ、堕ちた英雄『白い死神』それが僕さ」

「…」

 

そう言って自笑する小野寺は憔悴している様子が見受けられた。

 

「哀れなものね。今やあなたはクラスメイトからも敵視されているわよ?」

「不思議なものだな。かつては肩を並べて付き従ってくれたではないか?」

「戦争末期に私達を見捨てた奴が何を言うかね」

 

呆れた様子で立川は小野寺を見ると、そこで彼は言う。

 

「何か人に言われるは、僕にとっては怖いことでね」

「…」

 

その時の小野寺は本当の意味で怯えている様子であり、何かあった事を如実に立川に見せていた。

 

「仲良くは無理だろうが、この部屋の中であれば自由に過ごしてくれて構わない」

「そう…」

 

そこで立川は立ち上がった

 

「まぁ、お互い負け者同士だ。よろしく頼むよ」

「…ふんっ」

 

立川は少しぶっきらぼうに顔を背けると、そんな彼女の塩対応に小野寺は席を立つ。

 

「もし外に出たい時は、この服に着替えてくれ。今の君の格好では色々と目立ってしまうからね」

 

そう言い、彼はベッドの横を指差すとそこでは抵抗軍の新品の青灰色の軍服が用意されていた。

 

「仮の通信兵だ。仕事は?」

「教え込まれているわよ」

 

そこで立川は帝国軍の無線機の使い方を思い出す。

 

「なら良い。帝国製の無線を今は使っているからな」

 

小野寺はそう言うと席を立つ。

 

「ねぇ、他のみんなは?」

「…悪い、()()()()()君だけだ」

 

小野寺はそれだけを残すと部屋を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「どうですか?」

「うーん…」

 

車庫でディルクは横に立つ魔導研究局の職員に聞く。

 

「幸い、大きな損傷はないですね」

 

研究者たちはMボートの点検を行いながら話しかけたディルクに答える。

六輪10tトラック(Vomag 8LR)のシャーシを使用したほぼ新造の車両。帝国の技術者が陥りやすい『なぜそこまで極める?』を体現した様な目の前の車両。

水陸両用、軽くなら空だって飛べちゃう万能車両。

 

主砲は自分の知っている虎の主砲と同じ56口径88mm砲。しかし使っている弾薬は71口径88mm砲と同一のものである。

不思議な事に、この世界ではこの時期に71口径88mm砲(Pak 43)が当たり前のように前線に配備されている。これには少し自分も驚いた。

 

そしてこのMボートの主砲、元はⅣ号戦車の火力強化用に新たに開発していたという。試作品が数門作られ、あとは正式採用を待つだけのところで新型戦車群(Ⅴ号戦車シリーズ)のの採用とともに倉庫の肥やしと成り果てた代物だ。

通常の弾薬を共有できる上に、長すぎると言う理由で砲身に四苦八苦していたエレニカ技師が試作品目録を見て目ざとく見つけてきた一品だ。

ちょうど数も合うし、倉庫に隙間ができると言う事でデニスが手配していた。

 

「しかし、改修した直後に試験もせずに運用なのは少し予想外でした」

「まぁな、俺もこれには流石に驚くさ」

 

そこで彼は所々穴の開いた車庫を見る。

かなりの建物が被害に遭い、一部では実験機材が破損するほどであった。今は知り合いのいる陸軍部隊が駐屯しており、付近の警備は万全と言えた。

彼等は魔導演算機装備の猟兵大隊であり、もし再度の襲撃や異世界人の暴動があったとしても対処可能だ。

 

「しかし、中佐殿でも驚くことがおありなのですね」

「阿呆、誰だって驚くことはある。ただそれを受け入れる時間がかかるかどうかだけでな」

 

ディルクはそこで六台のMボートを見る。

今回の改修で自走砲としての役割が大きくなり、仰角も取れるように改造が施されていた。

その為に天板が消えたが、そもそも移動中は幌で覆っているのであまりいらないと言う事らしい。イメージとしては車輪に変えたマルダー自走砲のようなものだろうか。

 

「異世界人も苦労するな…」

 

現在の異世界人は一クラス三一名、内一人は敵の副大将。五人は行方不明。一人は戦時中に戦死している。無論、最後の転移者は存在していない。

 

「予備車ができたな」

「まぁ元々異世界人用の特殊装備ですからね…。それほど数も必要じゃ無いでしょう?」

 

彼らMボートは陸軍の河川警備用装備として予算計上がされており、改修費もまた魔導研究局の研究費の中に組み込まれている。

 

「しかし、どうしてこの場所がわかったんだ?」

「さぁ…私に言われましてもね」

「おいおい、その方の専門家でしょう?」

「だから驚いているんですよ()()局長が作った魔導具を破壊したことに」

 

魔導研究局は地面設置型の大型魔導具が埋め込まれており、半端な魔力では突破が不可能な構造である。それを突破する方法としては、事前に知らされた正しい道を通るか、或いは魔導具が暴走するほどの大量の魔力をぶつけるか、直接破壊必要があった。

ただ破壊するのも一苦労するもので、それこそ大きめの爆薬を持ち寄る必要があった。

 

「中佐殿」

 

するとゲルハルトが車庫にやって来るとディルクに近づく。

 

「ただ今調査が終わりました」

「うむ、ご苦労」

 

そこでゲルハルトからディルクは報告を聞く。

 

「研究局に設置されていた魔導具は、ほぼ全て破壊されていました」

「なるほど…改造した対戦車地雷(テラーミーネ35)を使ったのか」

「えぇ、あの大きさなら障壁魔法も突破できてしまうでしょう」

「…」

 

随分と強引なやり方だが、あれほどの襲撃規模ともなればその方が手っ取り早いのだろう。

 

「今頃、上は混乱しているだろうな」

「そうでしょう。何せ異世界人の居場所は我々以外の知るところではありませんから」

「…一体誰が情報を漏らしたのかね」

 

そこで思わず溢したディルクにゲルハルトが言う。

 

「抵抗軍の目は何処にでもあると言う話です。隊長もお気をつけて」

「あぁ」

 

特にディルクは異世界人の管理を任されている人間。軍内部でも秘匿された情報であり、いつか行われるであろうその時(クーデター)の為の戦力として温存している。

 

「はぁ…」

 

ペッツ元帥が貴族派の軍人を排して参謀本部から貴族派の連中を排除した理由は分かっている。あの人は本気でこの国の帝政を終わらせるつもりだ。

 

「やになっちゃうねぇ。上に立つと言うのは」

「それは…少し分かる気がします」

 

そんなぼやきにゲルハルトは自分が大隊長になって実感したのだろう、まだ一ヶ月ほどしか経っていないと言うのにこの有様である。

 

「分かってくれるかい?」

「えぇ、私も隊長の苦労がよく理解できた気がします」

 

ゲルハルトはそう言った後、破壊された魔導具の報告をエレニカ技師にする為に車庫を後にする。




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