戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一四七話

Ⅴ号戦車

 

東西戦争末期、帝国陸軍が投入をした新型装甲戦闘車両である。

Ⅴ号中戦車(パンター)を筆頭にⅤ号重戦車(ティーガー)Ⅴ号自走砲(フンメル)と言った後の帝国陸軍の最高傑作とまで呼ばれた装甲戦闘車両達は現在の帝国軍装甲師団の主力であった。

 

ッーーー!!

ッ!!ッー!!

 

演習場に轟く砲声。多数の戦車が横一列に並んで砲撃を行い、標的に向かって砲撃を行う。今の時代、スタビライザーなどと言う便利道具はないので、走行中の安定した射撃などは存在していない。

ましてや10式のようなスラローム射撃なんて夢のまた夢である。

 

「今日は対戦車戦闘の訓練だ」

 

どうだ素晴らしかろうと聞いてくるのはロンネル大将である。

現在、帝国某所にて拠点を構えている第七装甲師団。そこに統合作戦司令所からの司令を持って馳せ参じたディルクは数ヶ月ぶりにロンネル大将と再会していた。

 

「どうかね?素晴らしかろう?」

「ええ、とても見応えがあります」

 

ディルクとしては、まさか自分の図面を引いた戦車がこんなことになるとは思っていなかったので、少し驚きながら土埃を立てる戦車隊を見つめる。空砲とはいえ、88mm砲(アハトアハト)の衝撃波は凄まじく、砲口からマズルブレーキを伝って衝撃波が土埃を立てる。

 

本砲は帝国が世界に誇る傑作対空砲であったものを戦車用に改良したものである。中戦車で88mmと言う破格の威力を有した本車両は、先の戦争末期に活躍をしてみせ、共和国首都まで突撃を敢行した栄誉ある車両である。

 

なお、この世界ではなぜかⅣ号戦車J型の主砲がなぜか本来はⅤ号戦車(史実パンター)の主砲である七〇口径75mm砲(7.5 cm KwK 42)を装備しており、確実に共和国軍の戦車(Char G1)が原因だろうなと推察できてしまう。少なくとも地球では試作で終わった戦車が製造されていたので、戦争中にド・ゴールみたいな優秀な軍人が居たんやろうなぁ。

 

「今度は?」

「ああ、重戦車隊による攻撃だ」

 

ロンネル大将はそこで観測指揮所から新しく丘を越えてくる戦車を見る。

見た目は同じだが、やや砲身が肉厚に見えるその戦車は先ほどの戦車よりも重い砲声を轟かせる。今発砲を行ったのは128mm砲を積んだ重戦車型(ティーガー)だ。肉厚の砲身を持つその重戦車は敵戦車やトーチカを破壊することを目的に開発された支援戦車である。

帝国陸軍の伝統的戦法である快速戦車を使って敵を誘引し、後方に控えた重戦車が支援戦車として攻撃を行う戦術は、東西戦争初期において破綻してしまっていた。

 

「最近では中戦車(パンター)の性能がいいものだから、こっちばかりを多用してしまっているよ」

「あぁ…なるほど」

 

88mm砲を積んだ車両は走・攻・守全てが比較的高い基準で設計がなされており、共和国軍の最新戦車(ARL-44)と比べても遜色ない代物であった。

最近では共和国で新型の軽戦車が開発されていると言う話を義父が自分にしたことがあった。

そして史実での技術的系譜やこの大陸に存在する国々を想定すると、その共和国の戦車というのは想像ができた。

 

「(多分、AMX-13だろうな…)」

 

そんな事を内心で考えながらディルクは自分が図面をさっと引いた戦車が目の前を走っている様に少し感動を覚えた。

あの時から色々と幸運に恵まれており、全部神様の加護のおかげなのかなあ、などと考えながら戦車を見る。

本来、史実であればM26パーシングほどにならなければ現れないであろう口径の車両は共和国の現在の主力の75mm砲よりも強力であった。

 

「次は自走砲の攻撃だ。凄まじいぞ?」

 

ロンネル大将は陽気な表情でそう言うと、そこで最後方から150mm砲を装備したⅤ号自走砲が現れると、すぐさま砲撃を開始する。

流石に装甲師団なだけあり、完全自動車化された帝国陸軍が誇る精鋭軍団は優先して車両が配備されていた。

特に東西戦争末期の快進撃やその人格から、統合作戦本部や特にペッツ陸軍元帥の覚えも良い将軍であった。無論、ペッツから民主化革命の話は聞いており、彼自身の非貴族生まれから来た士官学校での差別を思い出しながらロンネルはいまだに王侯貴族が政治を取り仕切る現在の体制に不満を覚えていた。

 

「撃て!」

 

自走砲隊隊長が無線で叫ぶと、直後に自走砲の砲撃が行われて砲弾が飛翔していく。凄まじい轟音と爆炎が演習場に轟き、衝撃波で自走砲近くの地面が大きく揺れる。

 

「おぉ…」

 

それは遠く離れた観測所からも確認ができ、腹にくる衝撃波がしっかりと感じ取れる。

 

「これほどとは…」

「あぁ、今日は調子がいいようだ」

 

ロンネル大将は自分が傘下に収める軍団の盛況ぶりに満足げに持っていた愛用のカメラを使って撮影を行う。

本来であればこうした訓練内容に関しての内容を収めた写真というのは軍事機密に抵触する行為なので、ディルクはそのことをロンネ大将に言うと、

 

「何、問題無い。こうした勇ましい写真こそ、帝国軍に必要なものなのだ」

 

あまりにも堂々と言うものだからディルクも少し間抜けた顔を浮かべてしまい、それを見ていたロンネル大将の部下達もディルクに大いに同意しながらロンネル大将の趣味にため息を吐きたくなる。

現在、英雄としても名高いロンネル大将は彼が何か意見を言うだけで軍が動かざるを得ないような発言権や人気を持ち合わせている。

そして彼の趣味である写真撮影。その時に使うカメラは今ロンネルの隣で、彼から直々に紹介をされている若い士官から贈られた物である。

 

戦争末期、ミョルニル作戦前夜にて当時はまだ機密事項であった戦車の視察に来ていたディルクと出会い、そこで旧知の仲となったロンネルとディルクの関係は、ロンネルの部下であれば知るところである。

またディルクがこの年齢で佐官であると言う異常な点や、統合作戦本部内での噂。そして何より、あの森の奥地で出会った時雰囲気や仕草から、彼が噂の通りの人間では無いことは重々承知しており、彼に関して深く追求すれば自分の命が危なくなる可能性があると言うことをすぐに理解できる脳を彼らは持っていた。

 

触れざる聞かざるの存在であることは戦時中からの将校であれば誰もが知るところであった。

その中で若い将校が、自分よりも年下であるにも関わらず階級が上であることに疑問に思っていたが、周りの将校たちが彼に質問をするのだけはやめておけと肩を掴んで言外に言っていた。

 

「なぜです?」

「国家機密の取り扱いは最善を払えと学んだだろう?」

 

古参の参謀が若い将校に短くそれだけを伝えると、その将校は驚いた目でディルクを見てしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、軍団の参謀達に軽く挨拶を済ませ、軍団総司令部用に用意された施設の中でロンネルはディルクをソファに座らせる。

 

「悪かったな。先ほどはうちの若い者が」

「?ああ、いえ…」

 

そこでディルクは先ほどの視察で、同軍団の若い司令部所属の将校の事を思い出す。知らない顔だったのでおそらくこの数ヶ月で新しく入った新入りなのだろう。

 

「気にしていませんよ。閣下」

「はははっ、まあ君は歩く機密情報のような物だからな」

「…失礼な、と言い返せないのが少しばかり悔しいですね」

 

ディルクはそこで持っていた手錠付きの鞄を机の上に置く。

 

「まあ、君の仕事の噂は聞いている。異世界人の管理を任されていると言うではないか」

「ええ…この前悲惨な目に遭いましたが」

 

ディルクが言うと、ロンネルは頷いた。

 

「うむ、数名が抵抗軍に拉致をされたと言うものか」

「…知っていますか」

「表沙汰にはなっていないがな」

 

彼はそういうが、ディルクは苦笑してしまう。

 

「それが露呈している時点で知れ渡っているようなものですよ」

 

ロンネルはディルクが異世界人の管理を任されていると言う話をペッツから直接聞いていた。

また彼の義父である情報参謀長も同様に異世界人に漢捨情報の取り扱いをおこなっており、家族であるなら情報管理も容易であるだとうと彼なりに推察をしていた。

 

「最近、共和国から離れたこの地でも抵抗軍による活動の兆候が見られている」

「ええ、ですのでこれを」

 

ディルクはそう言い、鞄をロンネルに手渡す。

 

「中身は?」

「恐らく、閣下の想像の範疇のものかと」

「…失礼する」

 

そこでロンネルは鞄の鍵をディルクに開けてもらうと、そこで中に入っていた複数の資料や新しい暗号表を手に取る。

 

「作戦司令か…」

 

ロンネルはそこで中身の作戦司令書の中に、ディルク・フォン・ゲーリッツ中佐宛に書かれた指令書があるのを確認した。

 

「中佐、君宛の手紙がある」

「?拝見させてもらっても?」

「無論だ」

 

ロンネルはそこでディルク向けにペッツ元帥のサインが記された指令書を開く。ご丁寧に蝋封までされており、他の人間が見ることはできなくなっていた。

 

「…」

 

ディルクはしっかりとそれを確認すると、それで軽くため息を吐く。

 

「はぁ、やっぱりか」

 

そこには異世界人の管理を一時的にロンネル将軍の配下に置くことを指示する旨が書かれていた。

 

「なるほど、我々が異世界人を匿ってくれということか」

「そのようですね」

 

そこで同様に別の指令書を読んだロンネルが言うと、ディルクは頷く。

二人はそれぞれ同様の意味を持つ指令書を受け取り、現在確保している異世界人の収容を行うように指示が出されていた。

 

「という事は、管理を行う君も?」

「いえ、私は一時的に統合作戦本部に戻る予定です」

 

ディルクはこの荷物を渡す時に言われた指令書と、ここに書かれた指令書を見てこの後の予定を伝えると、ロンネルは首を傾げた。

 

「…では誰が責任者なのだね?」

「一応、私です。ただペッツ元帥から招集を受けていますので、一時的なものですが」

「なるほど」

 

一時的なものであると確認をすると、そこで執務室の電話のベルが鳴った。ロンネルは部屋に設置された電話の受話器を手に取って受け答えをする。

 

「ロンネルです。…はい?」

 

そこで彼は電話を聞いた後、直後に首を傾げて顔を顰めた。

 

「ディルク中佐、異世界人の一部が逃亡をしたらしい。現在、アウトバーンを中心に追跡を行っているそうだ」

 

そしてそのまま受話器を握り直してから端的にディルクに伝えた。

 

「……は?」

 

その途端、ディルクの頭が珍しく真っ白に吹き飛んでしまった。




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