戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一四八話

「どういうことですか?」

 

思わず立ち上がりそうな勢いで困惑顔を浮かべるディルク・フォン・ゲーリッツ陸軍中佐。

 

「はい、分かりました。えぇ、本人も困惑していますよ」

 

ロンネルは連絡をしてきた統合作戦本部に答えてから受話器を置くと、彼はそこで困惑顔を浮かべるディルクを見る。

 

「アウトバーン42号線、第三インターチェンジで逃亡を行ったそうだ。君にも帰還命令が出ている」

「分かりました」

 

予想外の異世界人の逃亡を前にディルクも困惑を飲み込んで承知する。

 

「今の時間、航空機は飛んでいない。悪いが、特急で近くの空軍基地に向かってくれ」

「はっ!」

「知り合いに頼んで特急で飛ばしてやるぞ」

「は、はい!」

 

少々嫌な予感がしたが、ディルクは急いで帰らなければならなくなったので席を立って帰りに必要な荷物を持つ。

 

「では、私はこれで」

「うむ、緊急事態だ。急ぎたまえ」

 

ロンネルはそう促すと、ディルクは早急に部屋を後にした。そして直ぐに秘書官を呼びつけると、ディルクに言った空軍基地に連絡を取らせた。

 

「ふむ。近くの空軍基地は『第44戦闘団』がいたか」

 

これは好都合だ。と思うと同時にディルクの唖然となる顔を想像して笑い出しそうになってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ここで時は少し戻る。

ディルクがロンネル軍団の駐屯地に赴く頃、異世界人を保護していた魔導研究局の職員宿舎から偽装状態のMボート五台が出発していく。

 

「先、出ますよ」

『了解』

 

そう無線で言って偽装状態のトラックの運転席に座ってハンドルを握るのは三号車の操縦手の姫路あや。

本来二号車を担当していた五名が誘拐をされ、現在行方不明となっているので五台での移動となったMボート。軍用無線でやり取りを行い車庫を出ていくのだが、

 

『一号車、大丈夫か?』

『ゴメーン。まだエンジンが掛からなくて…』

 

そこで車庫でエンジンの始動に四苦八苦しているのは一号車、小山蓮子が車長を務める車両だった。

 

『こっち調子悪いみたいだから、車列の最後尾に付くわ』

『了解した。壊れたら言えよ?牽引フックかけるから」

 

無線でエンジン始動に苦労しているのを見ていた五号車操縦手の石垣渉が言うと、小山は頷いて返した。

 

「エンジン壊れた?」

「掛からないってよ」

 

それを見ていた六号車操縦手の高雄宏に、隣に座る砲手の土浦三郎が答えた。

 

『じゃあ三・四・五・六・一の順で出るぞ』

『『『『了解』』』』

 

車列の順番を四号車車長の築城義樹が無線で伝えて全員が頷いた。

 

「で、移動先は?」

「田舎の方だってよ」

「ま〜たどっかの世話になんのかよ」

 

五号車の車内で無線手の調布大輔、砲手の盤城翔、装填手の小樽裕二郎がそれぞれ言った。

 

「そりゃそうだ。俺たちは所詮、他所者だぞ?まだ人権があるだけマシだろ」

 

そこで運転席から滑り入ってきた石垣が答えた。

 

「そりゃまあそうだけどよ…」

 

調布は石垣にそう言うと、そこで盤城が言う。

 

「正直、肩透かしを喰らったよな」

 

そこで盤城の言葉に隣で小樽が首を傾げた。

 

「どう言うことだ?」

「いやぁ、異世界って…俺のイメージと違って、もっと泥臭くてこう…なんて言うかな」

 

言葉にしづらそうにしている彼に調布がそのイメージを固めた。

 

「そもそも、時代が中世っぽくねえじゃん」

「正直、近代だよな」

「イメージが完全に第一次世界大戦とか、そんな感じだよな」

「武器もこんな感じだしな」

 

そこで彼らは散々、色々と所属や場所を変えていたせいで武器市場のようになっていた自分たちの装備が、先の事件の直前に届いた予備部品を組み合わせて作られた帝国陸軍正式拳銃(ワルサー P38)を手に取る。

 

「俺、本物持ったのなんて初めて」

「んなこと言ったら俺達全員そうだよ」

 

日本人にとってまず馴染みのない銃である。彼らは初めこそ拳銃を持った事に興奮していた節もあったが、何年も握っていれば慣れてしまうものだった。

 

「思ってたより魔法も地味だしな」

「それな」

 

そこで誰もが頷く。彼らにとって魔法と言えばゲームやアニメのように魔法陣が光りながら展開して、その直後に超強力な炎や水、雷といった天変地異を引き起こすような勢いで攻撃をするモノを想像していた。

 

「そう言うのは全部、戦時国際法やら禁術に指定されて使えやしねえよ。俺たちが思ってるような強い魔法ってのは、それだけ使った人間も死ぬってなったら躊躇するって」

「ってか、一発撃って何百人も死んだら戦争なんてやってられねえだろうよ」

「所詮、ファンタジーはファンタジーで終わるって事だ」

「ドラゴンとか魔物もいねえしな…」

 

四人はそこで、南部茂…今は帝国軍の将校に成り変わった同級生によって叩き込まれた魔法の授業を思い出す。

 

「…やっぱり、怖ぇな」

「ん、どした?」

 

ふと呟いた石垣を見て小樽が言う。

 

「南部と輝だろう?」

「…よく分かったな」

 

ピタリと言い当てた彼に顔を上げると、小樽はわかっている様子で小さく頷いた。

 

「そりゃあな。誰だって同じこと思っただろうよ」

 

そこで彼は横のラックに用意された即応弾を一瞥してから石垣に言う。

 

「だって初手で死んだと思った奴が生きてて、俺たちを捕まえた帝国軍にいたんだ。そりゃあ誰だって復讐すると思うだろ?普通は」

「「「…」」」

「少なくとも、俺そう言うのはザマァ系以外で知らん」

 

小樽は思っていた事を吐き出しながら車両のハッチを開ける。

 

「おまけに日本じゃあ、南部は女子を中心にやられてたんだ。その自覚があるから俺たちも怖くなったんだ」

「「「…」」」

「でも、南部は俺たちを生かせた。復讐の兆しすらなかった」

 

やや冷たくなった空気が戦闘室に入り込み、涼しく感じる。

 

「多分、アイツにとって俺たちは興味のない存在だったんじゃねえの?だから俺たちのやった事を言わないし、復讐しなかったんだ」

 

小樽はそこで、自分たちの記憶にあった南部茂とは根底から何かが変わった。あの北のコテージでの出来事を思い出す。

あの時、自ら正体を明かし、自分達を驚愕させ、恐怖させたのは意図的な事なのか。おかげで軍隊教練もすぐに終わり、教国の襲撃者を前に実践訓練である。

 

「南部が正体を明かしたのって、俺たちを怖がらせて動かしやすくするための方便だったかもな」

「…南部って、そんなに頭良いのか?」

 

盤城はそこで小樽に聞くと、彼は日本での記憶を思い出しながら答える。

 

「確か、総合成績で学年二番だった気がするぞ」

「マジかよ」

「そうだったっけ?」

 

そこで彼らは学生時代の南部の記憶が薄れすぎている事実に気がつくと、盤城が冗談混じりでいう。

 

「じゃああれか?前々からそういう気配を消せる魔法でも使ってたんじゃないのか?」

「割と冗談に何ねえからやめてくれ」

 

調布がそこであのコテージで見た南部を思い出して忘れるように言うと、そこで話を聞いていた岡崎がハンドルを握り直しながら呟いた。

 

「…じゃあ、俺たちを返すって言ったのは嘘って事か?」

「それは違うね」

 

しかしそれに直ぐに石垣が答えた。

 

「日本に返すって俺たちに約束したってことは、それだけ証拠が揃ってるって事だ」

「何で?」

「南部は俺たちを捕まえた時、他にも兵隊を連れてただろ?」

「あぁ…」

 

そこで彼らの脳裏には自分達を捕らえにきた時の、あのガスマスクをつけた黒ずくめの部隊を思い出す。

 

「一回俺もボーイスカウトて隊長やったから分かるんだけどさ、上に立つとやる事なす事全部責任が自分にのしかかるから、どうしても『絶対行ける!』って思った事じゃないと動けなくなるんだ」

 

石垣はそこで自分の経験から来る話をする。

 

「あの時、南部は帰れるって確信してたんだよ。だから『日本に帰れる方法はある。乗るか乗らないかはお前たち次第だ』って事じゃないの?」

「でもあれからなんだかんだでもうすぐ二年くらい経つんじゃないか?」

 

岡崎がそこで出発していくMボートを見ながら聞く。

 

「正直、帰れるのかどうかは不安だけどな」

「まあ、それはどうしてもそうだろう」

 

そもそもな話、転移魔法を使う装置を今も持っているのが抵抗軍である。

異世界人である自分達にとって、死活問題でもあり生きる意味でもある転移魔法による日本への帰還。

 

「だってもう何年だ?俺たちがここに来てから」

「五年くらい経ってんじゃねの?知らんけど」

「もうまともに数えてすらいねえや」

 

軽く苦笑して調布は言うと、岡崎が進発するMボートを見てクラッチを操作する。

 

「出すぜ」

「おう」

 

そしてギア変更をしてアクセルを踏むとMボートは速度を上げて走り出す。元が大型トラックのシャーシを使用しているおかげで動きがややモッサリとしており、操作に慣れるのに少々時間がかかった。

 

「で、俺たちがここに飛ばされたのは一九三六年の春頃だ」

「今は?」

「一九四〇年の初夏」

「丸四年以上経ってんじゃん…」

 

彼らはそこでアウトバーンに続く道路を走る途中、狭苦しくて暗い車内で話す。

 

「そんだけ経ってたら誰だって不安になるから『あの噂』が流れたんだろ?」

「ああ…誘拐された時のあれか」

「抵抗軍が帰り道を知ってるってやつか?」

「眉唾過ぎるっての」

 

そう言って盤城はマッチと軍隊煙草(R6)を取り出す。

 

「煙草?」

「一本くれ」

「手巻き吸っとけよ」

 

煙草を前にそんな話をしていた。

 

 

 

 

 

「しかし羨ましいな…」

 

同刻、六号車で車長の大刀洗鉄三がゴロワーズ片手に呟く。

 

「いきなりどうした?」

 

そしてその隣で砲手の青島斐夫が聞く。

 

「ほら、二号車の事でさ」

「あぁ…」

 

そこで青島は直ぐに納得した。

 

「小山さんの事?それとも擬似ハーレム?」

「どっちも。まあ後者に関しては南部が手出すとは思えない確信があるんだけどさ」

 

そこで今最後尾を走る二号車の車長の顔を思い出す。

 

「昔は二号車に小野寺が乗り込んでた立場だろ?」

「今はすっかり逆転してんなぁ」

 

すると運転席に繋がるハッチを開けていたので、それを聞いていた他の面々も言う。

 

「世の中、何が起こるか分からんな」

「事実は小説よりも奇なりってか?」

 

操縦手の高雄と装填手の大泊義重が車内から聞いてくる。

彼らの間でも南部と小山の関係というのは薄々教国での任務の頃から察しており、他にも複数のカップルが出来上がっていることも彼らは知っていた。

 

「どうやって取り入ったんだろうな?」

「小山さんがアタックしたって噂だが…」

「マジで?ヤッたんかな」

「いやぁ、相手は南部だぜ?」

 

そんな他人の恋愛事情を好き勝手言い合いながら車列はアウトバーンに向かって走っていく。




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