戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一四九話

「そもそも小山さんって、俺たちの憧れポジだよな」

「「「「それな」」」」

 

土浦に全員が頷く。

 

「やっぱり顔綺麗だよな。小山さんって」

「昔、アイドルだか子役だかをやっていたって話だぜ?」

「あ〜、なんか聞いたことあるな」

 

彼らは小山の過去の話を記憶を頼りにしていた。彼等にとって小山と南部の関係は公然の秘密扱いな上に、どうしてそうなったのかという過程も色々とすっ飛ばして話をしていた。

 

「ネットないから調べらんね〜」

「うわ、懐かし」

 

そこで久しぶりに聞いた言葉に思わず笑ってしまう。

 

「携帯か」

「もう何年も触ってねーな」

「そもそも持ってかれてるから無いじゃん」

 

彼らが持ち合わせていた携帯電話などは全て制服まで丸裸にしてくれたジュール・ファブールが持ち去ってしまった。

元々ネットが使えない環境であったので最初こそ不便であったが、充電もできないとなるとどうしようもなかった。

 

「ってかさ、ふと思ったけど連れ去られた立川とも南部って仲良かったよな?」

「あー、なんか小山ともよく話してたしな」

「え?まさかの二股っすか?」

「そんな器用なこと南部ができるかよ」

 

彼らはそこで色々と探りを入れて想像を働かせる。

 

「立川っていやぁ、やっぱりあの施設で大怪我したあれじゃね?」

「あぁ、あれ?」

 

青島が言うと、全員の脳裏に包帯でグルグル巻きになって車椅子に乗せられた立川の姿が思い出された。

 

「ありゃあ酷かったな」

「正直、あんときは俺まだ輝がやったと思えなかったんだよな」

「でも自供しちまったからな…」

 

彼らは共和国で、雨の降る中で小野寺と対峙したあの日のことを思い出す。

 

「共和国で輝と会ったときは恨んでたな」

「正直、意外だったというか、愕然としたというか…」

「なんでやったの?ってのが疑問に残った」

 

小野寺輝という生徒は、彼らもクラスメイトとしてよく知るところであり、尚且つ共和国にいた頃は彼を中心に事が進んでいた。

 

「正直、共和国のアレがなかったら俺、南部の元にいられなかったかも」

「分かる」

「同感」

 

彼らは共和国にいた時以上に身の危険を感じており、戦時下で砲兵隊として従事していた時のことが懐かしいとさえ思っていた。

 

「でもさ、正直なところ『麻薬入りジュースを渡してきた元軍人のテロ組織』と『非正規の危険な任務をいつも与えてくる正規軍』ってどっちがいいんだろうな」

 

土浦が言うと、大刀洗が苦笑した。

 

「言葉にするとどっこいどっこいだな」

 

それに土浦が突っ込む。

 

「いや、どう考えたって後者だろ」

「なんでテロ組織に好き好んで入んなきゃならねえんだよ」

 

大泊も思わず言うと、運転していた高雄が聞いた。

 

「でもさ、立川達。結局見つからなかったじゃん」

「「「「…」」」」

 

その瞬間、誰もが一斉に沈黙した。連れさられた立川以下、二号車の搭乗員四名は結局発見できずに時が過ぎた。

結論として、彼女達は抵抗軍に連れ去られたとして行方不明。しかし国籍を持っていなかったので、警察が正式に捜索に乗り出すこともなく、残った異世界人達には『未だ捜索中である』と言われて今まで音沙汰なく時間が過ぎていた。

南部も対応をしていると言ってはいたが、その後すぐに呼び出しを受けて音信不通である。

 

「俺たちってさ、どんだけ軍籍があるからって言ったって、誘拐されたら国籍がないから見つからないまま終わるってことじゃん」

「…死んでるかもしんねえって?」

「最悪、それ考えなきゃダメでしょ。抵抗軍のトップはジュール・ファブールで顔見知りとはいえ、俺たちは帝国軍の部隊に入って妨害交錯しているしさ」

 

高雄はそこで無線からの連絡に短く返答してから続ける。

 

「結局さ、俺たちみたいな異世界人の命って、俺たちが思っている以上に軽いんだなぁって。まるで初めからいなかったみたいに扱われるわけじゃん」

「まあ、元々この世界にいなかったわけだしな。俺たち」

 

大刀洗もそこでため息まじりに高雄に答える。

 

「どれだけ『魔力がある』『砲兵として有能』とか言われてもさ、結局は誘拐一つで吹き消される程度立場だからさ、やっぱり国籍を偽造してくれた南部が羨ましく思っちゃうよね」

「「…」」

 

高雄の意見に車内にいた誰もがずっと心の中で思っていた取っ掛かりを自認する。

南部茂という男は、奇跡的な偶然を何度も潜り抜けてディルク・フォン・ゲーリッツと言う国籍を得ている。この世界で国際的に認められた証を持っており、公に暮らすことができる。

 

対して自分達は国籍を持たない、元々この世界に存在していない個人であり、姿が消えてしまえばあっという間にいなかったことに出来てしまう日陰でしか生きられない存在であった。

 

「…まあ、南部が死んだら俺たちもやばいんけどな」

「そりゃそうだ」

 

大刀洗が言うと大泊が大いに頷く。

そもそもの話、帝国陸軍の軍籍を与えて一定の人権を保障してくれたのがディルクである。彼がいなかったら、今頃何をされたかわかったものではないと言うのも事実だ。

 

「俺たちは南部に生かされているってことだわな」

「生殺与奪の権理を持ってるのかよ。アイツ」

「ケッ、どうせならハーレムで調子に乗っときゃいいのによ」

「でもテロ組織と正規軍なら後者の方が色々と便利だろ。基本正義叩く側だし」

「犯罪組織って、自分達も印象悪く思えてくるしな」

 

五人はそんな事を話していると、ふと高雄が思い出す。

 

「そういえばさ、さっきの麻薬入りジュースが嘘だったらどうするんだ?」

「?」

 

彼はそこで迷いつつも言葉を選んでいる様子で聞く。

 

「ほら、確保されてから血液検査ダー、検査結果ダー、っていきなり言われてその後に治療ダー、ってなって完治ダーって数ヶ月でしょ?麻薬とか入ってたんなら何かと俺たちって苦しんで治るパターンじゃない?」

「あぁ…」

「離脱症状ってやつ?」

「麻薬…確かにそうかも?」

 

言われて彼らは考える。共和国で美味い美味いと言って後方で飲んでいた飲み物に薬が入れられていたと言う話、実際に治療のために数ヶ月間は帝国の病院に収容された時期があった。

 

「麻薬とかそう言うのってさ、だいたい後遺症とかで年単位で苦しむわけだけどさ、俺たちってそんなこと無かったじゃん」

「…俺たちが異世界人だからじゃね?」

 

土浦が言うと、青島は反論する。

 

「でもここに住んでる人たちはみんな俺たちと同じ人でしょ?」

「まあ、そうだな」

 

青島に言われ、大泊が少し頷く。

今まで多くのこの世界の人たちと触れ合ってきた彼らは、この世界に住まう人間が異世界とは思えないと言うのは重々承知していた。

少なくとも自分たちの想像する中世の街並みなどどこにも在らず、ただただ近代戦の泥臭い戦場が目の前に横たわり、魔王も勇者も存在しない世界だった。

 

「所詮、俺たちは戦争を終わらせるために呼ばれたに過ぎないんだよ」

「戦力増強?」

「それ以外ないだろ」

 

そもそもな話、彼らにとって魔法というのはファンタジーな世界である上に、彼らの知識を持っても知らないものがある。

 

「魔石は知ってるけど、感応石なんて初めて聞いたし」

「魔力は知ってても、魔導適正なんて初めて聞いたしな」

 

日本の世界においても知り得ない知識に感応石と呼ばれる物質である。彼らにとっても初めて聞く物質であるために、その物質がどんなことをするのかというのは想像しづらかった。

 

「正直、まだ南部のことが信用できないんだよなぁ…」

 

高雄はハンドルを握りながら、今でも帝国軍を欺いている一人の同級生が末恐ろしく思っていた。

 

「どっちにしても俺達は南部についてくほうが安全じゃないの?」

「まあな、アイツは今や陸軍中佐だ。上手く周りを誤魔化して立ち回っている以上、俺たちもそれに応えなきゃならねえだろ」

「そもそも小野寺のいる抵抗軍に行く方法知らないし」

「それな〜」

 

高雄以外の四人は戦闘室で南部の後ろについていくと言った。

 

「それに、知ってても相手はあのゾンビ化する魔法薬(ポーション)を打ち込んでいるんだぜ?麻薬の件も説得力あるじゃん?」

「魔法も砲撃魔法以外教えてこなかったのって、俺たちに反乱を起こさせたく無かったから説を提唱するぜ」

 

土浦と青島はそう言うと、それを聞いた高雄はそれもそうかと自分を納得させて目的地である路肩にトラックを停車させる。

 

「着いたぜ」

「ん、了解」

「交代か?」

「やっとか」

「疲れた〜」

 

そして車が止まるや否や、全員がハッチを開けて車の外に出て日光を浴びた。

 

 

 

アウトバーンに向かって走る大型トラック五台は、無線でやり取りをしながら途中でトラックを停めた。

 

「ふぅ…」

 

休憩と交代を兼ねて五台の大型トラックが道路の路肩に停車し、小山も車を降りた。

 

「んぁ〜、腰〜」

 

そして同様にトラックを運転していた他の操縦手達も一度車を降りて休憩をする。

 

「ふぅ、長時間移動はキツイものがありますね」

「全くね」

 

操縦手の三沢晴美が隣に降りてきて話しかけてきた。

同じ一号車の砲手である彼女は小山に今まで走ってきた道路を見ながら思っていたことを口にした。

 

「でも不思議ですね。まさか私たちだけで移動をさせるなんて」

 

彼女はそこで今までで自分達がこう言う移動をする際に必ずいた軍人の事を思い出す。

 

「おかげで怖い思いをしなくて済むんですけどね…」

 

そこで同車の無線手の長野美和子が言った。確かにあのガスマスクを常につけて顔を隠している黒ずくめの完全武装した兵士が常に見ていると言うのは、心理的にもかなり圧迫感があった。

 

「信用されていないんでしょう?」

「正直、管理には困るわよね」

「そりゃあね、転移魔法で呼び付けられた余所者ですもの」

 

そこに操縦手の根室透子も加わり、彼女達四人は車列の最後尾に停車した。道路の路肩に停車した彼等は、この後時間通りに出発をする予定があった。

 

「うわぁ、男子どもみんな吸ってるわね」

 

長野は煙草を吸いながら降りて談笑する面々を見て顔を顰める。

 

「喫煙率高いですよね」

「まあこの時代じゃあね」

 

男達の喫煙率の高さに苦言を呈しつつ、表向きが軍の納入トラックということで走っている彼女達。

 

「(まあ、どうせどっかで監視でもしてるでしょ?)」

 

その内心で小山はそう思った。基本的に自分達の存在は『厄介』の一言に尽きる。

そもそも、現在のこの世界の状況的に自分達異世界人というのは『存在が罪』というユダヤ人もびっくりな犯罪者である。

自分達は今まで共和国や教国での任務を強いられたのも、帝国への忠誠心を確かめるためかもしれないと勘繰ってしまう。

 

「(まあ、茂くんが最悪の場合の方法も考えているから、しばらくは静観しないといけないのが歯痒いんだけど…)」

 

小山はそこで路肩に停まった五台のMボートを見た。




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