五台のMボートは、事前に魔導研究局で運行予定表として小山にまとめて予定表が渡されていた。
時刻が記されたその予定表を見てすぐに小山はこれが監視付きの移動だと察した。出なければ態々輜重隊が、出発時間まで鉄道ダイヤのように細かく記されたこの予定表を送るはずがないからだ。受け取った予定表はすぐに他のMボートの面々にも渡して確認をしたので、まず時間を間違えることはない。
「…」
徐に小山は懐中時計を取り出し、そこで僅かに動く針を見つめる。
「(遠いなぁ…)」
その針の動きから、南部がかなり遠い場所まで移動していることを察して内心で寂しさを感じる。
誰かに見られないようにすぐにそれを仕舞うと、立ち上がって六号車に近づく。
「大刀洗くん」
「ん、何だ?」
丁度煙草に火を付けかけた彼に小山は言った。
「悪いんだけど、牽引フックかけてくれない?」
「ああいいぞ。調子悪かったもんな」
「ごめんね〜」
一号車のエンジンの調子が悪く、一時は代車も考えたために大刀洗達も事情を分かっていてトラックの後部から牽引フックを取り出す。
「距離とって〜」
「オッケ、せーのっ!」
そしてフックを引っ掛け、二台のMボートを連結すると時計を見て小山が言った。
「さて、そろそろ行かないと」
「ん、分かった」
小山は腕時計の時間を確認して停まっていたトラックの乗員全員に声をかける。
「五分後に出発だから」
「「「は〜い」」」
全員が小山に反応をすると、そこで二号車に乗る厚木隆之介が聞いて来た。
「小山、この後はアウトバーンだったよな?」
「ええ、予定表にもそう書いてあるわ」
「ん、オッケ」
軽い確認をして彼はそのまま先頭を走る二号車に向かう。
「松本、この先だ」
「分かってるわよ」
この後二号車でハンドルを握る松本香里奈は話してきた厚木にそう答えると、最後にMボートに乗り込んでドアを閉める。
「この先だって?」
「ええ、三号車と確認したわ」
戦闘室に繋がるハッチから前橋佳子が聞いてきたので彼女が少し頷いてからサイドミラーを確認すると、後ろでは厚木が運転席に乗り込んでいた。
「大丈夫、なの?」
すると百里桃子が聞いていたので、前橋は言う。
「ええ、どっちに転んでも…私たちはもう待てないから…」
「…そうだね」
彼女の呟きに百里は納得させると、前橋は無線の指示に従ってクラッチを操作する。
『二号車、出発してください』
「了解。二号車出る」
無線で返答をすると、続々と後続車が移動を始める。
『三号車、移動する』
『四号車。動くぞ〜』
『五号車。一号車を牽引するからちょっと遅いぞ』
無線でそれぞれの車両の移動が確認され、停まっていた路肩からMボートが走り出す。
「…動いた」
「時間ぴったりだぜ」
それを双眼鏡越しで見ていた私服姿をした男女。彼等は私服に紛れたペッツの送った監視員だった。
彼等はすぐに車列が動いたのを確認すると、車載していた大型の無線機の電源をつけた。
「本部、こちら監視班。対象が動きました」
『了解した。監視を続行してくれ』
「監視班、了解」
その無線はすぐに統合作戦本部地下の秘密司令所に伝達されると、無線を切った監視員がぼやく。
「全く、この前の誘拐で人が取られているからって…」
「まだ見つからないんだろう?打ち切って彼等に監視の装甲車を送るべきじゃないのか?」
二人はそれぞれ運転席と助手席に乗って話す。
「少佐…じゃないや、中佐曰く『異世界人は扱いやすかった』らしいが」
「腹芸、仕込んでいるかもしれないわよ?」
「別に接してて違和感はなかったけどな」
彼等はそこでアウトバーンに向かう五台のMボートを遠目に見つめる。
「こうやってみると…本当にただのトラックね」
「魔導研究局の御謹製品だ。さすがとしか言いようがないね」
そして陸軍の補給部隊という名目で走るMボート。元々が隠密作戦用に製造され、海軍の使用する小型艇と同じ名前に改称された過去がある。
「検問も用意された貨物区画で騙せるんだからすげえよ」
「共和国の国境を越えられるんですものね…」
そんなすごい兵器を、どうして異世界人といういまいち忠誠心の信用に欠ける彼等に渡したのかが疑問ではあるが、彼等の置かれた立場を思えば納得がいく。
「元の名前は確か…」
「アイスフォーゲル、試作の戦車用
「試験機?」
「Mボートの試作車さ、俺も乗ったが…まあ狭いこと狭いこと」
彼は任務で乗った際の感想を述べると、それを聞いた女性は嫌な顔をした。
「そんな車に異世界人を乗せているの?」
「戦闘室はまともなんじゃない?俺に聞かれても困るけど」
いくつか交差点を抜け、アウトバーンに入る五台のMボートを見ると、最後尾が牽引されていることに気がついた。
「故障?」
「らしいな、研究局からも聞いている」
現在、時刻は二〇時を回る頃。帰りを急ぐ帰宅ラッシュも終わり、多くが貨物の走る時間帯となりつつあった。
この時間帯ともなると、軍の輸送隊が走っていても特段違和感を持たれることはない。
ペッツから派遣された監視員はそのまま静かにトラックを後ろから監視していた。
「…」
最後尾を牽引されながら走る一号車の戦闘室、そこで小山は後ろの天幕を退けてそっとのぞいていた。
見ていたのは魔導研究局を抜けてからずっと見ている黒いセダン。ナンバープレートも変わっていないので、お粗末な監視だなと内心で思っていた。
「(本当に人足りていないんだ…)」
そこで小山は事前に南部から聞かされていた内部情報を思い出した。
「どうしましたか、小山さん?」
「ん?」
するとそれを見ていた三沢が聞いて来たので彼女を不安にさせないように当たり障りのないように言葉を綴った。
「いや、ちょっとね…」
彼女はそこで天幕を戻して開けたハッチを伝って戦闘室に戻る。
「ごめんね」
「良いよ良いよ。こっち四人で空いているし」
長野はそう言って今は三人しかいない戦闘室を見る。
元々、一号車は搭乗員が四人しかいないので小山が装填手も兼ねていた。
「そもそもここにもう一人、中佐が乗ってくるわけだし」
「まぁね…」
そこで前にこの車両に乗り込んでいたとある帝国軍の将校が全員の頭を過った。
「蓮子さん。前橋さんから」
「ん」
すると三沢が言うので、小山は無線を手に取った。
「はーい、こちら小山」
『どう、エンジンの方は?』
「駄目。牽引されてる」
『そう…』
前橋は小山の一号車の調子を聞くと、どこか安堵したような口調を見せた。
「そもそも、なんで南部ってこっちで違和感持たれないんだろうな?」
盤城が疑問に思って聞くと、そこで調布が言う。
「鼻高ホリ深だからじゃないの?」
「結構、日本人からは離れた顔つきだよな」
「ローマ系日本人かよ」
「いやハーフじゃねえの?あの顔」
少し笑って高雄達は言うと、小樽が疑問になる。
「だったら顔整っているんじゃね?少なくとも日本人からしたら欧米人なんてみんな顔整っているようにしか思えないし」
「じゃあ顔いいのに何でいじめられてたんだ?」
その疑問に全員が口を揃えた。
「オタクだからじゃね?」
「オタクだろ」
「オタク、アンド輝のライバル敵存在だったから?」
その答えに小樽は言う。
「OK、取り敢えずオタクってところだな」
「ぶっちゃけよく分かんねえ」
「原因不明…あんな外人風の顔なら普通人気ありそうだけどな」
そんな事を五号車では話していた。
「こっちだ」
「気をつけろ」
四号車では、無線手の横田敏夫がMボートの主砲のトラベリングロックの解除を行なっていた。
「よし、解除した!」
「装填は?」
「すぐ終わる」
車長の築城義樹が聞くと、装填手の清州東吾が両手で88mmの発煙砲弾を持って尾栓を開ける。
「装填完了!」
「大湊」
「分かってる。横田!」
「今退けてる」
そこで彼は欺瞞用の荷台の幌を取ると、後方に追従している他のMボートを確認する。
「良し」
「照準合わせろ!」
そして装填を確認してから砲手の大湊孝雄が照準器を覗き込んで視線の先のMボートを見る。
「ん?」
五号車でハンドルを握っていた岡崎が違和感を感じた。
「何してんだ?」
彼が見たのは幌を開ける横田の顔だった。
「?」
幌を展開したままの偽装状態だが、そこで彼は何か準備をしていた。
「??」
すると横田は片手に何かを持ち出してアウトバーンに落とした。
「は?ちょ…!?」
横田は隠し持っていた
ッ!!
そして投げられた手榴弾が起爆。
「うわっ!?」
「ぎゃあっ!!」
「んご?!」
その爆発の衝撃でMボートは横転し、戦闘室にいた石垣達が倒れる。
「っ!!」
急ブレーキを踏みつけ、アウトバーンで事故を起こす五号車。
「うおっ!」
「きゃっ!!」
その勢いで六号車も急ブレーキをかけてスンデで停車、牽引していた一号車もブレーキを踏みつける。
ッーーー!!
すると直後、三号車が発砲をするとアウトバーンに発煙弾が着弾し、白燐が周囲を埋める。
「発煙弾!?」
『外に出るな!白燐で肌が焼けるぞ!』
無線で驚愕の反応をすると、後ろで監視していた面々も困惑する。
「何だ?」
「白煙弾だ!」
その直後、スキール音を上げてアウトバーンを高速で走り去っていく二台のMボートを見る。
「司令部に報告!異世界人の脱走だ!」
「クソッ、マジかよ…」
そこで慌てて車載の暗号機を使って緊急電を司令所に送信する。
「ゲホッ、ゲホッ」
すぐに下車し、横転したMボートに駆け寄ってドアをこじ開ける小山。
「大丈夫?」
横転したMボートに乗っかって叫ぶと、返答があった。
「あぁ、何とかな…全員生きてら」
「いってぇ…」
「ダァア、死ぬぅ…」
「ヤバい。肋逝ったかも」
「あんの馬鹿野郎…!」
至近距離で手榴弾の爆発を喰らい、横転をして窓ガラスが粉々に砕け散った運転室の奥で石垣達は奇跡的に生存を確認すると、小山は他の人員を呼んで救助を始めた。
「ったく、残された方のこと考えなさいよ」
小山はやられたと思うと同時、今後の展開と彼等の行き先に頭を抱えたくなった。
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