戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一五二話

緊急でレルリンに帰るために用意されたという機体。

自分の知るシュワルベではあるのだが、帝国航空技術廠が試作した高速度実証機(化け物)は現在、離陸準備(タキシング)を行っていた。

戦争が終わってしまったことで、帝国空軍は戦争末期に開発されていたシュワルベは世界初のジェット戦闘機である。無論この事は知っていたし、何なら好きな兵器の類である。

 

共和国の戦闘機に対抗するために当時は帝国陸軍航空隊であった組織が開発をした新型機だが、実戦投入が戦争末期も末期であったためにほぼ日の目を見る事なく新型機として帝国防空の要となっている現在。その性能は目を見張るものがあり、シュワルベは平時で軍縮が行われている中でも生産が続けられていた。

 

「いてっ」

 

滑走路を走る途中、椅子に座っていた彼は頭をぶつけた。滑走路の段差に引っかかった為だ。

 

『気をつけてくれ。悪いが、後付けの椅子なものでね』

 

コックピットで操縦桿を握りながら言うのはアドルド中将。もう分かってはいた事であったが、空軍の中将が陸軍の中佐を送迎すると言う後年の歴史家が見れば滑稽な座席配置となっている。

そもそもの話、この機体は中将が自ら乗り込んで試験飛行をしていた機体であるそうで、離陸から高度一万メートルまでどれだけ早く上昇可能かと言う要撃機としての実験も行っていたと言う。

 

「いえ、大丈夫です」

 

空軍の無線機を付け、革帽子や与圧服を着込んで即席で装着された椅子に座って彼は平気だと少し虚勢を張った。

この機体はとにかく機体重量を軽くして上昇力に極振りした機体である為、単座型の機体で機関銃すら取り外されていた。翼の上から機体の全長にも匹敵するほどの大きさのラムジェットエンジン二基を追加装備しており、全くもってありがた迷惑なことにJATO(ジェット補助推進離陸)を行うためのロケットモーターまで取り付けてあった。それを胴体左右に三本の計六本。

 

『全くもってありがたいぞ。何せ搭載可能な最大量を付けているんだからな』

「ソ、ソウデアリマスカ…」

 

この時点でもう嫌な予感しかしない。

 

『因みに私も流石にこの量の搭載は初めてだ。今から楽しくてしょうがないよ』

「…」

 

ええい冗談ではない!!

この機体を作った奴らはきっとあの魔法馬鹿(エレニカ)と同系譜に違いない。この時代だから確実にヒドラジン積んだエンジンだろうが、危なすぎて冷や汗が出る。

そんなものを六本も積んでいて楽しみだと?正気の沙汰ではない。ああ、そもそも中将が率先して実証機に乗っている時点でまともな戦闘団だとは思っちゃいないさ!えぇ!

 

どうしてゲーリングもいねぇのにJV44があるのかは察しているよ。技術試験機を運用するアグレッサーという意味合いで編成されたってのはよ!

 

『こちらミッキー。管制塔、離陸許可を求める』

『こちら管制塔、ミッキーの離陸を許可する。今日は一層派手ですね』

『ああ、レルリン最速を目指してくれよう』

 

管制塔とそんな話をしてアドルドは機体のロケット推進器点火用のスイッチに手を触れる。

機体は滑走路に進入をして離陸許可を得ると、彼は嬉々として後ろの同乗者に言う。

 

『さぁ、かっ飛ばすぞ。中佐、あまり快適ではないが良い空の旅を楽しもう』

 

彼はそう言うと、エンジン全開で加速を始めてからボタンを押す。

 

「っ!?」

 

覚悟を決めるかと思った直前での急加速。凄まじい重圧が一気に襲いかかり、体が即席の椅子に叩きつけられる。

 

「ああああぁぁぁぁぁああああああーーっ!!」

 

そして悲鳴。無線機の耳をつんざくような悲鳴は、ロケット推進器を一気に点火した時の轟音で掻き消されていた。

 

「すっげぇ」

「見ろよ、中将全部一気に点火してったぜ」

「こりゃあすげえ。滑走路が真っ白だぜ」

 

そして管制塔で離陸を見た管制官達は思わず驚きの声を漏らしながら離陸していった試験機を見送る。

 

「おい見ろよ。離陸速度記録更新だぜ」

「すげぇな」

「やめろよ。あのロケット推進器、滑走路焦がしちまってるぜ」

 

轟音と白点を吐き出し、使い切った後に切り離された試作機は空高く舞い上がっていく。ラムジェットエンジンも点火しており、文字通り最速でここからレルリンまで一っ飛びである。

 

「見ろよ。レーダーでもひでぇ事になってるぜ」

「ふはははっ!早いな。時速何キロだ?」

「ちょっと待て。今計算しているから」

 

彼等はそう言って飛び立った機体の速度を魔道レーダーで追跡して計測を始めていた。

 

 

 

空に上がったこの試験機。元々高速度試験機で、どれほどの速度まで機体が持ち堪えられるかの試験を行なっており、通常のシュワルベの機体に馬鹿でかいラムジェットエンジン。耐熱性のある灰色の塗装を行なっただけで、エンジンを四つも持つ化け物である。

 

「うごごご…」

 

そのコックピットで掛かる重力によってベルトで締め付けられているディルク。正直、こんな物に乗らされるくらいなら自前で魔導演算機を借りたい気分である。

 

『気分はどうかな?中佐』

 

そんな中でこんなGがかかっているにも関わらず中将は平然と話しかけてくる。化け物か?魔導演算機でもこんなきつい事はなかったぞ!?

 

「(何で、余裕で話せるんだよ!!)」

 

既に視界もボヤけた気がしてくるディルク。はっきり言ってトビそうであった。誰か助けて。

空軍の連中は化け物なのかと思ったが、そういえばこの中将は撃墜王であらせられたな。ああ、多分例外なんだろうなぁ。

 

『ふはははっ!この速度の感動して声も出ていないようだな!』

「(は、早く降ろしてくれ…)」

 

大興奮でエンジンをぶん回していると、アドルドは言う。

 

『ではラムジェットエンジンの最大出力に移行する』

「え…」

 

直後、コックピットに増設されたスロットルを前に押し倒すと、増設されたラムジェットエンジンが最大出力で加速を行うと、空高く天空に飛行機雲を作った。

 

「ぎゃぁぁああああああ!!!」

 

即席座席からの悲鳴は空高い蒼穹に消えて行った。

 

 

 

 

 

レルリン郊外には官民共用の空港、テンペルホープ空港がある。

官民共用ということもあり、独立したての帝国空軍が三本ある滑走路のうち一本を使用していた。

 

「もうすぐ試験機が着くってよ」

「ああ、連絡があった」

 

管制塔で軍服を纏う管制官たちはそう話し、一人は魔導レーダーを凝視していた。

この頃になると、戦時中に多数製造されていた魔導レーダーは、本格的な電子レーダーが配備されるまでの繋ぎ役として整備がされていた。

魔導レーダーはその性質上、魔力を持つものでなければ十分に扱うことができないため、誰でも使うことができる電子レーダーが待ち望まれていた。

 

「しかし到着予想時刻が早くないか?」

「試験機なんだろ?それくらい…」

 

椅子に座って管制官達は優雅にコーヒータイムに入ろうとした時、レーダー手が首を傾げた。

 

「ん?」

 

彼はそこで再度魔力を調整して魔導レーダーの出力を変えるが、首を傾げた。

 

「方位〇六〇。凄まじい勢いで飛んでくる機体がいるぞ」

「どのくらいだ?」

「…おい、計算間違いじゃないのか?!」

 

その速度を見て計算をした軍人は首を傾げた。

 

「どうした?」

「正直に報告をしろ」

 

管制官はそこでレーダー手に言うと、彼らは信じられないものを見たような顔で上官に報告を入れる。

 

「その…機体速度が、時速九五〇キロを超えていまして…」

「何?」

「おいおい…」

 

彼らはその速度に驚愕をしていると、グングンとその機影は近づいてきて無線が入ってくる。

 

『こちらミッキー。こちらミッキー。THF、応答願う』

 

無線が入り、彼らは軍用管制塔にてその無線の調整を行う。

 

「こちらTHF、ミッキー。応答願う」

『THF、現在こちらは試験飛行中なりて同乗者を一人乗せている。着陸をしたら、バケツを用意してくれるか?』

「?了解した。これより着陸誘導を行う」

 

そこで首を傾げたが、管制塔要員は無線を使って着陸する軍用機の誘導管制を開始する。

 

「こちらTHF、ずいぶん早い速度で飛んでいたな」

『ああ、西方から最速でレルリンに届けるための最速の特急便だ。最速離陸記録すら達成したんだ!』

 

子供のように興奮した様子で無線を繋いだ相手は言うと、彼は言う。

 

「最速離陸速度?それはすごいな」

『ああ、しかし着陸したらすぐに帰らねばならん。到着をしたら燃料補給を頼む』

「THF、了解した」

 

そこで誘導を行うと、着陸をしてくる機体を双眼鏡で覗き込んで驚いた。

 

「あれは…あとは中将の機体じゃないか!?」

「嘘だろ…」

「冗談だろ?中将は遠い西方にいるはずだ!?」

 

そこで管制塔を一度通過して着陸を行うシュワルベに驚いていると、その巨大な二基のラムジェットエンジンを翼上に装備した特殊な実験機は旋回をして滑走路に着陸を始める。

 

「急げ!」

「滑走路に駐機してる戦闘機をどかせろ!」

 

中将の乗っている試験機を前に士官達は大慌てで指示を飛ばすと、着陸をしてきた試作機はとても丁寧に、空軍軍人風に言わせるなら『カミさんの尻のように』優しく着陸をすると機体は誘導路に入って行く。

 

「馬鹿者、符号を見て気が付かなかったのか」

「まさか事前連絡なしに閣下が来ると思うか!?」

 

空軍将兵からは絶大な人気を誇る空軍中将。戦後に創設をされて以降も空を飛び続けていることに他の将軍達は眉を顰めることが多かったが、そんなことを知ったことかと言わんばかりに彼は新型機を受領していた。

そして着陸をした機体は駐機場に停車をすると、キャノピーを開けてアドルドが立ち上がった。

 

「お疲れ様です」

「ああ、いきなりでで申し訳ないな」

 

彼はそこで部下に一瞥をすると、次に後ろに乗っていた乗客を見る。

 

「六二分三二秒。無事に到着いたしましたぞ、中佐」

「…」

 

そこで即席座席に座らされていたディルクは顔面を真っ青にしてぐったりと椅子に磁石で引かれたように座り込んでいた。

 

「あらあら」

 

アドルドはそこで部下を呼んで数人がかりでディルクを地面に立たせた。飛行服の下から見えた陸軍の士官服に若干驚きはしたものの、陸軍の車が迎えにきていた理由を理解した、

 

「おっと」

「気を付けて」

 

そこでフラフラとしていた彼は空軍士官に支えられたが、

 

「う”っ」

 

顔を青ざめた彼はあらかじめ用意された肩のバケツに頭を突っ込んだ。

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