きっと、奇想天外タクシーに乗った乗客というのはこういう気分なのだろう。
白いプジョーを運転する魔改造爆走タクシーの乗客のように着陸早々に思い切りキラキラを吐き出した。
「ぶはははっ!貴様でもそのようなことがあるとはな」
「不意打ちでした。お恥ずかしい限りです」
首都近郊の空港に着陸をし、フラフラで未だに足元がおぼつない所を、ベッツと面会するという理由で残った気力を振り絞っての受け答えである。
空軍の実験機に乗せられ、遥々西方からトンボ帰りを果たした彼。その代償は空港で派手に散らした吐瀉物と自尊心であった。
統合作戦本部に帰還をしたディルクは、そこで詳細をベッツから受け取る。
「異世界人の逃亡とは…」
「ああ、貴官のの読みは外れたな」
そう言い、ペッツはディルクに資料を渡す。それは逃亡当初に取られた事故現場の写真だ。
「事故車両は撤収済みだ。何せ
時間帯は夜、時刻は深夜を回って日付を越していた。
こんな状況で夜間飛行を躊躇なく請け負ってくれた中将には感謝しかないが、流石に不意打ちのロケット加速は体に確実にダメージを与えていた。
「逃走車両は?」
「追跡をしている。まだ続報は届いていない」
ペッツはそう言うと、部屋にノックがされた。
『デニス中尉です』
「入れ」
そこで総長室に報告書を持ったデニスが入ってくると、そこで先に話していたディルクを見た。
「早いな」
「ああ、空軍の助力を得た」
「基地でゲロったって噂だぜ」
デニスは信じられないと言った様子であったが、ディルクのやや疲れた様子を見てそれての事実であるのだと確信した。
後に彼が空軍基地で起こした珍事は魔道演算機を持つ部隊、正確には元第五〇〇部隊の面々を驚愕させた。
ーーあの少佐がゲロった?冗談も程々にしろ。
始めはその噂を聞いてそういなしていたが、次第にそれが事実であるとわかると大変な驚愕を持って彼らを驚かせた。そして帝国空軍に恐れをなした。
ーー少佐が吐いた機体に乗っていて平気だと?
ーーそのパイロットは本当に人間か?噂に聞く魔物では無かろうな?
自分たちなされてきた経験や、彼本人の異常なまでのタフさは隊員達のよく知るところであり、近くで手榴弾が爆発をしても死ななかったような男であるために、隊員達は彼が空軍の実験機に振り回されたことに驚愕していたのだ。
そしてそんな実験機を生み出した空軍に彼らはそこはかとない恐怖を感じた。
「新しい連絡です。事故現場の東南東三〇キロほどに遺棄されたMボートを発見しました」
「中身は?」
「弾薬に火を放っていました。お陰で木っ端微塵に吹き飛んでいます」
デニスは報告をすると、ペッツは早速届いた徹底的に破壊されて残骸となったMボートを見る。
「…この規模なら通報されるのでは?」
「ああ、すでに警察が現場を封鎖している。まあ、見ての通り吹き飛んだからMボートの詳細がバレることはないだろう」
「いや、違うぞ大尉」
そこでペッツが口を挟む。
「事故を起こしたMボートはまだ現場に残地されている。起重機を必要とするほどのトラックだ。注目が集まるぞ」
「しかし警察がすでに事故車両をどけています」
「だが警察には公安局の人間がいるぞ?」
ディルクは懸念を示すと、デニスはハッとなった。
「公安局は表立って言うことはないだろうが、我々に圧力はかけてくるかもしれんな」
苦い顔をしてペッツは言った。逃亡をした異世界人の創作は無論全力で行っているが、ディルクは見つからない前提で行動を起こす準備を整えている。
「逃亡した異世界人は一〇名。この前連れ去られた五名と合わせると半分の異世界人を失ったことになりますね」
「…痛手だな」
現状、帝国が確保している異世界人は一五名、五名は抵抗軍に拉致をされ、一〇名は逃亡。残った異世界人は現在、全員が拘束の後に移送されている。
「残った異世界人は?」
「移送中だ。まあ、研究所でバレていたからどこにか隠れても意味がない気がするがな」
「そうだな…もうあと思いつく場所が思い当たらん」
ディルクも苦笑気味に言うと、報告書を読んで逃亡した異世界人の名簿を確認する。
「(前橋と築城達か…)」
赤鉛筆で印を打たれた名簿を確認してディルクは誰が逃げたかを確認すると、デニスがやや呆れていた。
「全く、どうして今頃になって逃げ出しのか…」
「誘拐されたのを見て怖くなったんじゃないのでは?」
「君達の推測をするなら部屋の外でしてくれ」
ペッツは軽くディルク達を諌めると、彼等は他の資料を読んで当時の状況を確認する。
「どうやって手榴弾を手に入れたんだ?」
「研究所の守備隊が持っていたものをくすねたんだろう。抵抗軍に襲撃されたばかりで、武器の喪失があっても違和感はない」
まだ復旧中の研究所。廃棄された飛行場を魔改造して作られていた施設であるが、先の破壊で建物がほぼ全て破損していた為に新しく設計し直した施設側が作られていた。
「白燐弾を使っての目隠しか…」
「移送当時、Mボートには大量の弾薬が積載されていたそうだ」
「何でその状態で移送を行ったのか…」
困惑し、蒼白をさせる三人。今も逃亡をした異世界人の捜索を行っているが、まだ発見の報告はない。
「中佐、彼等はどこに逃げたと思う?」
ペッツはディルクに質問をすると、彼は少し考えてペッツに考えを話す。
「Mボートは破壊されました。あれには大型魔導演算機が装備され、その事は異世界人もよくわかっているはずです」
もしどこかの国に亡命をするのであれば、今でも帝国が握っている技術である魔導演算機を手土産にする事だって考えるはずだ。しかしMボートは現在、この通り木っ端微塵だ。
「しかし破壊されたのはまだ一台だ。残った一台でどこかの大使館に逃げ込んだ可能性は?」
「そもそもあの地域に領事館などの類はありません。亡命をすると言うのなら、確実に陸軍や警察の敷いた検問に引っかかるはずです」
魔導研究局の周辺に亡命が出来る類の外国の施設はない。そして恐らくだがもう一台のMボートも発見されるだろう。
「反条約派の好戦派の軍人の元に向かった可能性もあります」
「…」
「しかし、異世界人は我々帝国陸軍の内情を詳しくは知らないので、好戦派の将軍の名前も衛戍地も知らない可能性が高いので、その可能性は低いと見てよろしいかと」
ペッツはディルクの話を聞くと、部屋のドアがノックなしに開けられた。この総長室でそれが出来る人間は限られていた。
「ペッツ、二台目の残骸が見つかった」
情報参謀長の義父である。彼は今し方地下で作られた報告書を持って総長室に入ってくる。
「降下猟兵隊が見つけた。定時飛行訓練中に街道上に燃えていたのを発見したそうだ」
魔導演算機を装備した部隊の通報を聞き、ディルク達はそこで地図を見ながら逃亡ルートを考える。
「やはり身軽になる為に破壊したんですね」
「しかし厄介だな。軍服を着ているとは言え、隠れられたら見つけられる気がしない」
「近くに街があります。そこで捜索をするしかありませんね」
淡々とディルクは地図にデニスが記したMボートの破壊場所を見て提案をする。少し前に飛行場で吐いたことでまだ口の中が酸っぱくて嫌な感じがしているが、それを我慢して彼は言う。
「最も、見つからない可能性が高いですが…」
彼はそう言い、少し長い表情をしていた。
あの後、私達は到着したトラックに乗って何処かに移動していた。
半分近くが脱走をしたことで、帝国軍の監視というのは明らかに強化されていた。蔑みこそないが、厳しい監視をされていた。一五人という少ない人数である為、帝国軍の汎用トラック一台で私達は移動ができた。
「本当なのか?」
荷台に乗り、負傷した面々を横に倒している中、石垣渉が聞いてきた。その顔は驚愕しており、信じられないと言った様子でもあった。
「ええ、前々から立案されていたわ」
あまり表に顔を出すなと言ってから小山は頷いた。彼等は日本語を使ってある計画を共有していた。それは事前に小山に計画のあらかたを話し、彼が仕事の合間に煮詰めていったものだった。
まだ荒削りで到底作戦と呼べるものでは無かったが、脱走が起こった今では隠す必要もない。これ以上人が消えるのは作戦上も良く無かった。
「えぇ…」
「返すって、そんなやり方で帰るつもりだったの?」
「証拠が足りない状況じゃあどうしてもね」
彼女はそう言うが、ディルクは特定の魔力波を探る魔導具を自作していた。戦時中に彼女が仕込んだことで稼働する魔導具である。これによって、ヘイルダムの大まかな居場所はここでも把握できた。
「証拠って言ってもなぁ…」
「相手の本拠地がわかったのにどうして突入しなかったのよ」
「私に聞かれても流石にね…」
異世界人達はあくまでも戦略として数えられており、帝国軍に関する情報は皆無と言っても良かった。精々分かるのは市井にまで公開された情報のみで、作戦行動前のブリーフィングで伝えられることばかりであるからだ。
「事情があるんだろ?俺たちの扱いって、結局蝋燭ミテェなもんだし」
土浦はそう話すと、全員が黙りこくってしまう。
数名の負傷者はポーションを飲まされた後にトラックの荷台に乗せられ、どこかに連れて行かれる始末。行き先はもちろん聞いていない。
「…そろそろ始末されるか?」
「いや、どうでしょうね。私達は戦力に数えられているから、どこかに幽閉が一番でしょう」
大刀洗が縁起でもなく抹殺されることを危惧していたが、根室がそれを切った。帝国軍の今までの動向から、彼等は異世界人を強力な砲兵として見ていた。幸いにも共和国で砲兵として鍛え上げられた彼等は帝国軍でもその威力を遺憾なく発揮し、今までの秘密任務を請け負ってきた。
完全非合法の任務ばかりであった為に、もともと国籍を持たない彼らはうってつけであった。
「となると…」
「問題は行き当たりばったりに近いところだな」
トラックに乗せられた彼らは、そこで色々と不安に感じながら今後の立ち振る舞いについて話していた。