戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一五四話

統合作戦本部で一通りの報告を受け取ったディルクは、そこで総長室でペッツと話していた。

 

「しかしこの事態だ…どう責任を取るべきか」

「でしたら良い方法が」

「?」

 

ディルクはそこでペッツに提案を持ち掛ける。

 

「閣下、私は軍を退役いたします。この全ての事件の責任を私が取ることで場を納める事を提案します」

「?!」

「…」

 

その提案に同室で報告をあげていたデニスは目を丸くし、ペッツは目元を細める。

 

「最早事態は収拾がつかなくなりつつあります。異世界人を保護している事を宣言せずとも、みすみす敵の手に落とし、脱走を許すなど手綱を握りきれていなかった責務は私にあります」

 

淡々と彼は語り、この陸軍中佐の地位を捨てることを躊躇無く言った。

 

「…下がれ」

「はっ」

 

デニスはペッツに言われてすぐに部屋を出ると、ドアが閉まってから彼は聞いた。

 

「中佐、本気か?」

「ええ」

「予備役で留まらないのか?」

「もはや事態は大きくなり過ぎました。これ以上は総長閣下の身も、義父も巻き込むこととなります」

「…」

 

ディルクの言葉にペッツも反論ができなかった。現状、異世界人が抵抗軍に誘拐をされていたことは新聞にすっぱ抜かれていた。

抵抗軍は誘拐した異世界人五名を持っているとし、その強大な、個人が持つにしては些か強すぎる軍事力を前に、それを保有していた帝国陸軍はこれが理由で講和条約で譲歩をしていたのではないかとまでささやかれていた。

 

元々異世界人は、教国の禁術によって異世界より連れてこられた者達。技術を与え、この世を発展させてきたとされる反面、その技術が戦争の火種となってきた。また次元の境界が有耶無耶になってしまうことから、世界の消失すら危険となる転移魔法は教国によって禁術として世界に害をなす魔法として厳しく取り締まりの対象となっていた。

 

現在、それら証拠を頼りに教国は帝国に正式に容疑者の引渡し要請が行われていた。現代の法学を持ってしてツッコミどころしかないと言わざるを得ないが、教国は影響力を持っていた。

現在政府は人道的見地によって解答留保をこなう牛歩戦術を展開していた。しかしそれも長くは保たない。

スケープゴートを用意するにしても、彼ほど密接に異世界人と関わった人物は他にいなかった。

 

「…やむをえんか」

 

そしてペッツは暫く思考したのち、その異世界人一五名の戦力と目の前の戦時中の英雄の戦力を比較して前者を取る。

異世界人に関して引き渡しは絶対に認められないと言うのが今の軍全体での判断であった。おそらく政府としても頭越しに教国から指図されることに関しては遺憾を募らせ続けていた。そのため異世界人は人道的見地で保護をし、亡命を希望したと言うことで教国に対して拒絶の回答をすることになるだろう。

 

「しかし貴官歯すべての罪を背負うことになる。戦時中の栄光も全て捨てることとなるぞ?」

「ええ、ですが…」

 

そこで彼は勲章に手を触れる。

今まではこの統合作戦本部で敬意を持って接してもらった証であったが、おそらくはこれの剥奪すら考えられるだろう。しかしディルクには関係なかった。

 

「すべてを失うことには慣れています」

「…」

 

かつて、共和国の泥まみれの戦場で拾った敵国の兵士。初めて出会った時から今もその黒い感情は備えたままであった。

職務忠実、彼はペッツの私兵として十分な働きをしていた。できれば手駒として用意しておきたかったが、異世界人という政治的にも軍事的にも些か問題を抱えているとなると、彼に全てを背負ってもらう以外に自分のこの陸軍参謀総長としての立場は守れなかった。

 

「では遠慮なく、すべての罪を背負ってもらうぞ。ディルク中佐」

「覚悟の上です」

「…退官後の面倒は見てやろう」

「ありがとうございます」

 

ディルクは頭を下げると、その対応にペッツは笑う。

 

「貴様に軍人以外に仕事ができるとは思えんがな」

「どうでしょうね?私は退官後でも軍人であれば何かしらの仕事には付けるでしょう」

 

暫くは今まで貯めていた給料で食い繋ぐつもりだというと、彼は改まって敬礼をする。

 

「では」

 

ディルクはそこで階級章を引きちぎってペッツに渡す。

 

「…確かに」

 

その所作を見てペッツは剥がされた階級章を受け取って頷いた。

 

「…これからどうするつもりだ?」

「ええ、とりあえずは休暇でも取ります。人のいない、静かな場所に向かいます」

 

すでに荷物はまとめてあり、彼の自腹で購入した武器の類も全て彼のロッカーにしまってある。

 

「お世話になりました」

 

淡々と彼はそう言い、総長室を出る。部屋に残ったペッツは彼が引き剥がした階級章を見つめると、その階級章をポケットの中に入れた。

 

 

 

そして総長室を後にし、作戦本部の廊下を歩く。

 

「ディルク」

「?」

 

すると静かな廊下で壁に背を預けていたデニスが腕を組んで待っていた。

 

「どうした?」

「お前、正気か?」

 

彼の問いはそれだけだった。しかしディルクは頷く。

 

「ああ」

「もっといい方法があったはずだ」

「どうだかな。総長は今後も俺の面倒を見てくれるそうだ。除名処分にはならないらしい」

 

退官後の面倒まで見てくれると言うと、デニスはディルクに顔を近づけて聞く。

 

「そう言う意味じゃねえよ。ディルク」

 

彼はそこで階級章を外した同期に話す。

 

「異世界人は確かに政治的にも軍事的にもタブー扱いだ。しかしそれは昔の話で、今は違う。教国の引き渡し要求も、今の時代なら拒絶できる」

「問題はそこではないのさ」

 

彼はデニスにはっきりと言う。

 

「良いか?民衆には小難しい論証よりも三流記事の書く悪魔召喚の方がウケがいいんだ」

「…」

「実際、転移魔法を使った時に新聞屋が書いた悪魔召喚の絵は流行っただろう?つまりはそう言うことだ」

 

ディルクはそう言い、裏口につながる場所を歩きながら話す。

 

「問題なのは、Mボートの存在が露呈することだ。正規軍が民間車両に偽装した兵器を持っているなど、戦時条約違反だ。

Mボートの存在だけはなんとしても隠さねばならない。帝国軍の名誉を守るためにもな」

「…だから、独断専行か」

「そうだ。俺は軍の予算を使って異世界人を手駒に抑えた軍人ということになる」

「…随分手際がいいな」

 

デニスは苦笑してディルクを見る。

 

「まあ、幾つも逃げ道を作って置くようにってのが、木端の諜報員に教えられた技だよ」

 

彼はそう言うと、裏門の出口に到着する。守衛が立哨をしているのを見ると、ディルクは振り向いてデニスに言う。

 

「デニス」

「なんだ?」

「最後に頼んでおきたいことがある」

 

彼はそういうと、デニスにあるものを注文した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

森の中を複数の影が移動していた。

 

「大丈夫?」

「ああ、まだ歩けるぜ」

 

そこで鬱蒼とした森の中を話す男女が複数あった。彼らは全員、帝国軍の軍服を纏った兵士であった。

 

「食料は?」

「まだある。暫くは持ちそうだ」

 

そう言い、自爆させたMボートに乗せていた糧秣を手に取る。飲料水の類も浄水器や飯盒を使って煮沸消毒を行っていた。

 

「気をつけてよ?」

「ああ、火傷には注意するさ」

 

脱走をした一〇名の異世界人達は、ひたすらに森を歩き続けていた。僅かに持ち合わせていた給金のカードを使って、村で干してあった服を拝借して買い出しに行かせた面々が戻ってくる頃合いだ。

 

「これなら天幕が欲しいぜ」

「うろで我慢しなさい」

 

横田がぼやくと、その隣で前橋が言った。ここら辺の森は、ジャイアントセコアイアのような巨大な幹を持った大木が聳え立っており、これほどの巨木を見たことがなかった彼らは、ここでも異世界情緒を感じていた。

この巨木は大量にうろがあり、この森に捜索隊が来た時はMボートから持ち出した円匙を用いて入り口を巧妙に偽装していた。魔法を使っての隠匿も考えたが、幻覚魔法を使った場合に魔道レーダーで探知されることを恐れて、あえて原始的な方法で隠していた。

うろの中はとても大きく、簡単な生活程度であれば可能であった。

 

「そろそろ買い出しから戻ってくる頃合いよ」

「ああ、大丈夫か?」

 

そこで彼は買い出しに行かせた面々を思い出しながら少し不安に思った。帝国軍の移送中に逃亡を図った彼らは、抵抗軍に逃げ込むために望の中で隠れていた。

 

「あの研究所でばれたんだから、多分抵抗軍は私たちのことを探し始める。それまでの辛抱よ」

「…問題はあのカードの出納記録がバレないかって問題だな」

「その度に移動するしかないわよ」

 

前橋はそう言ってこの便利なデヴィットカードのような仕組みのカードを自分のを見つめて言う。今後の行き当たりばったりな予定に横田は、参画しておいて何だが不安と不満を吐き出した。

 

「その時の隠れ場所は?俺たちは軍隊を相手に逃亡するんだぞ?」

「それは…」

 

彼女はそこでグッと言い返してやりたかったが、言葉が出てこなかった。

移送中に逃亡を行った彼女達は、帝国軍の全力の捜索に何度も遭った。検問が敷かれ、森の中で銃を持った兵士たちを前に息を殺していた。

基本的に夜に移動を始め、魔導レーダーに引っかからないようにするために暗視魔法すら使わない危険な行軍を敢行していた。

 

事故現場からおおよそ三〇キロ程度は離れた森の中で彼らは隠れていた。

 

「そもそも抵抗軍が…小野寺が本当に見つけられると思うのか?」

「賭けるしかないわよ。アンタ達だってそれに乗ったんでしょうに」

 

前橋は横田と軽く口論になりそうな雰囲気が漂い始めると、そこで監視を行なっていた清洲が言った。

 

「おい、帰ってきたぞ」

 

そこで森の中を歩いてくる三人の人影を見た。近くの街の商店に買い出しに出かけた面々であった。主に食料と飲料水の購入を行い、移動を行いながら逃避行をする予定であった。

 

「ただいま」

「おう、どうだった?」

 

そこで買い出しから帰ってきた面々を見て横田が聞くと、出かけた大湊が言った。

 

「ちょっと危ないかもしれない」

「だいぶ軍と警察の人数が増えていたよ」

 

松本はその手に缶詰を持って答えると、彼らはうろの中でその缶詰を開ける。幸いにも官給品の中に缶切りはあったので、それで綺麗に開けて中の缶詰を食べていく。

 

「…問題は抵抗軍が俺たちを見つけるのが先か、帝国軍が先に見つけるのが先か…」

「情報収集はしたんだろ?」

「ああ、だが組織に繋がりそうな話は全然」

 

森の中で彼らは抵抗軍との接触のためにどうするべきかを考えていた。




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